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第13話 刹那の事情と、切なき体育座り

「――そんな訳で、今の『オリエンスの街』には、PKとか強盗とか、セクハラ変態野郎なんかがうじゃうじゃいて、とてもいれたもんじゃないんだよ。どこを見ても、そんな奴らばっかりだったからさ……、お前がシンタローだと思っても、なかなか声がかけられなかったんだよ……。だって、ここじゃあ他人なんて、信用できないんだもん……」

 まるで誰かとずっと話をしたかったかの様に熱心に話をし続けた刹那が、そう言って話を終えた。


「チュウ、お前の事が良く分かったよ。話してくれて、ありがとう」

「……礼なんて、別にいいよ」

 刹那の話を一切茶化す事なく黙って真剣に聞いていた真太郎が、ここでふぅと重い息を漏らす。


(てっきり、お手軽な俺TUEEEEな異世界転移ものだと思ってたけど、実はとんでもないパニックホラーものだったようだな。……いや、いきなり訳も分からずゲーム風の異世界に連れてこられたら、誰でも気が狂うか。ふつーに考えて、平静でいられる方がおかしいよな)


「……成程ね。女子中学生には随分と厳しい状況にいたみたいだな。ま、浪人生の俺でもじゅーぶんにきっっいけどねぇ」

 刹那の話を聞き終えた真太郎は、重くなった空気を和らげる為に少しだけ茶化してみた。

 だが、重苦しい空気が変わる事はなかった。

 

 なので、話を変える事にした。

「チュウの状況は分かった。で、そんな他人を信用出来ないお前が、なんで今こーやって俺と一緒に仲良くおしゃべりしてんのさ?」

「別に仲良くおしゃべりなんてしねーよっ! 勘違いすんなよなっ!」

「そういうのはいいから。質問に答えなさい」

「命令すんなよ、馬鹿! その……そこにいる女の子を見たからだよ……」

「ん? あたし?」

 刹那に指さされたみこが、不思議そうな顔をする。


「バカタローが、PKをぶっ倒して、そこの女の子を助けたから……それで……わ、悪い奴じゃないんだなって思って……それで……」

 ここで無駄に反発して真太郎に嫌われるのを避けたのだろう。

 刹那は最初反発したが、すぐに素直に思った事を話してくれた。


(さっきのPK戦は、てっきりみこちゃんを仲間にする為のフラグが立っただけだと思っていたけど、それと同時にチュウを仲間にする為のフラグも立っていたのか。これが良い事なのか分からんが、状況が一歩前に進んだのは良い事だ)

 刹那の事情を知った真太郎が、得心のいった顔をする。


「それで……」

「それで?」

「それで声をかけようと思ったら、PKと間違われて殺されかけた」

 先程まで年相応の女の子らしくしおらしげな態度を取っていた刹那が、急にいつもの小生意気な顔に戻り、ジト目で真太郎を睨んだ。


「せっちゃん。人生ってやつは、常に思い通りにはいかないものだよ」 

 既に謝罪を済ませ怪我も治してやった真太郎は、刹那に対する罪悪感はもはや微塵も無かった。

「なんだ、その言い方はっ! 俺は、お前を見つけるまで、人目を避けながらロクな食べ物も飲み物も摂らずに、この廃墟の中で暮らしてたんだぞっ! もう少し優しい言葉をかけて労われよなっ!」

 

 現在、真太郎達は、刹那のもたらした情報に従って、パニック状態になった人々が溢れているという『オリエンスの街』を避けて、街の外にある刹那が根城にしている廃屋に潜伏していた。


