第25話 予想外ッ! しょっぱなから、番狂わせッ!
「どうだ参ったか、このクソ野郎っ! 俺の強さを思い知ったか、こんちきしょう! もう二度と俺にちょっかいかけんじゃねーぞ、ぼけなすがぁーっ!」
勝利を確信した刹那が、地面に倒れるアキトに捨て台詞を吐く。
「PK野郎は、プライドが高そうだったからなぁ。低レベで、しかも女の子に正面から真っ向勝負でやられちゃったとなれば、プライドがへし折れてもう二度と俺達に近寄って来ないだろう」
刹那に撃退されたアキトを見た真太郎が、面倒事が一つ減ったと安堵する。
「クソ……100万もリアマネつぎ込んだ俺が、こんな低レベnoobに……!」
「ファッ!? こいつ、メッチャお金持ちだぁーっ!?」
「いや、ただの馬鹿だろ」
重課金者のアキトに驚く真太郎に対して、刹那がクールにツッコミを入れる。
「重課金で最強装備、しかもオリジナルスキル持ちの俺が……なんでテメーみたいな低レベにやられるんだ……!?」
格下に負けた事が理解出来ないアキトが、刹那に問いかける。
「重課金だかオリジナルスキル持ちだか何だか知らないが、今はゲームじゃねーんだ。リアルではプレイヤーの実力が全て。そしてテメーは、実力がないゆえに、この俺に負けた……」
アキトに問いかけられた刹那が、足元に転がるアキトの魔剣を取り上げた。
「お前が負けた理由は、単純かつ明確にたった一つ――この俺を敵に回したからだっ!」
そして、今世紀最大のドヤ顔で決め台詞を叩きつける。
「レベルが高いだけののぼせ上がった馬鹿野郎共っ! 俺の話を耳を澄ましてよーく聞きやがれっ!」
それから、おもむろに魔剣を構えて、コロシアムをぐるりと見回し、参加者達に剣を突き付けた。
「高レベだろうが暗黒七剣士だろうが、この俺の敵じゃねぇーっ! 新生『暗黒七剣士』の煉獄刹那さまが、相手になってやるっ! 死にたい奴から順番にかかって来やがれぇーッ!」
勝利の美酒に酔っ払う刹那が、威勢の良い事を言ってバトロワ参加者達に喧嘩を売った。
刹那がコロシアムで盛り上がる一方、実況席も盛り上がっていた。
「これは凄いっ! 煉獄刹那選手、倍以上のレベル差をものともせず高レベルプレイヤーを撃破ですっ!」
実況席のみこが元気に実況するなり、テンションの上がっている観客たちが刹那の健闘を称えて歓声を上げた。
「たった今、情報が入りました。早くも出場辞退の選手が続出しております! これは一体どういう事でしょう? 解説の重兵衛さん?」
実況席でバトルロイヤルの実況にいそしむみこが、解説の重兵衛に話を振る。
「そうだにゃ~。まず、参加するだけしたはいいけれど、いざ本番になってビビったヘタレが尻尾を巻いて逃げたんだろうにゃあ。あと高レベ連中をあっさりぶっ倒したシンタロー達にビビった雑魚が、早々に勝負を諦めたんだろうにゃあ。あとは売名、ひやかし目的の連中がやるだけやって帰ったんだろうにゃん」
元々ゲーム実況動画をネットに上げていただけあって、的確な解説をする重兵衛だった。
「なるほど、解説ありがとうございました! おっと、今入って来た追加情報によりますと、煉獄刹那選手が撃破した相手はなんと、あの『暗黒七剣士』の一人らしいですよっ! 解説の重兵衛さん、やられちゃった人の名前はご存知ですか?」
「さぁ、ぽっと出の雑魚にゃんて知らにゃい」
みこと重兵衛がわいわいと実況を続ける一方、コロシアムでは、優勝候補の一人『渾沌騎士団』ギルマスの斬人が、取り巻きを集めて何やら騒いでいた。
「お前ら! ついに俺達が、名実ともにこの街の王者になる時が来たぞッ!」
「「「おうッ!」」」
優勝を狙う斬人が、威勢のいい事を言って仲間達を煽る。
「そんでもって、戦いのどさくさに紛れて、おっぱい揉みまくってやるぜぇぇぇーッ!」
「「「何言ってんだアンタ!?」」」
突然、禄でもない事を言い出した斬人に、仲間達が一斉にツッコミを入れる。
「馬鹿野郎共がっ! 戦闘のどさくさに紛れて触れば、何をしてもセクハラ扱いされないで済むだろうがッ!」
「流石、斬人さん!」
「スゲー賢いッ!」
「策士! マジ策士ッ!」
渾沌騎士団は、揃いも揃ってみんな馬鹿だった。
「テメーら行くぞ、おさわり天国じゃオラァァァーッ!」
「「「おおおーッ!」」」
良く分からないカリスマ性を発揮する斬人が、仲間達を率いて突撃する。
「「「グハァーッ!?」」」
が、次の瞬間、馬鹿達が何者かの斬撃を受けて倒れた!
