表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/32

部員-2-

天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず--



しかし、僕的には、人の下に人を作って欲しかった訳です。

だって、下からパンツが見えるよね。合法的パンモロだよね。


「さて次の部員だが」

部長は部室の中にある、カーテンで仕切られた部屋へ入っていく。

なにげに広いんだよね、この部室。

「さぁ、紹介しよう」

シャッと開けられたカーテンの内には、ソファが二個と、背の低いテーブルが一つ。

そして、僕から見て、左側のソファには、黒髪の笑みを顔に貼り付けたような男が一人、もう片方には、茶髪の背の小さな女の子一人と、ガタイのいい男が座り、何やらトランプをしていた。

その三人は、部長の声に顔を上げ、僕をまじまじと見る。

「そいつは?」

少しして、代表したように、三人の内のガタイのいい男が、僕を顎で指して、部長に聞く。

彫りの濃い顔で、どちらかというと、鳶職でもやってそうな男だった。

「ああ、新しく入部した横島氏だ。……横島氏、こいつが三年の不二だ」

「へぇ、こんなところによく入部したな。…よろしくな、俺は不二正義(ふじまさよし)だ」

不二先輩は手を差し出してくる。

僕はその手を握り返して、笑顔を返した。

--なんだ、ちゃんとした人もいるんじゃないか。

「はい、よろしくお願いします。僕は横島宗です」

いや、良かった。変態だらけじゃないじゃないか。

やっぱ、どこにでも良心っていうのはあるものだなぁ。






--と、思っていた矢先、それが起きた。

「ねぇねぇ、不二君。君負けちゃうよ」

いきなり、不二先輩とは反対側のソファに一人で座っている、黒髪の男が口を開いた。

そうか、そういえばトランプしてる途中で僕たちが入ってきたのか。

--テーブルの上に散らばっているカードを見る限り、やってるのは大富豪らしい。

そうそう、ちなみにこの『大富豪』って言い方、地方とかによって違うらしいよね。

『大貧民』っていう言い方のやつね。

でも、大貧民だと、こう、

「お金がないから……。私……。これは、仕方ないことなんだ……。だって私、女(略)」

っていう妄想につながっちゃって、不謹慎だから、『大貧民』って言えないんだよね。

…あれ、でも『大富豪』も

「げへへ、お金がない?…ふん仕方ないな、じゃあ体で払ってもらおうか!!」

に、なっちゃって駄目だね。てへ。

「ほらほら、早く出そうよ」

黒髪の男は、更に急かす。

しかし、、、この男はなんというか不気味だった。

なんでも知っているような余裕と、自分のことを何も悟らせない笑顔を携えたこの男は。

不気味だった。

「……部長。あの黒髪の人」

あまりに不気味だったので、僕は部長に耳打ちする。

決して、自分の口を部長の耳に近づけたかったとかじゃない。

あ、部長の髪、いい匂いするぅ。

「ん?あぁ、黒井の事か。あとで紹介するから、ちょっと待て」

部長はニヤニヤしながら、黒髪と不二先輩を見ている。

ここまでニヤニヤが様になる人は、多分この世にいないだろう。

そう思わせるニヤニヤだった。

だから僕も部長を真似て、ニヤニヤする。別に、部長の顔を近くで見ていることに、ニヤニヤしている訳じゃない。断じて違う。

ニヤニヤ。

--と、僕がニヤニヤしていたら、



へぇぇええん!しん!!



トランプをしている筈の場所から、奇声が聞こえてきた。

僕は先輩から目を外して、声の上がった方を見る。

そこには--!!






