第12話 解決さくにゃん☆ まるっと心配ご無用☆
「話は全て聞かせて貰ったわっ☆」
ドアから差し込む光に照らし出されるのは、無駄に光を纏って煌めくピンク色の髪、魔法少女を思わせるマジカルでリリカルな可愛い洋服。
そして、どう見ても三十路を過ぎた熟女フェイス――。
「「「お前、誰だよっ!?」」」
会議場に集まった全員の心の叫びだった。
「どうやらここは、このあたしの出番の様ねっ☆」
アダーによってシステム的に封じられているはずのドアをブチ破って颯爽と現れたのは、天下無敵にして最凶最悪の迷惑プレイヤーさくにゃんだ。
「なんだ、あのババア!?」
ただならぬ存在感を放つさくにゃん対して、斬人が無意識に身構える。
「あ……あれは、魔法熟女☆さくにゃんっ! 何故ここにっ!?」
さくにゃんの突然の登場にビビった真太郎が、妙な事を言い出した。
「ふぁっ!? 魔法熟女っ!?」
「これまた、エグいのがあらわれたですよっ!」
「間に『☆』を挟んでもポップさゼロですよっ!」
強烈なインパクトを持つさくにゃんに初遭遇した小娘達が、一斉にパニクり出す。
「みんな、落ち着くんだ。あの人は、みんなが大好きな勇ゲー界のロリっ娘アイドル『さくにゃん』だよ」
穏やかじゃないさくにゃんの登場に慌てふためく一同を落ち着ける為に、アダーがさくにゃんを紹介する。
しかし、パニックのあまり、説明がおかしかった。
「「「何ィーッ!? あれが、みんなが大好きな勇ゲー界のロリっ娘アイドル『さくにゃん』だとぉーっ!?」」」
アダーの紹介の仕方が悪すぎたせいで、みんながパニックを起こしてしまう。
「そうだ! あれが、みんなが大好きな勇ゲー界の『ロリっ娘アイドル』さくにゃんだっ!」
「あいつのどこがさくにゃんだ! ロリのロの字の一筆目すら存在しないババアじゃねーかッ!」
可愛らしいロリっ娘だったゲーム時代の姿と全く違う――というか、良く分からん派手な格好のババアを『さくにゃん』呼ばわりする真太郎に、斬人が思わずキレる。
「馬鹿野郎! あれは、みんなが大好きな勇ゲー界の『ロリっ娘』アイドルさくにゃんなんだよっ!」
「な訳ねーだろっ! この世界のプレイヤーはゲームの自キャラの容姿が反映されんだぞっ! ロリっ娘のさくにゃんが、あんなババアな訳ねーだろッ!」
「うるせー! 俺だって納得してる訳じゃねーんだよっ! いいから、見た目に囚われず、声だけに集中して心の目で奴を見てみろッ!」
改めて見ても『ババア』なさくにゃんに、思わず真太郎もキレてしまった。
「誰がババアじゃ! ぶっ殺すぞ、このクソガキ! ゴラァーッ!」
しかし、声だけはアイドル声優顔負けの超絶可愛いロリボイスだった。
「この超絶萌えボイスに似つかわしくない凶暴な言動……確かに、さくにゃんっぽいな……」
目を閉じてさくにゃんの声に集中した斬人が、ゲーム時代のさくにゃんを思い出す。
「ほらぁ!」
斬人が納得するなり、真太郎が無駄にはしゃいだ。
「んもう! さくにゃんは、十七歳だよっ☆ しっかり見てよねっ!」
そして、自分を『さくにゃん』と認識された事に機嫌を直したさくにゃんも、はしゃいで可愛げなポーズを取った。
「って、おいおいィィィーッ! やっぱり、ババアじゃねーかッ!」
リアル版さくにゃんを肉眼で見た斬人が、すぐさま我に返る。
「止めろ馬鹿ッ! よく見ようとして目を見開くんじゃねーよッ!」
真太郎が、正気に戻った斬人をすかさずどやしつける。
「ふざけんなよ、なんだよアレ!? あんなババアが、さくにゃんだなんて認めねーぞッ!」
ゲーム時代のロリ可愛い姿から著しく乖離したババアな見た目のさくにゃんを見せつけられた斬人は、我も忘れてキレてしまった。
「うるせーなッ! アイドル声優も、クッソ可愛い声してても、その正体はババアだろ!? だから、さくにゃんがババアでも文句言うんじゃねーよっ!」
「意味分かんねー事言ってんじゃねーよ! ババアはババアだ、このヤロー!」
さくにゃんの正体がろくでもないものだったせいで、真太郎と斬人がしなくてもいい馬鹿な喧嘩を始めてしまう。
「おめらーさんよぉ~……誰がババアなのかな……?」
真太郎達の暴言を耳にしたさくにゃんが、登場早々殺意を全身から立ち上らせる。
「と、ところで、さくにゃん! こんな所に、一体何をしに来たんだい?」
さくにゃんの殺気に気付いたアダーが慌てて話題を逸らし、彼女が再び殺戮の嵐を巻き起こすのを未然に防ぐ。
「ん? みんながいつまで経っても戻ってこなかったから、心配して来てあげたんだよんっ♪」
さくにゃんの思いやりは、完全に余計なお世話だった。
「そ、そうか……それはありがとう。心配かけてごめんよ」
だが、言ったら殺されると思ったアダーは、にっこりと愛想笑いするだけだった。
「ったく、あたしがいないと、シンタローちゃんもアーちゃんもダメダメね~」
すると何を思ったか、さくにゃんは反対を表明した板垣にツカツカと近づいた。
