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第24話 しゃべるゴリラとセクシーお姉さん

「一人でいると、一層状況の悪さが身に染みるな……」

 仲間と離れ、一路『七☆剣(しちせいけん)』の元へ向かう真太郎が、ため息をつく。

 なんとなくオリエンスの街が、殺気立っているように思えたからだ。


 買い物横丁の大市場には、ゲームと同じように数多くの露店が並び、それなりに人出もある。

 あるのだが、市場の賑やかさとは程遠い、殺伐とした雰囲気が満ちていた。


「あぁ……家に帰りたい……」

「なんでこんな事になっちゃったの……?」

 というのも、悲観に暮れ警戒心に満ちたプレイヤー達が、お互いに言葉を掛け合うこともなく、市場をあてども無くウロウロと徘徊しているからだ。


 更には、不安と苛立ちからくる小競り合いも散見された。

「てめぇ! NPCの癖に生意気なんだよッ!」

「お前、ゲームで金とアイテム溜めこんでたよな? そいつを寄越しやがれッ!」

 等々、現地のNPC相手に喧嘩を売ってみたり、ゲーム時代の遺恨を巡って争ってみたり、と一緒にこの世界に転移して来た他プレイヤー達は、なんだかとってもしょっぱい事になっている。


(やっぱり、治安が悪いなぁ。これは、元の世界に帰れない苛立ちと不安が原因だろうけど、それと同じぐらい、何をしたらいいのかが分からないから、色々と感情とエネルギーが空回りしちゃっている、ってのもあるんだろうなぁ……)

 街に溢れる荒んだプレイヤー達を横目で見ながら、真太郎が再びため息をつく。


(異世界転移モノってのは、エンタメだと楽しそうに描写されているけど、実際その状況になってみると、ちっとも楽しくないなぁ。かなりホラーな感じだしね)

 そんな事を思ってげんなりしながら、街の人々の話に聞く耳を澄ましてみると、面白い事に気が付いた。


「うぅ……! なんで何も悪い事してない私が、『怪異現象』なんかに巻き込まれなきゃなんないのよ……?」

「この『怪異現象』は、一体いつになったら終わるんだよォーッ!」

 どうやら、街にいるプレイヤー達は、現在のゲームの世界に転移してしまった状況の事を、『怪異現象』と呼んでいるらしい。


 ハッキリとした原因も理由も分からない状況なので、無難な『怪異現象』という言葉が定着したのだろう。

 あまりにも現実感の無い『異世界転移』という言葉よりも、『怪異現象』という何かに因果関係がありそうな言葉を付ける事で、無意識的に認知的不協和を防ごうとしたのかもしれない。

 

 転移や召喚という言葉を使ってしまうと、頭が狂ってしまった様な気分になるし、何よりもう二度と元いた世界に帰れない様な気持ちになってしまう。

 だが『現象』という言葉ならば、いつかは収まるという期待が持てそうだ。それになにより、『異世界転移』なんて言葉よりも、ずっと科学的かつ常識的な響きがある。人間、こういう時程、無意識のうちに精神的防衛本能が働くのだろう。人間の心は、そう簡単に壊れないように出来ているのだ。


(という事は、まだまだ立て直しは充分に可能って事だよな)

 そんな感じで街を歩いているうちに、目的地である『七☆剣』のギルドハウスに到着した。


「こんちわー。シンタローですけど、コージさんいますか~?」 

 真太郎が挨拶しながら、質素なギルドハウスの開け放たれた扉を覗き込む。

 すると、何者かと目が合った。


「おっ! しゃかりきボーイじゃねーか! お前もやっぱり、こっちに来てたのかっ!」

 そう言って豪快に真太郎に声をかけて来たのは、レトロRPGの勇者みたいな格好をしたゴリラだった。


「ええっ、ゴリラっ!? ゴリラが異世界転生っ!? どうゆうことッ!?」

「おい! 失礼な事言うんじゃねーよ! 誰がゴリラだよッ!」

「ヒィ! ゴリラがしゃべったっ!?」

 レトロRPGの勇者みたいなカッコをしたゴリラが、人語をしゃべった事に真太郎は驚きを隠しきれない。 

 

「当然の様にしゃべるわ! 俺は、ゴリラじゃねーからなっ!」

 ゴリラがそんな事を言うので、真太郎は警戒しながらゴリラの簡易ステータス画面を恐る恐る確かめてみた。


『コージ レベル99 守護剣士』 


「あれ? マジでコージさんなの?」

 目の前のゴリラが探していた人間だと知った瞬間、真太郎が訝しげな顔をする。

「はぁ!? なんなのお前、マジで失礼な奴だなっ!」

 ゴリラが拳を振り上げ、威嚇行動をとった。

 

