第11話 尾行者の正体は……!?
「慌てて追って来たって事は、『たまたま行く場所が同じだった』とか、『たまたま後ろにいただけ』とか、じゃあないって事ですよねっ!?」
割と的確な真太郎の問いかけに、イナバはまた言葉に詰まった。
「……おそらく」
「じゃあ、こいつはもう、尾行野郎は『敵』って事でOKっスよねッ!」
イナバが何も反論してこないのを確認した真太郎は、街の入り口にさしあたると、突然体をくるりと反転させた。
「ってことは、PK野郎にPK仕掛けてもいいって事っスよねッ!」
そして即座に、尾行者に向かって猛ダッシュする。
「いや、それは違うでござるよッ! 普通にこのまま逃げればいいでござるよッ!」
イナバが慌てて静止をかけた時には、時すでに遅し。真太郎は既に尾行者に襲い掛かっていた。
「死ねや、このストーカー野郎ォォォーッ!」
「うおっ!?」
真太郎の奇行に不意を突かれた尾行者が目を丸くして驚愕する。
それと同時に、真太郎が魔法を発動させた。
「『ホールドエネミー』!」
真太郎が尾行者に拘束魔法を仕掛ける。魔法の名前を叫ぶと同時に真太郎の杖が光り、尾行者の体に光の鎖がまとわりつく。
「うわっ!? なんだコレッ!?」
光で出来た鎖に雁字搦めにされた尾行者が、パニックを起こして慌てふためく。
(とりあえず、不意打ちの叩き込みに成功。こちらの利点は人数、事前の戦闘経験、そして勝ちに乗っている運気の良さ。負ける要素はほぼゼロだ!)
奇襲の成功により、勝ちへの道を見た真太郎が、即座に攻撃スキルを発動させる。
「『ラッシュワンド』!」
スキル名を叫ぶと同時に、真太郎の持っている杖に紅い燐光が宿る。
次いで、真太郎の体が何かに導かれるかの様にスイングの姿勢を取った。
「馬鹿ッ! 止めろ、待てッ!」
「いいや、叩き込むねッ!」
尾行者が何か言ってきたが、既に戦闘状態の真太郎は即座に一蹴した。
腕を弓なりにしならせ、そのまま杖を尾行者の脳天に叩き込む。
強烈な打撃の手ごたえ。完璧な初撃をきっかけに、杖の殴打によるラッシュが始まる!
「や、止めろ! ぐはァッ!」
事前に拘束魔法で身動きを封じられた尾行者に真太郎のラッシュが叩き込まれる。
「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!」
問答無用で叩き込まれる杖による連続攻撃で、尾行者のHPがガンガン減っていく。
「ホワアタァーッ!」
そして最後に、ラッシュのフィニッシュの強力な一撃が尾行者に叩き込まれる。
それと同時に拘束魔法が解除され、尾行者が思いっきり吹っ飛ばされた。
「ござっ!? スキルを利用してカンフー映画ばりのアクションを再現したのでござるかッ!?」
「すっごーいっ! 何よ、今の動きっ!?」
杖を器用に使った杖術で、カンフースターばりの神業を披露した真太郎に、イナバとみこは動揺を隠せない。
「少林最強!」
謎の決め台詞と共に真太郎が攻撃を止める。
「映画で見た動きをトレースしてみました。師匠、今の技どうでした?」
「え? あぁ……今のって、ゲームに無いオリジナル技でござるよね? 即席で作ったらならフツーに凄かったでござる――って! 戦いの最中にはしゃぎ過ぎでござるよっ!」
「ホントだよ、シンタローさんっ! まだ敵を仕留めてないよッ!」
敵の生存を確認したみこが叫ぶなり、尾行者がよろよろと立ち上がった。
「……な、なんて……奴だ……。意味の分からん神業を披露しやがってッ!」
どうやら、真太郎の攻撃力が足りなかったらしく、尾行者にトドメを刺し損ねたようだ。
「……やはり、ゲーム時代の設定の影響で、魔法職は攻撃力が弱いな。こんな事になるんだったら、事前に戦闘職に職替えしておくべきだった」
真太郎がそんな事を言い出すなり、尾行者が両手の袖口から仕込み剣を飛び出させてゆっくりと立ち上がる。
「こ……殺す……! お前は……ぜってー、ぶっ殺すッ!」
立ち上がった尾行者は、真太郎を手負いの獣の目つきでギラリと睨みつけた。
「いい台詞だ、負けフラグを勝手に立ててくれた。もはや俺の勝ちも同然だな」
