第14話 ギルド会談反省会
そんなこんなで、なんとか『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』に有力ギルドの面々を引きづり込む事に成功した真太郎達だった。
会議場から『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』の受付会場に向かう道すがら、突然刹那が真太郎に突っかかる。
「さっきのは一体なんなんだよっ!? 何がギルド会談だ! バカタローの詭弁大会じゃねーかっ!」
真太郎の強引なやり口が気に入らなかったのか、刹那が生意気な事を言い出した。
「ギルド会談でほとんど役に立たなかった癖に、クソコメで俺をなじれるお前の図々しさが羨ましいわ~。俺が、お前みたいなクソの役にも立たないクソコメガールなら、恥ずかしくて自殺してるよ~」
しかし、真太郎は刹那の相手を真面目にするつもりは無かった。
「おい! ふざけんなよ! 誰がクソコメガールだよっ!」
「何を今更騒いで、完全に忘れ去られた存在感をアピールしてんだよ?」
「うっせー、バカタロー! 大体、あんな強引なやり口で、集まった連中を焚き付けて回ってよぉ! あの場で殺し合いになったらどうするつもりだったんだよっ!」
図星を突かれた刹那が照れ隠しで荒ぶり、同時にさりげなく話題を変える。
「きらりちゃん。交渉はねぇ、ゴネるが勝ちなんだよ。この世界、実力はともかく、とにかく言ったもの勝ちな所がある。間違っていようが狂っていようが、大声で感情を煽ってやれば、大抵の人間は丸め込める」
「アホ抜かせ」
「アホはお前だ。世の中で上手いことやっている奴らを思い出してみろ、特に政治家がどうやって大衆を操っているかをな」
真太郎がそんな事を言うと、刹那はリアル時代に思いを馳せた。
「……むぅ。確かに、お前の言う通りかもしれん」
「世の中の大半の人間は、情動や環境に流されているだけで、自立した意志や思考を持ち合わせていないからな。受験戦争と社畜生活で忙殺されているせいで思考力がなく、日本社会特有のお上に従い、右に倣って生きているロボットの様な人間共など、ちょっと感情を揺さぶってやればどうにでも動かせるんだよ」
「むぅ……生意気に策士的な事を言い出したぞ。狂気の扇動者の二つ名は、伊達ではないという事か……」
お馬鹿な刹那が真太郎に丸め込まれるなり、アダーがため息をついた。
「こらこら。真太郎に手口を教えてもらったのに、簡単に丸め込まれちゃダメじゃあないか。真太郎は平気で身内も騙すんだから、気を付けなきゃダメだよ」
「はうあ!」
罠に嵌められた事を知った刹那が、思わずハッとする。
「とはいえ、真太郎のやり口は、やはりいささか強引だったかもしれないね。さくにゃんの乱入による板垣さんの心変わりが無ければ、面倒な事になっていたのは自明の理だし、もっと下準備をするべきだったと思うよ」
冷静なアダーが先程の反省を口にする。
「馬鹿共相手に、あれ以上の下準備など不要。だいたい、この期に及んで、現状の打開策すら考え出せない奴らと議論する意味なんてないし、そんな馬鹿に構っている無駄な時間は無いんです。あの会談は、無理矢理まとめるのが得策なんですよ」
反省を口にするアダーに対して真太郎は、どこまでもふてぶてしい返答をした。
「暴走が上手くいっただけのバカタローは、放置するとして。ギルマスは、強引にまとめにかかったコイツが失敗してたら、どうするつもりだったの?」
真太郎に構うのを止めた刹那が、アダーに話題を振る。
「ポムをまとめて、他の中小ギルドの女子達を吸収して規模を拡大。その後、街の重要施設を占拠、反対派を暴力と財力を用いて撃退して、他勢力に恐怖と絶望を与える事で精神的に操作し、この街を物理的に支配下に置く――といった感じかな?」
「……え? ギルマスもそんな恐い事言うの?」
アダーが真太郎と同じような強引な策を考えていた事を知った刹那が、動揺して微かに震える。
「ゲームと同じシステムが、この世界の理として存在し、その上、魔王とモンスターが実在するんだ。となればゲームと同じく、『モンスターによるプレイヤータウンの襲撃』のイベントが起こる可能性は高いと推測していいだろう。こう考えると、ボクの案も強引な手段だが、命を守る為には致し方がないよ」
「……え? モンスターの襲撃イベント……?」
