第34話 遂に登場!? 愛と正義の地獄からの使者さくにゃん(自称17歳)!
「ふぅ、ちかれた。あっ、や~ん。お洋服が汚れちゃったぁ~」
テンテンとイナバ、そしてインヤン飯店のギルメン五十人を、いともあっさり始末した謎の女が、まるで何事も無かったかのような態度でぶりっ子ぶる。
「な……なんなんだ、アイツは……ッ!?」
「魔王よりも化け物じゃねーか……!」
「ふええ……テンテンさん達が、皆殺しだよぉ~……」
「一体何が起こったと言うんだ……瞬きする間に皆、殺されてしまったぞっ!?」
その何の気なしの態度が、底知れぬ恐怖を真太郎達に与える。
「美容の為に始めた太極拳が、この世界では殺人拳になっちゃうのね……まったく、自分の隠された才能が悩まし……おやおや~?」
髪の毛や服に付いた埃を手で払っていた女が、不意に真太郎達に気付いた。
「あ……あのババア、こっち見てるぞ……!」
女の視線に気づいた刹那が、蛇に睨まれた蛙の様な顔をして真太郎の袖を引っ張る。
すると、真太郎がとんでもない事を言い出した。
「なつき先生……あの女の人、なんか『さくにゃん』に似てませんか?」
「……言われてみれば、あの魔法少女みたいな可愛げな格好は、確かにさくにゃんにそっくりだね」
アダーが同意してくれるなり、真太郎が身間違いじゃなかったと確信する。
「でしょ?」
「だが、さくにゃんは十七歳の女子高生だろう? あのさくにゃん風の女の人は、どう見ても三十歳は回っているよ。あの人は、たまたまさくにゃんと同じ装備品を身に着けているだけの他人じゃあないのかい?」
冷静さを取り戻したアダーが、落ち着いた調子で真太郎を諭す。
「まぁ、外見は確かに全然違うけど……。でも、あの舌足らずなアニメ声と極悪な言動は、さくにゃんっぽいんだよなぁ」
真太郎は、目の前の謎の女の姿が、ゲーム時代に仲間だった『さくにゃん』に重なるようだった。
ゲームでのさくにゃんの姿は、魔法少女みたいな派手なフリフリの格好をした小学生ぐらいのロリっ子であり、今目の前にいる痛いコスプレをした妙齢の女性ではなかった。
ゲームのキャラの容姿が、プレイヤー自身の容姿に強い影響を与えるこの世界の仕組みで考えると、さくにゃんは仮に大人であっても、刹那やみこ程度の年齢の見た目になっているはずなのだ。
「な~んか、引っかかるんだけど……やっぱり、似てないか」
諸々考えた上で、他人の空似という結果に着地した真太郎が、そんな事を言うなり、刹那が前のめりでツッコんできた。
「似てる訳ねーだろっ! どー見ても、ババアじゃねーかっ! いい年こいてロリータファッション着てる痛いババアじゃねーかっ!」
刹那がそんな事を喚くなり、謎の女がにこやかな笑顔で近づいて来た。
「おっすっ! いい年こいてロリータファッション着てる痛いババアだよっ☆」
そう言って陽気に挨拶した次の瞬間、
「な訳あるかい、死ねッ!」
刹那に強烈なゲンコツを叩き込んだ。
「ぐはぁーっ!?」
強烈なゲンコツを喰らった刹那が、地面をゴロゴロと転がっていく。
「魔法の国からやって来た、愛と正義の使者さくにゃん・十七歳だよっ☆ おっすおっす、みんなよろぴくねっ!」
何を思ったか、謎の女は刹那をぶっとばすと、超絶ぶりっ子でふざけ倒した自己紹介をした。
「の……乗りツッコミがキツ過ぎだ……!」
真太郎は衝撃のあまり、ツッコミがおかしくなっている。
「き……貴様の様な十七歳がいるかっ! このクソババアっ!」
辛うじてHPが残っていた刹那が、やっとの思いで罵声を絞り出す。
「はぁ? お前、さっきからうっーぜよ。死ねッ!」
刹那の罵声にキレた謎の女が、ノーモーションで強烈な蹴りを放つ。
「へぶぅーっ!」
次の瞬間、ちんまい体の刹那がサッカーボールの様に上空へ蹴り上げられた。
「えっへん、どんなもんだい! さくにゃんは、愛と正義の力を借りる事によって超必殺技が出せるんだぞっ☆ あたしの事をババア呼ばわりする、クソガキは死ぬがいいさっ!」
自称さくにゃんが言い終わると同時に、上空を舞っていたイナバが落下して来た。
「ござあああぁぁぁーっ!」
「ついでに、キモオタも死ぬがいいさっ!」
「空中コンボでござあああァァァーッ!」
再び蹴り上げられたイナバが、もの凄い勢いで上空に舞い上がる。
「的確、それでいて大胆……! 暴力の狂気に身を委ねながらも、常に冷静に立ち回って敵を的確に排除している……あの人、滅茶苦茶強いっ!」
自称さくにゃんの圧倒的な強さを前にしたアダーが、戦慄し過ぎておかしな分析をする。
「知ってるわ。だって、この我流ラブリー虐殺真拳の前に敵はいなんだかんねっ☆」
「我流ラブリー虐殺真拳!? ただ暴れ回ってただけなのに、変な名前付いてるぅーっ!?」
自称さくにゃんの恐ろしさにガクブルするみこが、無意識的にハイテンションなツッコミを入れる。
すると、真太郎が何かに気付いて戦慄した。
