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第32話 テンションMAX! カンフーハッスル!

「刹那の言う通りだね。でも、この世界が、『勇者ゲーム』のシステム通りに動いているとすれば、ソロでいるよりも、ギルド単位で動いた方が安全なのは、自明の理だ。なんとかして、うちのメンバーを全員集めたいな」

「うん、それがいいね。うちは馬鹿揃いだけど、フルメンバーなら、たった八人で大ギルドに喧嘩売っても、余裕で勝てるぐらい強いもん」

 アダーの提案に、刹那が二つ返事を返す。


「つっても、『名無しのギルド』は、魔王討伐が終わった後に畳んじゃったからなぁ。ギルド単位で動くって言っても、システム的にギルドの形になってないから、ギルドコンテンツは利用できないですよ? パーティーはその場で組めるけど、ギルドは『勇者ギルド』にギルド申請しないといけないんですから」

 真太郎がゲームでのルールを言うなり、アダーが悩ましげな顔をした。


「あぁ、そういうシステムだったね。すっかり忘れていた。厄介な問題が早速発生だな」

「それ以前に、パーティーの最大人数が六人のルールなのに、俺達はみこちゃん入れても五人。パーティーとしても出来損ないなんだから、まずはギルド云々より、面子を集める事を考えた方がいいんじゃないですか?」

 真太郎がそう言うと、刹那が腕を組んで難しい顔をした。


「元のメンバーを集めようにも、ヴァンも仙人もジェニファー姐さんも、さくにゃんにも連絡がつかないんだ。とりあえず、パーティーとしての形だけでも整える為に、あと一人、仲間を加えてから、ギルドの事とどっか行ったヴァン達の事を考えるべきなんじゃないの?」

 真太郎の提案を聞いたアダーが少し考えてから、銀髪をかき上げる。


「……ふむ。確かに、パーティーは最大人数にしておいた方がいいな。よし、ポムから見繕って誰かを仲間に加えよう」

「出来れば、素直で優しい子にして下さいね。もうこれ以上、気が強い中二病のアホガキとか、無駄に手厳しいひねくれ者が増えるのはごめんですからね」


「おいおい、素直で優しい子なら目の前に三人もいるじゃあないか。真太郎は、一体何を言っているんだい?」

 アダーが冗談めかしてそんな事を言うと、パンダのジャスミンがワゴンを押して真太郎達の元にやって来た。

 ワゴンにのっているのは、無数のせいろだ。せいろの中には、色とりどりの点心がそれぞれ綺麗に収められている。


「うちで作った点心よ。お口に合うといいのだけれど」

 せいろを中華テーブルに並べたジャスミンが、各人の茶碗にお茶を注ぐ。

「餃子、小籠包、シュウマイに春巻きっ!」

「それに、ゴマ饅頭と杏仁豆腐もあるよっ!」

 割と食い意地が張っている刹那とみこが、美味しそうな点心を見て、つぶらな目をキラキラと輝かせる。  


「ちょっと、北京ダックがねーじゃん!」

 真太郎が馬鹿な事を言い出すなり、テンテンが即座に黙らせた。

「ある訳ないでしょ、北京ダックは点心じゃないんだから。馬鹿じゃないの」

 すると、そんな彼らを尻目にアダーが、ジャスミンに声をかけた。


「おお、凄い美味しそうじゃないか。ジャスミンさんは、料理がお上手なんだね」

「当然じゃない、料理は女のたしなみよ?」

 アダーに褒められたジャスミンが、高飛車かつ得意げに答える。

「そうそう、知ってたかしら? リアルで料理が上手い人間が、勇ゲーのシステムの補助を受けると、素人でもプロ並の料理が作れるのよォ」

 

『勇者ゲーム』のプレイヤーは、メイン職業の他にサブ職業を取得することが出来る。その中の比較的メジャーなサブ職業に、『料理人』というものがあって、料理人には『調理スキル』というものがある。

 どうやら、サブ職業が『料理人』のジャスミンは、『調理スキル』を使いこなして、こんなに美味しそうな点心を作ったみたいだった。


「成程。所で調理スキルは、ゲーム同様なのかい?」

 ゲーム同様――勇者ゲームにおける料理は現実と違って、一瞬で完成するものだった。調理台のオブジェクトに近づき、手持ちのアイテムから素材になるアイテムを取り出し、作りたい料理を指定する。すると、一瞬のうちに料理アイテムが完成する。ゲームでの料理とは、そういうシステム的でインスタントなものだった。


「ゲームみたいにアイテムを選んで、パパッと作れればいいんだけどねェ。こっちでの調理スキルは、技能っていうよりも、知識なのよ」

「知識とは?」

「なんていうか、料理の知識が頭の中にあって、料理を勝手に作ってくれ――」


「テメー! ぶっ殺してやるッ!」 

 ジャスミンが話し終わるか否かという所で、外から物騒な怒鳴り声が聞こえて来た。


「はぁ~。また馬鹿が喧嘩してるのォ?」

「ったく、馬鹿は死ねばいいのに。リアルじゃ引きこもりのネトゲ廃人が、ゲームのキャラの性能引き継いでるこの世界でいい気になって、アグレッシブなDQNになるってどういう事なのよ」

 すると、ジャスミンとテンテンが、揃ってため息をついた。


「仕方あるまい。強大な力を持てば、それを使いたくなるのが人間の性さ。しかし、本当にどこもかしこも、治安が悪くなって来ているみたいだね。まったく、こんな状況で、喧嘩なんてダサい事をするなよな」

