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第28話 ちくしょう、またかよッ!

「……ノンケのガキは、妙な命乞いをするわね」

 オカマの勘なのか知らないが、ジャスミンは真太郎を警戒して動きを止めた。


 しばしの沈黙の後、真太郎が再び口を開く。


「この勇ゲーに酷似した世界では、肉体的に死んだとしても本質的な死は訪れない、という事を知った上で、ジャスミンさんは、俺を殺すと言っているのですか?」

「あん? 当たり前でしょ?」

 どうやら、このオカマパンダも、この世界の『死んでも生き返る仕組み』について知っているらしい。

 

「成程、生き返ると知った上で殺そうとして来た、と……。ですが、それって何回まで可能なんですか? つまり、死んで生き返る事が出来る回数ってやつは、無限なんですか、それとも一回だけなんですか?」

「はぁ? そんな事、アタイが知る訳ないでしょ」

 真太郎お得意の『思わず耳を傾けてしまう奇妙な話術』に、カマパンダがハマり出した。その証拠に、先程振り上げた拳は天に突き上げられたまま振り下ろされる事が無い。


「え? 今、知らないって言いました? 貴女、殺したら本当に死んでしまうかもしれないっていうのに、この俺を殺そうとしたって言うんですか!? パンダになったからって、人間の命を軽んじていいって訳じゃあないんですよッ!」

「な……なによォ。ちょっと冗談で脅かしただけなのに、そんな怒らなくてもいいじゃないの」

 怒気を荒げる真太郎に、ジャスミンは思わず気圧された。


「冗談には、言っていい冗談と悪い冗談があるんですよ。その分別が付けられなければ、新宿二丁目では生きてはいけないですよっ!」

「確かにそうかもねェ……でも、ここは二丁目じゃないわッ! っていうか、アンタ、なに絶妙に話を逸らしてんのよォ!」

 ジャスミンは、オカマ特有のノリの良さと冷静さを発揮して、真太郎の術中から逃れた。


「そんな事はどうでもいいんです。問題なのは、『死んでも生き返ることが出来る』この世界において、俺達が『生き返る事が出来る回数』はいかほどかという事です」

 しかし、真太郎はオカマパンダになぐり殺されるのはごめんだったので、そのままごり押しで話題を逸らし続けた。


「そんなもん、殺しまくって調べる事が出来ない以上、考えても仕方がない事よ」

「確かに。ですが、ゲームのシステム上、俺達プレイヤーは、HPがゼロになってシステム的『死』を迎えても、輪廻の神殿で生き返ることが出来ます。そして、それとは逆に、『システム的に絶対死んでしまう』事象も存在します」

 真太郎が再び、『思わず耳を傾けたくなる話術』で、さりげなく、だが、大胆に話題を変える。


「『勇者ゲーム』は、自分の操作キャラクターが死んだ場合、通常多くの場合、最寄りの『輪廻の神殿』で復活します。ですが、この『輪廻の神殿』は、ゲームシステム的に破壊される事があります――」

「魔王軍にこの街を乗っ取られると、『輪廻の神殿』が破壊されて、プレイヤーが生き返る事が出来なくなるって話でしょ? アンタの飼い主のアダーさんに聞いたわよ」

 真太郎が最後まで言い終わるより先に、ジャスミンが口を挟んだ。


「『輪廻の神殿』が魔王軍に破壊されると、プレイヤーは生き返る事が出来なくなります。ゲームで南のプレイヤータウン『ダクシン』の『輪廻の神殿』が、破壊されたのは、ご存じでしょう? この世界……世界っていうか、この場所が『勇者ゲーム』の仕組みに酷似している場所な以上、『輪廻の神殿』の破壊とそれに伴う復活停止が、この場所でも起きると考えていいでしょう」

「ちょっと! 知ってるって、言ったでしょ! なんで、アタイを無視して話を続けてんのよォ!」

 自分を無視して話を続ける真太郎の振舞いに、ジャスミンがキレる。


「大事な話なので、しっかりと自分の口で言って聞かせたかったんです。からかい半分でジャスミンさんを無視した訳ではありませんよ。怒らないでください」

 真太郎がそんな事を言ってジャスミンをなだめるなり、先程から黙って二人の会話を聞いていた眼鏡の少女が、おもむろに口を開いた。

「で、さっきからグダグダ五月蠅いおしゃべり君は、何が言いたいわけ?」

 

