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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
23/29

20話目 森の道中

結局サンダークラウドワームはマギサさんの言うとおり5分以上たってようやく消滅した。消滅するまで彼女の指示通りに動くためそのままにしておくのももったいないと近くにいるモンスターの群へと攻撃させたため僕らは警戒こそしていたけどすんなりと道を進むことができた。

あの呪文はどうやら上位魔法並の威力があるらしく、周囲のモンスターで一度でも攻撃に耐えられるものがいなかったのが原因だった。

制作者本人もここまで強力な魔法だとは思っていなかったらしく、ディリードさん達を含めた全員のやり過ぎじゃないかという視線から顔を逸らすほどだった。


ブラッドヴォルフを倒したシニスさん達も何が起きたのかと慌てて戻ってきて、ことの次第を聞いてマギサさんに呆れたような視線を送っていた。


マギサさんが群鼠を攻撃するときに出した水晶は【遠見の水晶球】という魔法使い系ジョブ専用のアイテムで、屋外に限り一定範囲を自由に見ることができるため、それで森までに遭遇しそうなモンスターを見つけ次第サンダークラウドワームをけしかけていたため、森のすぐそばに来るまでモンスターの襲撃もなく、森直前でフライングセンチピートが襲ってきたものの、さしたる苦労もなく倒すことができた。


戦闘中幾度か僕も攻撃する機会があったけど、弓も鞭も精霊魔法も森を出たときとあまり変わらない戦果しか挙げることができなかった。マギサさんのお陰でレベル上がってるんだけどなぁ………………。

ブリーダー系のステータスの低さは伊達じゃないのかなぁ………………。


β時代寄生って呼ばれてた理由が良く分かるような気がする。


「たしかにな。けどツバサはガーディアンジャガー達が居るんだしそこまで気にすることもないだろ」


シニスさんはそう慰めてくれるけど………………。うん、もともと僕の目的は戦うことじゃないんだし………………、そう割り切るしかないのかなぁ………………。






グリズの上に乗ったジュエラがヴァンクの実を食るのを眺めながら、僕も町で買ったパンにかぶりつく。僕たちは今森の外れで休憩をとっているところで、もう30分もすれば森にはいることになっている。


「ん~β時代以来だな、この森に来るのも」


一足先に食事を終えたデクスさんが、すぐそばの木に生っていたヴァンクの実でジュエラの気を引きながら感慨深げに呟いた。


「そういえば、デクスさん達ってβ時代にはゴルドさんとパーティー組んでましたよね」


「たまにな。俺は基本兄貴とのコンビで手強いところに行くときだけ少数組の連中と組んで行ってたんだよ。前衛をゴルドの左右を俺と兄貴で固めて、クリシュナ、犬一筋さんが後衛、ウッディが斥候役ってのが多かったな。

たまに鉄王さんと三人で突っ込んだりして何かある度に鉄王さんが『○○の仕業かぁ!』って」


「あぁ鉄王さんの『○○の仕業かぁ!』ってものすごく有名でしたね」


僕も一度だけ鉄王さんがそれをやる現場に………………、というか僕が初めて会ったとき女子と間違えられて、それを訂正したら悲痛な声で叫んでたんだよなぁ。


「これからもシニスさんとコンビでやっていくんですか?」


あ、ジュエラがヴァンクの実を奪った。


「いや、そのうちギルドでも立ち上げようと思ってる。

名前はまだ決まってないけどなんとか騎士団みたいな感じにしてさ。兄貴がギルマスで俺がサブマスだ。そうだ、ギルドができたらツバサも入るか?」


「ありがとうございます。でも僕はのんびりとプレイするつもり何で………………」


それに騎士団なんて名前じゃ僕浮きそうだしなぁ。ステータス上がっても僕自身はそんなに強くなれそうにはないし、お荷物にはなりたくないしなぁ。


「そか、まぁ気が変わったら言ってくれよ。俺も兄貴もツバサなら大歓迎だからな」


「はい、もしそうなったときはよろしくお願いします」


ジュエラがデクスさんから奪ったヴァンクの実を食べ終え、グリズの上から僕の肩に飛び移ってくる。

デクスさんが立ち上がりシニスさんの所へ戻り、再び森へ視線を向けて揃って顔をひきつらせるのを見て僕もそちらへ視線を向けると、そこにはいつの間にか10頭近くのガーディアンジャガーが思い思いの格好でくつろいでおり、その中にはテスカの姿もあった。


