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第14話 SAY YES! 拙者は死にましぇん!

「……ふふふ。シンタロー殿は、JCとキャッキャウフフできて楽しそうでござるなぁ……。それに引き換え、拙者は話に混ざる事さえ出来ない。ふふふ……慣れ親しんだ勇者ゲーム風の異世界で俺TUEEEEしてやるつもりが、今やこの有様。所詮、コミュ障のネトゲ廃人は、異世界でもゴミ屑なのでござるな。とんだお笑いでござるよ、フォカヌポゥ……」

 かつて、これほど悲しいフォカヌポゥは聞いたことが無かった。


 そんな負のオーラを撒き散らすイナバに刹那が気付いて、真太郎に声をかける。

「なぁ、おい。さっきから俺達の話に入ってこようとウロウロしてて結局入ってこない、あの落ち武者みたいなキモいオッサンは誰だよ?」

「師匠だけど? 覚えてるでしょ、最強の勇者『剣聖・つばめ返しのイナバ』」

 真太郎がイナバを紹介するなり、何故か刹那が怒り出した。


「ふざけんなよっ! あんなどう見てもキモオタなオヤジが、イナバの訳ねーだろっ! イナバはカッコイイ侍で、あんなキモオタじゃねーんだよっ!」

「悪口はやめろ、チュウ! 誰が三年B組キモ八先生だッ!」

「そんな事言ってねーよっ!」

「ったく、チュウは相変わらず口の悪い奴だなぁ。腐ったミカンには、キモ八っつぁんの熱血指導が必要みてーだな。ねぇ、師匠?」

 チュウの発言を面白がって悪乗りした真太郎を、イナバが恨めしそうに睨む。


「口が悪いのはシンタロー殿の方でござるよ……!」

「なんですか、その怖い顔は? いつものキツめのブラックジョークの応酬で、気の置けない仲だという事を、新入りのみこちゃんとチュウに見せつけてやっているだけじゃないですか? 変な勘違いしないでくださいよ」

 イナバを扱いやすい男だと薄々勘付いている真太郎が、ジャブを入れて様子を見る。


「そ、そうなのでござるか……? いや、嘘でござる! 拙者を除け者にしてJCとイチャイチャしていたではござらんかっ!」

 JCという所に何やら妙なこだわりを持っているらしきイナバは、今までの様に簡単に丸め込むことが出来なかった。

(ったく、めんどくせぇな。何がJCだよ、ロリコンかよ)


「シンタロー殿は、みこちゃんの件といい、リアルJCのチュウといい、女の子にモテすぎでござるよっ! 拙者を除け者にして自分だけズルいでござるよっ!」

 幼稚園を最後に女の子とまともに会話した事が無い三十五歳無職童貞のイナバにとっては、普通の会話ですらある意味では、R指定モノの破廉恥行為だった。


「やだなぁ、普通に話してるだけじゃないですか。それに除け者になんてしていないですよ。単純に、師匠が話に入ってこないだけじゃないですか」

「嘘でござるっ! 拙者を意図的にハブいていたでござるよっ! JCとのイチャイチャプレイを非モテな拙者に見せつけて悦に浸っていたでござるよっ!」

 童貞をこじらせ過ぎたあまり、被害妄想が激しくなりがちなイナバだった。


「拙者だって、JCとイチャイチャしたいでござるよぉぉぉ~~~~!」

 嫉妬に狂うあまり、男として下の下な振る舞いをし始めたイナバに、真太郎が思わずキレそうになる。

「師匠、いい加減にしてくださいっ! ここは異世界とはいえ、僕たちの関係はゲームで培ったベストキッドな関係のままですよ!」

「嘘でござるっ! 自分だけ抜け駆けして女の子とフラグ立てまくりでござるっ!」


「分かりました! そんなに言うなら、俺はここを出ていきますっ! そんなにJCが好きなら、チュウと二人っきりでいればいいじゃないですかッ!」

 馬鹿には構っていられなかった真太郎は、イナバを捨てて廃墟を飛び出した。


(……なんて哀れな人なんだ。そんなキモオタな見た目では、チュウと仲良くしようにも、斬り殺されるのが関の山だというのに……ッ!)

 真太郎は、イナバの辿るであろう悲惨な結末を想像すると、思わず泣いてしまった。 


「はうあっ! シンタロー殿が泣いて……いる……!?」

 そんな真太郎の涙の意味を勘違いしたイナバが、慌てて彼の後を追う。 

「待たれよ、シンタロー殿っ! そ、その……その涙の理由わけはっ……!?」


「……師匠、僕は貴方を見損ないましたよ。貴方はラストサムライなんかじゃない、ただの下衆なキモオタでした! 僕は師匠……貴方が……」

(哀れでならないんですよッ! だって、ロリコンを警戒するチュウとみこちゃんが、後ろで思いっきり戦闘態勢に入ってアンタを殺す段階に入っているから……ッ!)   

