第7話 男の子は分かりやすいのがお好き
「今からこの街の全員で、『魔王討伐軍』のボスを決めるバトルロイヤルをするつってんだよッ!」
「「「なにぃぃぃーッ!?」」」
真太郎のとんでもない計画を知らされた参加者達が、素で驚愕する。
「急にはしゃぎだすから、何を言い出すかと思えば……本当に馬鹿だな、お前は」
紅は馬鹿を見る目で真太郎をジトリと睨みつけると、アイテムバッグから『帰還のルーン石』を取り出した。
「貴様の馬鹿騒ぎに、これ以上付き合えるか。馬鹿共だけで、勝手にバトルロイヤルでも何でもしていろ。私は帰らせてもらう」
そう言って、紅は『帰還のルーン石』を地面に叩きつけた。
だが、アイテム効果が発動しない。
「? どうなっている?」
アイテムが使えずに戸惑う紅に、アダーが涼やかに微笑みかける。
「言い忘れていたけれど、キミ達が真太郎の話に気を取られている間に、アイテムの使用に制限をかけさせてもらったよ」
アダーが不敵な顔でそんな事を言うなり、紅が疑わしげな視線を向けた。
「アイテムの使用制限は、攻撃性アイテムの規制だけだろう?」
「どうやらアップデートに伴い、アイテム全般に規制がかけられるようになったみたいだね。このボクとした事が、この世界が新しくアップデートされた勇者ゲームの世界だという事を忘れていたよ。いやはや、危うく失態を演じる所だった」
アップデートされたシステムに助けられて完全勝利を手にしたアダーが、勝ち誇ったように紅に微笑みかける。
「さて、この場は再びボクの支配下となった訳だね。実に素晴らしい」
一転攻勢を確信したアダーが、女狐のように不敵に笑う。
「……貴様、何が言いたい?」
女狐フェイスのアダーを警戒した紅が、一歩下がって距離を取る。
「『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』への参加を表明しないカス共は、ここに死ぬまで閉じ込めるッ!」
紅の問いに、何故か真太郎が答えた。
「……貴様ら、最初から戦いに持って行くつもりだったのか?」
「アダーは、話し合いをするつもりだったみたいだけれど、俺は最初から話し合いなど捨てていた。どうせお前らはネトゲ廃人、話し合う知性も無いクソ共だからな」
「知性の無いクソは、お前だ。この状況下で戦いをして、人がまとまる訳ないだろ」
冷静な紅が、馬鹿な事を真顔で言う真太郎をバッサリ切り捨てる。
「話し合いなどした所で、揉めてまくって喧嘩別れするのがオチだ。なら、最初から喧嘩して、誰が強くて誰が弱いかをハッキリさせた上で、改めて話し合いをした方がいい。そうすれば、アホが無駄に噛みついて来てまごついたりしなくなるだろ?」
真太郎はそう言うと、詰め寄って来た紅の剣に視線をやった。
「それに、個人が強力な武力を持つこの世界において、時間の経過と共に、分かりやすい弱肉強食が法になるのは、火を見るよりも明らかだ。俺は、その結果が出るのを早めただけさ。それも出来るだけ安全な方法でね。自然発生的な暴動は操れないが、自ら仕掛けた暴動は容易に管理する事が出来るからな」
真太郎が言い終わるのと入れ替わりで、重兵衛が声を上げた。
「馬鹿言うにゃ! 戦いなんて始められたら、戦闘系じゃないギルドが不利にゃん!」
「確かに、生産職をメインとする可愛い猫人の重兵衛ちゃんが、並み居る猛者を叩きのめして、この街の支配者になるのは難しいと言えるだろう」
「そうにゃ! 戦いなんて馬鹿な事はやめるにゃ! もう一度、話し合いを仕切り直すにゃ!」
どう見ても可愛い猫でしかない重兵衛が、「このまま戦いになったら大変だ」と、にゃーにゃー言って必死に抗議する。
だが、真太郎が重兵衛に返した答えは意外なものだった。
