第31話 乙女、咲き乱れろ! 戦場の花のように!
「こいつは素敵だ。両手に花とは、嬉しい限りだね」
お嬢様二人に武器を突き付けられたアダーは、余裕たっぷりに涼し気な王子様スマイルで応じた。
「知っていたかしら? 二束の花の意味は、弔花なのですわよっ!」
エリーゼのスカートが激しく揺れ、中から無数の花びらが飛び出した。
バトルエリアの全てを覆うほどの花吹雪がアダーに襲いかかり、彼女の視界を奪う!
「恵璃華のオリジナルスキル『百華繚乱』――草花を自由に操る特殊スキルだったかな? ゲームでもエフェクトがうざったかったが、リアルになると殊更だね」
花吹雪に襲われても冷静さを失わないアダーが、微動だにせず状況を分析する。
「ホーリーブレイド!」
そんな事をしていると、エリーゼが素早くアダーに駆け寄り、剣を振った。
「恵璃華! 『聖剣士』の癖に目隠しなんて小細工を弄するとは、気品が感じられないぞっ!」
気品の感じられないエリーゼの戦いっぷりに不機嫌になったアダーが、彼女の攻撃を乱暴に大鎌で弾く。
「まったく、お嬢様なナイトならば、花のように美しく戦いたまえよ――ん?」
そんな事をうそぶいたアダーが、ふと自分の胸の辺りに浮かび上がる目のようのマークに気がついた。
「『遠矢射る姫君』――狩猟の女神アルテミスに睨まれたが最後、貴女はもうどこにも逃げられないっ!」
百合子がキッと睨みつけるなり、アダーの体中に目のマークが浮かび上がった!
「恵璃華の花吹雪は自分の攻撃ではなく、百合子のスキルを隠す為だったのかっ!」
花吹雪の中に凛と立つ百合子が、流麗な所作で弓をキリキリと引き絞る。
「とはいえ、生きた獲物を仕留めたことのない奴の矢など当たらないよ」
百合子のスキルを喰らったにも関わらず、アダーは余裕綽々の態度を崩さない。
「現実世界ではただの弓道部員の私だけれど……ここでは、狩猟の女神アルテミスの加護を受けた狩人! どこへ逃げようと、私の矢が貴女を必ず射抜くわっ!」
キッとアダーを睨みつけた百合子が、光の矢を放った。
「『優しい矢(アガナ・ベレア)』で、苦しまずに安らかに眠りなさいっ!」
百合子が銀色に光り輝く矢を射った先は、なぜかアダーではなく上空だった。
「おいおい、どこを狙っているんだい?」
アダーが訝し気に目を細めた次の瞬間、銀の矢が無数に分裂し、月の光のように地上の彼女に降り注いだ。
「なるほど、範囲攻撃かッ!」
降り注ぐ矢の数が多すぎて月明かりそのものと化した百合子の攻撃に、アダーが目を丸くして驚く。
「なつきちゃんには既に、『遠矢射る姫君』のマーキングが付けてある! どこにも逃げる事は出来ないわっ!」
「それはいい事を聞いた。『逃げる』という選択肢を排除する事が出来たよ」
百合子の脅しを聞いたアダーは大胆不敵に笑うと、すぐさま頭の上で大鎌を激しく回転させた。
「逃げられないのならば、『迎え撃てばいい』。実に単純な話だね」
そして、そのまま頭上に降り注ぐ全ての光の矢を叩き落とす!
