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第12話 あの娘は闇の殺人鬼!? 中二病のせっちゃん登場!

 煉獄刹那れんごくせつなは、「オレは生まれながらの殺人鬼で、闇しか知らずに育ってきた」という設定の元、「この剣が血を欲しがってしかたがないのだ」、「くっ! また俺の右手が暴走し始めたッ!」などの痛い台詞を嬉々として語る中二病プレイヤーだった。

 そして、ついたあだ名が、『中二病のせっちゃん』。

 略して『チュウ』だった。


「チュウなら、チュウって言えよなぁ。危うく殺しちゃう所だっただろ」

「ふざけんな、馬鹿野郎! 殺す気満々だった奴が、何ほざいてんだよッ!」

 真太郎に口汚く食って掛かる『チュウ』こと煉獄刹那は、中学生程のあどけない見た目をした黒髪の少女だ。

 黒いマフラーで顔を隠してはいるが、つぶらな瞳とちんまりとした体が可愛らしく、痛い名前に反してなかなかの美少女に見える。


(ゲームでは大人の男だったのに、今目の前にいるのは女、しかも子供。という事は、この勇ゲー風異世界は、ゲームの世界を反映しているが、プレイヤーの本質にまでは干渉は出来ない、という事なのか? ……そーいえば、師匠もゲームの見た目を無視してるし、十分にあり得る考えだな)


 真太郎がそんな事を考えていると、刹那が食って掛かって来た。

「中学生相手に本気で殺しに来やがって! お前はとんだサイコ野郎だなっ!」

「失敬な事を言うな。あれは、お前が襲い掛かって来そうだったから、襲われる前に撃退しただけだよ」

「ふざけんなっ! いきなり襲い掛からず、まずは話かけろよっ!」

「それは、こっちの台詞だよ」

「んだとぉ!」


「そんな事より、中二病のせっちゃんは、本当に中学生だったんだなぁ~。まさか、チュウって中学二年生なの?」

「あん? 悪いかよ」

「ビンゴかよ。つか、ゲームでは男だったのに、プレイヤー自身は女だったのか。十四歳、中学二年生、しかも女。なんか変な所にピンポイントでクリティカルヒットしそうだなぁ」

 小動物の様にキーキー言って荒ぶる刹那だったが、何気にスルースキルが高い真太郎には、ほとんど相手にされていなかった。


「おいっ、無視すんなっ!」

「しかし、お前まで、ゲームと同じ格好をしているとはなぁ……」

 そう言って真太郎が見つめる刹那は、彼同様に『勇者ゲーム』での装備を反映した格好をしている。

 

 刹那は、『暗黒騎士』の数あるビルドの中でも、一撃必殺の暗殺に特化した『暗殺者』を嗜好していた。その為、彼女の格好は暗黒騎士の名に反して随分と軽装で、どこか忍者や盗賊の様に見える。

 しかし、そのちんまりとした体のせいで、着ている男物の黒装束はまるでサイズが合っていなかった。例えるならば、子供が背伸びして父親や兄弟の服を着ているみたいな感じだ。


「チュウが仮に女だとしても、不細工なデブか根暗なオタク女だと思ってたから、意外だな。でも、こまっしゃくれてて可愛げのない感じはゲームと一緒だね」

「はぁ!? 誰が、こまっしゃくれてるだよ、うっせーよっ!」

「あーあ、でも、どうせ女の子なら、実はネットで強がってるだけで、本当は優しくて気遣いが出来て巨乳な女の子、更に、眼鏡でおさげだったら完璧だったのにぃ~」


「さっきからうるせーよ、バカタロー! 口を慎めよ! このスケベ野郎がッ!」

 ダブダブ過ぎるせいで、得てせず萌え袖になってしまっている袖を振り回してキーキーいう刹那の姿は、その美少女然とした見た目と小柄な体と相まって、どこか小動物じみた可愛さがあった。