僕にとっては見慣れた姿だけど、始めてみればそうなるよね。


「あ、あれ大丈夫デスか?」


「何もしなければ襲ってくることは無いはず何だけど………………」


いつの間にかそばにいたお銀さんの言葉に、僕はそう返すしかできなかった。

だって今まではパーティーを組んだ状態で森にいたこともないし、こんなことは初めてなんだから確証を持つことなんてできるわけがない。






結論から言えば、森に入った僕たちをガーディアンジャガーが襲ってくることはなかった。それはヴォーパルベアやフォレストウルフといったモンスター達も同様で、パンチツリーやフォレストワスプといった樹系、虫系のモンスターが襲ってくるのを退けながら楽に森を進むことができた。


「なんていうか拍子抜けだよなぁ、ロォークスの森ってもっとこう、一歩進むのにも神経を削るようなイメージがあったんだけど」


「いや、本来はこんなもんじゃないからな」


手にした刀でマンイートスパイダーを切り捨てたジライヤさんが詰まらなそうに呟き、それを聞いたシニスさんが窘めるように言う。


「β時代に来たときはこれでもかって数のモンスターに追いかけられたりしたんだぞ。

まぁ、現状気が抜けるくらい楽なのは確かだけどよ」


「おそらく、ジュエラちゃんのスキルの効果がパーティーと護衛対象全体に作用してるんでしょうね」


「ハイ、先ほどモヴォーパルベアが側を素通りシていきましたが、私たち見向きもされなかタ」


ヴォーパルベアだけじゃなくてフォレストウルフなんかも素通りしていったよなぁ。やっぱり思った通り森まで来ることができれば後は簡単だったみたいだ。

ただその森までは僕一人だったら絶対に守りきれなかったと思うけど。


「マンイートスパイダーの甲羅、これで4つ目か。もう少し集まれば防具を強化できそうだな」


「それはいいがもう少し警戒しとけ。ヴォーパルベア達が仕掛けてこないとはいえ虫系のモンスターは普通に攻撃してくるんだからな。いつ何が起こるか分かったもんじゃないぞ」


マンイートスパイダーを探しているのか辺りをキョロキョロとするジライヤさんの肩を叩き、シニスさんは周囲を見回した。


「今のところ、周囲に敵いないデス」


僕も周囲に気を配っているけれど虫系モンスターの気配は無く、エノクのさんいる広場までそれが続きそうだった。






「グルルルルルルルッ………………」


もう少しでエノクさんのいる広場に着こうと言う時分、すぐ側に着いていたテスカが横に顔を向けてうなり声をあげた。


「敵?」


コクリと頷くのを見てシニスさんとデクスさんがテスカの向いている方へと盾を構える。

もう戦闘はないかと思ってたんだけどそううまくはいかないか。


僕はテスカを伴いすぐ側の木へと駆けよりいつもそうしているように軽々とよじ登り、なるべく太い木の上で弓を構える。護衛として着いてきたテスカが落ちないようにリーダーベルトを咥えて固定してくれる。


他の枝の上にもお銀さんが待機し、その手には手裏剣が準備されている。さて、テスカが見つけたのは一体なんだろうか?


『なぁに?またお手伝いが必要なのかしら?』


『クスクスクス、いいよぉ手伝ってあげる』


目を凝らしながらシルフに話しかけ、弓につがえた矢に蔦のように風が巻きついて行く。


『お探しの物はこれかしら?』


耳に届くのはドライアドの声。視線の先の枝が心なしか少し動きその先に複数の大きな蜂、フォレストワスプを見つける。まっすぐとこちらに向かってくるフォレストワスプの数は五体、おそらく決まった場所を巡回していたグループのようだ。


「フォレストワスプが五体デス」


お銀さんが下の皆に発見の報告をいれる。


「先制できるか?」


「この距離なら届きます」


スキル【狙い撃ち】を使えば十分に命中させられる距離だ。それに精霊魔法を利用して矢の威力も上がっている。一撃で倒すことは無理でもダメ-ジ位は通るはず!


