第22話 もののけと忍者
「――そんな訳で、天下の一大事の今、俺は天下泰平の志の元、有力ギルドを回って有志を募っているのでござるよ、にんにん」
ギルド会談についての話を終えた真太郎が、そう言って話を締めくくる。
「……成程。『名無しのギルド』の『狂気の扇動者(クレイジー・アジテーター)』が、とうとう動き出したと言う訳でゴザルなニンニン」
真太郎の話を聞き終わった忍蔵が、腕を組んでううむと唸る。
「あっ。なんか、あんまり乗り気じゃないね。今の話に何か問題でもあったかな?」
「いや、そう言う訳ではゴザらんよ。だが、実は某達も、中小ギルドをまとめようとしたのでゴザルが、いかんせん上手い具合にまとまらなくってなぁ……」
忍蔵が渋い顔でそう言って、言葉を詰まらせる。
「その割には、ここにはいっぱいお仲間がいるみたいだけど?」
数十人規模で炊き出しの周りに集まる人々を眺める真太郎が、そんな事を言う。
「ここにいるのは、仲間というか、ゲーム時代の某達のギルドのお得意様とか、街を彷徨っている所を保護した初心者達でゴザルよ」
「成程ねぇ。でも、ゲームでは初心者救済は『福音騎士団』の仕事だよね?」
『福音騎士団』――『勇者ゲーム』の世界の神である『運命の女神』の使徒であり、この世界の平和維持と勇者ギルドの運営を司っている組織だ。
ゲーム本編では、チュートリアルや勇者ギルドの利用で、誰しもが一度は世話になる存在である。
それは、ゲームが現実になったこの世界でも同様だろう、と推測される。
「初心者であれば、敵か味方か分からないにんぞーちゃん達を頼るよりも、『福音騎士団』に頼るのが道理のように思えるけど」
真太郎がそんな疑問を口にすると、忍蔵がため息をつきながら頭を振った。
「現在『福音騎士団』本部は、もぬけの殻でゴザルよ。それに『勇者ギルド』も閉まっているでゴザル。よって現状、初心者達の寄る辺は、仲間や友達、元いたギルドを除けば、某達の様なサポート系ギルドだけでゴザルよニンニン」
「ふ~む。大ギルドは人が多いから、新たに初心者を受け入れる余裕が無いだろうし。リアフレで固まっている事が多い中小なら、部外者お断りは当然。かといって、見ず知らずの野良同士でまとまっているのも怖い……」
「となると必然的に、自分と同じような人間が続々と集まっている某達のギルドに身を寄せる事になるのでゴザルよニンニン」
ため息交じりにそう言う忍蔵は、覆面越しにでも分かる程、疲労が見て取れた。
「もしかして、自分のキャパを超えた人間集まっちゃって参っちゃってる系?」
真太郎が忍蔵の心中を察した様な事を言う。
すると、忍蔵がため息をついた。
「ゲームだったらまだしも、今は現実でござるからなぁ。三日目ぐらいまでは、殆ど身内か顔見知りしかいなかったから、上手くやれたでゴザルが……流石にこう人が多くなってくると、意思の疎通をするだけでも苦労が多くて……ニンニン……」
そう語る忍蔵の疲れた顔をちらと見るだけで、真太郎は彼の苦労が手に取る様に理解出来た。
そんな真太郎の態度を察したのか、あるいはただ単に話を聞いて欲しかったのか、忍蔵が堰を切ったように話し始めた。
「それに、ゲームの世界に取り込まれてからもう一週間でゴザろう? 倉庫にあった食料の備蓄の底が見えて来て……」
「現地の食材も食べられるでござるよ」
不意に話に混ざって来たイナバが、そんな事を言う。
「確かに。だが、食べる事が出来るとはいえ、安全かどうかは分からないでゴザルよ。その点、ゲーム時代に手に入れた食料は、今の所安全でゴザ……ニンっ!?」
イナバに気付いた瞬間、忍蔵が変な声を出して驚く。
「「ぎゃーっ! もののけぇぇぇー!」」
忍蔵に遅れてイナバに気付いた双子忍者達が、大げさなリアクションで騒ぎ出す。
「どりゃー、成敗ですよーっ!」