「チュウ、ご両親に感謝しろよ。お前がブスだったら、こうやって話す前に殴り殺してた所だぞ」

「おい! お前、フツーに怖いぞっ!」

 真太郎が垣間見せたサイコパス的要素に、素で恐怖を覚える刹那だった。


「それより」

「それよりじゃねーだろっ! そのちょいちょい無視していくスタイルを、今すぐに止めろっ!」

「お前、あんな所で何やってたんだよ? やっぱりPKかい? チュウは、PKが三度の飯より好きだもんなぁ」

「……くっ! このすぐに人を馬鹿にする感じ。紛れもねぇ、シンタローだ」

 先ほどから真太郎に振り回される刹那は、彼の態度から目の前のムカつく男をゲームで知っている『シンタロー』と同一人物と認めた様だ。


「そんな事はいいから、質問に答えてよ。ったく、チュウは相変わらずコミュ障で会話が通じない奴だなぁ」

「先に会話をぶった切ったのは、お前だからねっ!? マジでこいつムカつくわ、ゲームでもリアルでもムカつくって、お前そーとームカつく奴だなっ!」

 からかわれて怒り出したチュウが『リアル』という単語を口にするなり、真太郎がふむと考え込み、からかうのをピタリと止める。


(中二病全開なこいつが、『リアル』って言葉を、自然にチョイスして現状を認識しているって事は、マジでここは今までいた世界と違う『現実世界』なのか?)

「ねぇ。チュウは今、普通に『リアル』とか言ったけど、ここはマジで現実なの? 実は夢か、ゲームによる催眠にかかって見ている幻覚かなんかじゃないの?」

 真太郎が現状に陥ってから未だに疑問に思っている事を尋ねる。


 すると、刹那が馬鹿にした様に鼻で笑った。

「おい、バカタロー。もう既に一週間も、この場所に閉じ込められてんのに、まだ『夢』だとかバカみてーな事を抜かしてんのか? いいか? ここは夢でも、ましてや『勇者ゲーム』の中でもねー。そんなご都合主義のお花畑な考えは今すぐに捨てろ、そして実感しろ。ここは魔物が蠢く呪われし異世界だっ……!」

