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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第1章【森の男女】
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4話目 突然の別れと自分勝手な決意

ゴルドさん達のおかげでようやく西門へとたどり着いたのは、東の空に日が完全に顔を出した後だった。


西門から一度町へと振り返り、ゴルドさん達がいるかもしれない方へともう一度頭を下げて門をくぐる。

モンスターの友好度はたとえその場から離れても、モンスターが殺されたりしない限りはリセットされたりしないことはβ版時代に確認されている。先ほどのゴルドさんの装備は恐らく角ウサギのいるウサギ草原の先にある岩山でとれるアイテムから作ったものだと思う。β版でのトッププレイヤーである彼で現在岩山に挑んでいるという現状、パピーウルフのいるウルフ平野にプレイヤーが来るようになるのはそう遠いことではないかもしれない。それでもまだ来るよになるには時間が掛かるはずだ。

パピーウルフと分かれた場所にはマップ上にアイコンを書き込んでいるため迷うことなく向かうことが出来る。今回は今朝とは違い気配殺しを使わずに小走りにウルフ平野を走っていく。


程なくしてパピーウルフの群が見えてきた。あちらもこちらに気付いたのかノンアクティブモンスターであるはずのパピーウルフ達が一斉に顔を上げてこちらの方を向いているのが見える。中には立ち上がり歩き始めた子もいる。こう見ていると本当にAIで動いているのか疑問に思えてくる行動だけど、楽しければそれでいいとその場にいたパピーウルフ達が全員立ち上がったのを見て走る速度を落としながら干し肉をストレージから取り出し始める。


あれ?なんかパピーウルフの数が増えているような…………?


ふと気付いた事実に苦笑しつつ足を止める。なにやら前方のパピーウルフ達が走り出そうとしているようだからだ。たぶんこのまま駆け寄っていって彼らに飛びつかれたらまた押し倒されそうな気がするし。






そのときパピーウルフ達を鮮やかな紅い光の円が取り囲んだ。

地面から吹き上がるそれは光のヴェールとなってパピーウルフを包み込みながら天へと登り、次の瞬間炎の柱となって包み込んだ内部を焼き払った。


声も出せず呆然とする僕の前で、一瞬でHPを消し飛ばされたパピーウルフ達がポリゴン片となって霧散してゆく。


炎の柱が消え去った後、そこについ今起きた出来事がまるでなんでもなかったかのように、風にそよぐ草原が広がるだけ。群で固まっていたはずのパピーウルフも、炎の柱の痕跡も何もなく、ただフィールドとして設定されたヴァーチャルワールドの風景が広がっているだけだった。


「…………そ、んな」


声も出ない、頭の中が真っ白になる。さっきまで一緒に戯れていたパピーウルフ達が、元からそこには何もいなかったかのように目の前から消えてしまったという事実を、僕は受け入れることが出来ずそれを否定するかのように首を左右に振っていた。


手にしていた干し肉を足下に落としたことにも気付かず、一歩二歩と前に進みそこで膝を突いた。彼らがいたはずの場所へと手を伸ばし、当然のように空を切った手が地に落ちる。


逃れた子がいないかと視線がウルフ平野をさまよい、離れたところに5人ほどのパーティーがいることに気付く。遠目ではあるけれど、その内の3人が杖を持っているのを見て先ほどの炎の柱がなんなのかに気付いた。


炎属性魔法の初級に位置する範囲系攻撃魔法【炎のピラー

文字通り火柱を出現させその範囲内にいる相手を燃やす魔法だ。β版でも序盤では数少ない範囲系魔法としてウサギ草原でこの魔法による火柱が上るのを何度も見たことがある。


本来初級の魔法であるピラーにあの数のパピーウルフを一掃出来るほどの威力は無かったはずだが、杖持ち、おそらくは魔法使い系のジョブが3人もいることから何かしらの、複数人が同時に所持、使用する事で効果のあるアビリティかスキルによるものだと思う。


