23話目 初めてのクエスト*達成編
「スノウ、そいつを、やっつけろ!」
「シュァァアアアアアッ」
白い尾が振るわれ邪龍の眷属の胸を打ち据えると、眷属はたたらを踏んで数歩後ずさり怒りに溢れた目で眼前の敵である白蛇、スノウを睨みつけてきた。
「グリズ!」
その光景を視界の隅に納めながらグリズの元へと駆ける。グリズも僕の声に少しふらつきながらも後退を始める。
「ジュエラ、グリズに癒しの光!」
いつの間にか肩に乗っていたジュエラが指示に従ってグリズに駆けより、額の宝石から緑色の光を放った。放たれた癒しの光を受けたグリズのHPバーが少しずつ回復し始めるが、眷属に潰された頭部の右半面は傷口が塞がりこそすれど元に戻る兆しは無かった。
「そんな、どうして………………」
「ツバサ!」
泣きそうになりながらグリズの顔に触れていると、背後から名前を呼ばれそちらに振り返る。
「シニスさん………………」
「無事だったか、遅かったから何かあったのかと心配したぞ。
それであれは………………、もしかしてサーペンスネブラか?」
さすがβ時代もトッププレイヤーに数えられていたシニスさんか、見ただけでスノウの種族を当てちゃった。
「はい、森の中で偶然出会っちゃって。もしかしたら力になってくれるかもと思って何とかテイムしてきたんです」
「そうか、はは、これ以上ない援軍だな………………」
邪龍の眷属とスノウの戦いに視線を向ける。スノウは体をくねらせて眷属の攻撃を器用に躱し、躱し際の牙による反撃は少しずつではあるが確実に眷属のHPを削っていて、その周りではジライヤさんやお銀さん達が忍術や手裏剣などの間接攻撃で少しずつダメージを加えている。。
「そういえば、テイムモンスターを連れて歩ける上限は三体までじゃなかったのか?」
「ビーストトレーナーになったときに出てきた【パーティモンスター上限+1】っていうのを、スノウを仲間にするときに取ったんです。TPほぼ全部使っちゃいましたけど」
森から町に行く時に得たTPも、森に戻ってくるときに手に入ったTPも全部つぎ込んでようやく手に入った、パッシブスキル扱いで良いのかな?これのおかげで僕のTPは二桁にも届かない量しか残っていない。けどそれに見合うだけのものはあったと思う。
「そうか、よし俺もいくとするか」
採ってきた回復アイテムの一部を渡すと、シニスさん盾を構えて邪龍の眷属と戦うスノウの元へと駆けよっていった。
その後、邪龍の眷属との戦いは今までが何だったのかと思うほど順調に進んでいった。眷属は最大の驚異をスノウと見たのか攻撃を集中し、他の皆へは羽虫を払う程度にしかしないようになっていた。対するスノウは眷属の攻撃を器用に躱し、掠らせもせずに反撃を当てて確実にダメージを与えてゆく。眷属とスノウが戦っている間もジライヤさんの忍術が、お銀さんの武器が、マギサさんの魔法が、シニスさんとデクスさんの剣が眷属に襲いかかり僅かにではあるがダメージを蓄積させていったのだ。
そしてスノウが加わったことでこちらに傾いた戦いも遂に終わりを迎える。
邪龍の眷属が振りかぶった拳を振り下ろすがスノウはそれを躱し、拳は地面に突き刺さる。今までだったなら噛みつきか尻尾の叩きつけがスノウの反撃方法だったのが今回はまた違う物だった。
「シャァァアアアアッ」
今まで以上に俊敏な動きでスノウが動く。腕に胴を絡みつきながら駆け上り首に巻き付き、さらに胸、腰、脚、また腕にと邪龍の眷属に巻き付きその巨体を締め上げたのだ。
「グルゥゥァァァアアアアアアアッ」
邪龍の眷属が上げるのは雄叫びか悲鳴か判別はつかず、スノウの締め付けの効果は徐々にしかし継続的に減ってゆくHPバーが示していた。
眷属もただやられているつもりはないのだろう、反撃しようと腕を動かそうとしているようだったけれどスノウがさらに締め付けることでそれを許さない。