 声を押し殺して凄む刹那が、非情な現実を突きつけて来た。


「いや~。実は俺、ここに来たの一時間ぐらい前なんだよねぇ。だから、そんな怖い顔で凄まれて、恐ろしげな事言われても、全然実感ないからフツーに困るんだけど?」

 だが、この世界に存在するようになってから、まだ一時間経っているかいないかといった状況の真太郎には、いまいちピンと来なかった。


「なんだとっ!?」 

 真太郎の話を聞いた刹那が、本気で驚いたリアクションを取る。

 そしてその後すぐ、小さな顎を細い指で撫でて考え事をし始めた。


「……やっぱり、今までボイチャ欄がログアウト表示だったのに、急にログイン表示になったのは、バグでもなんでもなかったのか」

 短い考え事を終えた刹那が、怪訝な顔をしている真太郎に話かける。


「おい、バカタロー。今言った話は、本当か?」

「何言ってんだよ、今の状況で嘘ついてもしょうがないでしょ?」

 真太郎の答えを聞いた刹那が、「だよな」と自分に言い聞かせるように呟く。

 それからすぐに、得意げな顔を作って不敵に笑いかけて来た。


「さっき、俺をボコった事を土下座して謝ったら、新参者のお前に良い事を教えてやる」

 何を思ったか、刹那が妙な事を言い出した。


「これでいいのか? 刹那さん。さっきは殴って、ごめんなさい!」

 謝るだけで情報を仕入れられると知った真太郎が、即座に刹那の要求に応じる。

 知らなかった事とはいえ、一応知り合い、しかも女子中学生を殴った事で罪悪感を抱いていた彼は、実の所、刹那に謝るタイミングを探していたのだ。

 正に渡りに船かつ、一石二鳥な提案に乗らない訳がない。


「えっ!? 何そのクイックレスポンス!? お前の素直さが逆に怖いっ!」

「人を土下座させておいて、なんだその反応はっ!」

「うっ! あ……す、すまん」

 驚いている所に逆ギレされて動揺した刹那は、虚を突かれて思わず謝ってしまった。


「まぁ、そんな事はいいよ。それより、いい情報って何さ?」

 真太郎が話を本題に戻すと、刹那は腰に下げていたポシェットの形をしたアイテムバッグから、小さな独楽を取り出した。

「独楽? なんだよ、それ?」

 怪訝な顔をする真太郎に、刹那が得意げな顔で応じる。


「お前はこの場所が未だに夢だと思っているのだろう? そんなお前に、ここが紛れもない『現実リアル』だという事を教えてやる」

 刹那はしたり顔でそう言うと、取り出した独楽を掌の上で回した。

「今いる場所が、夢の中か現実かを確かめる方法で独楽を回す、という方法があるのを知っているか? この独楽を回して、回り続ければ夢、止まれば現実だ」

 それらしい事を言い出す刹那の掌の上で、独楽がクルクルと回る。


 真太郎と刹那が見つめるその先で、独楽はクルクルと回り続ける。

 しばらくすると、独楽の回転がみるみるうちに遅くなって来た。

「よく見ていろ。夢ならこの独楽は廻り続ける。だが、ここは現実だ」 

 刹那が口を閉じると、独楽は回転力を失い、ゆっくりと傾き始めた。

「……だから、独楽は止まる」

 そして、独楽が動きを止める。 


「いや、持ち直したぞ。チュウッ!」

「なんだとっ!?」

 と、思ったが、独楽は絶妙な動きで姿勢を正した。

 そして、再び何事もなかったかのように回転を続ける。


「くぅ! ジャイロスコープなんて使わなきゃよかったっ!」

 意外と抜けている刹那が、止まらない独楽を見て悔しそうに唸る。

「おい、馬鹿チュウ! これなんだよ? 何、ここは夢って事でいいのか?」

「違うっ! ここは現実だ! 黙って見てろ、すぐに独楽が止まるからッ!」

 真太郎と刹那がわーわーやっている間に独楽が回転力を失い、その体を傾かせ始めた。


「あっ! お前今、手を動かして独楽を倒そうとしただろ!」 

「するか馬鹿ッ! あっ、ホラ! 独楽がそろそろ止まりそうだぞッ!」

 刹那が嬉しそうに言うなり、独楽が回転を止めて彼女の小さな掌の上に倒れた。


「やった、止まったっ! ほらっ、見てみろっ! 独楽が止まったぞっ! ふはは、どうだ独楽が止まったぞっ!」

 何故か無茶苦茶はしゃいで、止まった独楽を嬉しそうに見せて来る刹那だった。

「で、なによそれ? チュウは一体、何がしたい訳?」

 しかし真太郎は、刹那が何故そんなに喜んでいるのかが、全く分からない。


「馬鹿か、お前。さっき言っただろ? この独楽が回り続ければここは夢、止まれば現実。つまり、ここはお前が思う様な夢の世界じゃねーって事だよ!」

「お前が、その独楽にどれだけの信頼を置いているか知らんが、そんな事でこの世界が夢か現実か分かれば苦労はしないよ。しかもその独楽のくだり、映画かなんかで見た事あるし」

 真太郎に痛い所を突かれた刹那が、うっと呻いて悔しそうに唇を噛んだ。

「むむむ~っ……!」

 そして、恨めしそうに上目遣いで睨んでくる。


「なんだよ、その目は? お前も結局の所、ここがどこか分かってないんだろ? しょーもない事してないで、分からないなら分からないと、素直に言えよ」

 子供をたしなめる様に言いつける真太郎に、刹那がすぐに反発する。


「うっせー、バカタロー! 独楽の事はともかく、ここはリアルなんだよ! 殴られれば痛いし、動けば疲れてお腹も空くし、食べて満腹になれば眠くもなる! 眠れば夢の中なのに悪夢を見るし! それに、眠りから覚めてもまだこの世界にいるし、帰りたいのに帰れないし! 怖いし、不安だし、泣きたくなるし! 怖いし寂しいしお母さんに会いたいしっ! とにかく、ここは現実なんだよッ!」

 と怒鳴る様にして語る刹那の目は不安げに歪み、薄っすらと涙が浮かんでいた。


「チュウ……」

 刹那の本気で怖がっている顔と不安げな態度を見てしまうと、流石に真太郎はからかう様な気すら起きなかった。

(師匠と同じく、ゲームの世界に異世界転移しちゃうなんて事には、絶対はしゃぐはずの中二病のこいつが、こんなにマジで参ってるって事は、やっぱり状況は良くないんだろうなぁ……)

