第9話 勃発、謎バトル! ロリメイドVSロリ忍者×2!
「そんな顔してにゃいっ! つか、どんな顔にゃっ!? いや、そんにゃことより、まさか、お前! お茶に毒を盛ったのかにゃっ!?」
全身の毛を逆立てて威嚇する重兵衛に対して、アダーはどこまでも落ち着き払った態度で応じる。
「『毒を盛る事も可能だった』という話だよ。なのに、ボクは毒を盛らなかった。この言葉の意味を良く噛みしめてから、今の質問をしてもらえると嬉しいな」
「ど、どういう意味にゃ……?」
アダーの真意を読み取れない重兵衛が、警戒しながら尋ねる。
「キミは、ボクの事を信用出来ないなどと言ってはいても、実際の警戒度はその程度の認識でしかないって事さ。ボクは、キミ達がこの会議場に集まった時点で、潰そうと思えばいつでも潰す事が出来た――だけれど、潰せるのに潰さなかった」
アダーは間を開けてそう言うと、会談の参加者達をグルリと見回した。
「ボクがみんなに見せたこの『誠実さと義理堅さ』を、フェアと言わずなんというのかね? 安心してバトルロイヤルに参加してくれたまえ」
「お黙らっしゃい! なつきさん、横暴に振舞うのもいい加減になさいっ!」
アダーの傍若無人な振る舞いを目にしたエリーゼが、再び縦ロールを振り乱して荒ぶる。
「断る」
「な、なんですってっ!?」
あまりにもぴしゃりと断られた為、エリーゼは思わず戸惑った。
「なぜならば、現状ボクにとってキミは、味方未満の敵予備軍だからだ。潜在的な敵に対して、友好的になど振舞えん」
「こ、このわたくしが『潜在的な敵』ですってぇぇぇーっ!?」
親友と思っていたアダーに、「敵」と言われるなり、エリーゼがヒステリックな反応を示した。
「そうだ。このボクがわざわざ会談の場を設けて、友好的で有益な話し合いをしていたというのに、それをぶち壊したではないか。ボクは、駄犬のように無駄に喧嘩を吹っ掛けるキミと違って忙しいんだ。恵璃華、いい加減に黙っていたまえっ!」
少しイラついて来ているアダーが、キツイ言葉でエリーゼを黙らせようとする。
「わ、わたくしが、駄犬ですって!? もう一度、おっしゃってみなさいっ!」
アダーの煽りのような一喝を受けたエリーゼが、ヒステリックに騒ぎ出した。
そんなエリーゼを横目に、アダーは重兵衛に向き直る。
「重兵衛。キミがバトルロイヤルに参加するかしないかの判断を下す前に、状況に関する事実を、妄想や偏見なしに評価してくれ」
アダーにそう言われた重兵衛が、しばらく黙って考え込む。
「状況は良くないにゃん。それに、アダーの事もなんか信用できないにゃん……」
アダーがフェアである事を証明する時に使った手法が悪かったせいで、小心者な重兵衛は警戒心を強めてしまったみたいだ。
「重兵衛。悪い事が起きているさなか、何か良い事が起るのを座って待っていても、何も起きないよ? それどころか、状況はどんどん悪くなっていってしまう。重兵衛は、前回の失敗を引きずっているんだと思うけれど、人は間違いから学ぶ事が出来るし、失敗を乗り越える事も出来るんだよ?」
重兵衛が心を閉ざし始めたのを察したアダーが、優しい言葉で語り掛ける。
だが重兵衛は、伏し目がちになって黙り込むだけだ。
「別に、重兵衛ちゃんに戦いに参加しろとは、言ってないよ。重兵衛ちゃんは、勇ゲーのゲーム実況動画をネットに上げてたでしょ? あの感じで、バトルロイヤルの実況をして盛り上げてほしいんだ」
そんな重兵衛に対して、真太郎が優しく誘いをかける。
「真太郎、無理に誘わなくていいよ。別に重兵衛は、バトルロイヤルに参加しなくても構わないさ。ただ、それによって生じる不利益に対して、ボクらは全く関知しないという事だけは先に言っておくけどね」
何を思ったか、アダーは重兵衛を無理に誘うのを止めた。
それどころか、冷たい事を言い出し始める。
「にゃんだそれはっ!? そんにゃの脅しにゃっ!」
「みんなが参加してくれるのに、重兵衛だけが参加しないんだから、それ相応の扱いになるのは当然だろう? 猫だからと言って特別扱いなどできないよ」
猫嫌いなのか、なんなのかアダーが可愛い重兵衛に対して冷たい態度を取った。
「重兵衛ちゃんっ! このままじゃ、アダーに貧乏くじつかまされちゃうよ! バトルロイヤルの実況はうちからメンバー出すから、重兵衛ちゃんは解説だけでもいいから引き受けてっ! ねっ?」
