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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
25/29

22話目 森の湖

森で回復アイテムを集めてそれを皆に届けるということを4回、時間にすれば3時間が過ぎようとしていた。


邪龍の眷属のHPはようやく半分を切ろうとしていた。

残り半分、このまま押し切ることができれば良いのだけれど僕らが街で用意した回復アイテムはSP、MP回復用の物がいくつか残っているだけでHP用の物はすでに切らしている。僕が採取して届ける薬草では用意していたアイテムよりも効果は薄く、回復効果を持つ実は食べると言う行為を必要とするため効果は高くともそう何度も使用できる物ではない。僕が調合で薬にすることができればよかったんだけど調合用アイテムを僕は持っていないし、そもそも調合を行うためのドルイドの成長値ではこの森で手に入る素材を使用しても調合は不可能だ。


さらに悪いことに広場から近い場所にある採取場所の薬草達はすでに採り尽くしてしまっていて、離れた場所まで採りにいっても集まりが悪くなっている。


「テスカ………………、ほかに薬草がある場所は?」


テスカが鼻を鳴らして周囲の臭いを嗅いで森の中へと走り出す。それを追って僕も木の上を移動してゆく。


「グォォッ!」


テスカの咆哮、それは僕らの向かう先から飛んでくる一体の虫系モンスターに向けられたもの。薄い羽を震わせて木々の間を縫うようにして飛ぶ蝿のモンスター【フォレストフライ】だ。


「風を纏わせて!」


『は~い』


『これでいいの~』


素早く取り出した弓を構え、精霊魔術で矢に風を纏わせる。声に出さずに狙い撃ちのスキルを発動させて矢を放つ。

放たれた矢は違うことなくフォレストフライを貫かんと宙を駆けるが、やはり僕の攻撃はこの森ではいっさい通用しないらしく、頭部のど真ん中に当たっていながらたやすく弾かれてしまう。


フォレストフライってロォークスの森で一番弱いモンスターのはずなんだけどなぁ…………。どうせ、僕の攻撃は囮でしかないからいいけど。


攻撃を受けたことが気にくわないのか、前足で気持ち悪い動きをしたフォレストフライがスピードを上げて一直線に向かってくる。そしてその半分の距離を瞬く間に削ったところで、木を駆け上ったテスカが真下から襲いかかった。


『!?』


驚くフォレストフライの首にテスカの咥えたダガーが深々と突き刺さり、体勢を入れ替えて叩きつけて組み伏せると力強く首を振るってフォレストフライの頭部を切り落とした。


HPが無くなったフォレストフライから『森蠅の目玉』という薬の原料になるらしい素材をはぎ取ることができたけど、今の僕じゃ有効活用なんてできるわけがないよなぁ。


「グゥォォォォン!」


再度テスカの咆哮が上がった。警戒する彼の姿を見てその視線の先へと注意を向けると、木々の合間を縫って【キラービー】といフォレストワスプとは違う蜂型モンスターが一ぴき飛んでくるところだった。


「邪魔を………………!」


『こうすればいいかしら?』


とっさに精霊言語でドリアードに言葉を飛ばすと、キラービーの目の前に木の枝が飛び出してきて視界を塞ぎ文字通り行動の邪魔をしてくれる。とはいえそんな物は上昇するか下降でもすれば簡単に避けることのできるものでしかなく、キラービーは枝の下を潜ることでそれを避けようとする。


「グルァァァァァッ!」


そして枝の下を潜るキラービーの下からテスカが飛びかかり、肥大化した腹部にダガーを突き立て飛び上がる勢いのままに切り裂き、頭上の枝に上下逆さまに着地するかのように足を着け、今度は眼下の存在となった敵に再び襲いかかった。


息も付かせぬような連続攻撃。さすがはロォークスの森の二強と呼ばれるガーディアンジャガーというべきなのかな。テスカはキラービーを地面に抑えつけその細い首に噛みつき一息に噛み千切った。


「はぁ、ありがとうテスカ」


それにしてもなんだか虫モンスターとの遭遇がいつもよりも多い気がする。どうしてだろう?