スノウは邪龍の眷属の体の上を蠢きいびつな姿勢を強制し始める。
「まさか、あれは……………………」
「どうしたジライヤ?」
その光景を呆然と見上げていたジライヤさんがポツリと呟いた。シニスさんが不審に思って声をかけるが聞こえている様子がない。
「両脚をロックした状態で両腕をチキンウィングの形に締め上げ、さらに強制的に前傾姿勢をとらせることで腰にダメージを与えようとするこの体勢は………………、間違いない、これはパロ・スペシャル!」
ジライヤさんのなにやら異様に高いテンションにひきながらシニスさんを見ると、シニスさんも処置無しとばかりに首を振っていた。
とりあえずシニスさんに習って視線を外して邪龍の眷属を拘束しダメージを与え続けているスノウへと移す。スノウ達の頭上に浮かぶ二つのHPバーの内、眷属のものが見る見る内に減っていく。スノウが拘束の仕方を変えたことでダメージ量が増えたように思える。
そして眷属の両腕が前へ前へねじり上げられるにつれて、上半身も前のめりにねじ伏せられてゆく。そしてねじ上げられた両腕が地面に着くのと同時に邪龍の眷属の顔は地面に押しつけられ、硬い物が折れる音が響いて締め上げられていた両腕があり得ない方向へと曲がりHPバーが消失、邪龍の眷属の目から光が失われた。
「パ、パロ・スペシャルに続けてパロ・スペシャル・ジ・エンド………………。oyoの開発陣は良く分かってるじゃないか!」
「ありがとう、スノウ。仲間になったばかりなのに………………、本当にありがとう」
動かなくなった眷属から体を解いたスノウの頭を抱いて労うと、スノウは目を細めて頭を擦り付けてきた。スノウを一度離して背後に振り返ると、ジュエラの癒しの光のおかげでHPを回復したグリズに抱きついた。
「グリズも、僕を庇ってくれてありがとう」
治ることなく残ってしまった痛々しい傷跡を撫で、グリズの毛皮に顔を埋める。もしスノウがいなければ、僕を庇って傷を負ったグリズはその後の攻撃を避けることも防ぐことも出来なかったはずだ。そんなことになっていれば僕は間違いなくグリズを永遠に失うことになっていたに違いなかった。
「無事で、本当に、よかった」
「キュルゥゥ!」
グリズの頭を再び強く抱きしめていると、肩に飛び乗ってきた不満そうな鳴き声を上げながら頭を前足で叩いてきた。毛皮に埋めていった顔を上げてジュエラへと向けると、自分もがんばったんだぞとばかりに胸を張ってふんぞり返っていた。
「うん、ジュエラもテスカもありがとう」
「キュルゥゥゥゥ………………」
ジュエラを抱き上げ、一匹僕の足下で静かに佇んでいたテスカと一緒に抱きしめてねぎらいの言葉をかけると甘い鳴き声を上げた。
こうして邪龍の眷属との戦いは幕を下ろした。眷属からアイテムを剥ぎ取った僕らは、戦えば邪龍の力に浸食されてしまうということで戦いに参加せず静観していたエノク様の下へと戻った。
「まさかまさか、お主等の実力で邪龍の眷属に打ち勝てるとは………………。驚いたわい」
「本当に……………………。
私たちの森にもあなた達と同等以上の実力者が多くいましたが、あの眷属一体を押さえることも出来なかったというのに………………」
エノクさんの感心する声に目を丸くしたディリードさんの驚きに満ちた声が続く。口元を手で隠しすでに消滅した邪龍の眷属に倒れていた場所を凝視する彼女、心の中では何を思っているのか。AIだと言うことは分かっているけれど愁いを帯びたその顔にそんなことを思った。
「ツバサがサーペンスネブラを連れてきてくれなかったらどうなっていたか分からなかったですけどね」
「たとえそうでもお主等がかの邪龍の眷属に打ち勝ったのは紛れもない事実じゃよ。
