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第十三話山の戦い

 電車に乗って、二時間ほどで駅に着いた。

 登山道の入り口で、武神会のメンバーが待っているはずだった。

 朝早く出たので、まだ八時になっていない。

 一般の人達がようやく動き出す頃には、山に着いていた。

 弥仁はタクシーで、登山道まで向かった。

 朝食を摂る暇がなかったので、パンを買って食べた。

 いつもこんな感じだった。

 ・・・神人社会では、怨霊や封印、禁忌、そのたぐいの話は、山のようにある。

 通常の神人では手に負えなくなると、五王や武神会のメンバーが使われることになっていた。

 「なにが、武王だか」

 弥仁は、そんな名前、便利屋か何かに変えればいいと思っている。

 自分にはもっと、違う生き方があったはずだと思うから。

 三十分ほどで、タクシーは着いた。さすがに、こんな山奥では人通りも少なく、入り口付近にぽつんと、武神会のメンバーが立っているだけだった。

 タクシーを降りると、雄馬があくびをしながらやってきた。

 「一応、十人集めたけどよ、本当にいるのか?」

 と、弥仁に訊く。

 「いるだろ。いなけりゃ、どこに行ったか本当に分からなくなるから困る」

 そんな無責任な言葉に、雄馬はにやりと笑った。

 「お前は、いつもそうだな。やる気のない奴」

 「そうか?」

 と、弥仁は間の抜けた声を出す。

 「そうだ。じゃ、三人一組に分かれろ」

 と、武神会のリーダーらしく、雄馬が指示を出す。

 昨日の打ち合わせどうりに、山狩りの準備に入る。

 「だりーなー」

 「とっととやっちまおうぜ」

 武神会のメンバーは、口々に文句を言いながら、三人一組に分かれた。

 「いいか、お前らは見つけるだけでいい。けりは、弥仁か、まあ、俺がつける」

 メンバーが、口々に囃し立てる。

 「雄馬に出来るのかよ」

 「よ、大統領!」

 「かっこいい」

 そんな中、白日弘が手を挙げた。

 「弘、なんだよ」

 雄馬が、尋ねる。

 「一度、やり合ってもいいのか?」

 弘は四天王と呼ばれる一人で、力には自信がある。

 「だめだ。弥仁を呼べ。弥仁でだめなら、俺達は逃げる」

 と、雄馬は宣言した。

 「なんだそりゃあ」

 弥仁がぼやいた。

 「当たり前だろ。鬼道持ちと八岐之大蛇を一緒に相手に出来る奴は、ここにはいない。少なくとも、お前を除いてな」

 と、言いもう一度、にやりと笑う。

 「屍は拾ってやるから、安心しろ」

 そう言うと、雄馬が合図を出した。

 「行くぞ」

 「おお」

 と、バラバラと、山の中に入っていく。

 皆、修験の修行をやってるせいか、身が軽い。

 「弥仁さん、お茶でもいかがですか?」

 と、一人残った連絡係の大土妙子が、コップ状の水筒の蓋を渡した。

 「ありがと」

 と、渡された麦茶を、一口飲んだ。




 古い六角堂だった。

 少なくとも数百年は経っているだろう。

 雪乃は、気づいたらここにいた。

 衣服はボロボロになり、体も泥だらけだった。

 そして、独りぼっちだった。

 いつからここにいたのか、分からない。

 いつまでここにいるのかも、分からなかった。

 ただ、六角堂で仰向けになっていた。

 胸の曲玉が、焼けるように熱い。

 この曲玉に、全身の力が吸われていくのが分かる。

 全て吸い尽くされたとき、自分の命は終わるのだろうと、雪乃は思った。

 だが不思議なことに、自分の力はみるみるわき上がってくるのだ・・・。

 これが、鬼道なのだろうか。