冷静な口ぶりアダーが語る恐ろしい話を聞いた刹那は、思わず体を恐怖で震わせた。
「しかも厄介な事に、その際、街を捨てて逃げる事は基本的に出来ない。というのも、モンスターに『輪廻の神殿』が破壊されてしまったら、ボク達プレイヤーは、復活が出来なくなってしまうからね。バッドエンドを避けるには、それが起きるのを見越して準備をしておかなければいけない、とは思わないかい?」
「バカタローもずっとそれを心配してるけど、やっぱりそれって本当なの……?」
不安げに瞳を揺らす刹那が問いかけると、アダーは黙って首を縦に振った。
「登場キャラクターや街並、細かな小道具と自然環境、秩序の守護者、そして魔法とスキル、レベル制度、死と復活のシステムに至るまで、この世界の勇者ゲームの再現度の高さを見るに、ここでは全てが勇者ゲームのシステムに則て動いていると考えざるを得ない。ゆえに、『輪廻の神殿』を破壊された場合、ゲーム同様にこの街で復活出来なくなる、と仮定して行動するべきだよ」
「でも、この街の『輪廻の神殿』を壊されても、他の街で復活できるよ?」
「ゲームではそうだったね。という事は、この世界でもそうかもしれない。だけど、今は『他の街の事は一切わからない』んだ。もしかしたら、このオリエンス以外には、街が存在しないかもしれない。そう考えると、危険は出来るだけ排除しなければならないよね。だって、命がかかっているのだから。刹那は、どう思う?」
「そ、そうだね。ギルマスの考えに賛成だよ」
アダーの優しい言葉ながらも真に迫った問いかけに対して、刹那がコクリと頷く。
「それに、輪廻の神殿が破壊されなくとも、街をまとめなければ、他プレイヤーとの戦いが待っている。未知の存在であるモンスターより、確実に残虐性が保証されている人間との戦いの方が、ボクは怖いね……。いずれにせよ、この街のプレイヤーをまとめない事には、身の安全を確立する事は出来ないんだよ」
「確かにそうかも。私も、最初は街のみんなが怖くて逃げ回ってたし」
どこかまだアダーと真太郎に付いていけなかった刹那だったが、アダーが冷静に状況を説明をしてくれたので、事の深刻さをようやく理解する事が出来たようだ。
「今は一見、お気楽なゲームの世界に異世界転移している風に見えるけど、実際はゲームであってゲームでない、超危険な状況って事なんだね……」
刹那が恐怖のあまり、顔を青くさせて暗くなる。
「その通りだよ。だが、そんな暗い顔をする事ないさ」
アダーはそう言うと、超爽やかな王子様スマイルで刹那に微笑みかけた。
「刹那の事はボクが守ってあげるからね。刹那はいつも通り、可愛く元気でいてくれよ。それが何よりボクを勇気づけてくれるんだからさ」
「うんっ!」
アダーが、お嬢様界最強の王子様っぷりを遺憾なく発揮するなり、刹那が乙女の顔になる。
「ギルマスの話で、今の状況が冗談抜きで凄くヤバいのは分かったよ。でも、同じ境遇のプレイヤー同士で戦ったり、血を流すような事は避けたいよ……」
ゲームでは地雷キャラだが、リアルでは気弱で優しい女の子である刹那が、そんな事を言い出すなり、真太郎が鼻で笑った。
「悪いが、戦いは避けられん。つか、この状況のヤバさが分かってないアホな人達が、腹をくくっている俺達を中傷して邪魔して来たけどさぁ。あの人達って、その行為が自分の首を絞めているだけだって気付かないのかねぇ? 特にエリーゼさん」
「恵璃華は、純粋培養されたお嬢様だから、世間も苦労も知らないんだよ。現実の世界ならば、その優秀な能力も遺憾なく発揮できるのだろうが、今のような極限状態のサバイバルな状況下では、正直お荷物だね。彼女のヒステリックさは、怯えと苛立ちの表れだし、ボクらに対しての反抗的態度は、状況分析の甘さと度胸の無さの表れだからね」
真太郎の振りに乗っかったアダーが、随分と辛辣な事を言う。
「おや、友達でしょ? 随分、辛口じゃん?」
「友達だからこそさ。正直、恵璃華の事は結構頼りにしていたのだが、ビックリするぐらい役に立たなくて困り果てていたんだよ。この状況だと、真太郎が来なかったらちょっとマズかったかもしれないね」
何気に真太郎を信頼している所をアダーが垣間見せる。
すると、刹那がすかさず茶々を入れた。
「何言ってんのさ、ギルマス! こいつが来た方がマズいだろっ!」
「マズい。確かにマズいね。良い意味でマズいね」
そう言うと真太郎はニヤリと笑った。
