第5話 遂にぶちギレ! クールなあの子のホットな熱暴走!
「このボクの言う事に従わない場合――キミ達は、死ぬまでここから出られないよ」
「「「???」」」
突然飛び出したアダーのとんでもない発言に対して、虚を突かれたような空気が参加者の間に流れる。
その言葉の意味する所を理解するには、誰もが時間を要したからだ。
「ったく、クールな顔してすぐ熱くなるんだから……しょうもないハッタリなんかかまさないでくださいよ、ダサいですよ?」
アダーから時計塔購入の件を知らされていなかった真太郎が、半信半疑な様子でステータス画面を開き、時計塔の情報に目を通す。
「げえええええーっ!? マジでなつき先生の所有物になってるじゃねーかっ!」
そして、時計塔の所有者がアダーになっているのを見て、真顔で驚愕した。
「にゃにゃにゃ!? 本当にゃっ!」
「どーなってやがるッ!?」
「「意味が分からないですよッ!」」
すると、他の参加者達も慌てて同じ事をして、真太郎同様に驚愕する。
「この場所の所有者であるボクは『所有者権限』を使って、ここでのスキルの使用を禁止した。よって、脱出スキルの使用や、窓や扉や壁を破壊しての脱出はおろか、自殺による輪廻の神殿への離脱も出来ない。動揺しているキミ達に分かりやすく言ってあげれば、『キミ達はこのボクの許可なく、ここから外に出る事は永遠に不可能』だという事だ……!」
アダーは皆に恐ろしい事実を告げると、切れ長の瞳をまるで毒蛇の様に妖しげに細めた。
「勿論、外に連絡を取っても無駄。この部屋は入室に制限をかけているからね。無論、廊下にもスキル制限をかけている為、武力を行使してこの部屋に押し入る事は不可能だ。また、時計塔の外でスキルを使うと、『秩序の守護者』に粛清される為、外壁を壊して救出してもらう事も出来ない。今やキミ達は、このボクの手の中に囚われた囚人だと理解したまえ」
「そんな……」
「嘘だろ……」
アダーの繰り出す不意打ちに次ぐ不意打ちに、誰もが状況を全く理解出来ず、ただただ呆けた顔で、彼女の冷酷なまでに美しい顔を見つめる事しか出来ない。
参加者一同が絶望とも驚愕ともつかない奇妙な表情でアダーを見つめる中、真太郎が深々とため息を漏らした。
「なつき先生……アンタが暴走しちゃダメでしょうが」
アダーの暴走に呆れた真太郎が天を仰ぐなり、斬人と紅がアダーに飛びかかった。
「調子のんなよ、男女がッ!」
「悪いが、力づくで出させてもらうッ!」
斬人達が飛びかかって来るなり、アダーが涼しい顔で牽制する。
「止めたまえ。ボクを殺せば、ここから出る事は本当に不可能になるよ。理由は言わずとも分かるよね?」
「知るかボケッ!」
「知った事ではないッ! いますぐにここから出せッ!」
「「でなきゃ、殺すッ!」」
斬人達が鋭い剣をアダーの喉元に突き付ける。
「やれやれ、落ち着きのない人達だなぁ」
だがアダーは、まったく意に介していない顔だ。
「いいかい? ボクを殺して神殿送りにすれば、もう交渉すら出来なくなるんだよ? もしそうなったら、キミ達は、お腹を空かせて餓死して神殿送りになるしかなくなるよね? 聞く所によると、餓死ってやつは焼死と同じぐらい苦しい死に方らしいじゃあないか。ボクみたいなか弱い女の子は、想像するだけでゾッとしてしまうよ」
それどころか、無敵の王子様スマイルで冷酷に微笑みかける始末だ。
「クソがッ! ハメられたッ!」
「何がギルド会談だ! やはり、罠だったではないかっ!」
完全にチェックメイトを突き付けられた斬人と紅が、苦々しい顔で歯噛みする。
「間抜け共が。誰を相手にしているのか、まだ分からないのか? うちのなつき先生は、普段はクールで優しい頭脳派乙女だが、一度キレるとヤクザも拳で黙らせる超武闘派になるお嬢様界最強の王子様なんだぞ?」
真太郎が「ご愁傷様」といった顔で、参加者達に手を合わせる。
「現時刻から、この会議場は『牢獄』に代わり、キミ達は一人残らず『囚人』となった。そして、このボクがキミ達の命を握る『支配者』だ」
この知的な風貌の美女が、真太郎の言う様な恐ろしい存在だとは、俄かに信じがたい。
だが、現状それは紛れもない事実だった。
「どいつもこいつも口先ばかり一丁前で、自分では何も出来ない癖に、業突く張りでズル賢い。その上、無礼で強圧的な態度を取る始末。何より腹立たしいのが、生意気にも、このボクに歯向かって来る所だ。正直、うざいぞ? 今、ボクらは生存の危機に立たされているんだ、出来る出来ないはやってから言えッ!」
今までずっとクールで紳士――もとい淑女的だったアダーが、暴君に豹変するなり、メイド姿の刹那が激しく戸惑う。
「ぎ、ギルマス? なんか怖いよ……?」
