部員-2-
天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず--
しかし、僕的には、人の下に人を作って欲しかった訳です。
だって、下からパンツが見えるよね。合法的パンモロだよね。
「さて次の部員だが」
部長は部室の中にある、カーテンで仕切られた部屋へ入っていく。
なにげに広いんだよね、この部室。
「さぁ、紹介しよう」
シャッと開けられたカーテンの内には、ソファが二個と、背の低いテーブルが一つ。
そして、僕から見て、左側のソファには、黒髪の笑みを顔に貼り付けたような男が一人、もう片方には、茶髪の背の小さな女の子一人と、ガタイのいい男が座り、何やらトランプをしていた。
その三人は、部長の声に顔を上げ、僕をまじまじと見る。
「そいつは?」
少しして、代表したように、三人の内のガタイのいい男が、僕を顎で指して、部長に聞く。
彫りの濃い顔で、どちらかというと、鳶職でもやってそうな男だった。
「ああ、新しく入部した横島氏だ。……横島氏、こいつが三年の不二だ」
「へぇ、こんなところによく入部したな。…よろしくな、俺は不二正義だ」
不二先輩は手を差し出してくる。
僕はその手を握り返して、笑顔を返した。
--なんだ、ちゃんとした人もいるんじゃないか。
「はい、よろしくお願いします。僕は横島宗です」
いや、良かった。変態だらけじゃないじゃないか。
やっぱ、どこにでも良心っていうのはあるものだなぁ。
--と、思っていた矢先、それが起きた。
「ねぇねぇ、不二君。君負けちゃうよ」
いきなり、不二先輩とは反対側のソファに一人で座っている、黒髪の男が口を開いた。
そうか、そういえばトランプしてる途中で僕たちが入ってきたのか。
--テーブルの上に散らばっているカードを見る限り、やってるのは大富豪らしい。
そうそう、ちなみにこの『大富豪』って言い方、地方とかによって違うらしいよね。
『大貧民』っていう言い方のやつね。
でも、大貧民だと、こう、
「お金がないから……。私……。これは、仕方ないことなんだ……。だって私、女(略)」
っていう妄想につながっちゃって、不謹慎だから、『大貧民』って言えないんだよね。
…あれ、でも『大富豪』も
「げへへ、お金がない?…ふん仕方ないな、じゃあ体で払ってもらおうか!!」
に、なっちゃって駄目だね。てへ。
「ほらほら、早く出そうよ」
黒髪の男は、更に急かす。
しかし、、、この男はなんというか不気味だった。
なんでも知っているような余裕と、自分のことを何も悟らせない笑顔を携えたこの男は。
不気味だった。
「……部長。あの黒髪の人」
あまりに不気味だったので、僕は部長に耳打ちする。
決して、自分の口を部長の耳に近づけたかったとかじゃない。
あ、部長の髪、いい匂いするぅ。
「ん?あぁ、黒井の事か。あとで紹介するから、ちょっと待て」
部長はニヤニヤしながら、黒髪と不二先輩を見ている。
ここまでニヤニヤが様になる人は、多分この世にいないだろう。
そう思わせるニヤニヤだった。
だから僕も部長を真似て、ニヤニヤする。別に、部長の顔を近くで見ていることに、ニヤニヤしている訳じゃない。断じて違う。
ニヤニヤ。
--と、僕がニヤニヤしていたら、
へぇぇええん!しん!!
トランプをしている筈の場所から、奇声が聞こえてきた。
僕は先輩から目を外して、声の上がった方を見る。
そこには--!!
