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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
24/29

21話目 邪龍の眷属

「おぉ、よく戻ってきたのぉ」


広場に足を踏み入れた僕たちに、いやこの場合は僕にかもしれないけど挨拶をする前にエノクさんの方から声をかけてくれた。


「お久しぶりです。ちょっとエノクさんにお客さんを連れてきたんですけど………………」


僕がその場からどいてすぐ後ろにいたディリードさんがエノクさんの前に出ると、彼女はその場に両膝をついて膝立ちになると祈るように両手を絡めて握り頭を垂れた。


「お初にお目にかかります、神樹人エノク様。

私は南西の端オオコトノリの森の木行神殿にて神樹人リリルス様の側役のお勤めを仰せつかっておりました巫、ディリードと申します」


「リリルス、神樹龍のリリルスか………………?」


「はい、左様にございます」


エノクさんとディリードさんの会話を聞きながら、ここまで護衛してきたエルフさん達が彼女と同じ格好をし始めるのを見て僕もそうしたほうがいいのかとシニスさんを見ると、彼は苦笑しながら首を振ったためとりあえず立ったまま二人の会話を聞くことにする。


「オオコトノリとはまた遠くから来たものじゃな。リリルスの側役が一体なにようじゃ?」


「エノク様、邪龍の目覚めの予兆にお気づきですか?」


「………………」


伏せていた顔を上げディリードさんが真剣な目でエノクさんを見上げ、彼女の言葉にエノクさんの表情がわずかに歪む。


「先日オオコトノリの森を邪龍の眷属が襲いました。リリルス様を含め私達は全力で戦いましたが、必死の抵抗も意味を成さず森は邪龍の眷属の手に落ちました」


「まさかとは思ったが……………………。

リリルスも逝ったか」


「はい。私たちを率い常に先頭に立ってそのお力をおふるいになられましたが多勢に無勢、最後は私たちのようにいくらかのエルフが森を脱する時間を稼ぐために………………」


苦渋に満ちたディリードさんの表情。対するエノクさんも表情は分かりにくいけれどにたような雰囲気を漂わせている。


「………………そうか、生まれ育ちし森を捨てる苦しみ、役目を果たしきれなかった悔しさ、同じ思いをしたことのないワシには察する程度のことしかできぬが、よくぞ無事にここへとたどり着き、そして教えてくれた。心より礼を言わせてくれ」


「勿体なきお言葉にございます」


「これからはいかがするつもりじゃ?他の森へと向かうか、それともこの森で住まうか。好きな道を選ぶといい」


「エノク様のご厚意、ありがとうございます。私たちオオコトノリの森のエルフ一同、このロォークスの森に住まわせていただければと。それと願わくばエノク様の側役として置いて頂ければと」


「ワシら樹人はいかなる時も来るもの拒まずじゃ、好きにするといい」


「ありがとうございます。

エノク様に緑のご加護のありますことを」


再度頭を垂れて礼を述べて彼女が立ち上がると、他のエルフ達もそれに習って立ち上がり僕らの方へと向き直る。


「ツバサ様、そしてそのパーティーの方々。此度は私たちの頼みをお聞き頂きありがとうございました」


ディリードさんが他のエルフ達の間を通って僕らの前までやってきて礼を述べられる。


「いえ、何とかうまくできて良かったです」


本当にそうだよなぁ。ボラーがシニスさん達に声をかけてくれなかったどうなってたことか………………。


「それではこれは私たちからのk「何じゃこの気配は!?」」


ディリードさんが首に掛けていたペンダントをとろうとしたところで、突如エノクさんの声が上がる。何事かと彼を振り返ると同時に僕らから見て南西の方角から怖気の走る咆哮が響いた。


「こ、この声は………………」


ディリードさんの顔が恐怖に歪む。それはここまで一緒にやってきたエルフ達も同様で、僕よりも小さな幼いエルフなどは尻餅をついて泣き出すほどだ。


「まさか、邪龍の眷属がここまでやってきたというのか………………」


エノクさんが身体を振るわせながらも落ち着いた様子でディリードさんを見下ろし、その視線を受けた彼女は唇を噛みながら小さく頷いた。


「はい、今の咆哮は間違いなく、邪龍の眷属のものです」


ディリードさんの住んで行いた森を滅ぼした邪龍の眷属がここに来た?なぜ?

