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第1話 女神にぶっ飛ばされて異世界へ

「人生、詰んだッ!」


『勇者ゲーム』というMMORPGにドはまりして、大学受験に思いっきり失敗した暁真太郎は、現在、失意のどん底にいた。


「受験日当日の明け方まで、ゲームにのめり込んでいたせいで、本命はおろか、滑り止めまで落ちる始末……! なにやってんだよ、俺っ……!」

 受験の息抜きに始めたゲームにハマるあまり、受験自体を台無しにした真太郎は、まさに救いようのないバカだった。


「ネトゲにハマるとリアルが崩壊するって話は、よく耳にしてたけど、まさか自分の身に降りかかるとは……俺はネトゲ廃人じゃねーのに」

 などと言いつつ、パソコンを起動させ、即座にゲームにアクセスする真太郎は、立派なネトゲ廃人であった。


「受験に落ちてから、しばらくやってなかったけど、浪人確定だから、もういいや……」

 やけっぱちな事をのたまう真太郎だったが、ロード時間を有効利用して、てきぱきと飲み物を用意し、カップ麺にお湯を注ぐ姿は「最初からやる気満々じゃん、お前」といった有様だ。


「さて準備万端。これで十時間は戦えるぜ」

 長時間プレイに備えて万全の準備を終えた真太郎が、意気揚々とゲームを始める。

 だが、すぐに訝しげな顔をして動きを止めた。


『あたらしい冒険をはじめますか?』


「は? えっ、なにコレ!? まさかデータが消えたのか……?」

(受験に失敗したうえ、データまで消えるとかなんの罰ゲーム!? 神は俺を嫌ってるの!?)

 嫌すぎる想像が頭をよぎったが、すぐに画面下にアップデートの文字を発見して、安堵する。


「なんだよ、ビビらせんなよ! つかなんで、レベルカンストさせたのに、また新しくはじめなきゃなんねーんだよ。アプデならそのままデータを引き継げよ、アプデの度にデータが初期化って、どんなクソ仕様だよ! こんなもん『いいえ』に決まってんだろ!」


『あたらしい冒険をはじめますか?』

 はい

→いいえ


 ゲームに腹を立てた真太郎が舌打ちするなり、画面に新しい文字が表示された。


『「いいえ」? なんで、「いいえ」なの? あたらしい冒険だよ? なんで、「いいえ」なの? 間違って「いいえ」を選んだのかな? 確認の為、もう一度聞きます』

 

「はぁ? 何これ、うぜーわ。親しげな感じがうぜーわ」

 画面に表示される字面の妙な感じに気付いた真太郎が訝しげに眉を寄せるなり、再び選択肢が表示された。

 

『あたらしい冒険をはじめますか?』

 はい

→いいえ


『いやいやいや、「いいえ」じゃねーよ! え、え、え? なんでよ、何いじわるなの? 天邪鬼なの? やだ、怖い! 気の迷いかもしんないから、もう一度聞くよ。次はマジで答えてね、あたし、そういう冗談嫌いだから!』


「なんだよ、このテンション。腹立つな~、何この感じ。仕様なの?」

 運営側の茶目っ気だと思われるテキストに、真太郎が若干のイラつきを覚えるなり、三度選択肢が表示された。


『あたらしい冒険をはじめますか?』

 はい

→いいえ


『は? 何言ってんの、お前? 馬鹿なの? 戯れはいい加減にしろよ! 「はい」を選ばないと何も始まらないよ? お前が、一緒に冒険した仲間はみんな、あたらしい冒険をはじめてるよ? お前だけだよ、何時まで経っても同じ場所に留まり続けてるのはさァ! いい加減に始めようぜ、ネトゲ廃人ッ!』


「はぁ? 知らねーよ。これは受験にしくじって、みんなと同じように人生を先に進めなかった俺に対する嫌味なの!? 何この的確な嫌味! ゲームの癖にムカつくわ!」

 こちらの事情を知った上でおちょくっているのか、とも思える画面の文字を読んだ真太郎が思わずキレる。

 すると、またもや選択肢が表示された。

 

『冒険をはじめなくてもいいですか?』

→はい

 いいえ


『はい、ひっかかったー!』

 文字がまるで喜びを抑えきれないとばかりに、チカチカと激しく点滅する。


『って、ひっかかってないっ! どうしてだよ!? なんなの、この小癪さ? なんなの、この束の間の優越感が、一瞬にして敗北感に変わった故の悔しさと切なさはっ! 色んな感情がないまぜになって昂って、あたしもう泣きそう……』

 

「んだよ、これさっきから。気持ちわりーなぁ」

 先ほどから妙なテキストを表示し続けるゲームに、真太郎が不信感を抱き始めるなり、突如PCの画面から閃光が迸った。

 刹那、視界が眩い光に包まれる。

「うわっ!」

 突然の閃光に目がくらんだ次の瞬間、真太郎の視界が白一色に塗りつぶされた。

 