テスカが腰に鼻を擦り付けつけてきた。


「うん、早く採取にいこう」


それを先を促すものと感じ、テスカに頷き返して再び森を走り始めた。


テスカの先導で森を走ることしばらく、僕は大きな湖にたどり着いた。


「こんなところがあったんだ………………」


湖岸には色とりどりの草花に混じってHP回復系アイテムの薬草類が生えていたり、フォレストウルフが大きなあくびをしながら群で寝そべっていたりととてものどかな風景が広がっている。

始めてみる光景に圧倒されていると再び促されて我に返り、急いで採取を始める。

これなら眷属との戦いも少しは楽になりそうだ。早く集めて皆の所に戻らないと………………。


他の採取ポイントとは比べものにならない量の薬草を採取して、それをアイテムストレージにしまう。マップで現在地を確認し皆が戦う広場までの最短距離を調べる。


「テスカ、行こう。

……………………テスカ?」


テスカを促し出発しようと森へ足を向けるがついてくる気配を感じず訝しげに振り返ると、テスカは近くの岩の上に座り込み静かに湖に視線を向けていた。


「テスカ、急がないと………………!」


再び急ぐよう声をかけるがテスカは動かずじっと湖を注視している。湖に何かあるのだろうか?

テスカの座る岩に近づき湖をのぞき込むが、彼が湖を眺め続ける理由は分からなかった。このままこうしているわけにもいかないので、僕はテスカの背を優しく叩き先を促そうとし………………。


水面に黒い陰が浮かび上がった。











木々を避けてひたすら走る。最後に回復アイテムを届けてからすでに一時間が経とうとしている。

視界の端に映るパーティーメンバーの名前が未だに白く表示されているということは、誰一人として倒されていないということだけど、もしかしたらもうやられてしまう寸前まで追い詰められているかもしれない。少なくとも回復アイテムの数が限られているのだから苦戦を強いられていること間違いはない。だと言うのにそれを届けることが役割の僕がしっかりとその仕事を果たせていない。


すぐ隣を走るテスカが小さく声を上げもうすぐ広場に着くことに気づく。

重たい物が地面を叩く音と爆発音が耳朶を叩き、皆がまだ諦めず戦い続けていることを教えてくれる。自然と走る足に力が入り、僕は速度を上げた。


盛り上がった木の根に躓かないように気を付けながら、それでも速度を落とすことなく広場へと飛び出した。


「皆…………!」


広場へと飛び出した僕の視界に映ったのは焦りの表情を浮かべた皆の姿だった。


「逃げろ!」


シニスさんの余裕のない叫びと共に影が僕側へと落ちる。それと同時に広場のどこにも邪龍の眷属の姿がないことに気づき、目の前に白と黒の二色の身体を持った岩のような巨体、邪龍の眷属が地響きと共に着地しして地震のような揺れが辺りを襲った。


その揺れに耐えることができずに膝を突いた僕は、思わず目の前の敵を見上げていた。今すぐその場を離れて逃げるべきだと言うことにも気付くこともできず、呆然と見上げた邪龍の眷属と目があった。


振り上げられる巨腕。


絶大な威力を秘めたそれが振り上げられれば、その使い道など火を見るより明らかなのではないだろうか?


邪龍の眷属の巨腕が振り下ろされ、赤い影が頭の中が真っ白になって動くことの出来ない僕へ多い被さった。


水気のある物を潰したような不快な音が響き、周囲に赤い液体が飛び散り消えてゆく。


「グゥゥゥゥゥゥゥゥォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!」


「グリズ………………」


赤い影、僕を庇ったグリズが雄叫びを上げて立ち上がり、腕を振るって眷属の巨椀を弾き飛ばす。

後ろ足で立ち上がったグリズの頭からは年齢制限の無いゲームとしてどうなのかと言いたくなるような流血エフェクトがまき散らされ、顔の右半分を潰されたグリズのHPが一割を切っていた。


『部位破損発生。

頭部の部位破損発生により【ヴォーパルベア】は【ヴォーパルベア/スカーフェイス】へとトライブチェンジします』


視界に浮かび上がるシステムメッセージに続いてグリズのステータス画面が開かれ、トライブー種族を表す欄の文字がヴォーパルベアからヴォーパルベア/スカーフェイスへと書き換えられた。


再び震われたグリズの爪が眷属の胸部へと叩きつけられ、僅かにHPバー削ると共に一歩後退させる。


「ガァゥッ!」


その様子を見上げていた僕の襟首を咥えたテスカにその場から離脱させられた。


「グリズ!」


けれどそんなことよりも、僕にとっては目の前で起こっていることの方が重要だった。敵を後退させたグリズは前足を地に降ろすと力が抜けたかのように膝を折った。


【部位破損】は数あるバッドステータスの一つで、時間経過と共にHP、SPにダメージを与える上に全身を疲労が襲うという最悪のバッドステータスだ。

そして膝を折ったグリズへ、邪龍の眷属は腕を振り上げる。


oyoではプレイヤーのHPが0になるとランダムで決定されるデスペナルティを抱えた状態でプレイヤーごとに設定された神殿で復活する。僕の場合は始まりの町にある大神殿だ。