 テンテン達に続いて、アダーが呆れ顔でため息をつく。


「ダサい、ねぇ。まぁ、あれだよ。皆、精神的に追い詰められていて、心がささくれ立ってるんだろうよ。皆が皆、俺達みたいにタフでクールじゃないんだからさ」

 真太郎がそんな事言うと、刹那が深刻な顔をして小さく呟いた。 


「追い詰められた状態が日常として定着しつつあるのが、この世界だ。早いとこギルド会談でもなんでもしてまとまらないと、本当に大変な事になるよ……」

 彼女が小さな口を閉じると同時に、窓ガラスをブチ破って何者かが室内に突っ込んできた。


「ござあああぁぁぁーっ!」

 絶叫を張り上げてテーブルの上を激しく転がるのは、イナバだ。 


「って、キモオタっ!?」

「師匠、ダイナミック入店過ぎですっ!」

 とんでもない登場の仕方をしたイナバに真太郎が声をかけるなり、窓の向こう側で何者かが怒声を張り上げた。 

  

「おい、そこのキモオタッ! あたしでシコろうなんて百万年はえーんだよ! やりたきゃ、安っぽいカキタレアイドルか、キモいアニメキャラだけにしておけやッ! テメー風情が、あたしみたいないい女相手に欲情するなんて、決して許されねーんだよッ! もし生きてたら、悔い改めなッ!」

 口汚くイナバを罵るのは、魔法少女みたいなド派手な格好をした女だ。

 

 キラキラした粒子を纏ったピンク色の長い髪の毛、フリフリのフリルがたくさんついた魔法少女みたいなピンク色のドレス、そして、あどけなく可愛らしいロリボイス。

 しかし、その顔はやけに大人びた顔つきをしている。

 罵声と共に突然現れたこの謎の女は、一体何者だ? 


「ちょっとォ! なんなのよ、アンタ! ひとん家、ぶっ壊してんじゃないわよォ!」

 ギルドハウスを壊され、更には手料理までも台無しにされたジャスミンが、魔法少女のなりした謎の女にキレる。


「あん? また変なのが出て来たわね。キモオタ侍の次は、おしゃべりパンダ? ったく、この世界はどうなってのよ? まともな人間はいないの?」

 ギルドハウスを飛び出して来たジャスミンに気付いた魔法少女のなりした謎の女が、無駄にキラキラしているピンク色の髪の毛を揺らして呆れ顔をする。


「おい、そこのコスプレ女! アンタ、良い年こいて何してんのよォ!」

「ほぇ、良い年? あたし、十七歳のピチピチギャルだよ?」

 ぶりっ子ぶる謎の女は十七歳を自称した。

 だが、その濃い目のメイクが施された顔には、どう見ても四十路近い女特有の謎の貫禄とふてぶてしさがある。


「ふざけた事言ってんじゃないわよ、どう見てもアラフォーのババアじゃない!」

 詰め寄ったジャスミンが、「ババア」という単語を口にするなり、魔法少女のなりをした謎の女が、突然ピタリと動きを止めた。


「誰がアラフォーのババアだ、死ねッ!」

 次の瞬間、ジャスミンの体が天高く舞った。


「ほぎゃああああああー!」

 というよりも、魔法少女のなりをした女に蹴り上げられた。


「ノーモーションで蹴りを放っただとッ!?」

「っていうか、あの巨体を蹴りあげるって、どんだけーっ!?」

 巨体のジャスミンを軽々蹴り飛ばした魔法少女のなりした女に、刹那とみこが目を丸くして驚愕する。 


「敵襲よっ! 総員戦闘配置ッ!」

 腹心のジャスミンがやられた事で、テンテンが戦闘態勢に入った。

 思いっきりドラを鳴らすと、それを合図にカンフー胴着を着た男や、チャイナドレスを着た女の子達が、ギルドハウスのそこかしこから飛び出して来る。


「やっちまいなァーッ!」

「「「アイヤー!」」」

 テンテンの合図と共に、五十人以上のギルメンが一斉に魔法少女のなりをした女に襲い掛かった。 


「たった一人に対して、五十人以上で襲い掛かるのかよっ!?」

 ジャスミンを一撃で排除した危険人物とはいえ、女一人を倒す為にやり過ぎだと思った真太郎が、テンテンにツッコむ。


「相手が一人だろうが、ババアだろうがなんだろうが、見敵必殺っ! この世界では油断すると、簡単にぶっ殺されるわよっ!」

 既に修羅場をくぐっていたと思われるテンテンが、この世界に対するシビアな態度を垣間見せ、真太郎を黙らせる。


「おいおい、一方的な虐殺なんて見たくないぜ……」 

 これから展開されるであろう光景を想像して、真太郎が顔をしかめる。


「三秒」

 何を思ったか、魔法少女のなりをした女が、おもむろに指を三本立てた。 

 次の瞬間、彼女に襲いかかったインヤン飯店のギルメン達の半分が、空に飛びあがった。

 というか、蹴り飛ばされた。


「二」

 女は三つ立てた指を一本折ると、その場に残像を残して消えた。

 次の瞬間、初撃を免れていたインヤン飯店のギルメン達が一人残らず、拳でぶっ飛ばされてギルドハウスの壁に叩きつけられた。


「一」

 女が最後の指を折ると同時に、蹴り飛ばされたギルメンと、壁に叩きつけられたギルメンが、ぴったりと同じタイミングで地面に落ちる。 


「な……なんだとッ……!?」

「む……無茶苦茶じゃねーか……!」 

「はわわ……! ガ、ガクブル的展開……!」

 突然現れ、嵐の様に全てを蹂躙した魔法少女の格好をした女の凶行を目にした真太郎、刹那、みこが、揃ってガクブルする。

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