18話目 初めてのパーティ
キャラルの町に来て6日がたった。今日になってようやく頼んでいた装備ができあがった。
最初にできあがったタイガードスペーヒの後、翌日にはフライグセンチピートの甲羅を使った腕用防具【アームドセンチピーター】と足用防具【レッグドセンチピーター】が完成。アームドセンチピーターは左腕のみをフライグセンチピートの甲羅で覆っており、弓の持ち手である左腕に防御を固めている。レッグドセンチピーターは脛から膝頭を同じように甲羅で覆った装備だった。どちらもDEF20と防御力も高く、さすがは最前線素材といったところか。
さらに翌日にはロッドさんの弓が完成。樹人の枝を中心にロッドさんが手持ちの素材から木系の物を使用したコンボジットボウになった。一度町の外で試し撃ちをさせてもらった。精霊魔法よりも多少高いダメージを与えることはできたもののキャラルの町周辺では通用する物ではなく、次のクエストではテスカ達に任せて大人しくしてろと念を押されるかたちとなった。
悔しい、レベルとジョブレベルさえ上がれば僕だって……………………。
そして5日目である昨日ミッチーさんが出来上がったサークレットを届けてくれた。出来上がったサークレットはグルカ火山に出現する【シルバーツリー】という銀色の葉をした植物系モンスターからドロップする【葉銀】という素材から作られた物らしい。サークレットの形自体は左右に広がった4枚の葉の用になっていて、それをさらに蔦を模した葉銀で表現したものとなっていて、さらに葉の先端部分から延びた蔦が僕の尖った耳を保護する覆いの用になっており、ミッチーさんの意図によってか否か装備条件に《エルフ、デモン種》とあり、ボラーの話では初確認の種族専用装備らしい。このサークレットの名前は【銀の葉】という名前でINT+18、DEX+10の完全に後衛職向きの装備だ。
そして今朝ようやくミレディさんに頼んでいた装備一式が仕上がった。装備項目でいえばunderに分類されるこの服は【森の服】というセット装備で、見た目は若草色のTシャツとハーフパンツで、ぱっと見僕が始まりの町で買った服とそう変わらないながら、DEF4のVIT+2と高性能(緑色の服とズボンはどちらもDEF0)で、さらに森のフィールド及びダンジョン内ではさらにAGIも+1されるというのだから僕には勿体ないくらいの高性能だ。
そしてフィールドで単独で行動するモンスターの革から作られる【ステルスブーツシリーズ】の【ステルスブーツ・ロンリーウルフ】。ステルスブーツシリーズというのは履くと足音を小さくし隠密アビリティに+補正を加える隠密系職業御用達の装備で、最前線素材である孤独狼の大皮から作られたこのステルスブーツ・ロンリーウルフは間違いなく現状最高性能のステルスブーツだという。
以上の3つがミレディさんに頼んでいた装備だったんだけど、彼女はさらに二つの装備を作成してくれていた。ガーディアンジャガーとヴォーパルベア、フォレストウルフから貰った3種類の毛を使用した【ベスティアマヌス・ⅢP】。獣系モンスターとの友好度上昇率が6%上がる指ぬきグローブ型の手用装備と、テイムモンスターの各種ステータスに+2の補正をかけるブリーダー系専用装備【リーダーベルト】の二つだ。
ベスティアマヌスはモンスターの毛を追加していくこと強化することができ、使用した毛の種類×2%友好度上昇率が上がるらしく、最後のPというのはモンスターの友好度を上げることで手に入るプレゼントのPらしい。もしもモンスターを討伐することで手に入れた毛を使用するとこのPという一時が消えて効果は反転。使用した毛の種類%獣系モンスターへの攻撃力が上昇する装備へと変貌するのだという。ただそちらの方が本来の姿でこっちの方が派生型らしい。
うん、僕にとってはこっちの方が断然嬉しいんだけどね。
リーダーベルトはシューラ丘陵にいる【アーミーウルフ・リーダー】という【アーミーウルフ】と群で行動するモンスターの素材を使用した物で、以前偶然出来上がったけれどクエストで使うわけでも納品リストにも載っておらず、アニマルブリーダーの数も少なかったため、倉庫の肥やしになっていたものだとか。
「こうして見ると………………やっぱり背伸びした子供だな」
「そこは嘘でもほめるところじゃないのか?」
「………………もう慣れました」
ボラーの感想に呆れ顔のミレディさん。物心つく頃から彼を知る僕にしてみればいつものことで、ため息一つ吐いて目の前の鏡を見た。
鏡に映る僕は今までとは違い武装した姿だ。緑の服を着てリーダーベルトを腰に巻いてステルスブーツ・ロンリーウルフを履き、ベスティアマヌスを手に着けている。そしてその上からタイガードスペーヒ、アームドセンチピーター、レッグドセンチピーターを付け腰に螺旋の鞭を提げる。矢筒は腰の後ろに弓をそれとセットになったホルスターに納めている。最後に銀の葉を付けた姿が今の僕に出来る完全武装の姿だ。