威勢のいい敵の態度に戦意を高揚させられた真太郎の口元が、思わず吊り上がる。
「まだやる気でござるか!? 相手は子供でござるよっ!」
イナバが言う通り、尾行者はかなり小柄で声も甲高く、確かに子供のように思えた。
だが、長いマフラーで顔が隠されているせいで、子供かどうか一目で確認できない。そうなると、小柄で声の高いおっさんの可能性も十分にありえる。
それに、装備は高レベル帯のものであり、簡易ステータスに表示される職業も『暗黒騎士』というバリバリの戦闘系かつ地雷プレイヤーの多い職業な事から、真太郎が警戒を解くことはなかった。
「子供だろうが、大人だろうが関係ないですよ。あっちは俺を殺す気で、俺もその気だ。両者の合意は取れています。これはゲーム本来のPvP機能に乗っ取った戦いっスよ。ならば、先手を取られた奴が悪い、戦いは常に見敵必殺&先手必勝なんですからね」
「ええっ! 人知れず『殺す覚悟』を決めていたと言うのでござるのっ!? いや、違う! まだ敵かどうかも分からないのに、やり過ぎでござるよっ!?」
「やられてからでは遅いんですよ。アイツがPKなら、街に逃げても強奪スキルやらスリスキルで攻撃してくるはずですからね。ならば、やられる前に、やらなければならない」
「確かに、それはそうでござるが……」
暴走している様に見えて正論を吐く真太郎に動揺するイナバは、ツッコミをするのがせいぜいで、彼を的確な言葉で諌める事が出来ない。
「それに俺は、師匠とみこちゃんを守らなければいけないんだ。相手が誰かなんて、いちいち調べてられませんよ」
「やだッ! こんなキモオタの拙者を守ってくれるっていうのッ!? つまり、大事な拙者を守る為に、そんなに気が立っているって事なのッ!? これはもう、許さざるを得ないじゃないっ!」
それどころか、真太郎が不意に見せた男気に、無駄にときめいてしまっている始末だ。
それを良い事に、真太郎が再び攻撃のモーションに入る。
「ものの話によれば、仕留めかけの獣が一番厄介だと聞きます。師匠、やられる前に協力奥義のツープラトンで一気に始末しましょう!」
すると、尾行者が小さな体を震わせて戦慄した。
「な、なんて奴らだ……! 子供相手に、大人二人でかかってくる気かよッ!?」
どうやら、尾行者は自称ではあるが、子供らしい。
「対人戦は、常に敵の倍の力でねじ伏せるのがセオリーだ。相手が誰だろうと全力で行くっ!」
だが、既に戦闘モードの真太郎にとって、そんな事は知った事ではなかった。
「ちょ、正気でござるかッ!? 相手は子供でござるよ、拙者は斬れないでござるっ!」
凶悪なキモオタフェイスに反して、心はイケメンな所があるイナバが子供相手の戦いを拒否する。
「師匠。心理学によれば、荒しやPKとかのイキってる系の迷惑行為は、脅迫や放火と同じで一種の『示威行為』としての性格が強い、って話を知っていますか? 要は、満たされない自尊心の暴走なんですよ。能力も無いし、性格も悪いから、誰かに褒められたり好かれたり出来ないけど、厄介な事に自意識だけは過剰だから、自分より楽しそうにしている誰かを貶めたくて仕方がない、そんな性格の悪い馬鹿が起こす犯罪――それがPKです。のぼせ上がった馬鹿には、お仕置きが必要なんですよ」
「急に語ってるけど、あの子供がPKって決まった訳ではないでござるよ!?」
謎の語りに入り出した真太郎に、イナバが果敢にツッコミを入れる。
「しっかし、PKウゼェわぁ~。明らかにキチガイ行為なんだけど、本人はちょっとふざけているだけだと思い込んでるんだろうなぁ。お前、人が嫌な思いをするのを喜ぶサイコパスだろ?」
「いきなり襲い掛かって来た狂ったサイコパスは、オメーだよッ!」
言いたい放題言われている尾行者がここでキレて、真太郎にツッコんだ。
「ったく、この世界には、人が嫌がる事をする事でしか、他人の気を引く事ができないかわいそーな馬鹿しかいないのか? リアルじゃ誰にも存在を認めてもらえない奴が、勝手知ったる勇ゲーに似たこの世界でおおはしゃぎでやるのが、迷惑行為のPKかよ。PKやるよーな奴は、やっぱ地雷しかいねーんだな」