「単刀直入な質問は大歓迎だよ。所で、そこの眼鏡ガールは誰かな?」

 真太郎が、ゲームでは見た事のない眼鏡の少女を訝しむと、アダーがどこか悪戯っ子じみた顔で説明してくれた。


「この地味な眼鏡っ娘は、『インヤン飯店』のギルマス『テンテン』だよ」

「あ~、テンテン。テンテンね……はぁ!?」

 アダーから眼鏡の少女の正体を聞かされた真太郎が、突然目を丸くして驚いた。

 そしてすぐさま、おもいっきり毒づいた。


「ちくしょう、またかよッ!」

「あん? 『また』って、何よ?」

 急に妙な事を口走った真太郎を、眼鏡の少女テンテンが訝しがる。

「テンテン、セクシーチャイナガールじゃねーじゃんっ!」


「はぁ?」

 真太郎が妙な事を言い出すなり、テンテンが間の抜けた声を出した。


「んだよっ! 曲者揃いのインヤン飯店を束ねるセクシー美女『チャイナの雌豹・テンテン』に期待して来たってのによぉ! リアルでは、『池袋の腐女子・テンテン』ってなんだよっ!」

 テンテンは、ゲームでのチャイナドレスが似合うセクシー美女の姿とは違って、現実ではオタクっぽい見た目のイモ臭い眼鏡女だった。

 そんなテンテンにがっかりした真太郎が、思わず悪態をつく。


「はぁ!? アンタ、なんなの? 来て早々、喧嘩売ってんの!」

 地味な見た目に反して気が強いテンテンが、丸い眼鏡越しに真太郎を睨みつける。

「おいおい、なんだよ、そのイントネーションが完璧な流暢な日本語はよぉ~。あの可愛げな片言日本語どこいったのさぁ?」

「あん? あれはキャラ作ってたのよ。あんなわざとらしい片言しゃべる奴いる訳ないでしょ。ばっかじゃないの!」


「馬鹿はお前だよ。なんだよ、海賊王に続いて、こっちも残念な正体かよ! ゲームより可愛い重兵衛ちゃんとレジーナさんはどっか行っちゃうし、パンダはオカマだし、この世界、ちょっと優しさとセクシーさに欠けるんじゃないのっ!」

「きっしょ! 何言ってんのアンタ? ひょっとしてアンタ、見抜きとかする馬鹿でしょ。うわっ、ねーわ。死ねよ」


「うわ~。この気の強さと口の悪さ、完全にテンテンだわ……」

 大人しそうな見た目に反して、ガンガン毒を吐いて来るイモ臭い眼鏡女の言動は、ゲームでのテンテンそのものだった。


「ゲームならこのウザい言動も、セクシーな見た目と舌ったらずな可愛い片言で、全て萌えに転換できたのに、今や、ただウザいだけじゃん……」

 折角セクシーなチャイナ美女に会いに来たというのに、実際はただの口の悪いイモ臭い眼鏡女だったテンテンに、真太郎はがっかりが止まらない。

 すると、アダーが不思議そうな顔で彼に話しかけた。


「真太郎は、ゲームでのテンテンが、そんなに好きだったのかい?」

「別に。でも、そろそろ分かりやすいセクシー要員が欲しかったんだよ」

「何馬鹿な事を言っているんだ。しっかりしてくれ、遊びじゃないんだよ?」

 真太郎の答えを聞いたアダーは、馬鹿な教え子に呆れてしまった。 


「それより、テンテンがさっきした質問の答えを、言わなくてもいいのかい?」

 アダーがそんな事を言って、話を元に戻す。

「あぁ、そうね……。俺が言いたいのは、つまり、俺達の一種の不死状態は、永続的なものではなくて、期間限定だって事さ。元の世界に帰るとか、そんな事以前にこの世界で生き残れるかどうかについて、ここでじっくりと話そうじゃあないか」


 真太郎はそんな事を言うと、ギルド会談について話を始めた――。

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