「回復魔法をかけて労ってやっただろ? 傷も治ったし、疲れも癒えただろ? 他に何をして労わればいいのさ?」

「うぅ~。も、もっと……仲間との感動の再会みたいなのは、ないのかよ……?」

 一人でいたのがよほど寂しく不安だったのだろう。かつてゲームで膨大な時間を共に過ごした真太郎に対して、人恋しさを感じた刹那が拗ねたように少し口を尖らせて答える。


「そんなもんないよ。お前は勝手に俺達にくっついて来てただけの地雷プレイヤーで、仲間じゃねーもん」

 ゲーム時代の刹那は、自分勝手な行動で周囲を困らせる所謂、地雷プレイヤーだった。

「はぁ!? ふざけんなよ! じゃあ、なんでいつも一緒にいたんだよっ!」

「俺は、お前のあからさまな中二病的言動を面白がって、常に近くで観察してただけだよ。誰がお前の様な地雷を仲間になどするか、妙な勘違いをするな」

 意外に冷淡な所を見せる真太郎に、刹那がキレて襲い掛かる。


「クソ! やっぱり他人は信用できない! お前みたいな奴は殺してやるッ!」

 荒ぶる刹那はそう怒鳴ると、ダブついた袖から仕込み剣を飛び出させた。そしてそのまま、シャーっと小動物的な叫び声をあげながら、真太郎に襲い掛かる。


「今更だけど、なんで安全な街の中に入らず、こんな所に俺を連れ込んだんだよ? パニくった人や暴れてる人がいたって、宿屋にいけば安全じゃないの?」

 刹那の初撃をヒョイと避けた真太郎が、何事もなかったかのように会話を続ける。


「確かにそうかもな。だが、お前が敵だった場合、すぐに殺せるないだろ? 今みたいになっ!」 

「……お前、意外と強かだな。など言いつつ、『ホールドエネミー』!」

 真太郎はそう言うと、再び襲い掛かって来た刹那に拘束魔法を仕掛けた。魔法の名前を叫ぶと同時に真太郎の杖が光り、刹那の体に光の鎖がまとわりつく。


「うわっ!? またこれかよッ! やめろ、離せ! このバカタローッ!」 

 再び光で出来た鎖に雁字搦めにされた刹那が、腹立たしげにキーキーと叫ぶ。

「お前のそーいう無駄に攻撃的な所が、地雷たる所以だな。しかし、『魔法』を使うのも大分慣れて来たなぁ」

 目の前に展開される魔法のショートカットスロットを眺める真太郎は、着実にこの世界での振る舞いを身に着けつつある自分を褒めてやりたい気分になった。


「おい、バカタロー。お前、この世界に来てまだ一時間なんだろ? なんでそんなに強いんだよっ!?」

 この世界に転移してきたばかりの癖に、謎の強さを発揮する真太郎の存在が、刹那は疑問でならないようだ。


「俺が強いんじゃなくて、お前が弱いんじゃないの?」

「茶化すんじゃねーよっ! なんか秘密があんだろ、教えろよッ!」

「覚悟の差じゃないの? 俺とチュウでは覚悟が違う、覚悟の差は強さの差。俺には覚悟があり、チュウにはない」

「はぁ? なんの話だよ!?」


「俺は、この世界で逃げ回っていたお前と違い、ここに来てからずっと訳も分からないまま恐ろしい敵と戦い続けて来たんだよ。そんな俺は、この場所が夢だろうがゲームだろうが現実だろうが、そんなもんかんけーなく、とにかく最善を尽くす事に覚悟を決めたんだよ」

 既にこの世界で過ごす事が長期戦になると見ていた真太郎は、とっくの昔にこの世界で生き抜くという覚悟を完了していたのだ。


「あるロックスターが言っていた、戦いとは常に、『一回目、散々な目に遭う。二回目、落としまえをつける。三回目、余裕ーッス!』そーいうルールになっている、と。そして既に俺は三回も戦いをこなしている。つまり、余裕ーッス!」

「意味分かんねーよっ! どーでもいいから、さっさとこれをほどけよッ!」

 魔法の鎖に縛られた刹那が、ふざけだした真太郎にキレてキーキー騒ぎ出した。


「なんだか、鎖の食い込み方がえっちいなぁ」

 刹那に絡みつく魔法の鎖が得てせず緊縛プレイみたいになっているのを見たみこが、ちょっとドギマギする。

 そんな事をやっていると、魔法の効果が切れて刹那が自由になった。

「よっしゃ、解けた! 死ね、バカタロー!」

 その瞬間、刹那が仕返しとばかりに、真太郎に襲い掛かる。


「そんな事はどうでもいいんだよ。ちょっと大人しくしていなさい」

 だが、真太郎には、刹那と喧嘩するつもりなど、毛頭なかった。

「いずれにせよ、俺達は今いる場所で最善を尽くさねば、最悪の事態になる事、必至! 今のお前の様な逃げ腰の態度では、PKかモンスターに食い物にされて終わるだろう。いや、そもそも始める事すら出来ない。その証拠に、お前は俺に出会うまで、ただ怯えて逃げ惑っていただけだ。そんなビビりのお前が、俺の仲間になりたいと言うのならば、今すぐに覚悟を決めろ」

 急に真剣な話をされるなり、刹那は思わず毒気を抜かれてしまった。


「うっ。な……なんだよ急に……? 仲間って何の話だよ」

「一人でいたお前と行動する事は、やぶさかではない。だが、未熟者で足手まといの地雷プレイヤーは連れていけない」

「いきなり襲い掛かって来た地雷は、お前じゃねーかっ!」


「確かに。だが、こっちだってPKとの戦闘後でピリピリしてたんだ、ふざけていた様で実際はかなりテンパってたんだよ。あの時、尾行者がお前じゃなくて、マジの敵だった場合、街に逃げたPKと挟み撃ちにされて殺されていた可能性もあったんだ。あの時は、一応マジだったんだよ」

 何気に強かな真太郎は、一見ふざけている様でありながら、その裏では常に色々と物を考えているのだ。


「今言った様に、この世界は殺したり殺されたりのトラブルが、ごくごく普通に自分に降りかかって来る様な危険な場所なんだ。もっと言えば、今までいた現実世界とは明らかにルールが違う場所だ」

「……まぁな」

「だから、ゲームをやっていた頃の様に、チュウに好き勝手迷惑プレイをされちゃあ困るんだよ。下手すると、お前の馬鹿な行動に巻き込まれて、死んでしまう恐れがあるからね。とりあえず、何かとすぐに襲い掛かる癖だけは直しなさい」

 急に真剣なトーンで話をし始めた真太郎に、刹那は思わず気圧されてしまう。


「……お前、本当にシンタローかよ? なんか、いつものヘラヘラしてる感じがなくなってるじゃねーか」

「マジで覚悟を決めてかないと確実に死ぬ、っていう出来事が連続してあったから、マジにならざるを得なかったのさ。ね、師匠?」

 ここで真太郎が、思い出したように割と久しぶりにイナバに話を振る。

 

 すると、建物の隅で体育座りをしていたイナバが、切なげな視線を向けて来た。

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