「俺はなんもしてねーよっ! いきなり襲い掛かって来たイカれたPKはオメーだろうがッ!」
真太郎に一方的に言われるなり、尾行者が声を荒げて言い返す。
「このクソ野郎! 黙って聞いてれば、上から目線で語りやがって! ゲームにしか居場所のねー、大人になり損ねたネトゲ廃人が粋がってんじゃねーよっ!」
すると、何故かイナバが胸を押さえて苦しみだした。
「あががが……!」
大人になり損ねた三十五歳無職童貞のイナバには、キツイ一言だったのだろう。
「なんで師匠が、ダメージ食らってんの?」
「オ、オウフ……。もうダメでござる……。しばらく動けないでござるよ……」
かつて現実世界で味わった数々のトラウマがフラッシュバックしたイナバが、戦線を離脱する。
(ったく。この人は使えるのか、使えないのかが、いまいち分からん)
精神面の脆さを見せたイナバが戦えない事を察知した真太郎は、ひとまず撤退する事にした。
「……仕方ない。おい、お前。見逃してやるから、もうどっか行けっ!」
これ以上、尾行者との戦闘を継続するのは危険だ、と判断した真太郎が、尾行者を追っ払う。
既に力の差を見せつけた後だし、言う事を聞いて逃げ出すだろう。
「テメーの言う事を聞く筋合いはねーよっ! やり逃げなんてさせるかよ、クソ野郎がっ!」
だが意外にも、尾行者は逃げ出すどころか、果敢に挑みかかって来た。
気が強いのか、身の程知らずなのか分からないが、尾行者は真太郎にリベンジを仕掛けるつもりらしい。
「やめておけよ。俺達はパッと見、ただの心優しいナイスガイと絶世のキモオタだが、いざ闘いが始まれば容赦なく敵を叩き潰す修羅だ。死にたくなかったら、失せろ」
既に一回倒したも同然の尾行者相手には、必要以上に強気に出る真太郎だった。
「何が心優しいナイスガイだ! いきなり襲い掛かって来た狂ったサイコ野郎じゃねーかッ! 不意打ちなんてしやがって、この卑怯モンがッ!」
「卑怯者だと? ここは既に戦場だ……っ! 戦場で奇襲を仕掛けられたと騒ぎたてる奴がどこにいる……? むしろ、卑怯者はお前……っ! お前は卑怯にも後ろから刺そうとして、正々堂々正面から撃退された愚かな下衆っ! 卑怯な上に下衆……っ! そんな救いようのない奴を寛大にも見逃してやると言ってるのだ。大人しく散れっ……!」
真太郎に完全に格下扱いされた尾行者が悔しそうに唇を噛む。
「……ぐぬっ! なんかどっかで聞いた様なむかつくしゃべり方しやがって!」
「散れ、散れ……っ!」
完全に格下相手にいい気になっている真太郎が調子に乗り出すなり、それを諌める様にイナバが止めに入った。
「煽るのは、止めるでござるよ……シンタロー殿……」
「師匠、復活したんですか?」
「な……なんとか。それより、あやつの名前を見てみるでござるよ」
なんとか過去の呪縛から逃れて復活を果たしたイナバが、尾行者の顔の横に浮かぶ簡易ステータスを指さす。
「名前……? 煉獄刹那? 中二病がほとばしってるなぁ。そーいえば、『✝』や『X』で囲んであるのや、中二病系英単語のプレイヤーはいたけど、漢字系は初めてだな」
「いや、名前の感想はどうでもいいでござるよ。それより、あやつの名前に見覚えはないでござるか? あやつは、『煉獄刹那』でござるよ!」
イナバが妙な事を当然の様に言うが、真太郎は皆目見当がつかなかった。
「こう言えば、思い出すでござるか? あいつは……『チュウ』でござるよっ!」
「チュウって……ええっ! あの『チュウ』ッ!?」
思いがけず知人の名前を知らされた真太郎が、声を出して驚く。
「馬鹿野郎共が、気付くのが遅せーんだよっ!」
「煉獄刹那って……お前、まさか、あの『チュウ』かよっ!?」
マフラーで顔を隠す小柄なPKは、信じられない事にゲームでの仲間だった。
「ああ、そうだよ。そして、テメーはバカタローだろ? 久しぶりじゃねーか」
かつての仲間の意外な登場の仕方に、真太郎は動揺を隠しきれない。
「やだっ! なにコレ!? こんな感動の再会ってアリなの?」




