第19話 ザ・ハウス・オブ・ザ・さくにゃん2
「お……おい、ババア。き、貴様……なぜ、俺達につきまとう……?」
満身創痍の刹那が、悠々と酒を飲みながら煙草を吸うさくにゃんに問いかける。
「リアルの彼を気に入ったからよ」
「ヒィ! 誰? まさか、拙者っ!?」
思いもかけない恐怖の告白に、イナバが身震いする。
「なわけーだろ! ぶっ殺すぞッ! キモオタァッ!」
「ござああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」
ぶっ殺すと言った時には、既にぶっ殺している――それがさくにゃん流だ。
「こっちよ、シンタロー君よ❤」
イナバを始末したさくにゃんが、真太郎に可愛くウインクをする。
「ヴォエッ!」
物理攻撃を喰らっていないはずなのに、真太郎のHPがガッツリ削られた。
「こ……こんなに規格外の危険なババアキャラが潜んでいたとは、異世界はまっこと恐ろしい場所でござるよ……!」
物理攻撃を喰らって、HPをガッツリ削られたイナバは、もう死ぬ寸前だ。
「誰が、危険なババアキャラよっ! ぶっ殺すッ!」
侮辱にキレたさくにゃんが、修羅の形相でイナバの命を狩りにいく。
ここで問題だッ! このえぐられた足でどうやってあの攻撃をかわすか?
3択――ひとつだけ選びなさい。
答え① ハンサムなイナバは、突如反撃のアイデアが閃く。
答え② 仲間が来て助けてくれる。
答え③ かわせない。現実は非情である。
「ラブリー虐殺真拳奥義・ラブリー百裂拳ッ!」
次の瞬間、さくにゃんが目にも止まらぬ速さの連続パンチをイナバに叩き込んだ。
「ござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござぁぁぁーっ!」
答え③ 答え③ 答え③!
突き付けられた現実は非情なりッ!
「ふぁっ!? さくにゃんさん、攻撃スキル禁止のプライベートエリアで、スキルを使いましたよッ!?」
ゲームのルールを普通に無視したさくにゃんを目の当たりにしたみこが、目を丸くして驚く。
「あれは、変な技名が付いているけれど、スキルじゃあない。ただのパンチだよ」
「ふぇ? どういうことですか?」
戸惑うみこに、アダーが説明をしてあげる。
「さくにゃんは、攻撃系のパラメーターが振り切れているから、ただのパンチが攻撃職の必殺技と同じぐらいの威力を持つんだよ」
「ふぁっ!?」
驚愕の事実を知らされたみこが、思わず変な声を出す。
「さくにゃんは、勇ゲーにおいて他をまったく寄せ付けない強さを持つ、最強の存在だ。それも、最強って言葉がちゃちに感じるほど、ぶっちぎりで強いという意味で最強だ。しかも、その性格は滅茶苦茶に凶悪でわがまま。まさに誰にも手が付けられない暴君と言っていいだろう」
「ふぇぇ~、怖すぎですよぉっ!」
「最強にして最悪の暴君――それが、さくにゃんだ……!」
イナバを血祭りにあげたさくにゃんを戦慄の面持で見つめるアダーが、ごくりと生唾を飲みこむ。
「どうしてそんな人を仲間にしたんですかっ!?」
恐怖に駆られたみこが、アダーに食い気味に抗議する。
「仲間にしたって言うか、ある日、真太郎がどっかから連れて来て、そのまま勝手に居ついているんだよ」
「あの人、ほんっとロクなことしませんよねっ!?」
また真太郎がろくでもない事をしていた事を知ったみこが、素で怒る。
「ったく、ムカつくキモオタね。次にナメた真似したら、本気で殺すわよ?」
イナバに非情な現実を突きつけたさくにゃんが、小脇に抱えていた酒瓶に手を伸ばす。
しかし、飲み干してしまっていたようで、中身がなくなっていた。
「おい、中坊。小銭やるから、お酒買って来なさいよ」
酒を切らしたさくにゃんが、ゲーム時代と同じように刹那をパシリ扱いする。
「はぁ? 知るかよ、自分で行けよ、ババア!」
そして、刹那もゲーム時代と同様に生意気に反抗する。
「うちのギルドはさぁ~、先に入門した人が先輩でぇ~、後から来た奴は先輩に絶対服従なの~、分かるぅ~? 分かったら、とっとと行ってきなっ!」
無茶苦茶な事を言い出したさくにゃんが、金貨を指で弾いて刹那に渡す。