 鬼の力、神よりはずれた外道の力。

 この地にある全ての命を喰らい、八岐之大蛇を目覚めさせるのかもしれない。

 「数明・・・。正人・・・」

 友人の名を呼んだ。

 ・・・まだ生きているのだろうか。生きているとしても、もう、自分を救ってくれる者はいないのだろう。

 あの少年。

 武王八千矛という少年なら、何とかしてくれるかもしれない。

 ただ、もう、どうでもよかった。

 この数日間で、十分生きた。

 今までの自分と違い、生き生きと出来た。

 こんなに人と話したのも、駆けたのも、生まれて初めてだった。

 力一杯、そう、ちからいっぱい、生きることが出来た。そんな気がした。

 もう、思い残すことはないのかもしれない。

 そう思い、目を閉じた・・・。

 ―――胸の曲玉が、熱く、熱く脈動している。



 白日弘はがっちりとした体格で、やや太っている。

 目つきがきつく、腕っ節に自信があるのか、何かというと喧嘩腰になる。

 聖喬高は、見るからにスポーツマンで、気のよさそうな顔をしている。

 いつもジャージ姿で、頭はスポーツ刈りだった。確か、高校は陸上部だったはずだ。

 もう一人、若年和馬は中学生で、武神会でも最年少だった。

 可愛らしい顔つきで、いつもからかわれている。

 この三人が組んだチームが、真っ先に見つけたらしい。

 気の流れの異常がある場所にたどり着いたのは、山に入ってから三十分ほど歩いてからだ。

 山の中腹で、木々の隙間に六角堂が見える。

 「あれかな?」

 弘がつぶやく。

 「みてーだな」

 四天王の一人でもある、聖喬高も同意した。

 「どーする?」

 弘が、喬高と顔を見合わせた。

 「やってみるか」

 弘が不敵に笑う。

 話の概要は聞いている。ようは、曲玉を取り返せばいいのだ。

 「ああ。やってみよう」

 喬高が親指を立てた。

 「やめようよ」

 まだ、変声期前の甲高い声で、和馬が止めた。

 「お前は、ここに残ってていいんだぜ」

 弘がバカにする。

 「お前は、戻って八千矛様でも呼んでこい」

 喬高も、にやにや笑う。

 あからさまにバカにされ、さすがに和馬も怒った。

 「いいよ。ボクも付き合うから」

 「好きにしろ」

 「自分の身は、自分で守れよ」

 と、二人とも無責任なことを言う。

 「わかってるよ」

 和馬は、むくれて答えた。

 三人は、改めて六角堂を見た。

 「さてどうする?」

 弘が、遠目に睨む。

 「俺が仕掛けるから、援護してくれ」

 喬高が言う。

 確かに、喬高は身が軽いので、妥当な作戦だった。

 「わかった」

 弘も納得した。

 何が起こるか分からない以上、慎重に仕掛けた方がいい。

 「ボクはどうするの?」

 和馬がおそるおそる訊く。

 「危なくなったら、逃げろ」

 その弘の言葉に、喬高も頷いた。

 「じゃあ、行くぞ」

 三人は、手印を組み被甲護身の真言を唱えた。

 戦闘準備が完了する。

 「いくぜ!」

 喬高が駆け出す。

 「援護するぞ」

 と、弘が印を組む。

 「金剛矢!」

 弘の手の甲より、光の矢が放たれる。

 「金剛矢!」

 慌てて、和馬も放つ。

 光の矢が数本、六角堂に命中した。

 バッ、バッと、光は拡散して飛び散った。

 「ほう」

 と、弘が声を上げた。

 「何、感心してるんだよ」

 喬高が叫ぶ。

 「わりい」

 軽口とは裏腹に、弘は内心焦った。

 マジで、やばい相手だ。

 弾かれた光の矢は全て、どこかに吸い込まれたのだ。

 ぐにゃ、と空間が歪み、何かの顔が生まれた。

 シャッアと、牙を剥いた

 「おっと」

