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第26話 お願い、僕を捨てないで

「まぁ、アタシ達は、リアルでも良く山でキャンプとかしてたから、アウトドアな事には慣れてるんだよ」

 真太郎の思惑をよそに、レジーナはそう陽気に言うと、リュック型のアイテムバッグに、旅で使うと思われる道具をひょいひょいと収納し始めた。

 そのワクワクした楽しげな横顔は、遠足前日の子供の様に実にイキイキとしている。


「訳の分からない異世界に連れて来られたっていうのに、皆さん、全く悲壮感が無いですね。むしろ、この状況を楽しんでいるみたいだ」

 真太郎がそんな感想を漏らすなり、レジーナがにぱっと笑った。

「だって楽しーもんっ!」

 そう言って子供の様に無邪気に笑ったレジーナが、不意に真顔になる。


「確かに、今の状況は訳が分からないし、怖いし不安だよ。だから、街の皆が、今日を生きるので精一杯で余裕が無いのも分かる。でもさ、だからって、もう一週間だよ? 流石に、気持ちを切り替える時が来たっしょ?」

 レジーナはそう言うと、真太郎の鼻先にズビシと指を突き付けた。


「まぁ、おっしゃる通りですね。つか、指どけてくださいよ」

「でしょ! それに、剣と魔法のヒロイックファンタジーの世界観にいていいのは、かっこいいヒーローときゃわいいヒロインだけ。そして、勇者ゲームにいていいのは、勇者だけっ! そんでもって、勇者は冒険するものだーっ!」

 レジーナは威勢のいい事を言うと、元気いっぱいに拳を突き上げた。


「だけど、レジーナさんは学生で、コージさんに至ってはプー太郎でしょ?」

「誰がプー太郎だよっ! 俺は格闘家兼ラーメン屋の社長だっ!」

 心外だ、とばかりにコージが、ゴリラの様に荒ぶった。


「あ、そうなんですか? でも、ラーメン屋さんが勇者にはなれんでしょ」

「おい、冒険しないドラクエが面白いと思うのか? 村から一歩も出ない指輪物語が楽しいと思うのか? こんな辛気臭せーだけの異世界体験で満足なのか? 俺はそんなのには不満だし、これ以上のグダグダには耐えられん! 大事なのは、勇者になるかどうかじゃねー、冒険するかしねーかなんだよ!」

 コージが冷めた事を言う真太郎に熱い言葉をぶつけるなり、レジーナがそれに続いた。 

 

「そーよ、そーよっ! しゃかりきボーイの癖に冷めた事を言うなよなっ!。おねーさんが知ってるシンタローくんなら、こういう状況で真っ先に冒険に出かけると思ってたんだけどなぁ~。おねーさんは、辛気臭い子は嫌いだぞーっ!」

 レジーナはそう言うと、うりうりと真太郎のほっぺたを指で突いた。


「ほっぺをうりうりするのは、止めてください! っていうか、俺は既に出かけて、魔王にぶっ殺されたから慎重になっているんですよ」

「え、なになに? シンタローくんってば、魔王と戦ったのっ!?」

 真太郎の発言を聞いたレジーナが、目を丸くして驚く。


「そーですよ。イカレタPKと戦い、街の外でモンスターと戦い、魔王城に乗り込んで魔王と戦い、と俺はこの世界で既に修羅場をいくつも越えているんです。ただビビってしょっぱい事言っている訳じゃないんですよ」

 真太郎はそう言うと、好奇心で目をキラキラさせているレジーナに、自分の体験を話して聞かせた。 


## # ## # ##

「――以上の様に、俺には二人に負けない熱い勇者ソウルが眠っているんですよ。だから、ここまで腐る事なくやってこれたんです。その俺が、今の状況ではマズい、危険だと判断して、レジーナさんの冒険を止めているんです。少しは俺の話を聞いてください!」

