第10話 お嬢様がご機嫌ななめになってるその裏で
「お馬鹿っ! 貴方達まで、乗せられるんじゃありませんっ!」
真太郎の魔の手によって飛龍忍軍が落ち、バトルロイヤル参加者が多数派になった今、バトルロイヤル反対派のエリーゼは、明らかに分が悪かった。
「皆さん、ゲームでの真太郎さんの振舞いをお忘れになったのかしらっ!? 彼に付いて行ったら、怪我するどころじゃすみませんわよっ!」
真太郎に良い様に丸め込まれた参加者達の目を覚まさせようと、エリーゼが声を荒げて奮闘する。
「みんなは、覚悟の上で参加を表明してくれたんです。外野がガタガタ言わないでください。大体、エリーゼさんは、最初から敵対的な態度で接して来て、不愉快ですよ? 僕らは話し合いをする為に集まっているのであって、喧嘩しに集まっている訳ではないのです。少しはそのヒステリックな言動を自重してください」
しかし、すぐさま真太郎に邪魔されてしまった。
「んなっ、生意気なっ! 誰がヒステリックですってっ!?」
痛い所を突かれたエリーゼが、縦ロールの金髪を振り乱してヒステリックに喚く。
「それですよ。そのヒステリックに喚くのを止めてください、と言っているんです。エリーゼさんは、さっきからずっと感情的に騒ぎまくっているだけで、何一つ建設的な意見を言ってくれませんよね? まさかとは思いますが、『ギルド会談を妨害する為にここに来た』なーんて事は無いですよね……?」
エリーゼの態度を訝しむ真太郎が、彼女をジト目で見つめる。
「そんな訳ないでしょうっ! とんだ言いがかりはおやめなさいっ!」
「妨害しに来た、という事が言いがかりであるのならば、俺の案に対する対案ってやつをお聞かせくださいよ?」
「そ、それは……」
真太郎の問いかけに、エリーゼが苦い顔をして言い淀む。
「どうやら対案すらないまま、俺を叩いていたみたいですね。やれやれ、勇ゲーにおいて誰もが知っている超有名人・お嬢様界最強のお姫様であるエリーゼ様には、そんなガキの嫌がらせみたいなダサい事しないで欲しかったなぁ~」
「きぃぃぃ~! 小童の癖に生意気ですわぁぁぁーっ!」
真太郎に煽られ続けるエリーゼが、ヒステリックにハンカチを噛みちぎった。
すると、アダーが真太郎にこそっと近づいて耳打ちした。
「少数派のエリーゼが騒いでくれる事で、『少数派は物事が見えてない馬鹿』みたいな空気が場に満ちたよ。素晴らしい働きだ、真太郎」
「多数決で勝つには、万人に配慮せずに特定の誰かを叩き、敵対者の中に対立構図を作れば良いって、それ一番言われてますからね。丸め込める見込みのないエリーゼさんは、その他のメンバーをまとめる為の外圧として利用する事にしましたよ」
考えなしに煽っていた様に見えた真太郎が、割と賢い所を見せる。
「そこ! なにをコソコソと内緒話をしているのかしらっ!?」
耳聡いエリーゼが、コソコソ話をしている真太郎とアダーを「ズビシ!」と指差す。
(エリーゼさん、良い感じです。そのままヒステリックに騒いで抵抗を続けてください。貴女が敵であることが、俺達を有利にします)
エリーゼを煽る事に利を見出している真太郎は、エリーゼにつっかかられても無視した。
それによって、エリーゼを更に煽る為だ。
「きぃぃーっ! このわたくしを無視するんじゃありませんーっ!」
真太郎の策略にハマったエリーゼが、更にヒステリックに騒ぎ出す。
「恵璃華。駄々をこねる子供みたいに、真太郎にちょっかいを出すのは止めなよ。なんだかみっともないし、何よりアホみたいだよ? 友達として恥ずかしいから、キミには少し静かにしていて欲しいな」
真太郎同様に、エリーゼを煽る事で彼女を利用してようとしているアダーも、便乗して彼女を煽った。
「なんですの、なつきさんまでっ! 貴女、さっきから真太郎さんの肩ばかり持って、頭がおかしくなってしまったのかしらっ!? そんなに敵を作りたいのっ!?」
親友であるアダーに冷たい事を言われたエリーゼが、思わず荒ぶる。
「恵璃華。悪いが、この場でボクの敵は、もう君だけだよ」
「なんですってっ!?」
アダーが酷い事を言うなり、エリーゼがヒステリックに騒ぎ出す。
すると、それを見かねたのか、百合子がおもむろに会話に混ざって来た。
