第8話 迫真スカウト! 勧誘の裏技!
「はい。蒼天海賊団、一丁上がり! ありがとナス!」
滅茶苦茶あっさりかなこが了承するなり、すぐさまカイリが止めに入った。
「ちょっ、かなこ!? あんちゃんに相談も無く、勝手に決めるなっ!」
「カイリ兄さん。かなこさんは、立派な大人の女性だ。自分の事は自分で決める。いちいちお兄さんに相談などしない。そうですよね、海賊王?」
カイリが邪魔して来るなり、真太郎がすかさずかなこを丸め込んだ。
「おうよっ! うちは立派な大人の女だから、あんちゃんに相談はしないっ!」
そして、かなこは秒速で丸め込まれた。
「妹さんは、参加する気満々みたいですけど、お兄さんはどうします?」
かなこを丸め込んでいい気になる真太郎が、カイリの顔を覗き込む。
「誰が、お兄さんだッ! つか、アンタの強引なやり方じゃ、街を一つにまとめるなんて、夢のまた夢だ! アホな事に妹を引きづり込むんじゃねーッ!」
キレるカイリが正論を吐くなり、真太郎がやれやれと頭を振った。
「はぁ~、ほんとに日本人はあげ足取りが大好きだなぁ。つか、悪い意味で完璧主義っていうかなんていうか……。あのさぁ、世の中ってやつは、いくら完璧を目指しても、絶対に完璧になんてなれないんだよ?」
「はぁ? なんの話だよ」
「いいかい? 例えば、テスト勉強かなんかで、百点取らないと次の課題に進まない、みたいな考え方ってダメじゃん? 完璧主義ゆえに前に進めないじゃん? でも、人生に完璧は無いよね? だから、大体OKになったら次に進んでいいんだよ」
真太郎は得意の戯言でカイリを煙に巻くと、かなこに視線を移した。
「それになにより、男だったら――いや、女でも、人はでっかい夢を見なきゃならないものさ。ねっ、海賊王! すでに海賊王の貴女が、この街の王にふさわしい。と言う訳で、バトルロイヤルで優勝してね」
「おうっ! 任せとけっ!」
真太郎のおだてに気を良くしたかなこは、すっかりやる気になっている。
「やめろ、この馬鹿野郎ッ! 妹をたぶらかすんじゃねーッ!」
最愛の妹をたぶらかし続ける真太郎にキレたカイリが、発作的に刀を抜いた。
「なら、カイリ兄さんが王様になればいいじゃない。そして、誰も海賊王に手出しできないつー法を作ればいい。この街を、アンタ達兄妹の愛の王国にすればいい」
「あははー! 大衆はぶたなのだっー! 無能なぶたどもに、うちの理想を叩き込んで支配してやるのだーっ!」
すっかりやる気になっているかなこが、サーベルを天に突き上げ、気勢を上げる。
「どうやら、蒼天海賊団は前のめりで参加って事みたいですね」
「おい! 勝手に決めんなつってんだろッ!」
真太郎の独断にキレたカイリが、刀を振りかぶる。
「あんちゃん! うちらが優勝するぞっ! そんで、うちらの二人の王国を作るのだっ! 一緒にがんばろーっ!」
しかし、かなこがそう言った瞬間――
「よっしゃ! かなこ、俺達兄妹が優勝するぜッ!」
重度のシスコンであるカイリ、秒速の手の平返しで参加表明!
「実は妹に誘われたかっただけのシスコンカイリ兄貴、嫌いじゃないよ」
カイリが心変わりをして参加表明するなり、テンテンが呆れ顔をする。
「おいおい。カイリあんちゃん、マジで残念イケメンじゃない」
カイリのシスコンぶりに呆れたテンテンに気付いた真太郎が、次のターゲットを彼女に決める。
「テンテン、イケメン好きでしょ? カイリ兄さんも参加するし、君も勿論、参加してくれるよね? 君が優勝して逆ハーレム王国でも作ればいいじゃない」
「どんな誘い文句よ、馬鹿ね。こっちは、昨日死ぬほど殴られたのよ? 戦いなんて、もう懲り懲りなの。馬鹿イベントは、馬鹿なアンタらだけでやってなさい」
先日、さくにゃんにこっぴどく痛めつけられたテンテンが、当然の様にノリの悪い事を言う。
だが、真太郎は別に気にしなかった。
「別に、参戦しなくてもバトルロイヤルには参加できるよ。自分で戦えないor戦いたくない奴らは、勝者になりそうな奴を予想して勝ち馬に乗ればいい。その為のトトカルチョも用意しているからね」
「このガキ! ちゃっかり商売してんじゃないわよォ!」
何気に抜け目のない真太郎に、ジャスミンが目ざとくツッコミを入れる。
「これは、イベントを盛り上げる仕掛けであると同時に、勝者に払われる優勝賞金兼、今後の街の運営費となります。胴元である俺の取り分ではないですよ」
真太郎は軽くジャスミンをあしらうと、テンテンに向き直った。
「そうそう。言い忘れていましたが、大会運営に参加してくれれば、当然キックバックがあります。テンテン、お金大好きでしょ? 一儲けしない?」