しかしテイムモンスターのHPが0になった場合、自動での蘇生は行われず死体としてアイテムストレージに収納されてしまう。そしてモンスターごとに定められた時間以内に蘇生アイテムを使用しなければそのテイムモンスターの復活は出来なくなってしまう。


テイムモンスターの蘇生に必要なアイテム。僕はそれを………………持っていない。


そしてそのアイテムを手に入れる方法は未だ見つかっていない………………。


「グリズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


邪龍の眷属が振り上げた手を握りしめてグリズに振り下ろすのを見て、僕は悲鳴を上げていた。


「シュァアッ………………!」


そんな僕の悲鳴を切り裂くように呼気にも似た音を立てて白い影が森の中から飛びだしてきた。


白い影は宙を切り裂くかのように真っ直ぐと眷属へと飛びかかり、首筋に一撃を与えそのまま地面へと押し倒した。


「グルゥァアアアアッ」


「なんだ、あれ………………」


それは誰の言葉だっただろうか?

立ち上がろうとす眷属の体に巻き付いた白い影、一抱えもあるような太い胴体と頭部のみというシルエットを持つその存在、白い大蛇に対する言葉なのは間違いなかった。






視界の端に意識を向けると表示されるパーティーメンバーの名前。その後に続くのはテイムモンスターであるジュエラ達の名前だ。

ジュエラ、テスカ、グリズに続く第4の名前、スノウ。


僕の新しいテイムモンスターだ。











テスカの案内でたどり着いたあの湖。そこから広場に戻ろうとする僕らの前に現れたのは降り積もったばかりの雪のように白い鱗でその身を包んだ全長10メートルに届こうかという大蛇だった。


持ち上げた鎌首から水を滴らせた純白の大蛇、ロォークスの森にそんなモンスターがいるなど聞いたことが…………………………あった。

β版時代それぞれのフィールド、フィールドダンジョンで出現するモンスターの情報(名前、レベル)は誰かがその場所にたどり着く度に公開されていた。

テストプレイヤー達はその情報を元に攻略すすめ、情報公開されたほぼ全てのモンスターがプレイヤーと死闘を繰り広げた。そんな中でごく僅かにβ版で情報が公開されつつも発見されることの無かったモンスターが存在する。そんなモンスターの中には確かに純白の鱗に身を包んだ大蛇の存在があったはず。


モンスター名、サーペンスネブラ、レベル99。ボスモンスターであるエノクさんを除けばロォークスの森最強のモンスターだ。

ガーディアンジャガーととヴォーパルベアはどうしたのかと言う人もいると思うけど、あの二種はあくまでも今日までロォークスの森でプレイヤー達が遭遇したモンスターの中で最も強いとしてそう呼ばれていると言うのが実状で、β版では一度も遭遇することの出来なかったサーペンスネブラは敢えて除外されていたのだ。

遭遇しない=いないも同じという話だったっけ。


幻のモンスターなどとの話のネタにされるサーペンスネブラと遭遇することになってしまい、僕は頭の中が真っ白になっていた。蛇に睨まれた蛙、とは違うけれど心境的にはあまり変わらなかったかもしれない。


すぐ横でテスカが声をかけてくれることで思考を開始し、とにかく逃げようと踵を返そうとしてテスカが動こうとしないことに気づいた。動かないのはテスカだけではなくサーペンスネブラも同じで、それを見てジュエラの固有アビリティを思い出した。正直蛇でそのカテゴリーもどうかと思うけど、目の前のサーペンスネブラはそのアビリティのおかげで僕らに攻撃をしてこないみたいだった。


この時シニスさんの「レベル不足だ」という言葉を思い出した。もし、もしもこの子を仲間にすることができれば、皆の助けになるんじゃないだろうか?

気づけば拳を握りしめ、頭上から見下ろしてくるサーペンスネブラを真っ直ぐに見つめ返していた。


「この子を仲間にする事が出来れば………………!」











「スノウ、そいつを、やっつけろ!」


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