 イナバの後ろで剣を構えるチュウとみこを目にした真太郎が、口に手を当て嗚咽を漏らす。


「あの不遜なシンタロー殿が、あんなしおらしい姿を見せるなんて、ただ事ではないでござる……!」

 そんな真太郎の姿に、イナバが更に勘違いをこじらせる。


「もう俺に、キモオタなんて呼ばせないでくださいって、言ったのに……! しっかり約束したのにっ……! 師匠、今のアンタは、ただのキモいオタク……いや、ただのキモいオッサンじゃあないですかッ!」

「ござぁー!?」

 真太郎に愛想をつかされた瞬間、イナバの全身に電撃が走る。


「俺は、俺は……師匠には、この世界でも『師匠』でいて貰いたかったッ! 俺の師匠がこんなにキモオタなはずはないんだっ! やっぱり、この異世界は夢だったんだ! この夢、夢の風上にもおけない臭い臭い悪夢なんだ! 夢を返せ! 憧れを返せ! 師匠を返ぇせ~~~~!」

 真太郎の魂の咆哮を最後に、しばしの間、両者が沈黙する。


「シ……シンタロー殿……。そんなにまで、こんなキモオタの拙者の事を……」

 真太郎の自分への熱い思いを知ったイナバが、突然憑き物が落ちたかの様な顔をし始める。

「……オウフ。なんて哀し気な目をするのでござるか、シンタロー殿……!」


「……師匠、残念です。たとえ、師匠の正体がドン引く程のキモオタだったとしても、俺は貴方の事をゲーム時代同様に慕っていたのに……。こんないい加減で生意気な俺を、いつも優しくも頼もしく導いてくれた貴方の事が、俺は大好きだったのに……!」

 イナバの後ろで剣を構える刹那とみこを見た真太郎が、惨劇を目撃したくないとばかりに、目を伏せる。


「はうわっ!」

 そんな真太郎の目に何かを見たイナバが、急にハッとした顔をした。

「た……確かに、シンタロー殿は、拙者のキモオタな正体を知ってからも、ゲーム時代と変わらず『師匠』と呼び慕ってくれていたでござるっ! そんな友情に厚い素敵な相棒がいながら、拙者はJCごときに心を乱され、シンタロー殿を傷つけてしまった……!」

 イナバは欲に溺れて相棒を傷つけた己の罪深さを恥じて、思わず息を止めた。


「そして、遂にはシンタロー殿との誓いを裏切り、性欲に翻弄されて師としての威厳を簡単に捨ててしまう始末……! 正に下衆の極みッ! この世界での拙者は、三十五歳無職童貞のキモオタ稲葉浩侍ではなく、剣聖イナバ……そして、シンタロー殿の『師匠』……! そうだ、拙者はロリコンのキモオタなんかじゃない! ラストサムライ・イナバでござるっ!」

 良く分からないが、イナバは真太郎の師匠であろうとすることで正気に戻ったらしい。


「シンタロー殿、拙者が間違っていたでござるっ! 拙者はJCよりもシンタロー殿を選ぶでござるよ。だって……だって、拙者はシンタロー殿の師匠だからッ!」

 自らの過ちに気付いたイナバが、かつてない程、ピュアな目で決意を表明する。


「うわっ、キモいっ!」

 次の瞬間、真太郎にキモオタスマイルの不意打ちが叩き込まれる。

「『ラッシュワンド』!」

 真太郎はそのショックで、反射的に攻撃スキルを発動してしまった。


「ちょ、今のタンマ! 師匠避けてッ!」

「ござッ!?」

 真太郎の意志とは別に、既に発動してしまったスキルは決して止まらなかった。

 次の瞬間、杖による打撃のラッシュがイナバに叩き込まれる。


「ござござござござござござござござござござござござござござござござァー!」

「むむっ! 一度音声入力の要領でスキルを発動すると、自分の意志で止めようと思っても止まらないのか! これは、良い事を発見したぞ。これから、スキルの扱いには気を付けないといけないな」

 などと、イナバにスキルを叩き込みながらも、冷静に状況を分析するクール過ぎる真太郎だった。


「ごっざばァァァーッ!」

 怒涛のラッシュが終わると同時に、真太郎が心配そうにイナバに声をかける。

「大丈夫っスか、師匠? でも、師匠がいきなりキモオタスマイルで驚かしてくるからいけないんスよ」

 中学生の刹那に異常な執着を見せて暴走したイナバを、もはや師匠ではなくただのロリコンのキモオタだと思っている真太郎は、謝り方が雑だった。


「ぼ……僕は死にましぇん! だって……だって……」

 無茶苦茶鈍器で殴られたはずのイナバが、謎の意志の力で不死鳥のごとく甦る。

「だってぇ! 拙者は、シンタロー殿の師匠ですからァんッ!」

 そして、不死鳥イナバは立ち上がるなり、ある意味で生まれ変わったかの様な爽やかなキモオタスマイルを炸裂させた。

「SAY YES!」


「い……意味は分かりませんが、どうやら立ち直ってくれたみたいですね」

 本当の意味で何がイナバの身に起こったかは、イナバ本人以外の誰にもわからなかった。


「もう拙者……迷わないっ! だって今の拙者は、非リアでぼっちのキモオタじゃなくて、シンタロー殿の師匠『剣聖のイナバ』ですからァん!」

 だが、どうやらイナバは、JCへ執着するキモオタの性を捨て、シンタローの師匠である事を選んだが故に、奇跡の復活を果たしたらしい事は何となく理解出来た。


「し……師匠? 大丈夫ですか?」

「SAY YES!」

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