「はいはい。ま~た、めんどくさい戯言でその気にさせる気でしょ? わたし達、そんなの聞く気ないから、もうどっか行きな」
真太郎の手の内をよく理解している賢いテンテンが、彼のペースに引き込まれる前にシッシッと追っ払う。
「つれないなぁ。でも、観戦ぐらいはしてよね」
「はいはい、気が向けばね」
完全に見る気すらないテンテンが、そっけない態度でつれない事を言う。
すると、黙って様子を見守っていたアダーが、真太郎に声をかけた。
「テンテン達は、参加してくれないって?」
「別にいいよ。セクシーなチャイナの雌豹とかわいいパンダちゃんならともかく、性悪オタクブス眼鏡女とクッソ汚いくて臭いカマパンダ野郎じゃ、優勝した所で誰もついてきませんからね。こちらも遊びでやってる訳ではないので、客受けの悪いブス女とクッソ汚いオカマは参加してくれない方がむしろ嬉しいです」
真太郎が無礼な事を言うなり、テンテンとジャスミンの耳がピクリと動いた。
「おい、そこのアホ。誰が客受けの悪いブスだって……?」
「誰がクッソ汚いカマパンダよォ! アンタ、ぶっ飛ばすわよォッ!」
「ぶっ飛ばす? ジャスミンさん達は、バトルロイヤルに参加しないんでしょ?」
釣りの煽り文句にジャスミンが食いつくなり、真太郎が内心ほくそ笑んで更に煽る。
「今この場でぶっ飛ばすっつってんのよォ!」
「そりゃ、無理です。アダーの話を聞いてなかったんですか? ここでは攻撃性の行動はとれないんですよ? ふざけるのはその面構えだけにして下さい」
「ムッカーッ!」
「テンテン、ジャスミンさん。生意気な真太郎を殴りたければ、『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』に参加して、存分に殴りたまえ」
真太郎に続いてアダーがそう言うなり、テンテンが「ふっ」と乾いた笑みを浮かべた。
「……オーケー、気が変わったわ。アンタら馬鹿コンビをぶっ殺して、わたしらがこの街を運営してあげるっ!」
「あたいたちが、血祭りにあげてやるから首を洗って待ってなさいよォ!」
二人に煽られて完全にやる気になったテンテンとジャスミンが、殺意を宿した邪悪な笑みを浮かべる。
「中華的腐女子&人妖的熊猫参加決定アルネ」
そんなテンテン達に対して、企みが上手くいった真太郎が満面の笑みを返す。
反対派のテンテンが賛成を表明するなり、同じく反対派のエリーゼが声を上げた。
「戦いで全てを決めるなんて野蛮ですわっ!」
「エリーゼさんとは絡みたくないので、適任者のなつき先生に任せます」
「え~? 仕方ないなぁ」
苦手とするエリーゼの説得をアダーに任せると、真太郎は後ろに引っ込んだ。
「いきなりやって来て、訳の分からない会談を開いたと思ったら、殴り合いで『魔王討伐軍』のボスを決めるですってっ!? 『魔王討伐軍』は、合議制の組織ではなかったのかしら? まとまらないから殴り合いで長を決めるなど、考えらない無法ですわよっ! そんなもの決して認められませんわーっ!」
アダーが相手になるなり、早速エリーゼがヒステリックに喚き始める。
「こらこら、恵璃華。他人の意見を批判するならば、相手を説得出来るような説を組み立ててから行いたまえ。単に『お前は間違っている』などと偉そうに文句を言うのは、気持ちがいいのかもしれないけれど、自分は馬鹿だと告白しているに等しいし、なにより滑稽だよ? 後輩達も見ているんだ、見苦しい真似はしないでくれ」
アダーはエリーゼを軽くあしらうと、ポム・アンプワゾネの護衛の女の子達にウインクした。
「「「きゃー! なつきお姉様ぁーっ!」」」
「お黙らっしゃい! いちいち、なつきさんに振り回されるんじゃありませんっ! 貴女達は、王子様に夢見るうぶな小娘ですかっ!?」
アダーにキャーキャー言う護衛の女の子を、エリーゼがヒステリックにたしなめる。
すると、アダーが涼やかに微笑んで銀髪をかき上げた。
これから、説得にかかり始める合図だ。
「夢見がちな少年少女なら、必ず一度や二度夢想するゲームの世界での胸躍るワクワクドキドキの大冒険。念願叶って、ゲーム風の異世界に来たボクら――しかし、喜びも束の間、いつまで経ってもお家に帰る方法が分からないし、元いた世界に連絡も取れない事が判明。しかも、街の外は危険なモンスターがウロウロしている恐ろしい状況だ。更に悪い事に、街の中には変質者と殺人鬼まで出てくる始末――」
アダーはエリーゼ説得の手始めに、麗しく涼やかな声で思わず聞き耳を立てたくなる話を始めた。
