第29話 お嬢様界最強の王子様は、コンマ一秒で女を落とす
「魔王が実在する以上、『輪廻の神殿』破壊というリスクは確実に存在する、と考えていいだろう。この世界では魔王率いる魔族に負ける、それすなわち死。そして、勝ち、すなわち生。そして、魔王を倒せば、高い確率で元いた世界に帰れる。ならば、やる事はただ一つ、魔王退治だ……!」
そう言って、真太郎は話を終えた。
すると、テンテンが馬鹿にした顔つきでハッと鼻で笑った。
「ったく、何を言い出すかと思えば。いきなりひとん家にやって来て、何訳分かんない事言ってんのよ! 馬鹿じゃないの?」
「馬鹿ではない」
「は? どう考えて馬鹿でしょ。なんだっけ? 今の状況を安定化させる為に、有力ギルドをまとめるだっけ? んな事出来る訳ないでしょ、ただのネトゲ廃人が何、突然手に入れた力に舞い上がって正義漢ぶってんのよ」
テンテンが真太郎を小馬鹿にしながら、吐き捨てる。
「勘違いしないでくれ、俺は別に正義感で動いている訳じゃない。精一杯やって死ぬのならば諦めもつくが、馬鹿共のせいで訳も分からず死ぬのは勘弁ならないだけだ。今のまままとまる事すら出来ない状態が続くと、本当に死んでしまうぞ」
「死ぬのはアンタらみたいな間抜けだけよ。この街がどうなろうと、わたし達は生き残るわ。ギルド会談だっけ? そういうのは、ネトゲ廃人同士だけで楽しみなさい。わたし達は参加しないわ」
テンテンはすげなくそう言うと、真太郎との話を打ち切ってしまった。
「ふ~む……ダメだったみたいだねぇ」
すると誰かが、さりげなく会話に混ざって来た。
「人生、上手くいかないのが常さ。問題は無いよ」
「つか、あの腐れカマパンダ野郎ぉ~。人の頭、思いっきり殴りやがって……!」
「オカマは女に容赦ないって、はっきりわかんだね」
さりげなく会話に混ざって来たもう一人にリアクションを返すなり、真太郎が何かに気付く。
「って、みこちゃんと、チュウ。二人とも起きてたの?」
ジャスミンに気絶させられていたみこと刹那が、いつの間にか復活していた。
「今起きたんだよ。それより、バカタロー。テンテンが行っちまうぞ、いいのか?」
刹那に言われて真太郎は、立ち上がって部屋を出ていこうとしているテンテンを慌てて引き留める。
「テンテン、待って! 日中友好しようっ!」
「は? 意味分かんないわよ、死になさいよ」
死ぬほど冷めた目つきのテンテンが、敵意が滲む声で吐き捨てた。
「テンテン、シェイシェイ! ウォーアイニー~!」
「知ってる単語並べて、適当言ってんじゃないわよ」
「中華電影『新桃太郎』名作アルヨー!」
「別に名作じゃねーよ」
「少女戦士'88(勇闖江湖)ー!」
「しつけーよ! あと、それ二つとも台湾映画だから。わたし、香港人と日本人のハーフだし!」
「周星馳的傑作香港笑劇『食神』ー!」
「よりによってそれかよっ! 少林サッカーの方にしなさいよっ!」
などとやってテンテンとじゃれている真太郎を見たアダーが、訝しげな顔をする。
「真太郎。随分とテンテンに執着するじゃあないか、一目惚れでもしたのかな?」
どこか拗ねた様な口ぶりでアダーが言うなり、真太郎がテンテンから彼女に視線を移した。
「あのさぁ。なつき先生ってば、ひょっとして今の状況がわかってないの?」
「ん? インヤン飯店がギルド会談に不参加、って話だろ?」
「それもそうだけど、テンテンの職業は、『霊幻道士』なんだよ?」
「何の話だい? ちゃんとボクに分かる様に話したまえ」
要領を得ない話し方をする真太郎を、アダーが先生らしくたしなめる。
「つまり、『霊幻道士』であるテンテンは、死人を『キョンシー』として使役出来るんだよ。状況次第じゃ、俺となつき先生の計画の邪魔になるって事ですよ」
