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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
22/29

19話目 オリジナル合成呪文

攻略最前線であるキャラルの町のにある4つの門は、それぞれが攻略対象のダンジョンフィールドである森に続いていることもあって、トッププレイヤーやそれを客とする露店で賑わっているが、今日はまた別の理由でにぎわいを見せていた。

見せていたとか言ってるけどその理由は間違いなく僕たちなんだけどね。革鎧の上から羽織ったマントについたフードを被り、その中で小さくため息をついた。


そうそう、前から説明をしてなかったんだけど【ダンジョンフィールド】というのは前に話した森や山のように、ワールドマップ上に記されている以上に内部が広いエリアのことで、oyoは【フィールド】【ダンジョンフィールド】【ダンジョン】の三つで構成されていると言っても過言ではない。なにせマップに記されている以上の広さという意味では各町や村も、町の外周と内周では明らかに内周のほうが長く、どうやっているのかは不明だけれどそのエリアが拡張されていることに間違いはないのだ。


「ツバサ様、此度は私共の頼みをお聞きくださりありがとうございます」


話を逸らしちゃったけど元に戻そう。西門の前に集まった15人のエルフ(全員フード付きの外套を羽織っているのに誰1人フードを被っていらっしゃらないので余計に目立つ)にテスカやグリスを連れた僕らのパーティーを囲む野次馬達が、普段とは違う喧噪で西門を賑わせているのだった。


「いえ、元々ロォークスの森には戻るつもりだったし………………。お礼なら僕よりもシニスさん達に言ってほしいな。依頼を手伝ってくれるんだし………………」


視線を彼らに向ければデクスさんが笑みを浮かべて肩を竦めていた。


「それじゃ、出発しましょう」


僕の言葉に全員がうなづき、僕らはキャラルの町を出発した。






「では私、先に行てますネ」


「はい、よろしくお願いします。テスカも頑張ってね」


町を出て少し進むとお銀さんが一行を離れて先を走り始める。さらに僕の言葉に小さく喉をならしたテスカがお銀さんの後を追ってジャラクロゥ草原を走ってゆく。


『護衛対象に出来る限り敵を近づかせないこと』

それがボラーやシニスさんから聞いた護衛系のクエスト鉄則だった。たしかに守るべき相手を危険から遠ざけるべきであるというのは理にかなっているけれど、ここは敵対するモンスターがたくさんいるフィールドだ。敵を近づけないようにするのはそう簡単なことではない。

そこで僕たちはお銀さんやテスカのように隠密のアビリティを持った人たちが先行して周囲の索敵や攪乱を行うことにしたのだ。

先行したお銀さん達が敵を見つけた場合、数が少なく短時間で倒せるモンスターならばそのまま排除し、数が多かったりする場合は別のルートの索敵やモンスターの誘導を行い出来る限りモンスターが護衛対象に近づかないようにすることになっている。


ちなみに、同じ隠密持ちである僕とジライヤさんはそれぞれ戦闘能力の低さ、服装による隠密効果にマイナス補正を受けているなどが理由でこの任務を外されてしまっている。やっぱり悔しい………………。


それでほかの皆の配置だけど、一行の先頭を一応パーティーリーダーとなっているグリズを従えた僕。その後ろにディリードさんを先頭にした15人のエルフさん達が3列というなるべく長蛇にならないように並んで続き、その両端にジライヤさんとマギサさんが、列の両斜め後ろにシニスさんとデクスさんが一行を囲む形で草原を進んでいる。


お銀さん達が出発してからしばらくは周囲にレベル上げをしているパーティーが何組もいることもあって、それらを避けるように進むだけでなんの問題もなく進むことが出来た。


「はぁ、敵も来ねぇしなんか暇だな」


「来ないに越したことはない。今はそういうクエストの真っ最中なんだからな。それにジャラクロゥ草原には地中を移動するモンスターもいるし、お銀達は進行方向の索敵を中心に動いてるんだ。当然地中の連中は取りこぼしちまうだろうし左右からいつ敵が来るか分からないんだ。もっと集中しとけ」


「了解了解、ちゃんと集中してますよ。俺だってこの初めてのクエストを成功させたいって思ってるんだからよ」


頭の後ろで腕を組みながら軽口をたたくジライヤさんにシニスさんは溜息をつく。


それからさらに少し進んだところで、右前方に薄桃色の煙が上がり始めるのが見えた。あれってたしか………………。


「【木遁】の【香華炭】だな」


【香華炭】、出発前に教えて貰った木遁忍術の一つで、あの煙が上がっている間一定範囲内のモンスターを引き寄せる効果があるんだっけ。


「このまま行くとモンスターにぶつかる可能性があるわけか………………」


香華炭の煙の色は制作者が自由に設定することが出来、あの薄桃色の煙はお銀さんの香華炭のものだ。僕らの進路方向上にお銀さん達だけで手早く倒すことの出来ないモンスター達がいたり、辺りを巡回したりするモンスターがいたを場合には、あれを使用して場所を移動させる手はずになっている。