これはワシからも礼をせねばなるまいの」
シニスさんの謙遜のする言葉をやんわりとただし、エノクさんは細かく体を震るわせた。するとエノクさんの体から細かな光の粒子が僕らに降り注ぎ、体がやんわりと光を放つ。
「コレは?」
何が起きているのかとエノクさんを見上げようとした僕らの眼前にステータスウィンドウが勝手に立ち上がり称号の項目が開かれる。そしてずらりと並ぶ称号の一番下に新たな称号が追加された。
【樹人の友】
ロォークスの森にて神樹人エンシェントトレントを窮地から救った証。この称号がある限り殆どの植物系モンスターはノンアクティブ状態になり友好度も最高位の状態に固定される。
植物系モンスターからのレアプレゼント率70%上昇
「レアプレゼントって………………。プレゼントってたしかドロップアイテムがそのままプレゼントとして受け取れるんだよな、てことはレアプレゼントってレアドロップを貰えるってことか?」
「ふむ、たしかにワシ等の渡すあれはお主等にはレアドロップと呼ばれておるのぉ」
「「うぉっしゃーーーーーっ!」」
その言葉にデクスさんとジライヤさんが声を上げて喜んだ。互いに頭上で両手を打ち合わせ、声こそ上げなかったけれどシニスさんも静かに拳を握っている。お銀さんとマギサさんも嬉しそうに互いに顔を見合わせていた
「ツバサさん、みなさん。本当にありがとうございました。こちらが約束していた報酬です」
喜びに沸く僕らをほほえましそうに見ていたディリードさんが首から下げていたペンダントを外し手渡してきた。
それは緑色に輝く碧玉をツタを模した木の飾りで縁取ったペンダントだった。そういうイベントなのか受け取ったそれは自動的に装備させられた。
【碧玉のペンダント】
装着者及びそのパーティメンバーを対象に木属性の物理及び魔法攻撃力、耐性に20%の+補正を与える。
「これ、すごい………………」
「キレイですね」
その性能の高さに驚いている僕の横からお銀さんがペンダントをのぞき込んできた。いつの間にかにすぐそばにあったお銀さんの顔に思わず顔を仰け反らしてしまう。
「これで、こんどこそクエストクリアだな」
それぞれに経験値やPTなどの報酬が振り込まれたのを確認したシニスさんが小さくつぶやき空を見上げ、それに釣られて僕らも顔を上げる。森の中にぱっかりと空いた広場から見上げた空には、いつの間にか月が昇り星々が瞬いていた。
まるで現実の世界にいるかのよう聞こえてくる皆の寝息を耳にしながら、僕は備え付けのベッドから抜け出した。
今僕はロォークスの森にあるマイホームの寝室にいる。エルフに転生するときエノクさんが言っていたあのマイホームだ。同じようにエルフに転生すれば与えられるというこの家は、僕が思っていた以上にすごい物だった。
このマイホームはエノクさんと同じエンシェントトレントが朽ちた後、残った体をくり抜いて作られたという設定を持っていて外見は樹齢何千年を迎えた樹そのもの。
中もなかで一階にはとても広いリビングにキッチン、二階には僕が今いるテラス付きの寝室にさらにこの寝室の半分ほどの広さの部屋が二つ。樹の内部をくり抜いたままの大部屋がある三階に、このマイホームで一番広い部屋である地下室ととてもとても立派で豪勢な物だった。
正直こんなすごい物をポンと貰っていいものかと思ったけど、そこに至るまでの条件を見れば納得できるとはシニスさんの弁。
称号【森の人】とそこから派生する【森の民】か………………。あまり実感は湧かないけどやっぱり無茶な条件だよなぁ。
テラスに出る扉を開けようとすると、ベッドの下で丸くなっていたテスカが静かに顔を上げた。
起こしちゃったかな。寝てていいよ、と首を振るとすこし逡巡したあとまた下のように丸くなって目を閉じた。それを確認して今度こそ静かに扉を開いてテラスに出る。
