捕鯨反対!
私はクジラの肉が大好きだった。
毎日のようにクジラの肉を買ってきては、腹いっぱい食べていた。
クジラの肉には独特のくさみがある。
しかしそれが、かえって味わい深く、私はすっかりはまってしまっていた。
ところが、最近は自由にクジラ漁を行うことができないらしい。
どうも、環境保護団体などがうるさく文句をつけてきているらしいのだ。
だからクジラの肉は高い。
よけいなお世話だ。
何を食べようが、その人の勝手ではないか。
世の中には、ありとあらゆる食文化がある。
犬を食べる国がある。
虫を食べる国がある。
蛇を食べる国がある。
卵の中のヒヨコを蒸し焼きにする国だってある。
それはその国の文化だ。
外の人間が文句を垂れるなんて、みっともないったらありゃしない。
*
今日も私は、クジラの肉を買いにスーパーに来ていた。
今晩はクジラの刺身にしようと、クジラの肉を手に取る。
そこで私は、後ろから肩を掴まれた。
驚いて振り向くと一人の男が私を睨んでいた。
「クジラを食べるつもりですか?」
「そうですよ」
私は正直に答えた。
するとその男は、信じられないといった顔をして私に詰め寄った。
「なんてことだ! ありえない! あなたは残酷な人だ!」
男はポールと名乗った。
クジラを買おうとした私に対する態度が尋常ではなかったので、私は少し彼に興味を持った。
なぜ彼らはそこまでクジラを保護しようとしているのだろう。
とりあえずポールを近所の公園に連れていき、二人でベンチに座った。
既に日は暮れかかっており、子供たちはみんな帰ってしまっていた。
ここなら邪魔は入らない。
ゆっくり話を聞くことができる。
私はポールに向かい合い、彼の話を聞くことにした。
「あなたは捕鯨には反対なのですね」
「絶対に反対だ」
「なぜ反対なのですか?」
「あんな残酷な行為が許されるはずがない」
「残酷ですか?」
「ああ、とても残酷だ。あんな頭の良い生き物を殺すだなんて。そんなことをする奴は悪魔だ」
「しかし、あなたも豚や牛なんかは食べるんじゃないですか?」
「食べるさ」
「それは残酷ではないのですか?」
「残酷じゃないとまでは言わない。しかし、豚や牛を食べるのは問題ない」
「なぜですか?」
「奴らは頭が悪いからだ」
「頭が悪いんですか」
「ああ」
「クジラは悪くない?」
「そうだ。クジラはとても頭の良い生き物なんだ。人間の感情だって理解できる、とても可愛らしい生き物なんだ」
「つまりそれは、人間の感情が理解できなくて、可愛らしくなくて、頭が悪い生き物なら、殺して食べてもいいと、そうおっしゃりたいのですか?」
「そういうことになるかな。食べるものなんてたくさんあるんだ。わざわざ頭の良い生き物を殺す必要は無いと考えているだけだ」
その後もポールは、いかにクジラが頭が良いか、そしてクジラ漁がいかに悪いことかを延々と説明した。
聞いているうちに、私も彼の考え方にだんだん賛同するようになっていった。
確かに、人間の感情を理解して、可愛らしくて、頭が良い生き物を殺すのは間違っているのかもしれない。
「今日は面白い話を聞けました」
「そうか、お前も理解してくれたか」
ポールは笑い、その場を立ち去ろうとした。
私は彼の後ろにそっと立った。
*
その日の私の夕食は、ステーキだった。
クジラの肉は買わなかったので、他の肉を使っていた。
クジラは頭が良い。
人間の感情も理解できる。
しかも可愛らしいときたもんだ。
そんな生き物を殺すことなんて、できるわけがないではないか。
とはいえ、晩御飯の食材は必要だ。
仕方がないから私は、人間の感情が理解できなくて、可愛らしくなくて、頭が悪い生き物の肉を調達してきた。
今日はちょうどいい品が見つかって良かった。
私はステーキを一切れ口に運ぶ。
しかし、この肉はあまりうまくない。
肉も固いし、とにかく脂が多すぎる。
生前、ろくに運動もしていなかったんだろう。
このポールって男は。