「ん~、まぁいいか。やってみろ」


何か考え込んだシニスさんからGOサインが出た。僕は小さく頷くとフォレストワスプめがけて弓を引き絞る。


「【狙い撃ち】………………」


小声でスキルを音声発動させると、風の絡みついた矢が白く輝き出す。

狙いは甲殻に覆われておらず一番柔らかそうな羽。先頭のフォレストワスプが木の陰から出てきた瞬間………………、


ビンッ、という音ともに矢が放たれた。






矢は目視するのも不可能な速さで森の中を駆ける。真っ直ぐ真っ直ぐに、狙い違わず吸い込まれるようにフォレストワスプの羽へと迫り………………、






パシリ、と情けない音を立てて(そんな気がした)弾かれた。


遠くてよく見えないけど、ダメージも全く入ってないんじゃないかな?






「グルゥ~ン」


「うん、ありがとうねテスカ」


テスカの慰めるように上げた鳴き声が心に染みた。






「予想通りだな」


「ていうか今のツバサでダメージを与えられる敵がこの森にいるわけ無いしな」


「………………とりあえず後ろ退がてて下さい」


聞こえてきたシニスさん達の話に顔を逸らしながら躊躇いがちにお銀さんに促された。


「はい………………」


弓をしまって振るった鞭を近くの枝に巻き付け、振り子運動のようにぶら下がってディリードさんの側に着地する。鞭術のアビリティツリーで手に入るスキル【ウィップムーブ】だ。鞭をひっかける場所が多い森の中では大いに役立つスキルなんだけど………………、先の件がさすがにショックすぎて使い勝手に喜ぶ気にはなれなかった。


「あ、あの………………、元気出して下さい。ツバサ様は一人でこの森に住まわれていると聞きました。森の守護獣や森の暴君を従え森の獣達と心を通わす。誰でもできるようなことではありません。たとえ、その………………お非力であられても誇れる物があるのですから」


戻ってきた僕をディリードさんが迎えてくれ、さらに慰めまでしてくれたのはうれしいいんだけど。最後の方の非力って言葉はちょっと胸に刺さったよ……………。


「うん、ありがとう」


それでもお礼だけは言って今まさにフォレストワスプたちと戦いを始めようとする仲間を振り返った。






ファーストアタック(僕の攻撃はあえてカウントしない。しないったらしない)はお銀さんだった。フォレストワスプ達が手裏剣の間合いに入るのと同時に三つの手裏剣を放った。先頭のフォレストワスプを狙った手裏剣はとっさの所で避けられてしまうが、一枚の手裏剣は斜め後ろを飛んでいた敵の足を一本切り落としていた。


敵のHPが僅かに減少するのを確かめもせずに彼女は枝を蹴った。跳び行く先はフォレストワスプの頭上の枝。どこからともなく取り出した竹筒を枝の下にいるフォレストワスプへと放つ。

フォレストワスプは当然それを避けようとするがしかし、お銀さんが放った竹筒からは一本の糸が伸びていて、その端を握っているのはもちろんお銀さんだ。


彼女が腕を振るえば一度は避けらたはずの竹筒が、空でクンっと引き返してその紐が敵の首に巻き付いた。


「【火遁・釣るし火】」


木から飛び降りれば、下に降りる彼女とは逆に首に紐が巻き付けられたフォレストワスプが絞首台の罪人のごとく枝の下に吊される。


パチン、と指が鳴ると同時に手にした紐を炎が走る。その紐を導火線として駆け上っていく炎はやがて首に括り付けられた竹筒へといたり、爆音を立てて爆発しフォレストワスプの頭部を吹き飛ばし一撃でHPを削りきる。モンスターごとに設定された急所へのピンポイント攻撃による大ダメージだ。