「どんな馬鹿でも、ここまで実害を体感している状況だったら、この状況が続くのはマズいって分かっているはずじゃん? なのに多くの人が何もしないで助けを待ってるか、暴れてるかのどっちかだ。ふつーに考えて、死ぬ直前になってから慌てふためいても遅いと思うんだよね。そこんとこ、せっちゃんはどう思うの?」
突然話を変えた真太郎に、刹那が思わず戸惑う。
「どうって、そんなのダメだろ」
「そう、ダメ。現状維持、触らぬ神に祟りなし、見て見ぬふり、臭いものに蓋――そういう、現代社会では処世術として使えた手段は、今の危機的状況ではクソの役にも立たないどころか、有害。有害な連中のせいで死ぬのはごめん、違うかい?」
「そうかもしれないな……でも、だからって、街の連中全員集めたバトルロイヤルかよ。戦いがヒートアップし過ぎて、手におえなくなったらどうするつもりだよ?」
真太郎の真面目な問いかけに、刹那が冷静なツッコミを入れる。
「往々にして、自分で作った争いはコントロールする事が出来る。むしろ、手に負えなくなるパターンは、自然発生的に戦いが起こった場合だ。争いが自然発生されちまうと、原因が分からないから沈静化するのを自然に任せなければならなくなる。ならばこそ、自分で争いを作る事で事を収めようとした」
「戦争屋みたいな事を言うな。計算力の低い打算では上手くいかないぞっ!」
真太郎の悪い癖である暴走を感じ取った刹那が、彼を強めにたしなめる。
「黙れ、チュウ! 上手い事言ったみたいな顔すんじゃねーよ。お前は面白いと思ってコメしているだろうが、お寒いだけだぞ」
「コメとか言うんじゃねーよっ! 動画サイトではしゃいでる馬鹿扱いすんな!」
「それな」
「やめろ、煽んなっ!」
自分の忠告を聞かないどころか、逆に煽って来た真太郎に刹那がキレる。
だが、刹那が飛びかかる前にアダーが彼女を止めた。
「ボクだって、今の計画が百パーセント上手くいく確信なんてないよ。話し合いで全てが丸く収まるなら、それがベストさ」
「そうだよ」
「おい、便乗すんなっ!」
「だがね、殺人上等のPKや女の子を手あたり次第襲う変態、そしてそいつらを見て見ぬ振りする卑怯な日和見主義者達が大勢いるこの街で、スマートに話がまとまると思えるほど、楽天家じゃなくってね。この場を制するには、泥臭いが真太郎の考えるショックドクトリン――惨事便乗型改革が、最適に思えるんだよ」
アダーの言う事は、冷静に状況から導き出された正論に思えた。
「……むぅ」
だから、刹那は何も言わずに黙っていた。
「そんな顔をしないでくれよ。ボク達が失敗した場合は、『ポム・アンプワゾネ』に音頭を取らせて、話し合いで解決する策に移行する手はずは整っているんだからさ。だから、刹那が不安になるような事は何も起こらないよ」
真太郎に振り回されているように思えて、裏でしっかりと次善策を考えていたアダーだった。彼女は伊達に『策士』と呼ばれている訳ではないという事だろう。
「え、そうなのっ?」
「狂人で知られる真太郎の暴力的な策の後に、誰もが知る勇ゲーのアイドルであるエリーゼや百合子達が平和的な提案をするのだから、かなり高い確率で話し合いの場が設けられる事になるだろう。ボク的には、むしろこっちが本命だったりもする」
アダーがそんな裏切りに近い事を言うなり、真太郎がむっとする。
「賢い先生のその賢い策が、上手くいくかどうかは、分からないですけどねっ!」
「ボクが裏で采配を取るんだ、上手くいくに決まっているだろう?」
確かな自信を見せつけるアダーが、爽やかな王子様スマイルを浮かべる。
「言っときますけど、俺にその王子様スマイルは無駄ですよ」
「それは、残念。因みに今のは『お姫様スマイル』だよ、勘違いしないでくれ」
王子様扱いされたアダーが、少し不機嫌になる。
「いずれにせよ、真太郎の『剛』とボクの『柔』による両建ての策が、二段構えになっている以上、どう転がっても状況はボクらの手の中、って事さ」
策士アダーは王子様の様に爽やかに笑うと、刹那の頭を優しく撫でた。
「と言う訳で、可愛い刹那が小さな胸を痛めて心配する事は無いよ。ゲーム時代同様に、安心してボクに付いてきたまえ」
「うんっ!」
刹那、コンマ一秒で陥落!
「でも、あんなに強引なバカタローの勧誘だったのに、よく皆乗って来たな」
正気に戻った刹那が、不意にそんな疑問を口にする。
「乗って来たんじゃねー、乗せたんだよ」
それに真太郎が妙な答えを返した。