例えゲーム上の設定のでの話であるとはいえ森を滅ぼした存在だ、脳裏に浮かぶのはロォークスの森が化け物の手により蹂躙される姿。ウルフ平野をでてようやく訪れ、このゲームでのほとんどの時間を過ごしたこの森が………………。

この【only yggdrasil online】はアトモック社から発売されたオンラインゲームであるが、開発運営はアトモック社ではなく、アトモック社から依託されたあるゲーム会社が行っている。そしてその会社のヒット作となったとあるオンラインゲームでは一人のプレイヤーの行動が、そのサーバー全てでプレイしている人たちに影響を与えることがあった。たとえば一つのサーバーにつきたった一人しか受けることのできないクエスト。あるイベントで砂漠となった草原が、そのサーバーでは二度と草木が生えることがなくなるなど。

だからありえるのだ。森を滅ぼしたという設定を持つ邪龍の眷属が、この森を蹂躙し、ロォークスの森が無くなる可能性が………………。


この森には仲良くなった子がまだたくさん居るのに………………。


「邪龍の眷属か………………、ボラーから聞いてたけど本当に出てくるとはな」


「あぁ、エノクさんだっけ?その眷属の数は分かるのか?」


エノクさんとディリードさんの間に剣をを抜いたシニスさんとデクスさんが進み出、二人の後ろではお銀さん達もそれぞれの武器を手に声の聞こえた方角に注意を払っている。


「数は一つじゃが、まさか戦おうというのか?邪龍の眷属と!」


エノクさんのその言葉に思わず二人の背中を凝視していた。


「俺たちはいつかは邪龍の眷属と戦うことになる。今の内にそれがどんなものか見ておくのも悪くない」


「おいリーダー、なに呆けてるんだ?今のリーダーはお前なんだからもちょいしっかりしろよ」


「っっつ!」


振り返ったデクスさんに背中を叩かれた。


「俺とデクスでタゲ取りするからお銀、ジライヤ、テスカは俺たちのサポートをしながらダメを稼げ。グリズとマギサは攻撃に専念。ツバサはジュエラと一緒にアイテムでのサポートに徹しろ。絶対に攻撃に参加しようと思うなよ」


「………………はい!」


うん、そうだよね。もうあんな思いはしたくない。絶対に、そうはさせない。この森は僕らで守るんだ………………。











地響きと共に広場の中央に飛び込んできたのは、今まで見たこともないモンスターだった。3メートルを越える巨体はまるでゴリラのようで、短足の足も腰を折り曲げ拳を地面に付ける腕は丸太のように太い。分厚い岩のような身体の上には首のない頭が乗っていてギラついた白い目が僕らのことを見下ろしている。


『イベントボス【邪龍の眷属・トロール種、撲する巨腕】』


視界の端に映るわずかな情報と戦闘開始の合図を見て、僕らはそれぞれの役割をこなすべく動き出した。


『『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ』』


『グガァァァッァァァァァァァァァァァアァァァァァァァッ』


デクスさんとシニスさんが同時にウォークライを放ち、標的を定めようとしていた邪龍の眷属が二人に顔を向け負けじと咆哮する。たった一歩で二人との距離の半分を詰めてその巨椀が裏拳気味に振るわれる。シニスさんとデクスさんはその攻撃を半歩下がることで躱し同時に相手の懐に飛び込み剣を振るった。


「【パワーエッジ】!」


「【ストレングスピアー】!」


斬撃系スキルと刺突系スキルの同時攻撃。単純に力を増すだけのスキルだけど、単純なだけに使い勝手のいいスキルとして知られているものだ。


ガキン、と金属で硬い物を叩いたとき特有の音が響いた。


腕を振りきり二人の攻撃を躱すことも防ぐこともできなかった邪龍の眷属の脇の下に吸い込まれるように放たれた攻撃は、硬質な音を立てて弾かれていた。


「くっ、見た目通り硬さってわけか!」


スキルを使用してまで力を込めて放たれた一撃を防がれた二人は、弾かれた武器を手放さないようにするのが精一杯だったのか苦い顔をしながら悪態を付いた。


撲する巨椀の頭上に浮かんだHPバーは減っているようには見えず、ダメージを与えていたとしてもほんの僅かしか通っていないのは明白だった。


「【火遁・火手裏剣】!」


ジライヤさんの手から放たれた手裏剣状の火が邪龍の眷属の顔目掛けて宙を駆けるが、結果は先の二人と同じで見て取れるようなダメージを与えることができなかった。


「くそ、なんだよこれ!ダメージが与えられねぇ!クリアさせる気がないのかよ!」


火手裏剣を放った木から飛び降り悪態をつき、それでも次の術を放つための印を結び始める。


「【ロックガード】!

……………………っ、いや、これはそういうもんじゃないなっ………………」


眷属が振り回す腕を防御力を上げつつ衝撃を緩和する盾スキルを使用したシニスさんが受け止めるが、巨腕の一撃は強化しているはずの防御を貫きHPの2割も削り、さらにノックバック効果で3メートルも吹き飛ばされる。


「ジュエラ回復!」


「デクス、一度退きなさい!

