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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第1章【森の男女】
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8話目 森の神獣 カーヴァンクル

ロォークスの森に来てリアルで6日が経過した。この五日間はボムスター達ノンアクティブモンスター達を探すのに費やされ………………………………なかった。


一応探しはしたんだけど、想像以上にヴォーパルベアたちアクティブモンスターの行動が活発で、日中も木の上などに隠れている時間が長かったのだ。おかげで【隠密】や【フリーラン】のアビリティツリーはとても成長したけど。

現在【隠密】のアビリティツリーの成長値は2847。成長値は100で一応の一括り、他のゲームで言うところの1レベル相当なので現状はレベル28といった状態だ。【フリーラン】の方は成長値2444で今では木の枝を伝っての移動すら出来るようになっている。というか最近地上に降りるより木の上にいることの方が多いかもしれない。

これだけ成長値もあがれば取得できるスキルもたくさんあるのだけれど、スキルの所得にはTP(Technique point)が必要なのだけれど、TPの獲得方法はレベルアップ、モンスターの討伐、各街にある行政府への自作アイテムの納品、クエストの報酬の4種類で僕はモンスターをまだ一度も討伐しておらず、当然レベルも上がっていない。アイテムの自作もしたこともなければクエストも受けてない。つまりスキルを得るためのポイントを一切所持していないのだ。

【アニマルブリーダー】のジョブツリーだって成長して1472まで成長していて、【グルーミング】以外にも有効度を上げられそうなスキルが出ているため所得したいんだけれどそれすら出来ないでいる。ちなみにジョブツリーが成長しているのは森に来て最初の夜から時折カーヴァンクルが寄ってくるようになったからだ。カーヴァンクルが寄ってくるときは当然のようにガーディアンジャガーが3体以上ついてきているのだけど、幸いにも襲われたことは一度もない。もしかしたらガーディアンジャガーはアクティブモンスターじゃ無いのかもしれない。ただ何かしらの条件で襲いかかってくるモンスター(便宜上条件付きアクティブモンスターと呼ぼうかな?)なのではないだろうか?


まぁそれはそれとして、TPについてはモンスターを倒せば思うかもしれないけど、ロォークスの森の適正レベルは35~40でしかもこれは6人フルパーティーでのレベルでソロならもっと高いレベルが必要なはずだ。レベル1の僕が攻撃を仕掛けても返り討ちに遭うのが落ちだ。

始まりの町に戻るのも却下。なぜなら一度は成功したとはいえまたここまで一人でこれるとは限らないからだ。第一戻って誰とどうやって戦えと言うのだ。レベル1のアニマルブリーダーでは角ウサギに苦戦する上、ゲーム開始から1週間が経とうというのにまだレベル1の僕を加えてくれるパーティーなんていないだろうし。


クエストはどうかと思う人もいるかもしれないけれど、始まりの町で受けられるクエストはモンスター討伐や生産品納品のクエストしかなく、モンスターを倒せず生産系ツリーを所持していない僕では達成できないのだ。


町に戻ってもここに帰ってこれるかわからず殆ど詰みの状態。一度掲示板を見た限りではβ時代よりも若干攻略スピードが高いみたいだから、戻ってこれたとしてもそのときには他のプレイヤーが森に到達している可能性もある。それならこのまま森にいた方がいい。






「あ、ヴァンクの実だ」


木の枝を伝って移動していると、進行方向にヴァンクの実が生っているのを見つけた。カーヴァンクル達がくると手持ちのヴァンクの実がいくつあっても足りなくなるので採取することにする。

そういえば、長時間カーヴァンクルと一緒にいるのだから仲間にできるだけの友好度が溜まっているのではと思う人もいるんじゃないかと思う。もちろん僕もそう思って【テイミング】を試した。

で結果は無理、でした。友好度が足りないのか、何かしらの条件があるのか。どちらにしろ無理な物は無理でした。


ヴァンクの実を採取した僕は、そのまま木の枝を伝って森の奥へと進んでゆく。

枝を掴んで前へと振られる反動を利用して次の枝に手を伸ばす。枝を掴んで先の枝から手を離し次の枝へ。ちょうどいい高さの枝を見つけてその上に飛び乗り木の幹で身体を支え周囲に注意を向ける。気配殺しを使用してから今立っている枝よりも太い頭上にある枝に登る。