「な……!?」
僕は思わず腰を抜かす。
だってしょうがないじゃないか。
目の前に、穴があいた紙袋を被った、ガタイのいい男がいたんだから。
「どうだい?面白いだろう?不二は」
部長は未だにニヤニヤしながら僕に言ってくる。
…ニヤニヤしてたのは、僕のこの姿が見たかったからか。
「あれは、不二先輩なんですか…?」
あれが不二先輩だというのか。
人は紙袋一つであんなにも変われるものなのか。
あそこまで、
狂えるのか。
「まぁ、見てろ。奴の凄いところはここからさ」
部長は愉快で堪らないという顔で、不二先輩だったアレを見る。
僕も、言われたとおりに目を向ける。
そこには、普通では有り得ない光景が広がっていた。
まさに、変態部の名にふさわしい光景が(やっているのは大富豪)。
「ふッ!!どうだぁ?カッコイイダロ?」
「やっぱ、不二君はそうじゃないと面白くないよね…ッ!!」
「………」
カードを持つ三者は、互いに睨みあう。
だが、それも一瞬。
--動き出す。
「はっ!」
一番の異常が。
彼は、右手の人差し指、中指、薬指の間に一枚ずつ挟み、テーブルに投げつける。
それは明らかに『遊び』ではなかった。
「……」
次に、小さい女の子が、ゆっくり、カードを場に出す。
手札の枚数を見る限り、彼女が一番少ない。
だが、他の二人からは、圧倒的な『自信』しか感じなかった。
「ははっ。じゃあ、いかせてもらうよ」
黒髪の少年は、自らの出したカードの効果で、場にあったカードを横へ流す。
そして、イカサマしたとしか思えない程に揃った、シークエンス(同じマークで、連続に連なった数字の三枚組以上のカードの集まり。階段)を場に出す。
場にいる人間は、その少年の顔を睨むが、少年の笑顔は崩れない。
少年のカードはあと一枚。
少年は自らの勝ちを確信した。皆、少年が勝つと思った。
--ただ一人を除いて。
「ふふん。ふはははは!!甘い、甘いぞ!!」
「!?」
黒髪の少年は、笑顔を崩さないまま、……確かに動揺していた。
茶色い仮面を被った異常者は、笑みという仮面を被る少年を、圧したのだ。
彼は、自らの手札を全て場に出す。
出されたのは、6枚揃ったシークエンス。
しかし、そのカードの束は、
「…俺が出したシークエンスと、同じ柄じゃないか!!」
黒髪の少年は激昂する。
勿論、笑みを貼り付けたまま。
「……どうすんの?不二君。これは明白なイカサマじゃないか」
少年は一瞬で落ち着きを取り戻し、冷静に問題点を突く。
-否、問題と言える事ですらない。これは、どうしようもないほどに、明らかなイカサマだ。普通に考えて、逃げ道などない。
「ふぅ。いいかい?黒井クン」
だが、異常者に普通は通じない。
彼は、自らのイカサマに、むしろ嬉々とした態度で、言った。
「勝てば、正義だ」
「なに言ってんのさ、不二君。君はここでイカサマ負けじゃないか」
そのとおり。
異常者--不二正義はイカサマとも呼べない暴挙をした挙句、自分の勝ちだと言い始めたのだ。
あまりに常軌を逸している。
それでは、ルールも何もない。
否、彼にはそれが普通なのだろうか。
「違う違う。俺は最初に確認しただろう?」
彼は言いながら、場に出ているカードを指でさして、
「このトランプを使う、と!!」
高らかに言い放った。
--異常者の言葉を聞いて、少年は停止した。
皆-少なくとも僕は-停止した。
そして、数秒。
後、少年は負けを認めた様に、自分の手札を場に捨てた。
「俺の負けかな。うん」
黒髪の少年は、ソファに横になる。
僕は、その一部始終を見届けてから、部長に話しかけた。
「……あの、不二さんって、誰なんですか?」
「はは。誰、か。そうだね。今の彼は、不二正義であって、不二正義じゃない」
「……」
「これが面白いものでね!今の彼は、『正義』なんだってさ」
部長は、活き活きした目で、ソファの上に立ち上がっている彼を見る。
あれが、正義だって?あの、薄気味悪い異常者が?
「彼にとって、正義は勝つんじゃない。勝ってこその正義なんだ。--だから平気でイカサマもする」
「いくら悪と罵られようと、勝ち続ける限り、それは正義だそうだ」
「くっくっく。全く、本当にカッコイイじゃないか彼は!」
部長は腹を抱えて笑う。
部長はかっこいいと言う。
勝つことだけに価値を見出す、あの異常者を。
勝ちに何よりも妄執する彼を。
かっこいい、と。
「…は、はは。なんですか、あれ」
「かっこよすぎるじゃないですか」
部長は嬉しそうに口を歪め、自慢げに言い放った。
「だろう?我が部の部員は皆変態で、かっこいいんだ」
全然ラブコメになる兆しがねぇ!!
無理やりラブコメにする気はないけど!
ナチュラルにラブコメにしたい!
というか、今回、ついにコメディじゃない!