「蓋を開けてみれば、みんなの楽しい夢は地獄に等しい悪夢だった。そして、気が付けばボクらは、毎日恐怖と不安に怯えて涙を流しながら膝を抱えて、元の世界へ戻れない悲しみに暮れていた。そんな中、一部の勇気ある者達が立ち上がる。だが、性悪なお嬢様が、彼らの邪魔をするべく立ちはだかった――」
アダーがそこまで言うと、話の途中でエリーゼが割って入って来た。
「お黙らっしゃいっ! 戯言はもうたくさんですわっ! 仮に、全てなつきさんのお考え通りに上手く事が運んだとして、街にいる人々が貴女の言う事など聞く訳ないでしょう! だって、全てを暴力で決めようとして――」
ここで再びアダーが会話の主導権を取るべく、エリーゼの話に割って入る。
「その通り。一般プレイヤーが他人の話など聞くはずはない。だからこそ、弱肉強食の法に従って、一番強い奴の言う事を聞かせる。これは一見、野蛮なようだが、ボク達が平和な現実世界で従っていた法律なんてものも、警察っていう暴力装置無しには成立しないものだ。ボクらが提案するのは、その仕組みを大胆に簡略化したものに過ぎない。ゆえに、さしたる問題はないだろう」
ここで再びエリーゼが会話の主導権を取るべく、アダーの話に割って入る。
「聞き捨てなりませんわっ! 仮に法がそうであるとしても、民主主義に乗っ取るべきですっ! 貴女達のやり方では、力が強い者、凶暴な者の一人勝ちではないじゃないのっ!」
エリーゼが正論を言って迫るなり、アダーは涼しい顔で指を左右に振った。
「ノン、ノン、ノン。勇者ゲームは、大火力・高機動でドカドカ押しまくるだけが正義のゲームではない。ゲームを始めたばかり初心者が、武器の特性を活かした立ち回りと地形を利用した戦術を駆使して、有り金全部ぶちこんだ課金厨の廃人を叩きのめすのが、勇ゲーだ。だから、ここにいる連中の誰が勝ってもおかしくないし、また、名もなきルーキーに負かされてもおかしくはない」
アダーは、勇者ゲームが一筋縄ではいかないゲームだという事をエリーゼに思い出させると、彼女を丸め込みにかかった。
「それにボク達は、手段は違えど見ている目的は同じだろう? 協力出来る所は協力してくれよ? バトルロイヤルにキミが勝てば、女の子だけの組織を作るのにボクも喜んで協力しよう。逆にボクが勝てば、キミはボクに協力してくれ」
「話を逸らさないでくださいましっ! なにゆえに、物事を決めるのに暴力を使う必要があるのですかっ! 知性ある人間がろくに話し合いもせずに、喧嘩で問題を解決しようだなんて間違っておりましてよっ!」
「やれやれ。話し合いを拒否して、この会談をお開きにしようと最初に言い出したのは、誰だったかな?」
ヒートアップするエリーゼを、アダーがクールにあしらう。
「んもう! どうして貴女は、そうやって人のあげ足ばかり取るのかしらっ!? 大体、貴女って人は昔から、澄ました顔して我儘で凶暴で悪だくみばっかりして、とんだひねくれ女でしてよっ!」
「意見の異なる相手に対して、人格攻撃としか思えない議論にならないような個人攻撃をするのは、自分がスッキリするだけで何の意味も無いよ。それどころか、争いを悪化させ、お互いのエネルギーを消耗しあうだけで、とても建設的とは思えないな。キミももう二十歳なんだ、子供みたいな次元の低い言い争いはよしたまえ」
売り言葉に買い言葉。
エリーゼにキツイ言葉を浴びせられたアダーが、クールな口ぶりで彼女を攻撃する。
「まぁ!? なんて言い草なのかしらっ! 本当に貴女って人は、ひねくれ――」
エリーゼがヒステリックに騒ぎ出すなり、アダーが彼女の言葉を遮った。
「恵璃華、いい加減に否定の為の否定は止めてくれよ。建設的な意見でないばかりか、ただただ時間の無駄でしかないぞ」
アダーがエリーゼを手厳しくあしらうと、入れ違いで重兵衛が彼女に話しかけた。
「にゃあ、アダー。そのバトルロイヤルは、フェアである保証はあるのかにゃ?」
人間不信になっている重兵衛が、割と核心を突くような疑問を口する。
すると、アダーが重兵衛の手元のティーカップを指さした。
「人を信じることが出来ないキミ達は、口では警戒している風に振舞うが、その実、まったく危機感が足りていない。配られたお茶に口を付けなかったのは、覆面が邪魔で飲めなかった忍蔵さんを除けば、紅さんただ一人だけだ」
アダーがそんな事を言うなり、重兵衛が何かに気付いてハッとする。
「重兵衛。キャットフードにドッグフードが混ざっていたらどうしよう、みたいな顔をしてどうしたのかな?」
「そんな顔してにゃいっ! つか、どんな顔にゃっ!? いや、そんにゃことより、まさか、お前! お茶に毒を盛ったのかにゃっ!?」