 喬高が、バッと跳んだ。

 喬高のいた場所が、土煙を上げた。

 ギロッと、金色の目が睨む。

 土煙の中の目玉めがけて撃つ。

 バッと、やはり弾かれた。

 「やべえかも」

 弘がつぶやいた。手には金剛杵が握られている。




 ド―――ン




 山、全体が、震えた。

 「あのバカ、やりやがったな」

 山の中腹で、雄馬がつぶやいた。

 雄馬の脳裏には、弘が浮かんだ。

 「死んでなきゃ、いいんだがな」

 と、駆け出した。

 その音と同時に、麓の弥仁も駆け出していた。

 弥仁の耳には、女の悲鳴が聞こえた。

 雪乃の声だろうか。

 まだ、八岐之大蛇は完全に復活していないらしい。

 「まだ、大丈夫かな」

 そうつぶやき、山の中に入っていく。

 「がんばってねー」

 背後から、妙子の声がした。




 山道は、慣れている。

 武神会の修行に、修験道も入っているから、この程度の道は楽だった。

 数分で、雄馬は地響きの場所までやってきた。

 現場に近づくにつれ、軽いめまいを覚える。

 どうやら気脈とやらが、乱れているらしい。

 こんな気分になるのは、初めてだった。

 「やべえ、これが鬼道か」

 力が吸われていくのか、喪失感が強くなる。

 「チッ、弥仁が来るまで待つか」

 と、林の途中で足を止めた。

 どん、と鈍い音がして振り向くと、林の中から和馬が飛び出した。

 転がるように逃げていく。

 「あっ、和馬」

 雄馬の声は、届かなかったみたいだ。

 すぐに、姿が見えなくなった。

 「なんだ、あいつは」

 雄馬がぼやいたとき、

 ど――――ん

 というものすごい風圧を感じた。

 「う、う、うお――――」

 という、獣の雄叫びが響いた。

 「なんだ?」

 と、雄馬は言いきれなかった。

 雄叫びの主、弘に突き飛ばされたのだ。

 「うわっ」

 吹っ飛ばされた雄馬は、草むらに屈伏した。

 慌てて顔を上げると、脱兎の如く逃げていく弘の後ろ姿があった。

 「なんだ、おい」

 雄馬の声が聞こえたのか、弘が後ろを振り向いた。

 「わり――――い」

 言い捨て、林に消えた。

 「なんだよ」

 その雄馬の背中を、誰かが踏んだ。

 「いてー」

 と、叫ぶ。

 「何で、そんな所にいるんだよ」

 喬高の声だった。

 「お前、よくも」

 雄馬が、立ち上がりながら怒鳴る。

 「雄馬、逃げた方がいいぞ」

 喬高に、言い返された。

 「えっ?」

 立ち上がりざま、

 ガザ

 と、何かに襲われた。

 瞬間、よけた。

 自分でも分からないうちに、駆け出していた。

 何がいるのか気になり、振り返る。

 巨大な目玉と目があった。

 「わっ」

 雄馬は、心臓が止まるほど、驚いた。

 全力で逃げる。

 林の中を草むらに足を取られ、土に滑り、逃げていく。

 すぐに、喬高に追いついた。

 「なんだよ、あれ」

 雄馬が、声を枯らせながら訊く。

 「わかんねー。八岐之大蛇じゃねえのか?」

 と、喬高は、答えた。


 ドン


 二人を狙ったらしい一撃が、杉の大木を直撃した。

 メリメリと、倒れていく。

 恐ろしい破壊力だ。

 直撃されたら、ひとたまりもないだろう。

 「まじいな」

 と、雄馬はつぶやき、瞬間、わきに逃げた。

 「金剛斬!」

 真言を唱え、放つ。

 細長い光の刃が、化け物の胴を切り裂こうとした。

 しかし、それは弾かれ、吸収された。

 「なんだ?」

 雄馬が、再び切り裂こうとしたとき、

 「うわあああ!」

 喬高の悲鳴がした。

 化け物に追いつかれたらしい。