「破廉恥な狼藉者共は、死ね……!」
馬鹿達を一刀の元に斬り伏せたのは、燃え盛る炎のような紅蓮の髪をした美女――渾沌騎士団ナンバー2『紅蓮の剣姫』紅だ。
「ゴラァ、紅ィー! テメー、味方に斬りかかるなんて何考えてんだっ!」
仲間を倒されてパニクった斬人が、紅を怒鳴りつける。
しかし、紅は涼しい顔で蔑むように斬人を睨みつけるだけだ。
「馬鹿なお前達が、無関係な人間にろくでもない事をする前に始末しただけだが、それがどうかしたか?」
「馬鹿ヤロー! 男のロマンを邪魔しやがってッ!」
「五月蠅い。黙れ」
「うるせぇーのはテメーの方だッ! この世界に来てからずっと、この俺の邪魔ばっかしやがって! 今日こそは、お仕置きしてやるッ!」
今までの鬱憤を爆発させた斬人が剣を構えた瞬間、紅が目にも止まらぬ速さで剣を振るった。
乾いた金属と共に、斬人の剣が地面に転がる。
「ファッ!?」
紅に剣を叩き落とされた斬人が、変な声を出して驚く。
「……今、男のロマンだとか言っていたが、お前にとって『男』とはなんだ?」
紅が氷のように冷たい瞳で、斬人に冷徹に問いかける。
「えっ!? おっ、おおお、男って、何だろうねっ!?」
無表情の奥に確かな殺意が宿った紅の目を見た瞬間、斬人は命の危険を察した。
「質問に質問で返すな、馬鹿者!」
「す、すいません!」
紅の殺気にビビって思わず敬語になるヘタレな斬人だった。
「もう一度言う、貴様にとって『男である』とは何だ? 戦いのどさくさに紛れてろくでもないセクハラをする事か?」
「ち、違うよっ!」
「では、なんだ?」
「えっ!? あの、えっと……男であるってのは……そう! ゆっ、夢を持って! 愛する人を守って……みたいなっ! どう!? それが男っ! どう!? 正義のために命を張って強気を挫き、弱気を助けるみたいなっ!」
必死に答えを捻り出した斬人が、冷たい目をした紅の機嫌を窺う。
「そうか……」
紅が納得してくれたような事を言って剣を下ろした。
それを見た斬人が、ほっと一安心する。
「では、お前はその定義から外れる男失格のクソ野郎だな」
「ほえ?」
思いがけない事を言われた斬人が間の抜けた顔をするなり、紅が剣を振るった。
「下衆は死ね」
「ぎゃーすっ!」
「おおーっと! 序盤から大番狂わせ発生だぁーっ! 渾沌騎士団の女傑・紅選手が、ギルマスの斬人選手を斬り殺してしまったぁぁぁーっ!」
予想外過ぎる試合展開に、会場全体がどよめく。
「序盤から番狂わせですねっ! 重兵衛さんどう見ますか?」
「うーん! 面白くなって来たにゃあ! シンタロー達同様に、他の連中もてっきりチームで動くとばかり思っていたけれど、予想が外れたにゃん」
「なるほど! 解説の重兵衛さんでも分からない事態になった、という事ですねっ! これは面白い! 誰が優勝するかまったく分からなくなって来ましたよっ!」
実況席で重兵衛達が盛り上がる一方、コロシアムでは、紅が斬人の部下に剣を突き付けていた。
「お前ら、今すぐに全員降参しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
「あ、姐御……それはどういう意味で……?」
紅の言葉が理解出来なかった斬人の部下の一人が、戸惑いがちに尋ねる。
「質問に質問で返答するな。三秒以内に降参しなければ、お前らを全員叩き斬る」
紅の殺気に気圧された斬人の部下たちがお互いに顔を見合わせながら、ゆっくりと剣を下ろす。
「ダメだッ!」
すると、死に損なっていた斬人が叫び声を上げた。