「あ……あのぶりっ子とサイコが同居する暴力的で破壊的でラブリーな言動は、正に『さくにゃん』そのもの……っ!」
さくにゃん――勇者ゲームの歴史に悪い意味で燦然と輝く、最強にして最凶の迷惑プレイヤー。
見た目は天使の様に可愛いロリっ娘でありながら、目に入った全ての気に入らない者と物を、手当たり次第に壊して殺して蹂躙して回っていた超危険人物だ。
それ故、ついた二つ名は、『虐殺天使』。
かつて、その危険さから賞金首となり、三大ギルドの精鋭を集めて作った討伐軍に討伐される事になる。
だが、超レア装備で強化されたキャラ性能に加え、プレイヤー自身の常人離れした戦闘センスの高さから、討伐軍を逆に討伐すると言う意味の分からない離れ業を見せ、全勇ゲープレイヤーを恐怖のどん底に突き落とした。
この討伐軍を壊滅させた戦い以降、さくにゃんは、誰にも手が出せない最強にして最凶のアンタッチャブルな存在として、全勇ゲープレイヤーに畏怖される事になる。
それが、『虐殺天使』さくにゃんである。
「魔法の国からやって来た、愛と正義の使者さくにゃん・17歳だよっ☆ おっすおっす、みんなよろぴくねっ☆」
陽気でラブリーな自己紹介を終えるなり、自称さくにゃんが、真太郎の顔を指さす。
「君ってば、シンタローちゃんでしょ?」
「ち……違います」
恐怖のあまり、思わず否定する真太郎だった。
「違くないでしょ? だって、ステータスの所にシンタローって表示されてるもん」
「スシタローの間違いじゃないっすか?」
「な訳ねーだろ……☆」
なんでもお見通しだとばかりに自称さくにゃんが萌え声でドスをきかせる。
死を予感した真太郎は、不意に簡易ステータスの存在を思い出した。
思い出すなり、慌てて目の前のイカレタ女のステータスを確認する。
『さくにゃん レベル99 狂戦士』
「嘘ッ! マジでさくにゃんなのかよッ!?」
目の前の魔法少女の格好をした謎の虐殺女の正体が、ゲーム時代での仲間の一人である事を知った真太郎が、目を丸くして驚く。
「あらあら、嬉しい事言ってくれるじゃない。じゃあ、シンタローちゃんの熱意におこたえして、この世界でも仲間になっちゃうぞっ☆」
何を思ったか、さくにゃんはめっちゃ唐突かつ、強引に仲間になろうとして来た。
「な、何も言ってない……!」
さくにゃんの強引さに、真太郎が思わず気圧されるなり、刹那が騒ぎ出した。
「そうだ! あっち行け、ババア!」
「行かないわ、ババアじゃないもん」
ババアと言われた瞬間、先程までにこやかだったさくにゃんが急に真顔になる。
「さくにゃん。キミもこっちに来ていたのか、アダーだよ、覚えているかい? 立ち話もなんだし、中に入って座ってくれ」
謎の女の正体がかつての仲間だと知ったアダーが、インヤン飯店の中にはいる様に促す。
(上手い! 店の中ならば、システムに攻撃スキルが使えないので、いきなり殺される事を避けることが出来る。流石、なつき先生ですっ!)
この状況でのアダーの冷静な立ち回りに、素直に感激する真太郎だった。
「いやよ。知らない人と同席はしないわ」
だが、さくにゃんは話に乗ってこなかった。
「じゃあ、帰れっ!」
せっかちな刹那が、アダーの思惑も考えずに感情的に怒鳴った。恐怖のあまり攻撃的になってしまっているのだ。
「ねぇ。あたしの帰る場所ってどこ?」
何を思ったか、さくにゃんが急に哲学的な事を言い出した。
「うるせぇ、知るか! とにかくもう、どっか行けっ!」
「ふぇぇ~。刹那たんがあたしの事いじめるよぉ~」
荒ぶった刹那がキレるなり、さくにゃんが両手を目の下に置いて、無駄にぶりっ子ぶって泣きまねをする。
「死ねっ! キモいんだよ、ババア! さっきからその腹立つぶりっ子は、なんのつもりだっ!」
ババアと煽られた瞬間、さくにゃんが修羅の顔になって、刹那を思いっきり蹴り飛ばした。
「オメーが死ねや、中坊ッ!」
「ひぎゃあああーっ!」
「じょ……冗談が通じる様でまるで通じない……!」
「忘れたのかい、真太郎。天上天下唯我独尊にして最強最悪の暴君、それが虐殺天使さくにゃんだよ」
ぶりっ子と狂人の間を瞬時に行き交うさくにゃんの恐ろしさを身をもって体験した真太郎とアダーが素で戦慄する。
「いや~ん! さくにゃん、そんな恐い子じゃないよっ! こんなにラブリーなあたしをそんな風に言っちゃう子は、めっ! だぞぉ☆」
何を思ったか、再びさくにゃんが可愛げな声を出してぶりっ子に戻る。
「バ……ババアなのに声が可愛い。さくにゃんは声優なのか……?」
さくにゃんのアラフォー的な見た目に似合わぬ超絶萌えボイスに疑問を感じた真太郎が、思わずそんな事を口走った。
「バカ! 何を言っているんだ、真太郎ッ! 殺されるぞッ!」
さくにゃんが襲い掛かってくると思ったアダーが、体を強張らせて叫ぶ。
「しまったッ!」
アダーの言葉で、ハッと我に返った真太郎が慌てて身構える。