「ん~、たぶんこのまま行くとこの前蜘蛛が巣を張ってた場所だよね。ならこっちかに行くか」


今立つ枝の先に向かいの木から突き出たちょうどいい太さの枝を見つけ、枝の上を走ってそちらに飛び移る。そのまま幹の周囲を反対側まで回るように枝を伝い、再び隣の枝に飛び移りときに雲梯の要領で、時に枝の上に飛び乗りフリーランの補正効果を存分に使ってロォークスの森を進んでゆく。


oyoでは街や森、山といったフィールドは、買ったマップや、自身で歩いて完成させたマップ上に描かれる以上に広い。例えば地図上で街の直進距離が1キロほどとなっていても、実際にはその3倍はあったりする。これは街や森、山がフィールドでありながら準ダンジョンとして扱われていることと、こうして圧縮することで全体のフィールドの構成に使用されるデータ容量を多少なり小さくするためという噂を聞いたことがある。


なんでこんなことを言っているのかというと、ロォークスの森はとても広いと言いたいだけだ。うん本当に広い。

地図上では始まりの町とたいして変わらない広さのはずなのに、僕は森に入ってから一度も森と外との境界に出たことがないし、まだ行ったことがない場所がたくさんあり、森全体の内どれだけを踏破したのかもわからない。


「よいしょ、と」


飛び乗った木にイリィの実が成っているのを見つけ幾つか採取する。採取しながら周囲をゆっくりと見回した僕は森の中を動く二つの影に気がついた。

一つは少し離れた位置にある枝の上で木の実をかじる手のひら大の小さなモンスター、待ちに待ったノンアクティブモンスターであるボムスターだ。この森に入って今日まで七色鳥やトレント等の僕では仲間にすることのできない子達ならば見つけることができたが、仲間にできる子は初めて見つけることができた。やっと、やっとだ。

そう思いたかったけれど、そう感嘆にはいかせてはくれそうにないようだ。


ボムスターのいる枝より下、そこに見つけた紅い影。一緒に見つけた影のもう一つの正体は周囲を警戒するように見回しながら何かの肉を食べる深紅の毛皮を持つモンスター、ヴォーパルベアだった。


まずい、非常にまずい。β時代にヴォーパルベアが頭上から奇襲をかけてきたという話を幾度か聞いたことがある。このことからヴォーパルベアは木に登れる可能性がある。もし僕がこのままボムスターに近づこうとすれば、その下にいるヴォーパルベアに見つかるおそれがある。そして一度見つかればヴォーパルベアから逃げ切る自身が僕にはない。ヴォーパルベアはその見た目に似合わず俊敏で木の上を伝って逃げても地上を走って追いかけてくる可能性が高く、木の上でどれだけ早く動けるかも未知数だ。そしてもし追いつかれたならば僕に抵抗する術はない。あの太い腕での一撃を受けただけ間違いなくHPは0になる。


ボムスターに近寄れない。


やっと見つけたのに動くことができない。万一にもヴォーパルベアに見つかれば今日までの苦労が水の泡になる。

だから今僕にできるのは祈ることだけ。ボムスターが僕のいる方に移動して来てくれるか、ヴォーパルベアがこの場から去ってくれることを。

枝の上、木々の葉に隠れじっと実を潜め続けてどれくらいの時間が経っただろうか?10分?それとも1時間か………………。日が暮れていないことからそこまでの時間は経っていないだろうけれど、変化に乏しい森の中でじっとしているのは時間感覚を麻痺させるのに十分だった。


そしてようやく事態が動いたのはどれくらい待ち続けた結果だったのだろうか?しかし事態がようやく動けどもそれは僕の望んだ形ではなく、ボムスターが僕とはヴォーパルベアを挟んだ向こうの方へと去っていくという結果だった。すぐに追いかけようとしてヴォーパルベアが何かに気がついたのか周囲を見回したことですんでのところで身を潜め、見つかることをまのがれるもボムスターは完全に見失ってしまう。


しかたない諦めるしかないか。それから少ししてヴォーパルベアもその場から去ってゆく。結局ヴォーパルベアから見つからずに済んだことに安堵のため息をついて、木の幹を背に枝の上に腰を落とす。


「はぁ、また見つかるのかな………………」


先ほど見つけたスモモのような形状をした甘い果実、イリィの実をかじりため息をつく。


とそこでシステムメールの着信音が鳴り、食べかけのイリィの実を一気に食べてからメールを開いた。

『おめでとうございます。

ログイン中、森での継続活動時間が100時間を経過しました。

これにより称号が発生します』


【森の人】

ログイン中、森での継続活動時間が100時間を経過したプレイヤーに与えられる称号。

森の中で活動する限り全ステータスに+2される。また全Treeの成長率、森にいる獣、鳥型のモンスターとの友好度上昇率に+10のボーナスが発生する。


なんかすごい称号きた……………………。全ステータスに+2とか………………、森に着いたときに手に入れた【最初の到達者・森】と併せて森の中では合計3もステータスが上がるとかちょっとすごすぎないかな?