 刹那が本気で取り乱している姿を見て、改めてゲーム風の異世界に囚われている現状が、本当に深刻な状況だという事を理解した真太郎だった。


「チュウの気持ちは分かるけど、泣いてもどうにもならんよ。泣くより、現状をどうするか考えようぜ?」

 反抗的かつ勝ち気で小生意気な性格の刹那には、優しい言葉より強い言葉の方が効果的であると思った真太郎は、あえて安直に慰めなかった。

 その代わりに、建設的な提案をする事で彼女の気を不安から逸らす事にする。


「な、泣いてねーよ、馬鹿っ!」

 予想通り、刹那はすぐに反発して来た。

 真太郎に反発する事で泣き止んだ彼女は、辛うじてパニック状態から抜け出したようだ。


「あれ? そーなの? じゃあ、お前が今までどうしてたかを聞かせてくれない?」

「え、何それ? 切り替え速くねっ!?」

 真太郎のあまりの切り替えの早さに、立ち直ったばかりの刹那が素でツッコミを入れる。

「そりゃ速いよ。お前が言う通りなら、この世界は『リアル』なんだろ? だったら、新参者の俺はここで生き延びる為に情報が必要なんだよ。ほら、傷を回復してやるから、泣くのを止めて元気出せよ」

 真太郎は言うと、刹那に回復魔法を使った。


「オラァ、喰らえ! 『ヒールライト』ッ!」

「いや、掛け声おかしくねッ!?」

 真太郎が魔法を唱えた瞬間、刹那の体の周りを優しい色の光が包み込んだ。

 柔らかい光に体を包まれると、刹那の顔から険が取れ、急速に穏やかになっていく。


「ふぁ……暖かい……。あっ! さっきバカタローに殴られた傷が治ったぞっ!」

 どうやら、回復魔法の力によって先程の戦闘の傷が癒えた様だ。

「すげーな! やっぱ、本当にこの世界には『魔法』があるんだなっ!」

 刹那は、魔法の力で傷が治った事に驚きを隠せない様子ではしゃいだ。

 そんな刹那の元気な姿を見て一安心した真太郎が、おもむろに彼女に話しかける。


「土下座して謝ったし、回復もしてやったし、さっきの件はこれでチャラな」

「チャラになるか、馬鹿! こっちは、殺されかけたんだぞ! 無茶苦茶殴りやがって、しかも鈍器でなッ!」

「ぶり返すなよ、執念深い奴め。土下座して謝った上、治療もしてやったんだ、これ以上責められるいわれはない。つか、こっちはPKされそうになったんだ、さっきのは正当防衛だよ」


「PKなんてしてねーよ! 俺はただ、お前らに話しかけようとしただけだ!」

「じゃあ、普通に話しかけてこいよ。なんでこっそり尾行なんてしてきたんだよ?」

 真太郎がツッコみ交じりに尋ねると、反発を繰り返していた刹那が急に言い淀んだ。


「……え? そ、そんなの、お前がシンタローかどうか分からなかったからだよ」

「簡易ステータス画面が出て来るだろ? そこを見ろよ。何見る方法、知らないの?」

「知ってるよっ! 一週間もここにいるんだぞ、馬鹿にすんなっ! 見たよ、見たけど……」  

 なんでか知らないが、今まで歯切れよく話していた刹那から、急に勢いの良さが消え始める。


 そんな彼女の様子を見た真太郎が、何か良く無いものを察知する。

「……俺より先に誰かに会って、なんか酷い目にでも遭ったのか?」

「いや、そんな事はないよ……。ただ……」

 刹那が言い淀んだので、真太郎が質問する事で話を促した。

「ただ?」


「ただ、ここじゃ他人は信用できないんだよ……」

 刹那は、沈痛な面持ちでそう言うと、この一週間にあった事を自分から話し始めた――。

 

 魔王討伐というメインストーリーの終了後、やる事が無く退屈していた所に現れた最新のアップデートを喜び勇んで導入した事。

 そうしたら、勇者ゲーム風のこの異世界にいつの間にか転送されてしまった事。 

 初めは異世界転移に巻き込まれた事を喜んで、俺TUEEEE状態で暴れ回ってやると意気込んでいた事。

 しかし、その後すぐにログアウトできない事に気付き、家に帰れない事を知って絶望した事。

 そのまま現実世界に帰れないまま数日が経ち、一緒にこの世界に来た人々が荒れ始めた事。

 パニックと暴走を起こす人達が怖くなって、必死に街を逃げ回っていた事。

 そして、身の安全の為に一旦街を捨てて、街の外の廃屋に身を潜めて孤独に耐えていた事。

 そんな時に、シンタローを見つけた事――などを、刹那は一つずつゆっくりと語るのだった。

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