 歪んだ空間の牙が、喬高を襲う。

 「まじい」

 雄馬は慌てて体勢を立て直すと、それにつかみかっかた。

 実体だろうか、幽体だろうか。その非現実的なぬめぬめした皮膚に、雄馬の肌に鳥肌が立った。

 雄馬に気がついたのか、化け物は巨体を唸らせ、雄馬を狙った。

 「この化け物。」

 ギロッと、金色の瞳が光る。

 「そこかー」

 雄馬は、金剛矢を瞳に向かって放った。


 ぱしゅ


 と、いう乾いた音をあげ、金色の瞳に矢が突き刺さる。

 化け物が巨体を震わせ、のたうちまわる。

 苦しみ悶える化け物。空間のねじれがしだいに溶けていく・・・。

 雄馬は急いで喬高の所に向かった。

 体当たりを受けたらしく、林の中に倒れていた。

 「大丈夫か?」

 消えていく化け物を横目に、喬高の様子をうかがう。

 「ああ、結構きいたけどな」

 喬高は弱々しく笑った。

 雄馬の手を借り立ち上がる。

 バチバチ、と何かが鳴った。

 「なんだ?」

 雄馬が見ると、そこには空間のゆがみが生まれていた。

 それは渦を巻き、しだいに形を整えていく。

 再びあの化け物が姿を現すまでに、さほど時間はかからなかった。

 「マジかよ」

 雄馬がつぶやいた。

 「逃げようぜ」

 ぜえぜえ言いながら、喬高が言う。

 「先に逃げてろ。俺もすぐ行く」

 雄馬は、印を組んだ。―――被甲護身の真言を唱える。

 「やれるかな」

 身体を引きずるように逃げ出す、喬高を横目にぼやく。

 さっきは相手の意表を突いたから勝てた。二度目があるか、分からない・・・。

 「金剛矢!」

 丹田に気を集中し、そのエネルギーを手から放つ。


 バシッ


 と、弾かれた。

 「やっぱりな」

 目玉を狙っても無駄のようだ。

 だいたいこいつは何なのだ。

 悪霊ではない、悪魔でもない。これが、八岐之大蛇か・・・。

 その姿、確かに大蛇に見えないこともない。

 空間の歪みが作っているとはいえ、爬虫類のような目、牙を持った裂けた口・・・。胴は、全ては見えないがあるいわ・・・。

 ゆらゆらと揺らめいて、それは、雄馬に狙いを付けた。

 「シャ――――」

 と、叫ぶ。

 「姫金神じゃ、ないのかよ」

 雄馬が、ぼやく。

 越の国の守護神相手では、勝てる自信はなかった。

 「こーいうのは、八千矛様の専門だろ」

 言いつつ構えた。

 「そーいうことだ」

 誰かが言った。

 見ると、弥仁が立っていた。つまんなそうに、化け物を見ている。

 「おせーんだよ」

 文句を言う雄馬の顔には、安堵の色が浮かんでいた。

 「わるい」

 言いつつ弥仁は構えた。印を組む。

 「どうする?」

 と、訊く雄馬に、

 「こうする。」

 弥仁は答えた。

 ―――光明真言を唱える。

 すぅっと、清浄な空気が広がった。

 空間の歪みが生んだ化け物は、幻の如く消えた。

 「ほぅ」

 雄馬が感嘆する。

 「多分、鬼道だろう。空間にある気を操るって言うから・・・」

 そう、弥仁が言った。

 「あれがか」

 「うん。八岐之大蛇か姫金神か・・・。鬼道の力を使って、具現化している」

 「ふぅん」

 「じゃあ、いってくる。後はたのま」

 いつもの調子で、弥仁は歩き出した。

 「大丈夫か?」

 雄馬の問いに、弥仁は右手を挙げて答えた。

 「いつものことだ・・・」

 そう、弥仁がつぶやいた。

 雄馬は、知らず、歯を食いしばっていた。

 自分の力のなさにかもしれない・・・。




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