第25話 ゴリラが語るこの世界の移動手段について
「ほほぅ~。しゃかりきボーイは、この世界でもしゃかりきだねぇ~」
真太郎の話を聞き終わったレジーナが、感心した様な声を漏らす。
「でしょ? レジーナさん達も、ギルド会談に参加してくれません?」
レジーナの反応から話がまとまると思った真太郎が、思わずほっとする。
しかし、その期待はあっさり裏切られた。
「う~ん。色んなギルドの皆で集まって、ワイワイお話しするのも面白そーだけど、今は冒険の方が百倍面白そーなんだよねぇ~」
「冒険?」
予想と違う答えが返ってきた真太郎が、思わず聞き返す。
「そ、冒険。もう一週間もここで、いつかお家に帰れるかも~とか思って、じーっとして過ごして来たけど、も~我慢の限界っ!」
「我慢の限界って? この世界にいる事がですか?」
「それもそうだけど、この街で辛気臭くしているのが、だよ! だって、ここは折角の異世界だよっ? 今のアタシ達は、剣と魔法が自由に使えるんだよ? 広大な大地! 巨大なドラゴン! 素敵なお姫様と王子様っ! おまけに、金銀財宝お宝ざっくざくっ!」
ノって来たレジーナが、身振り手振りを交えてオーバーリアクションで語る。
「アタシ達が今いるのは、そんなワックワクドッキドキがてんこ盛りのファンタジー世界なんだよっ!? それなのに、み~んな辛気臭い顔して泣き言ばーっかりっ! もうほんっと! うっんざり!」
欲求不満顔のレジーナはそう言うと、斬馬刀を景気よく高く掲げた。
「だから、アタシ達は、この辛気臭い街を捨てて、冒険に出る事にしたのさっ! だって、アタシは異世界で冒険する為に勇ゲーやってたんだからねっ!」
レジーナが元気いっぱいにそう言うなり、真太郎は困った様な顔でコージを見た。
「え~と。つまり、『七☆剣』は、これから街を出て、冒険に出かけるって事ですか?」
真太郎の問いかけに、コージがコクリと頷く。
「そうだ。この街はクソだからな、ここにこれ以上いるとマジで腐っちまう。俺達は腐るのはごめんだ。腐るぐらいなら燃え尽きたい。だから、冒険に出かけるんだよっ!」
「はぁ、そうですか……。でも、一体どこへ?」
コージ達のテンションの高さについていけない真太郎が、気の無い返事を返す。
「手始めに、西のプレイヤータウン『ガルブ』に行こうと思う」
この世界――『勇者ゲーム』の世界には、多くの大陸と国があるが、日本サーバーは大きく四つの国に別れている。
北の『セーヴェル』、南の『ダクシン』、東の『オリエンス』、そして西の『ガルブ』だ。
勿論、国はこれだけではなく、他にも多くの国があり、更に無数のあるいは村や町がある。
だが、その中でも先にあげた四大都市は別格だ。
『セーヴェル』、『ダクシン』、『オリエンス』、『ガルブ』。
この四つの街は、プレイヤーがゲームの開始地点として選ぶ都合上、あらゆる便利な商業施設が揃っていたり、周辺のフィールドにいるモンスターも非常に弱く設定されていたり、と初心者が困らない様に非常に親切な設定になっている。
更に、プレイヤーが死亡した時は、最寄りの大都市の『輪廻の神殿』で復活する事からも判る通り、勇者ゲームではこの四つの街が活動の拠点になるようにデザインされているのだ。
そういった事から、コージたちが西の『ガルブ』を目指すのは、妥当な考えと言えた。
「悪い考えじゃないですね。でも、今は『ワープゲート』が使えないはずですよね? まさか、徒歩で行くつもりですか?」
四大都市は、互いに『ワープゲート』という特殊なゲートで接続され、自由に行き来することが出来る。
だが、それはゲームでの話であり、このリアル版勇者ゲームの世界では今の所、ワープゲートは使えない。
「歩きで旅をする馬鹿がいるか、馬で行くに決まってんだろ!」
