第6話 一転攻勢! 大胆な告白は男の子の特権!
「ファッ!? 聞いてないよッ!? なんで俺の金をアダーが勝手に使ってんだよ!?」
「真太郎は、お金とアイテムをあればあるだけ使ってしまうから、キミの資金とアイテムはボクと共有させてあるんだよ。知らなかったのかい?」
知らなかった驚愕の事実を聞かされた真太郎が、ブチキレてアダーに突っかかる。
「知るかッ! お年玉を勝手に取り上げるオカンみたいな事をするなッ!」
「オメーのせいかよ! 死ね、バカタロー!」
「この馬鹿たれがっ! 余計な事をするなっ!」
真太郎がアダーに抗議するその横で、斬人と紅が便乗して罵声を浴びせる。
「ふ~ん。身内まで騙すなんて、綺麗な顔してとんだ悪人だねぇ~。なぁ、かなこ?」
カイリがそんな事を口走るなり、かなこが急に大声で笑い出した。
「ぬははは! 馬鹿めっ! そんな事を仕掛けて来るだろうと思って、あらかじめ対策は取ってあるぞっ!」
そう豪快に笑うかなこが自慢げにみんなに見せるのは、ダンジョンからの脱出アイテム『帰還のルーン石』だ。
これは、かつて真太郎が魔王城からみこを逃がしたアイテムだ。
魔王城から逃げられたのであれば、ここから逃げ出す事など容易であろう。
「まったく、油断も隙もありゃしない。でも、ちょっと詰めが甘かったわね。無駄な出費とご高説、ご苦労様でした」
テンテンは皮肉気に吐き捨てると、『帰還のルーン石』をアダーに見せつけ、ニヤリと笑った。
「くぅ! 人質も取っておくべきだったかっ!」
自分の策略を破られたアダーが、悔しそうに歯噛みする。
「ほら、言わんこっちゃない。俺が言った通り、所持品検査を徹底して、手ぶらで会談をさせるべきだったんだよ」
「相手を油断させる為にあえて、完全武装させておいたんだよ!」
馬鹿にしたようにツッコミを入れて来る真太郎を、アダーがキッと睨みつける。
「でも、それが裏目に出てんじゃん。先生ともあろうお人が、抜けてますよ?」
「うるさい!」
「いてっ!」
弟にからかわれたような顔をするアダーが、真太郎の頭を叩く。
「ったく、馬鹿共が。アンタらの考えそうな事なんて手に取る様に分かんのよォ!」
「ほんと~に、やれやれって感じね。で? わたし達を脅迫した落とし前、どうつけてくれんのかしら?」
アダーの策を破り、一転攻勢をしかけるジャスミンとテンテンのインヤン飯店二人組が、彼女を据えた目で睨みつける。
「先生は詰めが甘いなぁ。お嬢様界最強の完全無欠の王子様とはいえ、所詮は二十歳の女子大生か。ま、抜けた所もまた可愛い、としておきましょう」
アダーが窮地に追い込まれるなり、真太郎がアシスタントとしてひと肌脱ぐ事にした。
「貴女達が、ご立腹されるのも無理ないと思います。僕だって、こんな事をされたら、最愛のなつき先生とは言え、ブチキレてしまいますからね」
アダーのアシストを始めた真太郎は、殺気立つ参加者達に向かって、おもむろに話を始めた。
「しか~し、『帰還のルーン石』がある時点で、ある意味、会談は仕切り直しになったと言えましょう」
「言えねーよッ!」
真太郎が仕切り直しを計るなり、すぐに斬人がツッコミを入れる。
「あはは。見解の相違ですね」
だが、真太郎は笑顔で軽くあしらって話を続けた。
「さて、仕切り直しとして最初の話に戻りましょう。皆さんはこの街がこんな状況のままでいい……いや、こんな状況を改善したいとは思わないんですか? お互いに疑い合い、睨み合い、喧嘩し合い、まともに話も出来ない状況を続けたいんですか? 俺はごめんですし、きっと皆さんもごめんだと思います」
真太郎は斬人を無視すると、そのまま無理矢理話を進めた。
「とりあえず、俺達から出す提案は二つ。まず初めに、このオリエンスの街に平和と安全を築く事。二つ目は、少なくともこの街に住むプレイヤー達を律する為の『法』――まぁ、法と言っても最低限守るべきルールですが――それを作って実施する事。この時点で、『どうしても反対だ、平和などくそくらえ! 俺が望むのは、金、暴力、SEX! そして恐怖と痛みと絶望だッ!』みたいな感じの人はいますか?」
真太郎はお得意の思わず耳を傾けたくなるトーク術を駆使して、下手に茶々を入らせないように誘導する。
(オーケー、反論無し。ここで、俺の意見に口を挟むという事は、野心や敵意の発露になるって事だからな。多少でも頭が回れば、敵を増やすのを嫌って黙っているはずだ。それに本心では、誰も今の状況が続く事を良しとはしていないはずだし)
そして、真太郎の思惑通り、反対意見を述べる参加者は出て来なかった。