「が、実はむしろ有利っ!」
「はにゃ?」
「確かに、生産職は戦闘職に比べて戦闘力に劣る。だが、この世界で長くサバイバル生活が続くとなると、戦闘能力よりも『生存能力』の方が重要になって来る。そうなると、戦う事しか出来ない戦闘職よりも、物を作り出せる生産職の方が権限を強めるだろう。だがバトルロイヤルにおいては、生産職と戦闘職の力の差は、あまりにも大きい。となれば……」
「となればにゃに?」
真太郎の思わず耳を傾けたくなる話に、重兵衛が思わず喰い気味に尋ねる。
「となれば、生産職の連中は、戦闘に参加する奴に援助し、そいつを勝者にする手伝いをすればいい。当然、援助者には、それ相応の権限が与えられる」
真太郎がそんな事を言い出すなり、エリーゼがヒステリックに騒いだ。
「戦えなければ、お金を出せばいいですって!? 戦う術も無く、お金も無い人は何も出来ないじゃない! いいえ、それ以前にアナタの言い分は、法に背いていますわっ!」
正義感に溢れる気高いお嬢様のエリーゼが、邪悪な企みを巡らせる真太郎に食ってかかる。
だが、彼女の相手をしたのは真太郎ではなく、アダーだった。
「笑わせるなよ。ここは日本じゃあないんだ、この世界には法など存在しないよ。それに法を作る為の話し合いは、キミ達が台無しにしたじゃあないか。そんなキミ達に対して、こちらもそれ相応の対応をとらざるを得ないのが分からないのかい?」
「この異世界には法が無いから、力ある人が力の無い人に無理矢理言う事をきかせてもいい、とでもおっしゃりたいのかしらっ!?」
エリーゼの怒りの矛先が、口を挟んできたアダーに移る。
「まさか、違うよ。だが、街で婦女暴行やPKなどをしている連中は、そう思って動いているのだろうね。それに、街の外を見てみたまえ。堅牢な城壁の向こうには、人間を獲物とする凶暴なモンスターが数えきれないほど存在しているよ」
「恐怖を煽っても無駄ですわ、街から出なければいいだけの話なのですからね。この街は、システム的に外敵の侵入を阻止している安全な場所なのですわよ?」
アダーの脅しに屈しないエリーゼが、気丈に振舞って縦ロールをサッと手で払う。
「恵璃華の言う通り、この街は今の所、モンスターの出現が無いから、ゲームの時と同じくセーフエリアなのだろう。だが今や、そう安全とも言えない。なぜならば、魔王が確実に存在するからだ。多分、この街が安全地帯である事と同様に、モンスターもゲームのルールに従うはずだ。つまり、近々モンスターが街に攻めて来る」
アダーが恐ろしい予想を告げるなり、エリーゼが言葉を詰まらせた。
「……という事は、森林地帯のゴブリンの集落、隣国との国境付近のオークの王国、砂漠の食人族と戦いになるという事なのかしら……?」
「それもそうだが、何より危惧すべきは、月一で必ず発生していた魔王軍との大規模戦闘イベントだね。こいつは厄介な事に、君が今言ったストーリーの進行により発生するイベントと違って、強制イベントだ。街の中に閉じこもっていても、強制的に戦闘に巻き込まれてしまう」
ゲームでの対モンスター戦闘イベントを思い出したエリーゼが、それが意味する事を理解して体をぶるっと震わせる。
「今更気付いたのかい? まったく、危機感が足りないね。キミは異世界を甘く見過ぎているんじゃあないのかい? ここは、日本でもなければ外国でも、ましてや地球でもない、まったく訳の分からない異世界なんだよ? いい加減受け入れたまえ、新しい現実を。顔を上げろ、視野を広くしろ、今でなく未来を思え!」
アダーがエリーゼの顔をじっと見つめて、強い言葉を投げて喝を入れる。
「……しかし、状況が差し迫っているとはいえ、暴力による強行採決で皆を一つにまとめるなど間違っていますわ」