 少人数ながら、この街のギルドの中でも指折りの実力者であり、各方面に顔がきくカリスマ揃いの『七☆剣』を手放す訳にはいかない、と真太郎がレジーナを説得する。


「よし、シンタローくんの話は分かったっ!」

 すると、気持ちが通じたのか、レジーナがうんうんと納得してくれた。

「よかった。分かってくれましたか」

 レジーナが納得してくれた様子を見て、真太郎は思わず胸を撫で下ろした。


「と言う訳で、おねーさん達は、いっちょ勇者になるための冒険に出て来るぜぃ!」

「はぁ!?」

 自由奔放なレジーナは、真太郎の話になど聞く耳を持っていなかった。


「全然、わかってくれてないじゃないですかっ!」

「話は分かったけど、それを聞くとは言ってない! おい、しゃかりきボーイ! ヒーラーが必要になったら声かけるから、ダッシュで来いよなっ!」

 最初から真太郎の話など聞くつもりは無かったレジーナが、ビシッと指を差して命令した。

 そんな勝手気ままで自由奔放な彼女を見て、真太郎が思わず呆れる。


「レジーナさん、無茶苦茶だよ」

 真太郎がそんな事を言うなり、ギルドハウスの前に馬車がやって来た。

 どうやら、出発の準備を終えた『七☆剣』のギルドメンバー達が二人を迎えに来たようだ。


「んじゃ、そろそろ出かけますか」

 レジーナはそう言うと、リュックサックを肩にかけて、元気にギルドハウスの外に出た。

「ちょっ! マジで出かけるんですかっ! 出かける前に、ギルド会談に出てくださいよっ!」

 真太郎が慌てて彼女の後を追う。


「そーいう楽しそーなのは、しゃかりきボーイとその愉快な仲間達だけでやりなよ。アタシ達はアタシ達で楽しい事やって来るからさ。異世界征服とか、にひっ!」

 にひっといたずらっ子ぽく笑ったレジーナはそう言うと、急に不満げに口を尖らせた。


「そんな事より~、旅ゆくアタシに、はなむけの言葉はないのかにゃ?」

 完全に冒険に出かける態勢のレジーナを見た真太郎は、もう説得は無理だと思い彼女をギルド会談に参加させるのを諦めた。


「ご武運を。そして、冒険は家に帰って来るまでが冒険です。無事に帰って来てくださいね」

「なぁにそれ~? いやだなぁ~、子供の遠足じゃないんだよ~?」

 真太郎のはなむけの言葉を聞いたレジーナが、思いのほか楽しそうに笑う。


「ま、いいや。サンキュ、良いはなむけの言葉だったよ。シンタローくんも、ギルド会談頑張りなよ~。あっ、そ~いえば、アダーってこっちに来てる?」

「ん、アダー? 来てますよ」

 真太郎の言葉を聞くなり、不意にレジーナが真顔になった。


「ふ~ん、そっか。なら、あの子の事はアイツに任せちゃおう。これで心残りは無くなったね。うんうん、アタシって運がいいなぁ~」

「アダーが、どうかしました?」

 何やら独り言を呟くレジーナを訝しんだ真太郎が、それとなく尋ねる。


「ん~ん、別に。そうだ、このギルドハウスは留守の間好きに使っていいよ、つか留守番してて。そいじゃ、縁があればまたお逢いいたしましょう~」

 レジーナは一方的に要求と別れを告げると、颯爽と馬車の荷台に乗り込んだ。

「いってきーまーすー!」


 馬車が動き始めるなり、真太郎が慌てて彼女の後を追った。

「レジーナさん! お願い、僕を捨てないでー!」


「あはは、バーカ! もー手遅れだよー!」

 冗談めかした真太郎の呼びかけに、同じように冗談めかして答えるレジーナが、バイバイと手を振ってくれた。 


「あーあ、行っちゃった……」

 なんとなく振られ気分になった真太郎がしんみりしながら、馬車を見送る。

 すると、ギルドハウスから荷物を大量に持ったコージが飛び出して来た。


「えっ!? なんであいつら全員いなくなってんのッ!?」


「あれ? コージさんまだいたんすか?」

「うんこしてた」

「聞いてねーよ」

 どうでもいい事を決め顔で言って来たコージに、すかさずツッコミを入れる。


「おいィィィー! 俺を置いて行くんじゃねぇぇぇー!」

 真太郎のツッコミを無視して駆け出したコージが、全力疾走で馬車を追いかけてその場からいなくなった。


「う~ん。やっぱりゲームでも馬鹿だった人は、リアルでも馬鹿なんだなぁ~」 

 などと言いながら、コージの姿を見送る真太郎だった。


 レジーナを乗せた荷馬車とコージの姿が見えなくなるなり、真太郎はふぅとため息をついた。


「やれやれ、『七☆剣』の勧誘に失敗、と。ま、あの人たちは、いたらいいな程度だったから、別にいいんだけどね」

『七☆剣』の勧誘に失敗した真太郎は特に気にも病んでいない様子でそう言うと、気を取り直して次の目的地に行く事にした。


「これで俺の仕事はおしまい。とりあえず、皆と合流するか」

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