「ツバサ、少し左に進路を修正しろ」


「はい」


隣を歩くグリズの肩を叩いて左斜め前方を指さすと、彼は小さく頷いてそちらに進路を変更する。


「そのヴォーパルベア、本当に頭がいいよなぁ」


「あぁ、できれば俺も一匹欲しいな。

ブリーダー系の奴が仲間にしたモンスターって他の人に譲渡することもできるんだろ?今度俺にも何か捕まえてくんねぇか?」


「え、いや、僕そういうことする気は無いんだけど………………」


早足になって隣に並んだジライヤさんは、本気とも冗談ともとれない調子でそう聞いて来たけれど、僕は首を振ってそれを断った。


「え~、いいじゃん減るもんじゃないし」


「ブリーダー系のプレイヤーが仲間にできるモンスターの数は決まっていて、ほかのプレイヤーにモンスターを譲渡しても仲間にした数のカウントは減らない。

ツバサがしたくないと言ってるんだ、諦めろ」


なおも食い下がろうとするジライヤさんを、いつの間にかすぐ後ろに来ていたシニスさんがつまみ上げて止めてくれた。


「ちぇ、了解」


渋々といった様子で了承した彼を下に降ろし、元の配置に戻っていくのを見届けた後シニスさんに頭を下げると肩を竦め苦笑しながら彼も元の配置に戻っていった。


モンスターの譲渡、か………………。ブリーダー系以外のジョブの人は一体までモンスターを仲間にすることができるけど、その方法は今ジライヤさんが言ったように他人からの、主にブリーダー系のジョブのプレイヤーからの譲渡か、まだ確認されていないけれど大きな街にあるモンスターショップでの購入。ジュエラのように特定条件で誰でもテイムできるモンスターを仲間にする3つだ。

一つ目の方法は僕以外にモンスターを仲間にした人がまだいないらしいので無理だろう。たぶん他のブリーダー系の人も譲渡したがらないんだろうけど。だって戦闘で仲間になる可能性はとても低い。友好度をあげる方法だってとても時間がかかるし、第一友好度をあげて仲間にするような人がせっかく仲良くなった子を人に渡したりなんてしないと思う。

二つ目の方法もまだ公式に出ていた情報だけでまだ確認されていない。まぁ公式で出ているのだから無いということは無いと思うけど。ただお店で仲間にできるモンスターは『馬』『犬』などとフィールドにいるモンスターとは違う普通の動物ばかりでとても弱いらしい。一応グリズ達の用に育てることはできるけれど、それも相当時間がかかるようなことが公式に書かれていた気がする。

で最後の三つ目。仲間にする特定条件が分かっているモンスターがカーヴァンクルしかいないからこれも難しいだろうなぁ。新しくログインする人もいないことを考えれば、本来時間がたてば増えるはずの条件をクリアしてる人はどんどん少なくなっていくから余計に。カーヴァンクルの難易度を考えても他の特定条件モンスターも狙って条件を満たすことができるモンスターは少ないんじゃないかと思う。


そうすると、これからもジライヤさんみたいに仲間を譲ってくれっていう話が増えるかもしれない………………。ちょっと憂鬱になりそう。


「敵襲だ!」


いつの間にかぼんやりと歩いていた僕はその声に我に返った。声が聞こえてきたのは後方からで、急ぎ振り返れば3メートルはありそうな赤黒い巨大な狼の一撃をシニスさんが防いだところだった。


「デクス、マギサ!こいつは俺とジライヤで片づける!お前等はツバサ達を連れて先に行け!」


「了解!」


シニスさんの指示にデクスさんが答え、駆け足と声を上げる


「デクスさん、みんなで戦った方が!」


「護衛対象の数が多すぎる上に相手は【ブラッドヴォルフ】だ、戦ってる内に他のモンスターが寄ってきたら対処仕切れなくなる!

マギサ!お銀達を呼び戻せ!」


「『………………リオ・レイリス・コトクリム』!もうやってるわ」


いつの間にか呪文を詠唱していたマギサさんが上へ腕を振るうと、頭上で閃光ととも大きな爆音が響いた。


『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!』


一瞬ブラッドヴォルフの視線が爆音に向けられるが、すぐさまデクスさんが使用したスキル【ウォークライ】によってヘイトを稼がれそちらに顔を向ける。


「お前の相手は俺たちだ!」


ブラッドヴォルフの振り向きざまにその鼻面に巨大なタワーシールドでのシールドバッシュ。不意の一撃で怯んだところにボラーの作だという鋼製のロングソードで切りつけ、敵意をさらに自分へと向けさせる。


「【火遁・火炎玉】!」


ジライヤさんが空高く跳躍し、敵の頭上で素早く印を切り手の中に生じた火球を放ち、それがブラッドヴォルフの眉間で爆発する。その攻撃を受けて仰け反る姿を見て僕も一足遅れて駆け足になる。