エリーゼがもっともな事を言うなり、アダーが苦労性気味にため息をついた。
「これだけ人がいると、キッチリと道理を押さえて、シッカリ筋書きを辿って丁寧に話をしても、知性の限界で話を理解できない層が一定数出て来るんだよ。そういう人達は、丁寧に説明するほど話が分からなくなり、分からなさゆえに逆ギレする様な厄介な人種なのだ。だが、彼らは往々にして権威に極端に弱い。だから――」
アダーがそこまで言うと、突然斬人が剣を床に突き刺した。
「わーったよ! 俺らトップギルドの誰かが、バトルロイヤルでトップになればいーんだろ? んで、力でもってアホ共を従えるって話だろっ!」
長い剣を床に突き刺して、一同の視線を一身に集めた斬人が、おもむろに語り始める。
「はっ。かつて魔王討伐軍を率いた策士アダーさんが、随分参ってるみてーだな。ゲーム時代は皆に慕われていたが、今は親友すら言いくるめられずこの様ってか?」
ロックスターの様に立てた金髪をかき上げると、斬人は楽し気に笑った。
「誰が一番強いか決めるバトルイベント、面白れぇじゃねーか! みんなイライラしてるし、鬱憤晴らしにちょうどいいぜ。それに、誰が一番強いかが分かれば、新しい序列も出来て、街の連中も言う事を聞くようになる。こいつは名案だ!」
斬人が真太郎の提案に乗り気な事を言い出すなり、紅が彼を睨みつける。
「おい、そこの馬鹿。簡単に乗せられるなっ! 奴らは阿呆に見せかけたずる賢い悪人だ、馬鹿な話の裏にきっと必ず罠がある! さっき騙されたのをもう忘れたのかっ! 奴らの口車に乗せられるなっ!」
「乗せられた訳じゃねー、乗ったんだよ。このままなし崩し的に群雄割拠状態になって、あちこちで小競り合いが続くより、シンタロー共の話に乗って一気にランク付けをしちまった方がいい。縄張り争いってのは大抵長期化して、いつまでも決着がつかずにくすぶっちまうから、デカい喧嘩で一気に白黒つけるのが手っ取り早いんだよ。学校でもそうだっただろ?」
「そんなものは、ド底辺の不良学校だけの話だ!」
「うるせー! ヤクザも族も国も大抵、どっかの時点で戦争して、力関係決めて平和になってんだよ! だったら、最初に血を流すのが、最終的に最も血が流れねー平和的な解決方法になんだよっ!」
ヤンキー流の持論を展開する斬人に、真太郎がすかさず便乗する。
「そうだよ。俺達は反目しているように見えて、その実、目的は同じだ。つまる所、新しい秩序を創りたい。今の斬人君の話から、行動指針が不明だった『渾沌騎士団』のやりたい事が理解出来た。俺らは、同じ目的を異なる手段でやろうとしていたが、今一緒になった。ゴールは一緒。違うのは誰がトップになるかだけだ」
真太郎は便乗して乱暴に話をまとめると、斬人に尋ねた。
「渾沌騎士団は、バトルロイヤルに参加って事で、よろしいかい?」
真太郎の質問に、斬人が自信たっぷりに返答する。
「ああ。俺が優勝させてもらうぜ!」
すると、当然の様に紅がキレた。
「おい! 勝手に話をまとめるなっ!」
紅が声を荒げるが、斬人は涼しい顔のままだ。
「なに泡食ってやがる? 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ。クッソ簡単な事だぜ」
「渾沌騎士団、参加決定っ! サンキュー、斬人ちゃん!」
渾沌騎士団の参加を取り付けた真太郎がにこっと笑って、次の獲物を探す。
すると、不意にかなこと目がばっちりあった。
「ねぇ、海賊王。馬鹿共をぶっとばして、この街の王様になってよ」
真太郎が直球で誘いをかける。
「おう! いいぞっ!」
海賊王・かなこクライシス、快諾!