愛しの重兵衛の危機に真太郎が、割と真剣に立ち上がる。
すると、その思いが通じたのか、重兵衛がコクリと頷いた。
「……それぐらいにゃら、やってもいいにゃん。ここでつっぱねると、ろくでもない事されそうだしにゃ」
察しがいい重兵衛が渋々参加を表明するなり、アダーがニヤリと笑う。
「『悪い刑事と良い刑事作戦』&『ドア・イン・ザ・フェイステクニック』大成功」
そんなアダーを尻目に、真太郎が重兵衛に抱き付く。
「メルシー、重兵衛ちゃん! ついでに結婚してください!」
最初に小さな要求を通すと、次にはそれより大きな要求を飲みやすくなる。
これを心理的テクニック「フット・イン・ザ・ドア」と呼ぶ。
「絶対しにゃい!」
しかし、世の中そう上手くはいかない。
「奇妙な話術を使って、怯える重兵衛殿まで焚き付けたのでゴザルか? 一体どういうつもりなのでゴザルよニンニン?」
次々と反対者達を心変わりさせていく真太郎を警戒した忍蔵が、恐る恐る彼に声をかける。
「みんなの心が腐りそうな今のよどんだ状況よりは、いっそのこと燃え上がらせた方がいいって思わないかい?」
「全てが燃えあがって消し炭になってしまっても……でゴザルか?」
「そーならない為に、アンタら有力ギルドに協力を仰いでいるのさ」
忍蔵がマジな顔をしているのに気付いた真太郎が、おちゃらけをやめた。
「割と落ち着いているように見える今の状況は、実は確実に地獄へ向かって突き進んでいる嵐の前の静けさに過ぎない、と俺は仮定する。ゆえに、ここで動かないと、遅かれ早かれ絶対、みんな死ぬ。しかも、かなり苦しんで」
真太郎が真剣な様子で話し始めるなり、双子忍者のうきょうとさきょうが横槍を入れて来た。
「黙れよ、ちんぽこ野郎がっ! またしょうもない煽りですかよっ!」
「そーですよっ! ちんかす野郎の戯言はウンザリですよっ!」
「お前みたいなチンピラの誘いに乗る訳ねーだろですよっ!」
「まったくですよっ! 策士ぶったクソ野郎は、消え失せろですよっ!」
女の勘を発揮して真太郎の企みに気付きでもしたのか、双子忍者が口汚く騒ぎ出した。
「FUCK YOU。ぶち殺すぞ、ガキめらが……!」
「「!?」」
何を思ったか、刹那が突然、双子忍者を挑発した。
「テメーらクソガキは、事を大きく見誤っている……。この世界の実体が見えていない。この世界をまだ、お気楽なゲームの世界だと考えているのだ。今すぐにそのカスみてーな考えを捨てろ……! 基本をはき違えた馬鹿共が、大声でくだらねぇ事をギャーギャー騒ぎやがって……! 消え失せるのはテメーらの方だ……っ!」
既にこの世界の厳しさを知っている刹那が、どこか浮ついた様子の双子忍者にキツイ言葉を浴びせて黙らせようとする。
「急に湧いて出て来て、お前誰ですよっ!?」
「カ○ジのキャラみてーな事言いやがって、ガキが調子乗ってんじゃねーですよ!」
「美心以下のブスガキが、出番なかったからってしゃしゃってんじゃねーですよ!」
「メイド服なんか着やがって、萌えキャラ気取りですかよ、ド貧乳ブスがっ!」
しかし、クッソ生意気な双子忍者を黙らせる事などできはしなかった。
「てんめ~ら、言わせておけばぁ~……!」
自分から煽った癖に、まったく煽り耐性の無い刹那が、双子忍者と喧嘩を始めた。
「カス共がっ! 誰が最強かをその体に叩き込んでやるッ!」
「「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるですよっ!」」
次の瞬間、一足早くキッズたちのバトルロイヤルが始まった。
「人間、あーなったらおしまいだ。そうは思わないかい、忍蔵ちゃん?」
醜い争いを始めた馬鹿キッズ達を眺める真太郎が、呆れ顔で忍蔵に話を振る。
「……ゴザニンニン」
流石に反論しようがない忍蔵だった。
「今のままの街を放っておくと、街中あんな馬鹿で溢れ返っちまうのは自明だ。ああいう笑える馬鹿ならまだしも、マジで笑えない連中が出てきたらどうしようもない。そうなる前に手を打つ。方法は多少強引でもね」
真太郎は刹那達から目を逸らすと、忍蔵に向き直った。
「今は新参のサポートなんてしけた事やってるアンタだが、元々は攻略組のトッププレイヤーだ。サポートの愉しさを覚えて以来、戦闘から遠ざかっていたみたいだけど、まだ戦い方は忘れてないだろ?」
「……某を焚き付けているのでゴザルか?」
忍蔵が覆面の向こうでため息をつく。