「なんだそれっ!? そんなルール、初耳だぞっ!? うちのギルドは、相撲部屋でもお笑い芸人の事務所でもねーんだぞ、クソババア!」
刹那が小動物のように荒ぶって禁断の言葉を叫ぶなり、さくにゃんの顔が再び修羅になった。
「ラブリー虐殺真拳奥義・ラブリー残悔拳ッ!」
さくにゃんはそう叫ぶと、刹那の小さなおでこにデコピンを喰らわせた。
「? 痛くないぞ……?」
てっきりぶっ殺されると思って身構えた刹那だったが、さくにゃんの攻撃はデコピン一発だけだった。
「テメー! こけおどしか、このヤロー!」
気の強い刹那が反撃をするべく、剣を手にしてさくにゃんに襲いかかる。
すると、さくにゃんが真顔で妙な事を言い出した。
「お前はもう死んでいる」
「何?」
「貴様の命は、あと三秒。礼儀知らずなクソガキは、礼儀の大切さを噛みしめながら死ぬといいわ」
さくにゃんが口を閉じた次の瞬間、刹那が血を吐いてぶっ倒れた。
「ぎゃぼーっ!」
謎の時間差攻撃を喰らった刹那が、悲鳴を上げて逃げ出した。
「ひぃぃぃー! 誰かお助けーっ!」
「逃がすわきゃねーだろッ!」
刹那が一目散に逃げ出すなり、さくにゃんが追い打ちをかける。
「な、なにぃぃぃーっ!? 容赦なく追撃に来ただとーっ!?」
ここで問題だッ! このえぐられた足でどうやってあの攻撃をかわすか?
3択――ひとつだけ選びなさい。
答え① 可愛くてカッコイイ刹那は、突如反撃のアイデアが閃く。
答え② 仲間が来て助けてくれる。
答え③ かわせない。現実は非情である。
「ラブリー虐殺真拳奥義・ラブリー百裂拳ッ!」
次の瞬間、さくにゃんが目にも止まらぬ速さの連続パンチを刹那に放った。
「ござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござござぁぁぁーっ!」
「答え④! キモオタを盾にするッ!」
機転の利く賢い刹那は、ラブリー虐殺真拳が叩き込まれる直前、イナバを盾にする事で死を逃れる事に成功した!
やったね、せっちゃん!
「せ……せっちゃん……ござ無慈悲……!」
「動くのがあと一秒でも遅ければ、あのクソババアにぶっ殺されていた……!」
血の池に沈むイナバの惨殺死体を見た刹那が、戦慄の面持で冷や汗を流す。
「こら、チュウ! いい加減にしろ! ババアはいいけど、クソババアはダメだろっ!」
真太郎が口の悪い刹那に注意する。
だが、殺戮シーンを見過ぎてツッコみどころがおかしくなっていた。
「ババアも駄目だよっ☆」
耳聡いさくにゃんが、真太郎に笑顔で地獄突きを叩き込む。
「ひでぶ!」
「はわわ! シンタローさんまで、やられちゃいましたよっ!」
イナバに続いてシンタローまでさくにゃんの毒牙にかかるなり、みこが恐怖に駆られてアダーに泣きついた。
「アダーさん! 黙って見てないで、あの人を止めてくださいよっ!」
しかし、アダーは諦めを宿した顔で静かに首を横に振るだけだった。
「出来ればとっくにやっているよ。でも、それは不可能だ。さくにゃんが自然に落ち着くのを待つしかないよ。残念だけれど、ここには彼女を止められる人間がいないのだから……」
己の無力さを噛みしめるアダーが目を伏せると、刹那が不安げな顔をした。
「クソババアを止められるのは、アメコミヒーローみたいに銃火器ぶっぱなせるヴァンか、禁断魔法を無制限に連発できるジェニファー姐さんしかいないって事?」
「そういう事だね。だが、この場に二人はいない。よって、現状さくにゃんを止める事は出来ない。ボクらは暴風が過ぎ去るのをじっと待つしかないんだよ……」
アダーが哀しげな顔でそんな事を言うなり、真太郎が助けを求めて来た。
「な、なつき……先生……早く回復してくださ……い……!」
「今行く! 死んじゃダメだよ!」
満身創痍な真太郎の姿を見るなり、アダーがすぐに駆け寄る。
「いや、待てよ……」
しかし、何を思ったか、急にふむと言って立ち止まってしまった。
「タイミング良く死損ないが二人も出たから、ここで明日に備えて『実験』をしようじゃあないか」
アダーが妙な事を口走るなり、刹那とみこが揃って小首を傾げた。
「「実験?」」