「な……!?」

僕は思わず腰を抜かす。

だってしょうがないじゃないか。


目の前に、穴があいた紙袋を被った、ガタイのいい男がいたんだから。


「どうだい?面白いだろう?不二は」

部長は未だにニヤニヤしながら僕に言ってくる。

…ニヤニヤしてたのは、僕のこの姿が見たかったからか。

「あれは、不二先輩なんですか…?」

あれが不二先輩だというのか。

人は紙袋一つであんなにも変われるものなのか。

あそこまで、

狂えるのか。

「まぁ、見てろ。奴の凄いところはここからさ」

部長は愉快で堪らないという顔で、不二先輩だったアレを見る。

僕も、言われたとおりに目を向ける。

そこには、普通では有り得ない光景が広がっていた。

まさに、変態部の名にふさわしい光景が(やっているのは大富豪)。






「ふッ!!どうだぁ?カッコイイダロ?」

「やっぱ、不二君はそうじゃないと面白くないよね…ッ!!」

「………」

カードを持つ三者は、互いに睨みあう。

だが、それも一瞬。

--動き出す。

「はっ!」

一番の異常が。

彼は、右手の人差し指、中指、薬指の間に一枚ずつ挟み、テーブルに投げつける。

それは明らかに『遊び』ではなかった。

「……」

次に、小さい女の子が、ゆっくり、カードを場に出す。

手札の枚数を見る限り、彼女が一番少ない。

だが、他の二人からは、圧倒的な『自信』しか感じなかった。

「ははっ。じゃあ、いかせてもらうよ」

黒髪の少年は、自らの出したカードの効果で、場にあったカードを横へ流す。

そして、イカサマしたとしか思えない程に揃った、シークエンス(同じマークで、連続に連なった数字の三枚組以上のカードの集まり。階段)を場に出す。

場にいる人間は、その少年の顔を睨むが、少年の笑顔は崩れない。

少年のカードはあと一枚。

少年は自らの勝ちを確信した。皆、少年が勝つと思った。

--ただ一人を除いて。

「ふふん。ふはははは!!甘い、甘いぞ!!」

「!?」

黒髪の少年は、笑顔を崩さないまま、……確かに動揺していた。

茶色い仮面を被った異常者は、笑みという仮面を被る少年を、圧したのだ。

彼は、自らの手札を全て場に出す。

出されたのは、6枚揃ったシークエンス。

しかし、そのカードの束は、

「…俺が出したシークエンスと、同じ柄じゃないか!!」

黒髪の少年は激昂する。

勿論、笑みを貼り付けたまま。

「……どうすんの?不二君。これは明白なイカサマじゃないか」

少年は一瞬で落ち着きを取り戻し、冷静に問題点を突く。

-否、問題と言える事ですらない。これは、どうしようもないほどに、明らかなイカサマだ。普通に考えて、逃げ道などない。

「ふぅ。いいかい?黒井クン」

だが、異常者に普通は通じない。

彼は、自らのイカサマに、むしろ嬉々とした態度で、言った。

「勝てば、正義だ」






「なに言ってんのさ、不二君。君はここでイカサマ負けじゃないか」

そのとおり。

異常者--不二正義はイカサマとも呼べない暴挙をした挙句、自分の勝ちだと言い始めたのだ。

あまりに常軌を逸している。

それでは、ルールも何もない。

否、彼にはそれが普通なのだろうか。

「違う違う。俺は最初に確認しただろう?」

彼は言いながら、場に出ているカードを指でさして、

「このトランプを使う、と!!」

高らかに言い放った。

--異常者の言葉を聞いて、少年は停止した。

皆-少なくとも僕は-停止した。

そして、数秒。

後、少年は負けを認めた様に、自分の手札を場に捨てた。

「俺の負けかな。うん」

黒髪の少年は、ソファに横になる。

僕は、その一部始終を見届けてから、部長に話しかけた。

「……あの、不二さんって、誰なんですか?」

「はは。誰、か。そうだね。今の彼は、不二正義であって、不二正義じゃない」

「……」

「これが面白いものでね!今の彼は、『正義(せいぎ)』なんだってさ」

部長は、活き活きした目で、ソファの上に立ち上がっている彼を見る。

あれが、正義だって?あの、薄気味悪い異常者が?

「彼にとって、正義は勝つんじゃない。勝ってこその正義なんだ。--だから平気でイカサマもする」

「いくら悪と罵られようと、勝ち続ける限り、それは正義だそうだ」

「くっくっく。全く、本当にカッコイイじゃないか彼は!」

部長は腹を抱えて笑う。

部長はかっこいいと言う。

勝つことだけに価値を見出す、あの異常者を。

勝ちに何よりも妄執する彼を。

かっこいい、と。

「…は、はは。なんですか、あれ」



「かっこよすぎるじゃないですか」



部長は嬉しそうに口を歪め、自慢げに言い放った。

「だろう?我が部の部員は皆変態で、かっこいいんだ」

全然ラブコメになる兆しがねぇ!!



無理やりラブコメにする気はないけど!

ナチュラルにラブコメにしたい!

というか、今回、ついにコメディじゃない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