「勿論。男のハートには火をつけるもんでしょ?」
出方を窺う忍蔵に対して、真太郎が笑顔で応じる。
しかし、忍蔵は覆面越しに疑わしそうな視線を向けて来るだけだ。
「何を探ってるのかしらねーけど、俺の腹の内を探るよりも、さくっと戦ってチャンピョンになっちまった方が話は早いと思うぜ。アンタが中小ギルドの連中から絶対的な支持を得ているとしても、大手ギルドが暴走しだしたら、アンタの支持者たちはそれに従っちまうだろう。義理や人情が保身に勝る酔狂なプレイヤーなんか、存在しねーもんな」
実際問題として、既に大手ギルドのメンバーが、ギルドの名前を利用して中小ギルドを支配下に置いてみたり、街の各種設備を優先的に使用したりしている状況は、誤魔化せないレベルで発生していた。
しかも、ギルドの威を借りたやや横暴なやり方でだ。
「超絶強い上に、困っている人を助けずにはいられない超絶いい人のアンタがトップになって、この街が平和になるようなルールを作れば、それで問題はまるっと解決だ。実に分かりやすい話じゃないか、違うかい?」
その状況を憂いている忍蔵の思惑を見抜いている真太郎が、一気に話を進める。
「無茶苦茶な言い分でゴザルな。それに某はもうロートルでゴザルよ、シンタロー氏世代の高レベルプレイヤーを相手に戦う事などできないでゴザルよニンニン」
忍蔵が乗りの悪い事を言い出すなり、真太郎はため息をついた。
「はぁぁぁ~! さっきから乗り気じゃない人が多いなぁ~。あのさ、希望は人から与えられるものじゃなくて、自分で作っていくものなんだよ? なのにこの俺が、無茶苦茶だろうがなんだろうが、その希望ってやつを作れるチャンスをみんなに代わって作ってやったんだぜ? 四の五の言わず乗って来いよ! 男だろ?」
真太郎がしびれを切らした様子で、忍蔵を煽りたてる。
「ゲームだったら、シンタロー氏の無茶苦茶なノリに付いて行ったでゴザルよ。でも、今は現実なのでゴザル。危険が伴う無茶な事は出来ないでゴザルよ」
ギルドのメンバーと寄る辺の無い初心者達を率いているという自負がある忍蔵は、軽率な態度を取る事は出来ないのだ。
「勇ゲーのリリース当初からトップを走り続けた第一世代の最強プレイヤーが、こんなに枯れちまうとは情けないぜ。なぁ、忍蔵ちゃん。さっきから『大人』な事を言ってるみたいだけど、アンタは青春を終えて大人になったのか? それとも、青春が死んで大人に堕ちたのか? ゲームなんてもう卒業かい? リアルに帰ったのかい?」
真太郎はここまで言って忍蔵を見つめると、しばらく黙った。
「だが残念。ゲームにそっくりなこの世界も、また『リアル』だ! 勇ゲー風リアルワールドから、マジもんリアルワールドに帰りたきゃ、もう一度勇ゲー最強の忍者マスターに戻らにゃならん。さぁ、束の間の休憩は終わりだ。服部忍蔵、そして最強の忍者軍団・飛龍忍軍! 戦いの狼煙を上げろッ!」
既にゲームを始めている『狂気の扇動者』シンタローが、心をざわつかせるような事を言って忍蔵を煽る。
「きゃははは! やっぱり、チンピラヒーラーは面白いですよっ!」
「そこまで必死こいて煽って来るなら、うちらも参加してやりますよっ!」
忍蔵を煽ったつもりだったのだが、釣れたのは双子忍者だった。
「お前の脳細胞を一ミクロンも使わないナンパに」
「ぐっと来ましたですよっ!」
「「そして、優勝は! うちらのものですよっ!」」
双子忍者・猿飛うきょう&霧隠さきょう――緊急参戦決定!
「美人くノ一たちは、参加してくれるみたいですけど、イケメン忍者はどうします?」
真太郎がそんなお世辞を言うなり、双子忍者が嬉しそうににんまりと笑う。
「『美人くノ一』のうちらが参加するんですよ、頭領も当然参加しやがりますよね?」
「とうとう、『美人くノ一』のうちらが、この街の支配者になる時が来ましたですよっ!」
すっかりその気になってしまっている双子忍者を見た忍蔵は、参加せざるを得ない空気を察して、渋々彼女達の言う通りにする事にした。
「お主達がそうなったら、誰にも止められないでゴザルからな……。仕方ない、『飛龍忍軍』頭領・服部忍蔵。バトルロイヤルに参加でゴザルよニンニン」
忍蔵は、骨の髄までお人好しなのだ。
「双子忍者さえ丸め込んじまえばこっちのもんって、それ一番言われてるから。って事で、服部忍蔵殿、バトルロイヤル参加のご決断、痛み入るでゴザルよニンニン!」