いや到達者が限定称号で、森の人もログイン中の継続活動時間が100時間って、最短でも五日間は森から外に出ちゃいけないってことだし結構大変そうだし、それを考えれば妥当………………なのかな?


う~ん。






それからあの場所を後にした僕は、二日ほど前に見つけた泉へとやってきた。泉の水にはSPを多少回復させる効果があり、瓶などのアイテムがあれば汲んで持ち歩くことができるようになっているが、入れ物を持っていない僕は手でその場で直に飲むしかできない。まぁSPは気配殺しにしか使わないし良いんだけど。今だってここに来たのはSPの回復が目的ではなく、何となく水が飲みたくなっただけだし。


泉の水で喉を潤し人心地つき、身体を伸ばしながら森を歩き始める。もうすぐ日も暮れるからどこか安全な場所見つけて隠れないと………………。暗視ができるアビリティが欲しいなぁ。そうすれば日が暮れても森の中を歩き回れるのに。あ、でも今は新しい鉢も無いしそっちが先か………………。


徐々に暗くなってゆく森の中を歩くこと数分。多少曲がりくねり高さよりも周囲に枝を大きく伸ばした木を見つけた。登る分には問題無し、とりあえず上の方で身を隠すかな。


「きゅ~」


とここ最近聞き慣れた鳴き声が聞こえ、鳴き声のした方を見ると僕が登ろうとしたのとは別の木の影から額に真紅の宝石を抱いたモンスター、カーヴァンクルが足下に駆け寄ってきた。


「やぁ、今日も来たんだ」


自然と自分の顔がほころぶのを自覚しながら周囲を見回し、珍しくガーディアンジャガーがいないことに気がついた。おかしいな、彼らが一緒にいないことなんていままで無かったんだけどな。なにかあったのか、それともたまたまかな?

あ、でもβ時代にカーヴァンクルとガーディアンジャガーが一緒に目撃された例はなかった気がする、本来これが普通なのかな?


そうだ、そういば彼らはノンアクティブモンスターみたいだし、今度グルーミングを試してみようかな?干し肉だって残ってるし友好度は上げられるだろうし、無言ですぐそばでじっとされてるのはちょっと恐いけどもし仲間にできればこの森でももう少し安全に行動できるようになれそうだな。


「きゅっ、きゅく~」


とガーディアンジャガーのことも良いけど、今はすぐそばにカーヴァンクルもいるんだし今は他の子のことを考えるのはやめよう。この子に失礼だしね。

裾を引っ張られる感触苦笑しながらカーヴァンクルに視線を落とし、僕とカーヴァンクルとの間にウィンドウが開いた。


『特定条件、ゲーム開始後個人及びパーティーでのモンスターの合計討伐数10体以下をクリア。

特定条件、称号【森の人】の所持をクリア。

カーヴァンクルとの友好度一定値をクリア。

森の神獣【宝石獣 カーヴァンクル】のテイミング条件を満たしました。


テイミングを行いますか?


▽ ▽ ▽


→YES


 NO


△ △ △』


「え?」


一瞬ウィンドウに何を書かれているのかが理解できず、二度三度とその内容を繰り返し読み返していた。


「きゅぅ~?」


向こう側が透けて見えるウィンドウ越しにカーヴァンクルが不安気に首を傾げるのを見てようやく書かれている内容が頭に浸透してきた。


つまり、これは………………ついにって、ことなんだ………………。


ようやく、モンスターを仲間にできるって。


「は、はは、なんだろ、うれしくて言葉、今なんて言うべき何だろう」


うれしさの余りそれ以上言葉が出てきそうになかった。


震える手をウィンドウに手を伸ばし、『YES』を押そうと………………。


"トスン”


そんな軽い音ともにカーヴァンクルの体が真横に飛び、『YES』の選択肢を押そうとした指はウィンドウの消失によって空を切った。


「………………ぇ?」


ゆっくりと、ゆっくりと、まるでビデオのスロー再生を見ているかのようにゆっくりと地面に落ちてゆくカーヴァンクルの首もとには一本の矢が刺さっている。


脳裏に【炎のピラー】に焼かれるパピーウルフたちの姿が蘇る。


カーヴァンクルの頭上にHPを表すゲージが現れ、それがものすごい勢いで0に向かって減少してゆき、消滅した。


つい今まで僕を見上げていたはずの瞳が虚ろに彼方を見つめ、身動きしなくなったカーヴァンクルが残された……………………。




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