「大丈夫だよね?」


「兄貴もジライヤもブラッドヴォルフくらいなら一人で倒せる。時間かかるけどな。だから俺らはエルフさん方が戦いの邪魔にならないようにすばやくその場を離れるだけさ」


駆け足で進むとテスカを連れたお銀さんが戻ってきた。とりあえず進路方向上に敵はいないと言う彼女に現状を報告し、二人が戻ってくるまでこの場から周囲を警戒して貰う。


「マギサさん、右前方に敵ノ群です」


「あら、ちょっと待ってね」


そうして5分ほど進んだところでお銀さんの探知網に敵が引っかかる。このまま行くとそのうちはち合わせることになるうえ、迂回など回避も難しいらしい。


「【群鼠ぐんそ】ね。一匹一匹は対して強くないけど、23体………………ちょっとやっかいな数ね」


マギサさんが懐から取り出した水晶をのぞき込み、フードの中から見える口元を歪ませた。

群鼠は戦闘中一定時間ごとに戦闘に参加している数と同数の群鼠がポップし続け非素早く倒してゆくことができないとすぐにもといた数の数倍にまで増えることで現在知られている中でも特に面倒なモンスターとして毛嫌いされている。


「何とかできるか?」


「するしかないでしょうね。一度大きなのを使うから止まってちょうだいな」


デクスさんの言葉に肩を竦め、マギサさんは両手を広げた。

僕がディリードさん達に止まって貰うのと同時に、マギサさんの周囲に幾つもの単語らしきものが浮かび上がる。筆記体で書かれたそれの一つにマギサさんが触れると、それ以外の単語が消え去り残った単語が彼女の目線の高さに浮かび新しい単語達が現れ、マギサさんの手が踊るようにそれらに触れるごとに彼女の眼前にそれが並び次第に長い文を形成してゆく。


『アルエ・スノク・リクガイヤ・ヒルオノ・ヒルエノ・テリウス・カノン・ストパシーヤ………………』


これがoyoでの魔法の使い方で、今マギサさんの周囲に浮かんでいるのは全て魔法のスペルだ。

oyoでは魔法詠唱をするときまずプレイヤーが使う魔法を選択(僕は使ったことが無いからどういう風に選択するかは知らないけど)し、その魔法にあったスペルに触れることで呪文が形成されて、目の前に浮かぶそれを詠唱するのが普通のやり方らしい。他にも呪文そのものを覚えていれば今のようにスペルを展開しなくても魔法を使うこともできる。さっきお銀さんを呼び戻したときに使った爆音を起こした魔法はその方法で使用された魔法だ。

呪文の長さは使う魔法次第で長くも短くもなるらしいけれど、基本呪文の長い魔法のほうが強力になる傾向にあるそうだ。


『………………ストノ・クシャトリャ・クルンフィアラ・オートラノス』


で、マギサさんが唱えてる魔法は間違いなく長い部類に入る魔法のはず……………。


マギサさんが両手を捧げるように頭上に翳すと、その先に黒い雲の塊が現れ徐々に大きくなっていく。シニスさん達が戦っているはずのブラッドヴォルフよりもなお大きく成長すると、マギサさんは群鼠がいるらしい方向へと腕を振るう。黒雲はそれに従い空へと上ってゆき、一度収縮したと思った次の瞬間弾けるようにマギサさんの指さす方向へと伸びてゆく。


「【サンダークラウドワーム】

雷系下位呪文【サンダークラウド】の魔法と水系中位呪文【クラウドワーム】のオリジナル合成呪文よ」


「え?」


オリジナル合成呪文?なにそれ………………?


初めて聞く言葉に目を丸くしている間にも黒雲は空を駆けてゆき、数秒と経たず前方からまばゆい閃光と轟音が響いてくる。さらに群鼠が居たのだろう場所にあの黒雲が立ち上り、全身に稲妻を纏わせながら空中でその身体をくねらせ、再度足下の地面に降りてゆき閃光と轟音をまき散らす。


「魔法使い系のメインジョブを持ってると【マジッククリエイト】っていうスキルを使えるの。ツリーの成長値応じたスペルを組み合わせて新しい呪文を作り上げる。私を含めてだいたいのプレイヤーは現存の魔法を組み合わせることで新しい魔法を作ってるから合成呪文って呼んでるのよ。

それで今使った魔法は【サンダークラウドワーム】は私が現在覚えてる魔法の中で高威力高射程を備えた唯一の魔法。ちょっとオーバーキルだけどね」


そんなスキルがあったんだ………………。規模から見てもレベル30代の魔法じゃないような気がするけど、それだからの詠唱の長さなのかな。


MP回復用のポーションを飲んでるマギサさんを見てそう思いながら、僕らは再びロォークスの森へ歩き始めた。






「ところで、あれはいつになったら消えるんだ?」


「後5分くらいかしら?」


「え?」





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