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1話、入部試験前日。

「これから翼陵高校探偵部の入部試験を始めたいと思います!」


「「「「おおおおお!!」」」」



何でこんなことになったんだろう。


それは口に出したのか心の中で呟いたのか解らない。ただ、酷く疲れたのはわかっている。いつものことではあるのだがため息が止まらない。


俺こと天野川(あまの・せん)は元気一杯に叫ぶ幼なじみ圓城陽菜(えんじょう・ひな)を見つめながらもう一度深いため息を吐いた。








1週間前に入学式が終わりそれぞれにグループを作ったり友達の輪を広げたりと忙しい時期俺は昼休みに一人クラスの廊下をひた走っていた。


「クソッ!何でいない。……まさか!」


俺は一人の女の子を探していた。受験の日に一目見ただけの少女を。その少女はたくさんの受験生の中の一人だったが、俺は一目見ただけで彼女に心を奪われた。


他の生徒より頭一つ小さい身長、パッチリした大きな瞳に高すぎず低すぎない鼻、綺麗な小さな唇。両髪を縛ったツインテールが彼女を幼く見せるが、全てが完璧だった。自分の理想を全て嵌め込んだような女性だった。


俺はこの学校にどうしても行きたかった訳じゃない。ただ、家から近く、自分の成績から狙える学校だったから。


だが、この瞬間から違った。そんな単純な理由は過去の話だ。試験に人生の総てを捧げたといってもいい。彼女にもう一度会いたい、話がしたいと。もしこれで落ちたなら裏口からでも入ってやろうと思っていた。……幸い合格したのだが。


そして、いざ会おうとしたが彼女の姿は何処にもなかった。


「今日も休みなのかな。」


これで5回目になる全クラスの確認を終え俺は教室に戻ることにした。





「お疲れ~。川、どうだった?」


教室のドアを開けると同時に声をかけてきたのは日野太陽。



身長174センチの爽やか系美少年だ、人付き合いも良く明るい性格のためクラスの中心的存在になっている。


「駄目だ。全然見付からない。」


「その娘ここ落ちて他の高校行ってんじゃねぇ?いい加減諦めれば?」


こいつ!俺が考えないようにしていることを!だが、


「諦められるか!何のためこの高校に入ったと思ってんだ。もしここにいないんだったら転校してでも探しに行く!」


俺の意思は堅い絶対あの娘にもう一度会う。


そんな俺に太陽は苦笑する。


「ククッ!そこまでするか?ったく隣にあんな美少女がいてよく他の女に目がいくな?」


「ん?圓城のことか?アイツとはただの幼なじみだぞ。」



「いやいや、テストでは全教科満点、運動の方は各運動部が圓城さんを取り合うほどだ。顔もアイドル並に可愛くて毎日のように告白されてるしな。おまけに性格も良い。それがただの幼なじみじゃないだろ。」


「確かに、あいつはただのじゃなかったな。」


……ただし、ひとつ間違いがあった。


「まぁ、それはいいとしてお前部活は何にするか決めたのか?」


「部活?いや、帰宅部のつもりだけど。」


「お前先生の話聞いてたか?」


……何か言ってたっけ?


