部員-1-
「おぉ、きたか!!横島氏」
放課後、相談部に向かうと、椅子に座っていた部長−丘雫が満面の笑みで僕を出迎えてくれた。変態病棟とか言われているのを忘れてしまうくらい美しかった。
「はい。部員ですしね」
「いや、ね。入部した人間が、そのまま入部し続ける事は珍しいんだ」
へぇ。意外だなぁ。こんなに美人の部長がいるのに。
「…皆、部員を紹介すると、次の日からこなくなるんだ。。。なぜだ」
ガックリと首を落とす部長。
多分それで来なくなった人達が、変態部とか吹聴したんだろうな。
…そうだ、ここ『変態部』なんだ。
「だがっ!!」
いきなりバッ、と部長が立ち上がる。
そして、ガシっと腕を掴まれた!うおおおおおおおおおおお!!!
「横島氏!君ならこの相談部の、立派な一員になると、私は信じてるよ!」
「はい、喜んで!!」
「おお、そうか!では、相談部の部員を紹介しよう!」
彼女は荒々しく、掴んだ僕の腕を振る。
--僕って軽々しく返事しちゃうなぁ。
でも、部長のこんなに無邪気な姿が見れたから、良かったかな。うん。
「さて、まず、君と同学年の、三富士だ」
彼女は、部室に設置されているソファの前にやってくる。
そのソファの上には、一昨日僕をここまで案内してくれたあの娘がいた。
「三富士氏じゃないんですか?」
「いや、私は女性には氏をつけないんだ」
そんなどうでもいい事を部長と話していると、ソファに寝ていた彼女は目を覚ました。
「…ーん。どうかしたんすか?」
彼女は「目」だけをこちらに向けて、口を開いた。
だるそうだなぁ。
あと、制服のまま寝ると、いい案配で制服が着崩れて、色気を感じるなぁ。
緩いシャツの襟口から見える、鎖骨。
さらに、そこに開いた襟口と素肌との洞窟。その先の見えない暗闇を、突き進んでしまいたい衝動が湧き出るが、必死に抑える。
そして、そこから目線を下にずらして、スカート。
これがまたいい味を出している。
少し捲れ上がったその布の下には、皆のオアシス、そう、アレがある。
それが見えるか見えないかのギリギリの位置をキープし、そこから目を外すのは至難の技だ。
また、スカートが捲れ上がることによって、普段より大きい面積の太ももを曝け出すことになる。
つまり、ニーハイと太腿の、黒と白のコントラストだ。
このキッチリとした境目が、さらに僕の心を掴んで離さない。
--だが、まだそれだけではない。
そう、乱れた髪と、首筋を伝う珠の汗だ。
ここまでコスチュームや身体ばかり注目したが、この二つの要素を除いたら、それはガクンと輝きを失っただろう。
乱れた髪、そして汗。この二つが演出するもの。それは身体の火照りだ。
この火照りが加わることによって魅力が段違いに上がる。
最後に、彼女特有の気だるさも相まって、その光景は
『至福』
この二文字が-否、この二文字こそ、相応しい。
「三富士さん。グッジョブ…ッ!」
僕は今、猛烈に感動している!
「は、はぁ…?」
「ん?横島氏?大丈夫かい?」
二人揃って、奇異の目で僕を見る。
「あ…うん。大丈夫です」
僕の様子に、彼女らはさらに首をかしげたが、追及はしてこなかった。
「では、紹介しよう。彼女は三富士文。君と同じ年で、7月14日生まれ。で、百合だ」
「そっすねー」
「後は、三富士。少し喋れ」
「…うーす」
部長と三富士さんは、そんなやりとりをして、三富士さんが遂に立った。
……ばかやろう。
「えーと、三富士文。百合が好きで、経験人数は5人。まだ処女っす。よろしくっす」
三富士さんは、僕に一礼して、またそそくさとソファに寝転んだ。
ここまで流れるようにソファに寝転ぶ事ができるのは、この学校で多分、三富士さんだけだろう。
何年間この動作をしてきたのか、最早それは達人の域であった。
--さて、本題に入ろう。
「百合…だと!?そして、出会って二日目の奴に処女宣告だと!?」
重要だ。
この少女はなにを考えているんだ!
「んー?今時、同性愛者は珍しくないっすよ?」
「そういう問題じゃないよ!!というか、そこじゃないよ!」
「どこっすか?処女っすか?」
「そこだよ!!三富士さん!いきなりそんなこと言ったら、危ないでしょうが!!」
「…なにがっすか?落ち着きましょうよ?」
「落ち着けないよ!!ほかの男子に、そんなこと言ったら勘違いされるからね!?」
「勘違いっすか」
「こいつ、俺のこと誘ってんじゃねえか?的な勘違いだよ!」
「でも私、女の子にしか興味ないし…」
「それで傷つく人もいるんだよ!!これ以上ない『勘違い乙』だよ!立ち直れないよ!」
「…何情報っすかぁ」
「ソースは僕だよ!!」
小学校の頃、「優しいね」に騙されて、告白した僕だよ!馬鹿!僕の馬鹿!
「はぁ…。分かりました。そこまで言うなら、以後気を付けます…」
三富士さんは、納得いかない顔で言って、それを最後に意識をブラックアウトさせた。
うむ…。大丈夫かな…
そもそも、僕の前でこんなに無防備な姿を晒してる時点で、終わりだと思うのだが…。
--すると、僕の苦悩を読み取ったのか、会長が、
「大丈夫さ。もし大丈夫じゃなくとも、それは彼女の問題だ」
「でも」
僕は食い下がってしまう。
だが、会長は自らの言葉で、僕の言葉を断ち切った。
「……君は『変態』なのに、優しいんだね」
小学校を思い出して、死にたくなった。