「いや、俺が言いたいのは、自力で移動するのかどうかって話ですよ」
何故かコージに軽くキレられた真太郎が、若干イラつく。
「自力で移動するしかねーだろ。勇ゲーには基本、移動魔法はねーし、今は『ワープゲート』が使えない。『妖精の抜け道』は何個か見つけたが……怖くて使えん」
『妖精の抜け道』は、フィールドやダンジョンに点在する瞬間移動装置だ。
抜け道とは言っても、見た目は、巨大な石やキノコが円上に配置された魔方陣か、ゲート状に編まれた草木の形をしている。
この『妖精の抜け道』は、離れた位置にある『妖精の抜け道』同士を結んでいる移動用ギミックで、便利な移動魔法がほぼ無い勇ゲーにおいて非常に便利なギミックなのだ。
だが、性能に少々癖があった。
というのも、月の満ち欠けや妖精の機嫌などの影響を受けて、目的地点が常に変動する仕様になっている為、少々使い勝手が悪いのだ。
使いこなせば、短時間でどこまでも遠くに行ける事が出来るが、使用するタイミングを間違えると、何処へ飛ばされるか判らない厄介な代物なのである。
「確かに、ゲームなら出たとこ勝負も十分に可能だけど、今の状況では危険過ぎて使えないですね。攻略サイトが見れればいいんだけど……」
真太郎は厄介そうに言ってから、何かに気付いた。
「でも、エルフを仲間にすれば、『妖精の抜け道』の行先を正確に知ることが出来る様になりますよね?」
「そりゃ、ゲームでな。だが、ここはゲームじゃねー。つかそもそも、この世界にエルフがいるのかどうか分からん」
「ま、そりゃそーですね。つか、馬でガルブを目指すとなると、どれぐらいかかるんですか?」
「ゲームだと一週間だったから、こっちでも一週間位じゃねーの?」
コージは雑な見た目通り、性格も滅茶苦茶雑だった。
「一週間? 下手したら一ヶ月とかかかるんじゃないですか? モンスターや野盗が出て来る上、途中には結構な難所も幾つかあるはず。そもそも、舗装された道なんてないでしょうから、普通に歩くだけでも大変ですよ。冒険だ! とかはしゃいでふらふら行ける場所じゃ無いですよ。考え直した方がいいんじゃないですか?」
雑すぎるコージ対して、真太郎は割とまともな事を言い出した。自分より、馬鹿な人間と相対する事で自然と冷静になれるのだろう。
「おいおい。俺達はゲームでは、海外サーバーまで出張って暴れ回ってたんだぜ? それに比べれば、ガルブなんて大した距離じゃねーよ」
現在の『怪異現象』が起きる前、勇者ゲームーのプレイヤー達は日本サーバー内だけでは飽き足らず、未知の冒険を求めて手近の韓国サーバーや中国サーバーは勿論、北米サーバーやロシアサーバーまでを自由自在に駆け巡っていた。
『妖精の抜け道』は、攻略サイトでタイムテーブルさえ確認すれば、遠く離れた各地に一瞬で辿り着ける、非常に便利な交通機関だったからである。
「そりゃそーですけど。でも、ゲームとは違って、今は寝泊りする必要があるんですよ。モンスターがうろつく危険な外の世界で、野宿でもするんですか?」
『勇者ゲーム』がゲームであった当時には、野営という概念は存在しなかった。どんな遠隔地に行ったとしても、ちょっと安全な場所を見つけてそこでログアウトすれば、ゲームを終えて疲れを癒して、またゲームを再開すればいいだけだったからだ。
だが、今はゲームではなく、リアルなのだ。そういう訳にはいかない。
「ゲームに、テントやら火おこしの道具なんかが野営キットがあっただろ? アレを使うから問題ないぞ。それに俺達は、この世界に来てから既に何回も街の外で野宿してるから、慣れたもんだ」
「マジっすか!?」
予想以上にこの世界に適応していたコージに、真太郎が素で驚く。
(やっぱりゴリラだから、野生に帰るのが早いんだろうか……?)