俺の顔を見て太陽がため息を吐いた。


「うちの高校は部活動は絶対参加。だから今週中に決めないとよくわからない部に強制的に入れさせられるぞ。」


「うそ?今週って……今日木曜日じゃなかったか?」


「そうだな。」


「あ~明日までか。因みに太陽は?」


「俺はサッカー部だ。お前も来るか?」


「いや、運動は苦手なんだよ。……まぁ、明日までに決めればいいだろ。」


今日中に文化系の楽なのを探すか。


「そういえばさ、圓城さんは部活は何に入るんだろ?」


「いや、なんか自分で創るって言ってたぞ。」


「嘘?何部?」


この瞬間、クラス内が静かになりみんなが聞き耳を立てたのが分かった。……どれだけ人気なんだよアイツ。


「そこまでは知らん。ただ、今日先生に申請しに行くって言ってたから明日には分かるだろ。」


「……お前、圓城さんと同じ部活に入る気だろ。」


太陽が睨んでくる。


「そんなわけないだろ。今、部活に入らないといけない事を知ったんだぞ?だいたい何で圓城とわざわざ学校でまで一緒にいないといけないんだ。」


ありえない。確かに、顔も頭も運動神経もいいがアイツと一緒にいる事がどういう事か全然解ってない。


「そうなんですか?」


「そうだよ。」


「ふーん。」


あれ?太陽なんでそんな気まずそうな顔してんだ?てかさっきから後から声が聞こえる。


俺は恐る恐る振り返って見ると。そこには腰まで伸びた赤色の髪の美少女がそこにいた。


「それは残念ですね。川君の探している女の子を見つけてあげようと思ってたのに。」


若干、頬を膨らませて睨んでくる。


「……よう、圓城。てか探すってどういう事?」


「そんなに私といたくなかったんですか。そうですか。」


やばい、めちゃめちゃ怒ってる。


「すまん。」


「昔はあんなに私の事を好きだって言ってたのに。」


「すんません!」


「ラブレター貰ったり「許して下さい!!」」


勢いよく額を床につける。クラスメートの視線が痛いが構うか!……何故か廊下にまで人が集まって来ているし。


「……もう、傷つくんですから、そんな事言わないで下さいね。」


笑顔で微笑まれた、目が笑ってないが。


「と、ところで、俺の好きな娘見つけてくれるってどういう意味?」


「フフ!これを見よ!」


そこにバンッと一枚の書類を出す。


「部活申請の紙か。……探偵部?」


「そうです!失せ物、噂話、人探し、あらゆる相談悩みを解決する部活。その名も探偵部!」


「これか、お前が言ってたのは。」


……人探し。確かに俺が悩んでる事だ。


「はい!……ですが、先生に聞いたらどうやら部員数が3人いないと創れないらしいのですよ!」


「なるほど。」


「だから川君の思い人を探すかわりに貴方も部員に入って欲しいんです。まだ部活は決めてないでしょ?」


「俺がか?確かにまだ部活は決めてないが、大変そうだろ。別に俺以外でもいいだろ、それ。」


「で、ですがまだ部活を決めてないのは川君と私くらいですよ?」


甘いな圓城。


「いやそれはどうかな?」


「え?」


「あ、あの部員が足りないなら僕にやらせて下さい。」


一人の男子が手を挙げた。それを見た他の生徒が次々に手を挙げ始める。


「お、俺も俺も!」


「俺だって!」


「私もやりたい!」


お前と一緒の部活になれるならここの生徒は部活くらい平気で辞めるぞ?


それは次第に大きくなり、今いるだけでも50人以上が手を挙げている。(その中の半分は俺のクラスメートだ。)


「あ、あのそんなにたくさんの部員はいらないんです。せいぜい3~4人いればいいと思ってます。」


圓城は困ったような顔をして続けて話す。


「明日の放課後、入部試験をやります。もし、やる気があるのでしたら放課後にグラウンドに集まって下さい。」


その言葉を聞いた生徒達により探偵部の話は学校中に広がっていった。そのせいで、明日の入部試験が大変な事になるのを知るのは少し後になる。










「圓城さん、またね!」


「また明日!」



「じゃーね!」


「明日楽しみにしてるよ!」


「はい。みなさんまた明日。」


授業も終わり、俺は他の下校生から嫉妬と殺意の視線を浴びながら下校する。……理由はもちろん横に圓城がいるからだ。

俺と圓城の家は学校から歩いて30分もしないで着くが通学路から外れているせいか途中から他の生徒はおらず二人きりになるからそのせいもあるだろう。


校門の前で生徒に別れを告げた圓城は誰もいなくなった事を確認して俺に話し掛けてくる。


「……川、わかっているな?」


突然の口調の変化。それに合わせてさっきまで優しげな笑顔が嘘だったかのように悪魔的な邪悪な笑みに変わる。それは俺にとってもっとも聞き慣れた喋り方だった。


「……何がだ?」


「明日の入部試験だよ。必ず合格してみせろよ?」


そう、圓城は容姿端麗、文武両道、学校の人気者の完璧超人だが、実は性格がものすごく悪い、腹黒なのだ。


普段はこんな態度は表に出さないが俺と二人になった時にこっちの素の性格が顔を出す。まぁ、他が良すぎるからその反動だと俺は思っている。


「別に俺は入部する必要はないだろ?……てか圓城、いつ知ったんだ?」


圓城には、好きな娘が出来たのは話してないのに。


「あぁ、そんなの川の顔を見れば一発で解ったよ。入部して欲しいのは川がいるとなにかとやり易いからだよ。私の事を一番知ってるのは川だからな。まぁ、逆もしかりだ、私に隠し事したいならお面でもつけるんだな。」


フフ!とかなり上機嫌だ。クソ、なんか悔しい。


「だが、入部するしないに限らず必ず見つけてみせるよ。」


その時の圓城の瞳は真剣そのものだった。


「……頼む。」


圓城の真剣な瞳に感動して思わず本音を出してしまった。少し顔が紅くなったのが自分でも分かり恥ずかしさから俺は圓城から顔を背ける。


「……あぁ、そして必ず潰す!」


そのせいで小さく呟いた圓城の言葉を聞くことが出来なかった。


そして、翌日圓城による入部試験が始まった。


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