たぶん【魔導共鳴】のアビリティ辺りか…………。


いや、今はそんなことはどうでもいい。

目の前からパピーウルフ達がいなくなった。僕にとって重要なのはその一点のみだ。

それでも、僕に出来ることは何もない。パピーウルフ達はゲーム上敵として設定されたモンスターだ。そのモンスターを倒すのはゲームとして普通のことで、僕がそれに文句を言ったりするのはお門違いだ。

oyoでモンスターと戦闘すると、相手モンスターの頭上には残HPを示すバーが表示される。これはそのモンスターと戦っているプレイヤーやパーティーのメンバーだけではなく、周りのプレイ達にも確認することが出来るようになっている。

つまり旧来のMMORPGであるような経験値泥棒が偶発的に起こらないようにするため、誰の獲物(oyoでは戦闘中のモンスターのことを獲物と呼んでいる)であるかそれが分かるようにするためのシステムだ。


しかしこのHPバーは戦闘を行わない限り出現することはなく、アニマルブリーダーが【グルーミング】などで友好度を上げていても、それが攻撃ではないため

HPバーが表示されることはない。故にHPバーの表示されていないモンスターは誰の獲物ではなく、誰の獲物とするかは早い者勝ちとなる。

つまり僕がこのままあのパーティーに文句を言ったとしてもパピーウルフが僕の獲物では無かったがゆえに、ただの言いがかりとしか言えなくなってしまうのだ。


これもアニマルブリーダーが不人気の理由の一つだ。倒してもモンスターが仲間になる可能性は非常に少なく、友好度を上げようにもその手段に乏しいために上がりづらく、一応何度も同じモンスターと日をかけて友好度を上げようにもその間に討伐され友好度がリセットされてしまう。

モンスターを仲間にするジョブでありながらなかなかモンスターを仲間にすることができないことからパーティーからは疎まれ、仲間に使用にも他のプレイヤーによって僅かな芽も摘まれるという悪循環だ。


悔しかった。仲間に出来たかもしれない、という思いもある。でもそれ以上にせっかく仲良くなれたあの子達が討伐されて、そのことに何も出来ないことが何よりも悔しかった。


頬を何かが伝うのを感じて手で拭う。しかし次から次へと伝うそれの出所を乱暴に腕で擦り、僕は涙を流していることに気付いた。


ヴァーチャルワールド内では簡単に涙を流すことはない。VPは身体を動かすという信号を受けてアバターを動かし、発せられる精神波を関知しそれを表情に反映する。人がそう簡単に能動的に涙を流すことが出来ない以上その信号をVPが受けることはなく、涙を流すほど強い感情の動きを関知せねばいけない以上それは当然のことなのかもしれない。


そしてその感情を関知し続ける限り涙が止まることもない。


流れ続ける涙を乱暴に拭い、パピーウルフ達がいた場所に背を向け始まりの町へと駆け戻った。そして西門をくぐるのと同時にメニュー画面を開き、その欄の一番下にあるログアウトボタンを押し、【only yggdrasil online】を後にした。











カシャン、と音を立ててVPのバイザーとマスクが開かれ、それを起きあがりながらはぎ取り声を抑えて泣いた。

たかがゲームだと頭では分かっていても、あのリアルな世界での出来事は心が納得してはくれず唯一動く左手で顔を覆い歯を食いしばり、声を殺して泣いた。

左手の先に感じる火傷の跡、髪に隠れた顔の右反面には何かが触れる感触も無く涙も流れない。左手に触れる滴は左眼からあふれる物のみ。


次から次へと流れる涙。


僕は泣き疲れて眠ってしまうまで、ただ一人ベッドの中で泣き続けていた。






僕が目を覚ましたのは窓から差し込む日差しを眩しく感じたからだった。ベッドのシーツに残る涙の跡に昨日の出来事を思いだし、悔しさに唇を噛みながら上半身を起こす。

ベットの外、左手の届く範囲に置かれた温蔵庫から蒸しタオルを取り出し、昨日拭き忘れた寝汗をかいた身体を拭ってゆく。


今から6年前まだ小学生の頃、僕は母と行った旅行先で事故にあい母を亡くし、僕自身も身体にけして小さくない傷跡を負った。それが動かない右腕であり焼けただれた顔の右反面であり、膝から下のない両足である。oyoで僕のアバターの身長が低いのは、膝から下のない僕の現身長を元にしたからであり、余りに短い両足にVPが補正をかけて身長をそのままに手足の長さを調節して作られたアバターなのだ。