「死ぬがいいですよーっ!」
双子忍者は叫び終わるなり、素早く手裏剣を取り出してイナバ目がけて投げた。
「ござッ!? 危なスっ!」
イナバが間一髪の所で手裏剣を避けるなり、双子忍者が大声で騒ぎ出した。
「大変ですよーっ! 飢えた落武者が、食料を求めてやって来たですよーっ!」
「大変ですよーっ! 飢えたキモオタが、可愛いうちらを襲いにやって来たですよーっ!」
イナバのキモオタ120%の外見を見た人々が、もうすっかりおなじみになったリアクションを取る。
「こらこら、子供達、静かにしなさい。それより、忍蔵ちゃん。良く分かんないけど、死活問題である食料の事とかも、ギルド会談で話すと思うから、とりあえず顔だけでも出してよ」
だが、真太郎は流石にもういちいち説明するのがダルくなってきていたので、普通に双子忍者をシカトした。
「いや、何普通に話を続けているでゴザルか!? シンタロー氏、そこの凌辱モノのエロゲの主人公みたいなキモオタは、一体何奴でゴザルかニンニン!?」
人かもののけか判断のつかない強烈な外見をしているイナバを警戒する忍蔵が、必死の形相で尋ねる。
すると、真太郎が面倒臭そうに答えた。
「あれは、オメーの親友のイナバだよ」
「何ニンニンッ!?」
吐き捨てる様に発せられた真太郎の言葉を聞いた瞬間、忍蔵が我が耳を疑うかの様な顔で驚愕した。
「俺が思ってた異世界転移ってのはさぁ、もっと夢と希望とお色気に溢れてドキドキとワクワクが爆裂する素敵なファンタジーだった訳よ。なのに、蓋を開けてみたら、現実以上に上手くいかないしょっぱい生活が待ってて、その上、のぼせ上がった馬鹿に始終うんざりさせられるだけ。なぁ、異世界での冒険って、こんなもんなのか?」
「え? 急に何でゴザルのニンニン!?」
突然訳の分からない事を言い出した真太郎に、忍蔵が戸惑いを覚える。
「なんか、チェックのシャツが、元はイケてるサーファーやグランジロッカー達のファッションだったのに、今やダサいキモオタのファッション扱いとなっているのと同種の悲しみを覚えるよ」
「多分、なんか意味がある事を言ってるんだと思うけど、スゲーたとえが分かり辛いでゴザル! っていうか、意味が分からんでゴザルよニンニンっ!」
真太郎お得意の思わず耳を傾けたくなる戯言に忍蔵がツッコみを入れる。
すると、真太郎は肩をすくめて一方的に話を打ち切った。
「分からなきゃ、分からないでいいよ。俺も言ってて良く分かんないし。それより、双子忍者も、ギルド会議に来いよな。来たら、お菓子やっから」
真太郎が、完全に馬鹿な子供に対する態度で、双子忍者に上から命じる。
すると、プライドを傷つけられた双子忍者達が、イナバから彼に視線を移して荒ぶった。
「お菓子なんかでつられねーですよっ!」
「そうだ、そうだっ! チンピラヒーラーの言う事なんか聞かねーですよっ!」
荒ぶる双子忍者が生意気な事を言い出すなり、真太郎が語気を強めた。
「四の五の言わず来い! 来ないと、そのキモオタのもののけが、ずっとお前らに付きまとうぞ! お風呂で頭洗っている時、後ろに立っていたりするぞっ!」
「「ひぃぃっ! そんなの悪夢ですよーっ!」」
真太郎の脅しを聞いた双子忍者が、恐怖のあまり体をすくみ上らせる。
「それが嫌だったら、ギルド会談に来い。俺も忙しい、お前らごときにこれ以上時間を割けん。それでは、ドロンでござるよニンニン!」
一方的に要求を押し付けて去ろうとする真太郎を、忍蔵が慌てて引き留める。
「ちょっと待つでゴザルよニンニン! 何もかもが一方的過ぎるでゴザル!」
すると真太郎は、忍蔵を無視してイナバに声をかけた。
「師匠。ここに残って、ござる仲間のにんぞーちゃんを説得してください。俺はその間に、コージさん達を説得してきます」