「『十七歳』のあたしから見れば、アンタら全員、年だけ食った出来損ないのガキね。その年齢に対して、人生の経験値、深み、コク、まろみ、味わい、その他諸々が皆無で、修羅場の渡り方なんか全然知らないダメな奴らばっかりじゃない。大の大人が揃いも揃って変態セクハラ野郎と、ビビって泣きわめくヒス女揃いってどういう事なの?」
いきなり登場するなり、我が物顔で振舞うさくにゃんが、可愛いロリ声とえげつない罵倒を駆使して会場の全員の視線を釘付けにする。
「さっきから、ダラダラとクソの役にも立たない話を続けてるみたいだけど、恥知らずなカス共がのさばるこの街の世紀末的な状況は、あまりにもデンジャーよ。一刻も早く統治しなければいけないわっ! ここに来る途中、一万飛んで二千回もセクハラを受けたあたしが言うんだから、説得力ありまくりよねっ!?」
絶対嘘だ! と誰しもが思った。
「あーもうっ、ほっんと信じらんないっ! このセクシーでキューティーなあたしをジロジロと視姦してくる変態糞野郎共を片っ端からぶっ殺さなきゃいけない苦労が、アンタらに分かるっ!?」
だが、怖かったので誰もツッコむ者はいなかった。
「あんまりにも変態が多いから、ちょっと暴力で統治しようと思って、手当たり次第にカス共をぶっ飛ばして回ったけど、数が多すぎて埒が明かなかったわ。そのぐらいこの街はカスで溢れているの、分かる? ここはもう、カス共を集めて一網打尽にする以外に、平和を手に入れる方法は無いわっ!」
天下無敵の迷惑プレイヤーさくにゃんは、今日も今日とてやりたい放題だ。
「ちょっと散歩して来たみたいな感じで、とんでもない事をするなっ!」
「あぁ、頭が痛い……」
また物騒な事を言い出したさくにゃんに、真太郎とアダーが揃って頭を抱える。
「アンタら全員、四の五の言わず、バトルロイヤルに参加しなさいっ! このあたしが、アンタら全員血祭りにしたあと、愛と暴力で支配してあげるわっ☆」
さくにゃんが不敵なアラフォースマイルで、とんでもない事を言い出した。
「「「めっちゃこわいっ……!」」」
これには流石に、ここに集まった有力ギルドのメンバーといえど、ドン引きを禁じ得ない。
「余計なマネすんなババア! みんな、ドン引いてるじゃねーかっ!」
さくにゃんの傍若無人ぶりに、思わず刹那がキレる。
「ガキはすっこんでな」
しかし、さくにゃんに速攻でぶっ飛ばされてしまった。
「ひゃぶぅぅぅーっ!」
さくにゃんの裏拳を喰らった刹那が、どっかに吹っ飛んでいく。
「ほぅ。これは実に興味深い……」
すると何を思ったか、板垣がひょこひょことさくにゃんの前に進み出た。
「オッサン、死ぬ気かっ!?」
面食らった真太郎が、慌てて板垣を止める。
「ここはこの私に任せて、君は下がっていたまえ」
だが、板垣は不敵に笑うだけで、足を止めない。
「何かしら、アナタ?」
突然やってきた得体の知れない中年のおやじに、さくにゃんが少し警戒する。
「私は、板垣進助。おっぱいと熟女が大好きなおしゃまなエリート官僚にして、熟女愛好結社『Japan Madam Association』の創始者であり、勇ゲー界随一の熟女メぇぇぇぇぇぇーーーーーーーニア!」
板垣は先程までの、社会に押し潰されて生気を失っていた社畜ような眼を、憧れのアイドルに遭遇した少年のようにキラッキラに輝かせた。
そして何を思ったか、恋に落ちた瞳でさくにゃんの両手を握りしめた。
「あなたは、素晴らしい熟女だっ!」
「素晴らしい……あたしが?」
突然の謎の告白に、さくにゃんが思わず戸惑う。
「そう! あなたが、素晴らしいっ!」
「あたし、素晴らしいの?」
「そうです! 貴女は素晴らしい熟女ですっ!」
いつになくテンションの高い板垣が、さくにゃんの手を握りしめたまま熱っぽく語り始める。
「30代前半~40代中盤で旦那ともレス、お母ちゃんとして毎日生きてます! みたいな女性が、この私のストライクゾーンど真ん中っ! そして、それが貴女だっ! その年甲斐の無いコスプレ姿も実に良いッ! エクセレントッ!」
板垣が真顔で血迷った事を言い出すなり、さくにゃんの顔が修羅になる。
「誰が、お母ちゃんだ! あたしは熟女じゃないわよっ!」
とんでもない無礼を働いた板垣に、さくにゃんのラブリー虐殺真拳が炸裂する!
「ぐはぁーっ! スパンキンッ!」
「死ぬほど鼻血を吹き出しているのに、至福の表情をしているッ!?」
さくにゃんにぶっ飛ばされた板垣は、何故かヘブン状態だった。
「板垣さん、大丈夫ですかっ!?(主に脳が)」
真太郎が駆けつけるなり、板垣が何事も無かった風にすっと立ち上がる。
「脳を激しく揺さぶるこの衝撃……! ひぐらしが痛いほどうるさく鳴いていた十二歳のあの夏の日、河原で拾ったエロ本で熟女の裸を初めて見た時、以来の衝撃だっ……!」
「ああっ、ダメだ! 完全に脳がやられてしまっているッ!」
「よし! 気が変わったァーッ! ガキ共の妄言に付き合う気など毛頭なかったが、バトルロイヤルに勝利し、ここに熟女の王国を作るぞッ! しかも選りすぐりの美熟女だけでなァーッ!」
殴られて頭がおかしくなったのか、板垣が突如として邪悪な顔でとんでもなく馬鹿な事を言い出した。
「「「何言ってんだ、このおっさんっ!?」」」