『ギギギィッ!』


仲間をやられたことで怒りに満ちた泣き声を上げてお銀さんへと殺到するのを、駆けよったシニスさん達が盾となって防ぐ。


「お銀、一度退け!」


「ハイ」


デクスさんの言葉に頷き血を蹴る彼女の横をグリズが駆け抜け、シニスさん達二人は後ろを見ることなく同時にシールドバッシュをフォレストワスプに見舞わせて怯ませながら左右に飛び退く。二人が飛び退いたところにグリズが飛び込み慌てて逃げようとする敵にその太い腕を振るい叩き落とす。グリズの一撃を受けた二体のフォレストワスプの片方はそれでも素早く飛び立ち踏みつけを避けるが、もう片方は先にお銀さんの手裏剣を足に受けた個体でダメージで動きが鈍っているのか、避けられた足で再び踏みつけを行ったグリズの足に胸部を潰され、羽を暴れさせて逃げようとする。そんなフォレストワスプの頭部に一度は引きながらも素早く転身したお銀さんの苦無いが眉間に突き立てられ、それが留めとなって消滅する。


「【ファルコンスラッシュ】!」


グリズの踏みつけを避けながらもフラフラと逃げ出そうとするフォレストワスプにデクスさんのスキルが放たれる。一瞬の合間に四度五度と振るわれた刃がフォレストワスプの間接を捕らえ、瞬く間に解体して行く。

スキルを放つデクスさんの横をシニスさんが駆け、デクスさんの背後から仕掛けようとしたフォレストワスプの攻撃を盾で防ぎ、そのままシールドバッシュで距離を離させる。フォレストワスプが怯むのとほぼ同時にデクスさんのスキルを使用したことで生じる硬直時間が解け、振り返りながらシニスさんの前へと飛び出しフォレストワスプに斬りつける。上段から振り下ろされた剣がフォレストワスプの頭を下げさせ弱点である首の間接部が晒され、その好機を逃すことなくシニスさんがそこに刃を閃かせ半分ほど残っていたはずのHPを完全に吹き飛ばした。

常に行動を共にし互いのことを理解できている兄弟であり、数いるプレイヤーのトップランカーである二人だからこそできる連携の数々。同じβ版プレイヤーの僕とは大違いだなぁ。


残る敵は1体。瞬く間に同族を殺されて激昂したのか、二人に襲いかかろうとするが僕と一緒に枝の上に上っていたテスカが頭上から襲いかかり地面に押さえつけ、肩に付けられた鞘から口でダガーを引き抜きフォレストワスプの首を切り落とした。


モンスターは武器や防具を併せて二つまで装備することができる。前にボラーと話したモンスター用の装備とモンスターによって異なるもののプレイヤー用の武器も装備することができる。テスカが装備しているのはガーディアンジャガーナイフや片手剣を装備できることを知ったボラーが選別にくれたスティールダガーだ。グリズとジュエラはモンスター用の武具しか装備できないため、今は何も装備していない。


テスカがダガーを鞘に収めてフォレストワスプを咥えるような仕草をするとポリゴン片となって消滅し、テスカの口に咥えられる形で再構成される。そして足早に駆けよってきてお座りすると咥えた物を僕に差し出してくる。


「ありがとうテスカ」


何かを期待するような目で見上げてくるテスカの頭を撫でてやり、咥えられていた森蜂の甲殻を受け取ると気持ちよさそうに目を細め、すぐに周囲の警戒を始める。


「テスカはお利口だな。くぅ、俺もモンスターが欲しいなぁ」


物欲しげなジライヤさんの視線は無視する。ここに来るまでも何度か同じ視線で見てきてはモンスターを捕まえてくれと言ってくるので、こう言うときはなるべく目を合わせないようにしている。


皆の戦闘を見ている間に肩に乗ってきたジュエラが自分にもかまえと頬を叩いてくるので、とりあえず額の宝石を小突いてやりながらシニスさん達を迎え、僕らは今度こそエノクさんのいる広場へと到着した。











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