「ああっ、すいません! この世界にまだ慣れてなくて、モンスターと人間をよく見間違えたりするんです。早とちりとはいえ、先程の無礼をお許しください!」

 ゴリラがめっちゃキレているので、すぐに取り繕って謝る真太郎だった。


「え? そうなの? じゃあいいけど」

 ゴリラは、意外と話の分かるいい奴だった。というか、単純な馬鹿だった。


「俺の様なイケメンをゴリラと間違えるとか、しゃかりきボーイは相変わらず、ふざけた奴だな。次にゴリラとか言ったら、月までぶっ飛ばすぞ!」

 そう言ってコージは、手に持っていたバナナらしき果物を持って凄んで見せた。


「すいません、今後は気を付けます。それにしても、コージさんったら、よく見たら筋肉ムキムキでハリウッドのアクションスターじゃないですか! スゴイなぁ、かっこいいなぁ!」

「どうした? しゃかりきボーイは、急に眼が良くなったのか? がっはははは!」

 見え透いたお世辞を本気で喜ぶその単細胞な言動から、真太郎は、目の前のゴリラがゲームで見知っているコージだと瞬時に理解した。


「で、しゃかりきボーイは、このハリウッドスターの俺様に何か用か?」

 良い気になっているコージが機嫌を直して会話を振って来るなり、真太郎は早速本題を切り出した。

「実は、『ギルド会談』という物を開催しようと思ってまして――」


## # ## # ##


「がっははは! しゃかりきボーイは、相変わらず面白い事を考えるな!」

 話を聞き終わったコージが豪快に笑いながら、そんな感想を漏らした。

 これは好感触だ、と思った真太郎が、早速参加の同意を取り付けようとする。

「面白いでしょ? コージさん達も参加してくれま――」


「おやおや~? こいつは珍しいねぇ、お客さんがいるぞ~」

 真太郎が本題を切り出そうとすると同時に、そんな声が割って入って来た。


「おーっ! しゃかりきボーイじゃないかっ! あはは、元気してるかー?」

 元気いっぱいに登場した金髪の女が、後ろからガバッと真太郎の首に手を回して抱き付いた。

「レ、レジーナさん!?」


「そうだよ~、レジーナさんだよ~」

 驚く真太郎に陽気な笑顔を振りまくのは、レジーナ。勇ゲー随一の超武闘派の傭兵ギルド『七☆剣』の創設者の女傑だ。 

 レジーナは、セミロングヘアの金髪と、日本人離れしたエキゾチックな容貌、そして、はち切れんばかりの豊満な体を持つ、明るくエッチな雰囲気のお姉さんだ。

 彼女は、登場の仕方からも分かる通り、大変人懐っこく陽気な性格で誰からも好かれる人気者である。


「ちょっと! いきなり抱き付かないでくださいよっ!」

「なんだい? お姉さんの事が嫌いかい?」

 軽装の皮鎧を着ているとはいえ、レジーナの豊満すぎる胸は確かな存在感をアピールしてくる為、真太郎は思わずドギマギしてしまった。


「ん~」

 すると、何を思ったかレジーナが、真太郎の事をじぃ~っと見つめた。

「シンタローくんって、リアルだと真面目系クズって感じの見た目だねっ。あはっ!」

 しばらくの沈黙の後、レジーナがいきなり失礼な事を言って笑った。


「はぁ!? いきなり、何? つか、真面目系クズって何ですか? 人の事を、清純派AV女優みたいに言わないでくださいよ」

「あはは、いい返しじゃん~。おねーさん、嫌いじゃないよ」

 真太郎をからかったレジーナがフレンドリーに笑って、彼の肩をポンポンと軽く叩いた。


「しっかし、線が細いねぇ~、シンタローくん。そんなんじゃ、この異世界でサバイバルできないぞぉ~。お姉さんが、いっちょ男前に鍛えてあげよっか?」

 レジーナはそう言うと、手に持っていた巨大な斬馬刀をパシンと打ち鳴らした。

 そんな彼女をよく見ると、服装以外はしっかりと装備を整えている事に気が付いた。


「レジーナさん。これから、どこかへ出かけるんですか?」

 真太郎が、レジーナの足元に転がる大きなリュックサックに目をやりながら、何気なく尋ねる。


「そだよ~」

 レジーナの言葉を聞くなり、これはマズい、と真太郎が慌てて彼女にもギルド会談の話を聞かせた。

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