また僕が長く伸ばした髪で顔の右反面を隠しているのはその事故で負った火傷の跡そして視力を無くし白く濁った右目を隠すためだ。僕の顔を右反面は右肩から側頭部までが焼けただれてしまっていて、頭頂部の髪を長く伸ばしてそれを隠している。

事故の後遺症は目に見えるものだけではなく内蔵にも残っている。肝臓などの一部の臓器は人工の臓器を移植され、著しく機能を低下させた胃は固形物を消化できず、僕は何年もヴァーチャルワールド以外で食べ物を口にしたことは無かった。


ベットの上から移動することの出来ない僕のために左手の届く範囲に置かれた空桶に身体を拭いたタオルを入れ、温蔵庫と並んで置かれた冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、味のひどいそれを一気に飲み干した。


時計を見ると今の時間は7時を回ってすこしといったところ。あと30分もすればホームヘルパーの人が家に来て家の中のことをしていくはずだ。

僕はこのホームヘルパーの人のことがあまり好きではない。別に仕事の手を抜くとかそういうことは無いし(少なくとも僕に確認できる範囲では)僕に対し何か酷いことを言ったりするわけでもない。

ただ初めてあの人と会ったとき、偶然僕の髪の下の顔が見えてしまったことがあったのだけれど、彼女はまるで気持ち悪い物を見てしまったかのように顔をしかめたのだ。その出来事が僕にとってのその人の印象を決定づけた。本来人と会うことがほぼ無いはずの僕が髪を伸ばし続けているのも、彼女の存在があるからだ。とは言うものの、1年ほど前VPが発売されてからは、起きている時間のほぼ全てをヴァーチャルワールドで過ごしていたため、まともに顔をあわせたのはもう半年以上も前のことだけど。


片手で四苦八苦しながら寝間着を新しい物へと着替え、今まで来ていた物をタオルを入れた空桶に入れてVPを手に取った。機能の出来事が脳裏を過ぎるが意を決してVPを被った。


「ヴァーチャルダイブ」


今日もまたヴァーチャルワールド【only yggdrasil online】へと旅立つ。






【only yggdrasil online】【始まりの町】昨日ログアウトした西門にログインした僕はそこで機能よりも人の数が増えていることに驚いた。ゲームが始まったのはまだ昨日の昼頃でまだ一日経っていない。β版時代に西門に人が集まりだしたのはパピーウルフのリンクの波を安全に処理できるようになってからだった、そしてそのレベル帯までレベルがあがるまではもう2、3日はかかっていたからだ。

がそこで昨日の光景を思い出し、あのパーティーが見つけた戦い方が掲示板の攻略すれ辺りに上がったのかもしれないと思い直す。

こうなってはウルフ平野でゆっくりと友好度を上げることは出来ない。β版と違いこれからは新規のプレイヤー達が随時追加されてくるはずなのだからなおさらだ。


「ステータス画面オープン」


昨日ボラーに素材を売ったお金は残り4000Gと少し。

それを確認した僕は西門に背を向けて通りを走り始めた。向かう先はNPCのお店が並ぶ南通り。

始まりの大神殿から南へ延びる大通り、の比較的神殿よりの場所にある一軒の店。扉を開けて入ったそこに並ぶのは布製の防具、いや服と言った方が正解か。


「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」


対応する若い女性型のNPC店員に迎えられる。今回の目的は動きやすい服を手に入れること。ウルフ平野で過ごすことが難しくなるというのなら他の場所に移る以外僕に出来ることはない(町に引きこもるという選択肢は元から無い)。仲良くなったパピーウルフ達のために何もすることが出来ないのは悔しいけれど、本当に出来ることがないのだ。だからといってパピーウルフ達が他のプレイヤー達に蹂躙されていく姿を見続けるということもできず、ならば眼を背けるしかない。逃げている。それ以外に言いようがないが実際にそうなのだから仕方がないだろう。