「貴様ら全員、卑怯で臆病で犯罪的に欲深く! 魂レベルから腐れ果てているぞッ! この愚図共が! 四の五の言わず、このボクに従えッ!」
完全に頭に血が上ってしまっているアダーが、怒気を込めてこの場にいる全員を一喝する。
「なつきちゃん、無茶苦茶よっ!」
「そうよ! なつきさん、一体何を考えているのかしらっ!?」
暴走するアダーを諌めようと、親友の百合子とエリーゼが揃って声をあげる。
「沈黙しても批判され、多くを語っても批判され、去っても批判される。この世に批判されない者はいない。ならば、批判に構わず我が意を通すッ! 差し迫った命の危険が目の前にあるにも関わらず、状況が理解出来ない馬鹿共は黙っていろッ!」
クールなアダーのいつになくホットな姿を見た真太郎が、呆れ顔で肩をすくめる。
「強行策に出るなんてらしくないなぁ~。時計塔を秘密裏に個人所有し、その上、言う事を聞かない参加者達を閉じ込めるなんて――」
「まるで脅迫ではないかっ!」
アダーが強硬手段に出るなり、これまで参加者達の調整役をしていた穏健派の忍蔵が感情露わに声を荒げた。
「おいおい、マジで監禁かよ……」
「うそ!? ホントにドアが開かないっ!」
「クソ! なんかしんねーけど、窓が壊せないぞッ!」
主要メンバー達の困惑が伝播したのか、会談に参加している側近達もざわつきだした。
会議場にいる誰もが口々に騒ぎ立て、場の空気が一気に危険な熱を帯びて沸騰する。
「お……おい、バカタロー。なんかギルマスが怖いぞ……」
いつも優しいアダーの豹変ぶりに恐れをなした刹那が、不安げな顔で真太郎の袖をくんくんと引っ張る。
「うちのギルマスは、さくにゃんを筆頭に、手におえない狂人揃いの『名無しのギルド』を一人でまとめていたんだぞ。人をまとめるのに、マトモな手段を取るはずねーだろ? 絶世のイケメン王子様な見た目に騙されてんじゃねーよ。あの人の本質は、人を取って喰らう地獄の魔女だぞ?」
真太郎が恐ろしい事を真顔で言うなり、刹那が泣きそうになる。
「ふぇぇ~。こんな無茶苦茶な人達と関わるんじゃなかったよぉ~!」
「今更、後悔した所で遅い。チュウも、今やうちのギルドの一員。この位の無茶で動揺している様じゃ、この先やっていけないぜ?」
身内を含め、会談参加者全員が激しく動揺している状況において唯一、平然を保っているのが、アダーの教え子の真太郎だ。
彼はアダーと一種の姉弟の様な関係にあるので、彼女の荒々しい一面には慣れているのだ。
というか、しょっちゅう怒られていたので、麻痺しているだけとも言えるが。
「ギルド会談をしたい、などという親しげな誘いで某達を集め、話がまとまらなくなったら、一方的に監禁するなど、脅迫、裏切り――いや、敵対行為ではないかッ!?」
アダーの裏切りとも取れる行為に怒りを覚える忍蔵が、声を震わせて詰め寄る。
「敵対行為? 成程、そう捉えられても仕方がないね。だが、一方的に会談を蹴る渾沌騎士団に、『都合が悪い提案をされたら戦争起こすぞ』とほのめかすJMA。そしてキミ達、中小ギルドの日和見主義で卑怯な態度は、敵対行為ではないのかい?」
しかし、既にスイッチが入ってしまっているアダーは、荒ぶる忍蔵に詰め寄られても眉ひとつ動かさない。
「ボクはただ、『有力ギルドを一つにまとめて、今後の事を話し合いたい』と言っているだけだよ。対してキミ達は、今の絶望的に危機的な状況を目の前にしながら、ゲームの延長線上で自分勝手な駄々をこね、脅し交じりの揚げ足取りに始終するばかり。この場において損失と害をもたらすのは、ボクかキミらのどちらかを、分からず屋なボクに教えてくれ。さぁ、早く! 誰でもいい、このボクに教えてくれっ!」
アダーの試す様な問いかけに、会談参加者達が苦い顔で口を閉じる。
やっている事は間違っているが、言っている事は間違っていないだけにタチが悪いアダーの問いかけには、誰も答えを返すことが出来ない。
「アンタが正しいわよ、超クールな王子様」
そんな重苦しい沈黙を最初に破ったのは、テンテンだ。
「それはそうと、良くこんな所を買えたわね。ここは、購入するのに莫大な資金が必要になる公共エリアよ? どこでそんな大金手に入れたのかしら?」
アダーと対等に渡り合えるチャイナの雌豹が、皮肉交じりに探りを入れる。
「隠してもいいが、キミ達に対する信頼の証として開示しよう。この時計塔の購入資金は、真太郎が魔王と戦った際のアチーブメント報酬の報奨金で入手したものだ」
アダーが告げた事実に、真太郎が魔王と戦った事実を聞かされていなかった参加者達が驚いて俄かにざわつく。
しかし、一番驚いていたのは、何故か大金を手に入れた当の真太郎だった。
「ファッ!? 聞いてないよッ!? なんで俺の金をアダーが勝手に使ってんだよ!?」