『リンデ・パルス・スナスドナ』!」


ダメージを受けたシニスさんの下へとジュエラを走らせ、僕の側で魔法を詠唱していたマギサさんの合図にデクスさんが邪龍の眷属から距離を取り、それを確認するやいなや魔法を完成させる。


デクスさんへの合図と共に振り上げられていた手の上に、森に来る前に彼女が使用しサンダークラウドワームのときのように黒雲が生成される。そして眷属へと腕が振られるとその黒雲から雷光が走り邪龍の眷属へと襲いかかる。


連続で6発の稲妻が眷属に浴びせられるが、与えられたダメージはようやくHPバーをほんの僅か、1%にも満たない量を削っただけだった。その事実にマギサさんが舌打ちをしながら次の詠唱を開始する。


『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』


眷属の標的が魔法でダメージを与えたマギサさんへと移ろうとしたところでデクスさんのウォークライ。これによりターゲットがデクスさんへと再び固定され、そちらに身体を向けようとする眷属の背後からグリズの体当たりが入り再びHPバーが僅かに削られる。


「くっ、おそらく俺たちのレベル不足だな」


「はぁ、なんだそりゃ。それじゃ護衛とボス戦で難易度が違いすぎるだろ」


ジュエラの回復スキルと併せて回復用ポーションを飲みながらの言葉にジライヤさんが反論するが、シニスさんは小さく首を振ってそれを否定する。


「このダンジョンフィールドの適正レベルは浅いところで30前半、中程から最深部に近いこの場所は30後半から45前後だって言われてる。そしてダンジョンやフィールドでの護衛クエストの適正レベルはその場所の適正+10。対して俺たちの最高レベルはマギサの34、次が俺とデクスで32だ。これだけでも適正レベルを20も下回ってるんだ。

レベルが全てだなんて言うつもりはないが参考にはなる。どう考えてもレベル不足だ」


「だ、だけど森の中ではこんなに………………」


シニスさんの説明にジライヤさんが言葉に詰まりながら反論しようとする。


「ジュエラのアビリティでスか………………」


しかしその言葉もお銀さんの言葉で中断され、彼の視線が僕へと向けられる。


「そういうことだ。俺たちはジュエラの固有アビリティのおかげで、森の中では虫系モンスター以外と戦闘することがなかった。おかげで楽にここまで来れたが、その分レベルも大して上がってないしこのクエストの本来の難易度にも気付けなかったわけだ」


「くっ………………!」


僕からはずされた視線がデクスさんを攻撃する眷属へと向けられ、忌々しそうに言葉を飲む。


「説明はいいから、早く手伝ってくれぇ!」


「全員持久戦だ。MP、SPの残りに気を付けろ!『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ』!」


シニスさんに眷属のターゲットが変わったのを見て即座に後退したデクスさんに駆けより、手早くポーションを振りかける。


「ツバサ、できれば広場の周りから回復系のアイテムがあれば採取してきてくれ。こいつが相手じゃ手持ちのアイテムだけで保つ気がしない………………」


「え、でも………………」


「適材適所だ。お前がここに居ても何もできないだろ」


デクスの言葉に悔しさがこみ上げる。けれど彼の言っていることに反論することはできない。なぜなら彼の言うとおりなのだから。

デクスさん達ですらろくにダメージを与えられないのに、僕の攻撃が通用するわけもない。そして今は標的になっていないからいいけれど、もし僕が眷属の標的になってしまえばあの攻撃をしのぐ手段を持ち合わせていない僕は完全に足手まとい。僕がこの場に居なければいけない理由は無いと言ってもいい。けれど森の中でならばアイテムの採取など僕に出きること、いや森を庭のように動ける僕ならばデクスさんの言う通り回復用のアイテムを採取してくることができる。


「わかり、ました………………」


「念のためにテスカを連れて行けよ。ジュエラのアビリティがあるとはいえ虫には効かないんだからな」


眷属の足下を目まぐるしく駆け回り咥えたダガーで足首に攻撃を加えていたテスカを見れば、テスカも視線に気づいたのか一太刀を与えて駆けよってくる。


「正直あれを相手にテスカの攻撃力じゃいてもいなくても同じだからな。それならツバサと一緒に回復アイテムを探してきてもらった方がいい。

頼んだぞ、お前がどれだけ集めてきてくれればそれだけ勝てる可能性も上がるんだからな」


「はい!

テスカ!」


邪龍の眷属と戦う皆に背を向けて、僕はテスカと一緒に森の中へと駆け込んで行く。ゲームが開始してからそのほとんどの時間を過ごしたロォークスの森。どこに何があるのか、その全てではないけれど他の人たちよりも知っている自信がある。

ならデクスさんに言われたとおり、僕はその回復アイテムできる限り集めてくるんだ!


ウィップムーブで頭上の枝に飛び乗って、テスカと共に森を駆ける。まずは薬草の群生地を目指そう。




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