「矢はお前が持ち込んだ樹人の枝から作った【木の矢(樹人の枝・石)】か。樹人の枝で使い捨ての矢を作るとか贅沢この上ないな」
トレントの由来の素材はどれも魔法使い系の職業の必須装備である杖などを作る上で現状では最高の代物だとかで、たとえ枝でも短杖の材料として使えるため魔法使い系の職業の人から見れば垂涎物らしい。そんなものを湯水のごとく消費する矢にするなどたしかに贅沢なのかもしれない。
「私は魔力を装備に刻み込む【呪刻】のアビリティツリーも育ててるんだ。もし弓や矢に呪刻したくなったら言うといい」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
さぁ、これで装備は整った。後はずっと放置しっぱなし立ったクエストに取りかかるだけだ。
ディリードさんを含めた15人のエルフをロォークスの森にいるエンシェントトレントーエノクさんの下まで護衛する。ボラーの話を聞く限りどう考えても初めて受けるような物じゃないけれど受けてしまった物は仕方がない。全力で頑張ろう。
口に出さずにやる気を漲らせていると、足下で伏せていたテスカが店の入り口へと顔を向けた。
釣られて僕もそちらへ顔を向けると同時に扉が開かれた。
「スイマセン、ボラーさんいますか?」
入ってきたのはプラチナブロンドの髪をポニーテールにした背の高い女性だった。
見て分かる装備はボディラインがよくわかる体にぴったりとした黒い和装束とその腰元に巻かれた濃紺色の帯。履いているのは足袋であり、服装は完全に和風なのにその髪と何より白人風の顔立ちとひどくアンバランスな感じだ。しゃべり方に訛りがあったことから海外の人だろうか?
「おぅ、ちょうどいいところにきたな」
カウンターの向こうから顔を出したボラーの姿をみとめ、その女性は僕らの方に一つ会釈をしてカウンターへと向かった。途中品物棚の陰で昼寝をしているグリズとその上で丸くなっているジュエラに気づき、目を丸くして僕の方に振り返ると何か納得したように頷いて再度カウンターへ。
「っしゃーっ!ボラーいるかぁーっ!」
ドカンと凄い音に驚き扉の方へと振り返ると、目にいたいぐらい黄色い髪をした少年が扉を蹴り開け飛び込んで来た。
オレンジ色のマフラーをなびかせて着地すると決まったとばかりにドヤ顔をカウンターへと向け………………いつぞやのボラーと同じように頭から床へとダイブした。
「いったいいつになったら普通に入ることが出来るようになるんだ貴様は?」
後頭部から床へ飛び込んだのは、あのときのボラーと同じように額に青筋を浮かべたミレディさんの放ったダーツが原因だった。
「お前こんなところで何してんだ?」
呆れたような声が扉の向こうから聞こえてくる。
「ボラー、ミレディお邪魔するよ」
また別の声とともに入ってきたのはプレートメイルを身に纏った同じ顔をした二人の男性だった。どちらも二十歳ぐらいの純日本人といった容姿で、瓜二つの顔はわざわざそうアバターをエディットしたのかと思ったら………………。
「シニスさんとデクスさん?」
「ツバっちおひさ~」
思わず口に出した名前に右肩に虎の横顔を彫り込んだ黄色いプレートメイルを着た方、デクスさんが笑顔で手を振ってきた。
「ようやくモンスターを仲間に出来たんだってな。おめでとう」
そしてもう1人、同じように左肩に虎の横顔を彫り込んだ白いプレートメイルの男性シニスさんが手を差し出し、思わぬ再会に思わずその手を握り返していた。
シニスさんとデクスさん。ボラーやゴルドさんと同じベータテスターでその瓜二つの顔のとおりリアルでも双子の兄弟で、兄弟そろってベータテスター権を手にした幸運兄弟としてベータ時代にも知られていた。いうまでもないと思うけど、ボラーを通して知り合ったベータ時代の数少ない知り合いだ。
シニスさんの方が兄でデクスさんが弟という話で、僕が知る限りでは兄弟仲も非常に良く、そのアバターの名前の由来はラテン語の左と右、シニストラとデクストラからでそれぞれが左利きと右利きだからと教えて貰った。
「で、こいつが噂のガーディアンジャガーか~」
デクスさんがいつの間にかお座りの体勢になっていたテスカの前にしゃがみ込んで視線を合わせるが、テスカは胡散臭そうに目を細めていた。
「ツバサ、紹介する。
くノ一のお銀だ」
「初めまシて、お銀言います」
とそこでボラーが先に来た女性を連れて戻ってきた。彼女は僕が思ったとおりアメリカの人らしく、大の時代劇マニアだそうで名前の由来も水戸黄門に出てきたお銀さん。現在のジョブも【忍者】だという。
「で俺が「勘違い系忍者筆頭のジライヤだ」ちょミレディさん!?」