そもそも真太郎が言っている事は、悪い話ではないのだ。
平和を取り戻すこと自体は反対しようがないほどに素晴らしい事であるし、同時に、この街にいる人間にとって最も必要な事なのだから。
「ですよね。俺も、望むのは平和です。この点だけでも共有出来て良かった」
だから、誰も反対意見は述べなかった。
最初から話し合いに乗り気でない紅であっても、そこは同じだ。
「勿論、街に平和を築くにあたっては、板垣さんが言うように、大きな負担が発生するでしょう。当然、規模の大きいギルドの皆さんには、色々とお願いする事が増える事が予想されます」
真太郎がそう言うと、板垣がおもむろに口を挟んできた。
「待ちたまえ。私達のような一部の大ギルドの負担だけが大きくなり、他のプレイヤーが楽をするなどと言う不公平は認められないな。それに、『法』の制定も同様だ。ルール作りが必要不可欠なのは、勿論、理解している。だが、『法』の内容によっては、由々しき問題が生じる可能性があるよ。そこをどうやって調整するんだい? 法の制定と施行、執行機関は――」
板垣が込み入った話をし始めるなり、真太郎がやんわりとそれを遮った。
「板垣さんが何を焦っているのか分かりませんが、この場で全てを決める訳ではないですよ。今日は顔見せと、今後この世界でどう生き抜いていくかを考える為の意見交換の場です。今日の所は、ここにいるみんなで最低限のコンセンサスを形成できれば良くて、細かい部分は追々決めていくつもりです。話し合いって、そういう物でしょう?」
アダーと違って冷静さを保っている真太郎は落ち着いた調子で話し終わると、朗らかに笑って板垣を丸め込んだ。
「アダーが熱くなっちゃったせいで、話がおかしな方向に進んじまったけど、俺達は、この世界でくだらない騙し合いのゲームをするつもりはないですよ。俺達はただ、この訳の分からない世界で生き延び、なんとかして家に帰りたいだけです。それは俺達のみならず、みんなも一緒でしょう? 今日は、そういう話をしたかったのさ」
真太郎達がどういう意図を持って有力ギルドを集めたかが、ここで初めて披露されるなり、剣呑だった雰囲気が少しだけ和らぐ。
しかし、次の瞬間、状況が一変する。
「――だけど、やっぱり話し合いなんてかったりーわッ!」
何を思ったか、真太郎が突然、悪人面で邪悪に笑った。
それと時を同じくして、参加者の護衛達が俄かにざわつく。
「ギルマス、大変ですっ! 『名無しのギルド』主催の謎のイベントが、緊急開催されるみたいですっ!」
突然、板垣の秘書のさっちゃんが、訳の分からない事を言い出した。
「はぁ? なにそれ?」
板垣が聞き返すと同時に、真太郎が参加者全員に聞こえる大声を出した。
「これは失敬。アシスタント業に熱中するあまり、すっかり言い忘れておりました。実は、本日――と言ってもこの会談が始まる一時間ほど前でございますが、この私めが、『魔王討伐軍』のボスを決めるバトルロイヤルを開催させて頂きましたァン!」
「何ぃ~?」
真太郎が訳の分からない事を言い出すなり、誰ともなく訝しげな声で聞き返した。
「誠実なだけが取り柄のこの俺が、大事なギルド会談の席に一時間も遅れる訳がないでしょう?」
「なんの話だ? お前、一体なんの話をしている……?」
なにか良くないものを感じ取った紅が目を細める。
「あれは、貴様らをここに釘づけにしておく為だけのお芝居だったんだよッ! 急に俺に呼び出されて疑心暗鬼になっているだろう貴様らは、お互いに顔を合わせてしまえば、その疑心暗鬼ゆえに、お互い監視し合って誰も逃げ出さないだろうからな! 実際、あまりにも予想通り過ぎて、笑いが出るのを通り越して呆れているよ」
そんな彼らの声に対して、真太郎は不敵な笑みを浮かべて説明する。
「少し待ちたまえ。さっきからシンタロー君は、何を言っているのかね?」
話に全くついていけない板垣が訝しげに尋ねるなり、真太郎が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「欲に目がくらんだ可愛い君達が、お互いに睨み合っているその隙に『さんざめけ☆めけ! 勇者だヨ全員集合! 天下一武闘会!』を開催したという事だァーッ!」
今世紀一番のドヤ顔で真太郎がとんでもない事を言い出した。
「私の質問に答えろ! お前は、なんの話をしているのかと聞いているんだッ!」
訳の分からない話を聞かされ続けた板垣が、おもわずヒステリックに荒ぶる。
「今からこの街の全員で、『魔王討伐軍』のボスを決めるバトルロイヤルをするつってんだよッ!」
「「「なにぃぃぃーッ!?」」」