「こっちもチートなら、あっちもチート……神話級装備でなければ、武器が破壊されていたな」
回避不可能と思われた百合子の攻撃をいともあっさり防ぎきったアダーが、大鎌を撫でて笑う。
「嘘でしょっ!? あれだけの量の矢を防ぎきったというのっ!?」
どう考えても常人には不可能な荒業をやってのけたアダーを見た百合子は、動揺のあまり弓を下ろしてしまった。
「ボクは、カッコイイからね。無様に敗けたりなんてしないよ」
アダーが余裕たっぷりの態度で、爽やかな王子様スマイルを作ってみせる。
「なつきさんは確かに強い……でも、一人きり。わたくし達二人の『友情パワー』には勝てませんわっ!」
百合子の攻撃を防いで油断するアダーに、エリーゼが猛全と斬りかかった。
猪武者のように真っ直ぐ突っ込んでくるエリーゼを迎え撃つべく、アダーが大鎌を振りかぶる。
「まっすぐな性格は買うけれど、キミは猪突猛進過ぎるッ!」
愚かにも正面に突っ込んで来たエリーゼを刈るべく、アダーが死神の大鎌を振り下ろす。
「この世界では、どんな動きだってできますのよっ!」
攻撃がヒットしたと思った次の瞬間、エリーゼが横に瞬間移動をして攻撃をかわした。
「知ってる」
しかし、アダーはエリーゼの常人離れした動きに驚くことも無く、冷静に斬り返した。
「くっ! 生意気なっ!」
水平に放たれたアダーの攻撃を、エリーゼがジャンプで避ける。
「これならどうかしらっ!」
回避と同時に空中で体を回転させたエリーゼが、花の形状をしたダガーを投げて反撃する。
「回避と同時に反撃か、悪くないね」
完全に不意打ちで放たれたエリーゼの反撃だったが、アダーは驚くことも無く冷静にひょいと躱した。
「本命はこっちよっ!」
アダーが回避したのを確認したエリーゼが、着地と同時に剣を薙ぎ払う。
「……驚いた。ボクの攻撃回避と自分の反撃までを一つのフェイントにしたのか……単純なようで考えているな……いや、本能で動いているのか?」
ヒステリックに喚くだけだと思っていたエリーゼが、天性の戦闘センスを垣間見せてアダーを驚かせる。
「驚くのはまだ早くてよ、この鳳凰院恵璃華っ! お花にお踊りはもとより、武道も嗜んでおりましてよっ!」
縦ロールの金髪を揺らしてニヤッと笑うエリーゼが、白銀の剣を振るった。
「『百華繚乱・ブルームブレード』!」
次の瞬間、棘のついた薔薇が剣撃に沿って地面から生え、アダーに襲いかかる!
「なつきさんの品のない暴力では、決してわたくしの花の麗しさには勝てませんでしてよっ! 『ダーツフラワーレイン』!」
更に追撃をかけるエリーゼのドレススカートが翻り、中のフリルの間からダーツ状の花が射出される。
無数に射出されたダーツ状の花が、まるでマシンガンの弾のような速さでアダーに襲いかかった!
「流石は天下無敵のお嬢様オブお嬢様・戦い方に華麗な『花』があるッ!」
美しいながらも毒々しい棘と鋭い刃を持つ花の攻撃に襲われたアダーが、実に楽しそうに笑う。
「だが、全ての花の命は、死神の鎌に刈り取られる定めだッ!」
切れ長の瞳に獰猛な光を宿したアダーが、最初に襲いかかって来た薔薇を大鎌を大きく振るって刈り取る。
次いで、弾雨と化したダーツ状の花を大鎌を回転させて乱暴に叩き落とした。
「今思ったのだけれども、恵璃華はそんなビックリ手品でボクに勝つ気なのかい?」
エリーゼの全力の攻撃を防ぎきったアダーが、余裕の態度で王子様スマイルを浮かべて挑発する。
「その余裕たっぷりの態度……いつもながら腹立たしいですわあああーっ!」
アダーに挑発されたエリーゼが地団太を踏んでヒスる。
「まだ戦いは終わってないわよッ! 『フラッシュアロー』!」
エリーゼの後ろに控えていた百合子の手元が、ピカッと光った。
「範囲攻撃の次は、超高速精密射撃かッ!」
次の瞬間、目にも止まらぬ速さの光の矢がアダーに襲いかかる!
「だが、そんなものではボクを傷つける事は出来ないよ」
目で動きを捕らえるのが困難な超高速の攻撃だったが、漆黒のコートがアダーを包み込んで寸での所で彼女を守った。
「とはいえ、面白くなって来たよ! さぁ、存分に咲き乱れようじゃないかっ!」
ダンスを舞うように戦うエリーゼと百合子とアダーの華麗なる戦いが、色鮮やかな花々と眩い光を纏ってヒートアップする。