「事実だろう?」
「いやそれでも勘違い系ってそれは言い方ひどくないっすか?!」
僕もお銀さんに自己紹介をしようとすると、その前に先の金髪の少年(といっても僕より年上だと思うけど)が割り込みをしながら自己紹介をしようとしてミレディさんに遮られた。
『勘違い系忍者』というのはoyoプレイヤー内における忍者の種類で、システム上忍者のプレイスタイルが大まかに二種類に分けることができ、その片方を指してそう呼ばれている。
その一つが昨今のマンガなどでよく描かれる派手な忍術を扱い敵と戦う忍者のことを指していて、本来『草』『乱波』『軒猿』と呼ばれた忍者とはかけ離れた『何か勘違いした忍者』として【勘違い系忍者】または【忍ばない忍者】と呼ばれるようになったらしい。ただそれらの呼び方が嫌いな人は【忍術を使う忍者】と呼ぶのがほとんどらしいけど。
これに対してもう一つの忍者は、派手な術を使えず事前にスキルで用意した道具などを使用するスタイルで周りからは【正統派忍者】【忍ぶ忍者】等と呼ばれているそうだ。
また周囲の認識は勘違い系忍者のことを格闘戦も出来る準魔法職であり、正統派忍者は盗賊など隠密系上位職という見方が多いらしい。
それで目の前にいるジライヤさんだけど、目が痛くなりそうな黄色い髪を箒のように逆立たせ、ド派手なオレンジ色のジャケット。背には長い刀を背負い雰囲気を出そうとしているのか用途の分からない大きな巻物。
全く忍べそうにない正真正銘の勘違い系忍者の姿だ。
たぶんお銀さんは正統派忍者なんだろうなぁ。日本のアニメやマンガではなく時代劇が好きらしいし。
まぁ、それは置いておいて。
「ビーストトレーナーのツバサです。よろしくお願いします」
ミレディさんに訂正を求めるジライヤさんはとりあえずスルーしてお銀さんに改めて自己紹介をする。ジライヤさんは今言っても聞こえなさそうだし。
「シニス達もそうだがお銀にお前のクエストの手伝いを頼んだら二つ返事で了承してくれてな。これでクエストの成功率も全然違うはずだ」
え?
ボラーの言葉に驚きお銀さんに振り返ると、彼女は笑みを浮かべて頷いた。
「移民系クエストは、ツバサさんの見つケた物以外まだ確認サれていません。oyoのNPCの性質考えると、こノ類のクエストは失敗するともう誰も、同じクエストを受けること出来ナいかも。それ考えるとボラーさんの頼み、断るのもたいない」
たしかに、ボラーから聞いた話だけどベータ時代にもNPCと一緒にモンスターを討伐しにいくクエストで、誤ってそのNPCを死なせてしまったパーティーがいたらしい。その結果NPCはいなくなりベータテスト中誰にも同じクエストを受けることが出来なくなり、それをバグかとアトモック社に報告したところそういう仕様だという返答があったのだ。
oyoではNPCを死なせると一部を除き同じNPCは以後現れなくなる。この仕様が変わっていないことは公式で公言されており、これがある限りこのクエストを失敗してしまえば同じクエストはもう受けられなくなる可能性が高い。
「そういうことだ。せっかくの未発見クエスト、俺たちにも手伝わせてくれ」
シニスさんの大きな手が肩に乗せられ、デクスさんが笑顔で親指を上げている。
「はい、よろしくお願いします」
「私も、自己紹介してもいいかしら?」
静かでどこか陰のある男性とも女性ともとれる声が消えてきたのは、僕がシニスさん達に下げていた頭を上げた直後、声に驚いた僕たちの前に現れたのはフード付きの黒いローブをきた男女不明のアバターだった。
「時間通りだな」
「あら、いけない?」
フードの陰から僅かにのぞく口元を隠しながら、彼女(彼?口調から判断するならたぶん彼女)は声を押し殺すように笑った。なんというか、ちょっと不気味な人だな………………。
「私の名前はマギサ、初期ジョブツリーは魔法使いをとった魔法研究をプレイスタイルにしている者よ。
ボラーから樹人の枝が手にはいるかもしれないと聞いてきたのだけれど、間違ってないかしら?」
「樹人の枝ですか?それならロォークスの森でトレント達から分けてもらえると思いますけど………………」
「そう、それだけ聞ければ十分。私の準備は出来ているからいつでも出発できるわ」
町の西口で待っていると残してマギサさんは店を出て行き、僕らは彼女を呼んだボラーへと視線を集中させた。
「………………悪い奴じゃないぞ?見た目がものすごく怪しいのは確かだが」
まぁいいか、とりあえずこれでパーティーの限界人数である6人揃った。たった1人で受けるつもりだったクエストだけど、ボラーのおかげでパーティーが完成した。世話を焼いてくれたボラーのためにも、手伝ってくれるみんなのためにも、この初めてのクエストを成功させようと、僕は口に出すことなくそう誓った。