「なつきちゃん。あんまり事を荒立てたくはないのだけれど……貴女達のやり方は少し強引に過ぎると思うわ。そんなやり方じゃ、みんなをバトルロイヤルに参加させる事は出来ても、その後、みんなを納得させる事は出来ないと思うの」
アダーの機嫌を窺うかのような目つきをする百合子が、頼りなさげなウィスパーボイスで話しかける。
「百合子。ボクらには、他人の目を気にしている余裕はないんだよ。敵や中傷者が増えようが、やるべき事をやらねばならないのだからね」
「だからって、事を急ぎ過ぎよ。私達が話し合っている問題は、この街にいる人全員の問題なのだから、もっと時間をかけて慎重に話し合いをする必要があるわ」
穏健派な百合子が、急進派のアダーをやんわりたしなめる。
「何度も言うが、ボクらには時間が無いんだよ。多くの人間が、今はまだこの世界がゲームだと薄っすら思っているからこそ、戦いになってもゲーム的な解決策が通じるはずなんだ。これが下手に時間が経ってこの世界に対して現実的な認識が出来てしまうと、ボクの予期しない凄惨な状況で血が流れる事になるだろう……」
最悪の事態を想定しているアダーが、鬼気迫る眼差しで百合子を見つめる。
「ところで、百合子。キミは現状を改善するに足る案を持ってボクに反論しているんだろうね? 先に言っておくけれど、『話し合いをする』なんてのは、くだらなすぎて案ですらないから、問答無用で却下だよ?」
アダーに先手を打たれた百合子が、顎に手を添えて少し考え込む。
「……その前にちょっといいかしら? ここにいる人達だけでバトルロイヤルの話を進めているけれど、ここにいない他の人の意見はどうするつもりなの?」
アダーに主導権を握られるのはマズいと判断した百合子が話題を変える。
すると、それを待っていたかのように、真太郎が窓をコンコンと軽く叩いた。
「実は既に、参加者は募っています。窓の外から、時計塔の入り口を見てください」
真太郎がそんな事を言うなり、みんなが近くの窓から外を見た。
時計塔の入り口に特設された『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』参加申し込み受付会場に、目を見張る人だかりが出来ている。
「うおっ! マジで人が集まってるじゃねーかっ!」
「にゃんて奴にゃ! 本当にバトルロイヤルを開催していたのかにゃ!?」
「そんな、なんてことですの……っ!」
これには一同、驚きを隠しきれない様子だ。
「ここまで集まりがいいとは、俺も正直予想外でした」
そして何故か、仕掛け人の真太郎も驚いていた。
「とはいえ、こうなると言えば、こうなるって感じなんですよねぇ。ってのも、流石に一週間も経てば、この世界で自分がどれだけパワーがある存在なのかを理解して、その力を使いたくなってくる頃だからさ」
真太郎はそう言うと、受付会場に集まっている参加希望者達を指さした。
「その証拠と言っては何ですが、腕自慢の連中は、出来れば今の超絶パワーを使って何かしたいと思っているのか、ほいほいと誘いに乗って来ましたよ。この街の人は、ここのみんなが思っているよりも、ずっとずっとノリがいいみたいですな」
参加希望者で溢れる受付会場を見下ろす真太郎が、したり顔でそんな事を言う。
「ま、ここにいるメンバーが参加する事を宣伝に使ったから、人が集まるの当然と言えば、当然なのかな?」
「なに!?」
真太郎が思いがけない事を言い出すなり、誰ともなく声を上げた。
「ちょっと、待て。ならば、さっきの勧誘は一体何だったんだ?」
紅がそんな事を訪ねるなり、真太郎が肩をすくめた。
「あんなもん、礼儀としての形式のみの勧誘ですよ。この場で断ったとしても、受付会場にいる人たちは、貴方達有力ギルドの連中が、バトロワに参加するものと思っています。なので、当日参加しなければ、『腰抜け野郎が尻尾を巻いて逃げた』と認知され、この街での影響力を失くす事になるでしょうな。そう言う意味で、皆様は最初から参加せざるを得ない形になっていたって事ですね」
最初から全てを自分の手の平の上で転がしていた真太郎が、人の良さそうな顔でニコリと笑う。