 目を瞑るまでは確かに自室にいたはずにも関わらず、何故か今いるのは自室ではなかった。

 見えるのは、上も下も右も左も前も後ろも、染みひとつ、曇りひとつない純白に満たされた空間だ。 


「な、なんだこれ……?」

 異様な状況に気付いた真太郎が、辺りを見回す。

 すると、遠くの方に何かが見えた。


 一切の色彩が無い虚無的な白さに支配された空間に突如として現れたのは、神々しい後光を纏った女神の様な美女だ。

 夜明けの海の様に眩く輝く青色の髪、一片の穢れもなく白く透き通る柔肌、見るもの全てに慈しみを注ぐような優しい瞳――。


「ご機嫌よう」

 神話を題材にした絵画に描かれる女神の様に美しい女は、現れるなり真太郎に優しく微笑みかけ――


「このダボが、死ねやオラァァァー!」

 そして、ドロップキックを食らわせた。

「ぐはぁッ!?」

 ドロップキックの直撃を受けた真太郎が血反吐を吐いてぶっ倒れる。


「オラァ! テメーいい加減にしろよ! 女神相手に舐めた真似しやがって! カマドウマに転生させんぞッ、この負け犬のネトゲ廃人がッ!」

 女神のごとき美女は、荒ぶる邪神の様に邪悪な気を纏って怒鳴り散らすと、足元に転がる真太郎に追い打ちの蹴りを食らわせた。


「このクソヤロー! お前は最後の転移者だから、この私自らが相手してやろうと思ったのによォ! なめた真似しくさりやがって、ダボがッ! オラッ、オラァ!」

 女神はチンピラの様に口汚く罵りながら、何度も真太郎に蹴りを喰らわせる。

「痛い! 痛い! やめて、止めてッ!」


「ちっ、マジで気分悪いわ。女神に挑発的な態度を取るとか何なの? 馬鹿なの、サタン気取りの神への反逆者なの!? 次に反逆したらマジでフルボッコだかんねっ!」

 女神と自称した美女はここまで言うと、話は終わったとばかりにふんと鼻を鳴らした。

 

 そして、自称女神は深呼吸をすると、突如として神々しい後光を纏いだした。

「あたらしい冒険をはじめますか? 『はい』か『いいえ』で、答えなさい。無視したら一秒ごとに指を一本へし折るわよ」

 自称女神が、どこかで聞いた事がある質問を脅迫交じりで真太郎に問いかける。


「……い、いいえ」

 条件反射的に「いいえ」を選んだ真太郎であった。


「なんでじゃーァ! そこは『はい』以外にありえんだろがッ! テメー、次に反逆したらフルボッコだつったの忘れたのかよッ!」

 不本意な答えにキレた自称女神の顔が、女神から邪神に変わる。

 その瞬間、真太郎が一目散に逃げ出した。

「ひィィィー!」


「あっ! 待ちやがれ、このヤロー!」 

 邪神の様な形相で追っかけて来る自称女神から必死に逃げる。

「この私に叛逆する様な馬鹿は、問答無用でリアル勇者ゲーム参加だかんなッ!」


「何アレ!? 何あの女、妖怪・鬼ババアなのッ!? めっちゃ怖いんだけどォーッ!」

 長い髪を振り乱しながら追ってくる自称女神は、どう見ても鬼ババアにしか見えない。


「誰が、鬼ババアじゃ! お前みたいなクソ野郎は、なんも説明しないで異世界に送り込んでやる! パパもママも友達も誰も知り合いがいない状況で、一人孤独に怯えて恐怖するがいい! 先に転移した奴らに騙されたり裏切られたりして対人恐怖症になるがいい! いきなり魔物に意味もなく殺されたりして絶望して発狂するがいいッ! ふははははははッ!」 

 興奮するあまりなのか、それとも最初から狂っているのか、自称女神が訳の分からない事をヒステリックに叫びながら真太郎を追いかけた。


「あとなんか、その他盛りだくさんの異世界体験に恐怖しっぱなしになって、この私に反逆した事を後悔しながら永遠に苦しみ続けるが――ぎゃあ!」 

 大騒ぎしながら真太郎を追いかける自称女神が、何かに躓いて盛大にずっこける。


「痛ーいっ! うえーん、痛いよぉ! アンタが私の話を聞いてくれないせいでずっこけちゃったじゃないのさぁ! ふえ~ん!」

 随分と可愛げな声を出して泣きだす自称女神がかわいそうになった真太郎が、走るのを一旦止める。


「勝手に人のせいにするんじゃないよ。つか、コケた位で泣くなよな」

「ふえ~ん! 痛いよぉ、半月板が粉砕骨折したかもしんないよぉ! うわ~ん、きっと私もう死んじゃうだぁー!」

「そんぐらいで死ぬ訳ないだろ。……しょうがないなぁ、ちょっと見せてみなよ」

 真太郎が優しさを見せた次の瞬間、自称女神が激しく発光する光の塊を彼目がけて発射した。


「かかったなアホが!」

「何ッ!?」 

 驚愕する真太郎に光の塊がぶつかる。

 次の瞬間、真太郎の体が光の粒子になって霧散した。


「ふははははっ! 馬鹿め、この私の『思わず心配したくなる可愛い演技』に騙されたな! ちょっと躓いたくらいで、この女神様が小娘の様に泣きわめく訳なかろうがッ!」

 真太郎を罠に嵌めた自称女神が、邪神の様に邪悪な笑みを浮かべる。


「ふん、人間風情が手間取らせてくれるじゃない。ったく、あの生意気な態度、万死に値するわ。でも、ゲームをクリアした奴を殺しちゃったら、計画がしくじるかもしれないものね、致し方ないわ。あそこで怒りを押し殺した私グッジョブ!」

 自称女神は真太郎の姿が消えるのを見届けると、満足げにほほ笑んだ。


「これで最後の一人を送り終わったわね。それじゃあ、そろそろ始めましょうか――世界の命運を懸けた本物の『勇者ゲーム』をねっ!」


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