そして僕が移動先に選んだ場所は【始まりの町】からはるか北にある【ロォークスの森】。ロォークスというのが何を指した言葉なのかは分からないけれど、そのフィールドの適正レベルは35~40、β版時代にトッププレイヤー達がテスト期間ぎりぎりで辿りつくことの出来た最終フィールド。どう考えても自殺行為にしか思えない行動だと自分でも思う。なにせ森の適正レベルがそれならば、そこに辿りつくためのに通るフィールドもまたそれに応じて適正レベルが上がっているはずなのだから。

それでも僕は【ロォークスの森】に行くことを決めた。一応の算はある。【ロォークスの森】は【始まりの町】から唯一アクティブモンスターの分布値を通らずに辿りつくことの出来る場所で、僕自身【隠密】のアビリティツリーを所得している。これならば変なことさえしなければ一度も戦闘状態になることもなく【ロォークスの森】へと辿りつくことが出来るかもしれないのだ。そして【ロォークスの森】にも何種類かノンアクティブモンスターが確認されている。

そして僕がこの店にきたのは服の色による【隠密】のアビリティへの服装ボーナスの恩恵を受けるためだ。oyoでは服装により様々な恩恵を受けることが出来る。一番わかりやすいのが装備品そのものに備わったステータス効果に特殊効果。そしてもう一つは所持しているアビリティツリーとの相互効果。例えば僕の【隠密】ならば、暗闇で暗色系の色合いをした服装をすれば隠密の効果がUPする。他にも草原や森の中など周囲が緑に溢れた場所で緑系の服装ならばその効果が上がるし、同じ緑でもより周囲に近い色合いの物を身にまとえばその効果も上がる。


僕が今回買いに来たのも緑系の衣服だ。深い緑色の布の服とズボン、草色の靴を買い、最後に薄緑色の外套を買う。β版の時に聞いた話だと森の中は薄暗く、暗緑色の装備が隠密ボーナスをより強く得る。そのための服とズボンだ。けれど森に辿りつくまでの道のりはその殆どが草原であり、同じ緑系統の服でも暗緑色の装備では効果も薄い。ゆえに森に辿りつくまではより効果の高い明緑色の外套を購入したのだ。これでノンアクティブモンスターのフィールドを通れば僕のレベルでも森に辿りつくことが出来る可能性が出てくる。森でもとにかく【隠密】のアビリティを最大限に使ってアクティブモンスターをかわして森のノンアクティブモンスターとの友好度を上げて仲間にする。無茶ぶりにもほどがあるけど、この先友好度を上げてモンスターを仲間にしようとしたらこれくらいしか方法が思いつかなかったのだ。他のプレイヤーの誰よりも早く先のフィールドへ向かい、他のプレイヤーが追いついてくるよりも早く友好度を上げ仲間にする。

本当にそれが出来るかどうかは分からない。可能性はとても低いと思う。でもこのままウルフ平野や町の近くにあノンアクティブモンスターの生息するモンスターと友好度を上げ続けていても、結果はパピーウルフ達の二の舞にしかならない。そうしないためにも友好度を上げたモンスターを仲間にする。仲間にさえ出来ればその子だけでも他のプレイヤーから守ることが出来るのだから。








パピーウルフが全滅してそれにマジ泣きしたりいろいろとあれな行動や勝手な決意をしたりしてますが、これは自分の書きたい方向に持って行くためにわざとそう書いてます。

ただ主人公がマジ泣きしたりしたのはゲームや物語の登場人物等に感情移入しやすい質ゆえの行動です。自分も昔フランダースの犬を読んでる最中マジ泣きしてました。

そういうところは共感できる人がいるんじゃないかと思いたい。

それと勝手な決意については主人公がリアルで特定の人物としか会うことの出来ない14歳(つまり幼い)という作中では明言しないだろう設定故ということでご容赦ください。よろしくお願いします



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