マイホームからのびる枝に体を巻き付けて眠っていたスノウが僕に気づきテラスへと首を伸ばしてきた。甘えるように擦り付けてくる頭を抱きしめてやると、スノウは目を細めて喜びシュウシュウと音を発する。
「スノウ、今日は本当にありがとう」
そのままテラスに座ろうとすると、スノウが体を潜り込ませ僕はその上に腰掛けながら膝の上に乗った頭を撫でて夜空を見上げた。マイホームのテラスからはちょうど枝が避けてくれているのか吹き抜けの状態になっており、oyo自慢の一つである満面の星空を体験する事が出来る。またoyoでは季節に関係なく星座を見ることが出来るようになっており、テラスから見上げた星空にはちょうど蛇遣い座の姿があり思わず苦笑してしまった。
苦笑した僕を何事かと見上げてくるのを何でもないと首を振り、スノウのひんやりとして気持ちいい鱗に顔を付ける。
そうしていると自然と思い出されるのは今日の戦い。邪神の眷属と戦うスノウの姿だ。現在のトッププレイヤーであるはずのデクスさん達が苦戦したほどの敵である邪神の眷属と互角以上に戦ったスノウ。その姿はアニマルブリーダーがどうしてあんなステータスが低く、肝であるはずのテイムがあんなに難しいかが良く分かる物だった。うんん、考えてみればガーディアンジャガー、ヴォーパルベアといったロォークスの森の二強と呼ばれたテスカとグリズを仲間にした時に気付けたことのはずだった。
僕らアニマルブリーダーとそこから続くジョブが仲間に出来るモンスターはレベル制限が存在していない。対象のレベルが上がればそれだけ難易度は上がるけれど、【出来ないことではない】。それは【only yggdrasil online】というゲームのゲームバランスを容易く崩壊させかねないということだ。考えても見ればアニマルブリーダー系のジョブは自身で戦うのではなく仲間にしたモンスターを自分の武器として戦わせるため、本来自身のステータスが高かろうと低かろうと戦闘に影響が出にくく、より強いモンスターが仲間にいれば何もしなくても勝つことが出来てしまう上にそんなモンスターを複数連れて歩くことも出来るのだ。攻略最前線で戦う、いやそれよりももっと奥にまでゆき、こうレベルのモンスターを仲間にすればレベルに関係なくトッププレイヤー達を簡単に上回る戦力、地道にレベルを上げている人たちにとってこれほど馬鹿にしてくれるようなものがあるだろうか?
「なんで運営はアニマルブリーダー系のジョブを作ったんだろ」
アニマルブリーダー系のジョブに就いている僕が言うことではないのかもしれないけど………………。
「ねぇ、スノウ………………」
抱きしめていたスノウから顔を離して呼びかけると、スノウも静かに顔を上げて目を合わせてくる。
「ごめんね、しばらくスノウには留守番をしてて欲しいんだ」
スノウの目が悲しみに染まったような気がして再び頭を抱きしめる。
スノウは強い。それこそスノウがいるだけで僕は現在のプレイヤー最強とされるゴルドさんにすら簡単に勝つことが出来てしまう可能性があるほどに。それはいろんな厄介ごとを引き込んでしまうことになってしまう可能性があると言うこと。
今日、皆で森へ向かう道すがらジライヤさんがテイムモンスターを譲ってくれと言ってきたように、またたまに聞く強い武器、レアリティの高い武器を持っている人への嫉妬だったり。
いずれは知れてしまうだろうけど、進んでそんなものを呼び込みたくないと思うのは自然なことだと思いたい。スノウに非道いことを言っているという事実に胸が痛むけれど、そんなことを言ったりしてくるしてくる人が出てくればそれはスノウにも害が向かうことになると自分に言い聞かせてスノウの頭を抱きしめた………………。
「本当にごめんね………………」