真太郎の言葉の意味を一瞬で悟ったアダーが、何かに気付いて目を細めた。
「……ふむ。なかなか面倒な事になったな」
「おっしゃる通り、なかなかに面倒です。ですから、テンテンを仲間に引き込んでおきたいんです。っていうか、なんの為になつき先生を呼び出したと思っているんですか? 俺じゃ奴の説得は難しいと考えて、先生を派遣したんですよ」
責める様な事を真太郎が言い出すなり、アダーはやれやれと頭を振った。
「てっきり、いつもの様に面倒事を押し付けられただけだと思っていたんだけどな」
「そんな訳ないでしょう! しっかりしてください、遊びじゃあないんですよ!」
先程自分が言った言葉を真太郎に言われるなり、アダーが面白くなさそうな顔で、軽く頭を掻く仕草をした。
「まったく、生意気な奴だなぁ。仕方ない。このまま侮られるのも癪だし、ひと肌脱ぐとするか……」
アダーは小さくそう言うと、おもむろにテンテンに声をかけた。
「恬恬。你为什么要这样鄙弃我呢? (テンテン、なんでボクを見捨てるんだい?)」
「同一件事不要让我说好几遍。(同じ事を何度も言わせないでよ)」
アダーが中国語で話しかけたのが功を奏したのか、テンテンが話に応じてくれた。
「さっきも言ったけど、うちも今は一枚岩じゃないの。自分達をまとめておくだけで精一杯なのよ、他人にまで構っていられないわ」
アダーの中国語に油断したのか、テンテンが意外な事実を漏らした。
「一枚岩ではない? キミ達、リアルでオフ会するぐらい仲が良かったじゃないか」
「なんつーか、ネットの集まりは所詮その程度でしかないつーか、関係が薄くなるつーか、とにかく耐久性と強度が無いのよね。リアルでもそこそこ仲が良かったジャスミンとかに声かけて、ここまでギルメン集めたけど、状況が状況だし、全然まとまんないのよねぇ」
一度内情を漏らすと、テンテンはため息交じりに次々と愚痴を吐いた。
「その上、ギルメンが勝手にギルドと関係ない友達呼んだり、行く場の無い野良が集まって来たりして、無駄に頭数だけ増えちゃってカオスちゃっててさぁ。今じゃ、ギルドで集まった事が良かったのか悪かったのか、わからない有様なのよ」
そう冗談めかして語るテンテンの顔は、かなり疲れているように見えた。
すると何を思ったか、アダーは慰めたりするのではなく、煽る様な事を言い出した。
「人間関係の暗黒面に動揺する暇があったら、これを機に、自分の指導者としての器を鍛えてやるぞ、ぐらいに思って、立ち向かってみたまえ。勇ゲーなんかとは比べ物にならないぐらい、最高に面白いリアルシミュレーションゲームになるよ」
「……あのさぁ。アンタって、そんなに深刻に頭悪かったっけ?」
煽りとも励ましともとれないアダーの言葉に、テンテンが思わず呆れる。
「キミは口が悪くてそっけないが、意外と友達思いの優しい子だから、きっと『誰かがやらなければいけない仕事なら、私がやる』という考えで、複雑な事情を抱えるこのギルドを、ずっと一人で切り盛りして来たのだろう?」
「はぁ? 何妄想語っちゃってんの? つか、アンタら、うぜーからもう帰れよ!」
アダーの言葉に気分を害したのか、テンテンが真太郎達を追い出そうとする。
「テンテン。この世界に来てからずっと、他人を助けてばかりで疲れただろう? これからは、ボクが君の助けになろう」
アダーはそう言うと、王子様の様な爽やかな笑顔を浮かべた。
「ふん、ばっかじゃないの! そこの馬鹿共連れて、さっさと帰りなさいっ!」
テンテンが不機嫌な態度を取るなり、アダーが彼女の手を優しく握った。
「我会来帮忙,公主。(助けに来たよ、お姫様)我来保护你。(ボクが守ってあげる)」
「でも……帰る前に、ご飯ぐらい食べてけば?」
テンテン陥落!
その間、コンマ一秒!




