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青春過ぎて泣けてくる(作者が)

interval

「黒井、お前何をした……!?」

俺は敬語を使うのも忘れて、ただ驚いていた。

目の前のこの男は、今――

「何をしたわけじゃないよ。ただ、君と琴吹くんの間にあった縁を切ったんだ」

彼は簡単にそう言うが、これは尋常じゃない。だって、琴吹と俺の縁を切る。

つまり、琴吹が俺から自由になるということだ。

「理解はしなくていいよ。ただ俺がそういう体質ってだけ」

いつの間にか笑みをもどした黒井は、言う。

でも、それでもおかしいのだ。琴吹の姿が奴に見えるということが。

しかし、

「あと俺が視えることも体質と考えてくれないかな?」

「!」

視える――幽霊が。

彼にはいつでも、琴吹の姿が見えていたのか!?

だから今彼女が俺の隣にいないことも、わかっているってことか。

「さて、琴吹さんもいないし、綿貫君とサシで話すんだけど――」

黒井は何気なく口を開く。

俺は感じたことのない寒気を感じていた。変態部と言われる所以がわかった気がする。

こいつは、完璧に異常だ。

「君、少し成仏させたくない、と思い始めただろ」

「……」

そんなはずは、

「俺はこういう話苦手だけどさ。先駆者?のアドバイスを授けると、幽霊ってものは待ってくれないよ」

なんなんだこいつは。人の心にズケズケと入ってきて、

「勝手に消えてしまう。たぶん彼女も縁を切った今の状態なら、あと1時間くらいだろう」

「……」

「このまま成仏させてしまってもいいけどさ。伝えたいことは伝えないと。後悔なんて無駄な時間を過ごすくらいなら」

彼は笑っているのに痛々しい。自虐じみた言葉を吐いた。

――俺の伝えたいこと、か。あるとしたら、あれしかないだろう。

「生きてる間に言えなかったならさ。今言うしかないよ。しないと多分、君は後悔するさ」

「……」

俺が黙っていると、黒井は痺れを切らしたのか、直接的に聞いてきた。

「――綿貫君さ。琴吹さんのこと、すきなんじゃないの?」

「……」

こいつはエスパーか何かなのだろうか。どうして人と遠いのに、人が分かるのだろう。

なんだ?俺が琴吹を。

好き。

そんなこと、

「好きじゃなかったら、こんな気持ちを味わうわけねえんだけどな」

俺は小さく呟いて、公園を出た。

やっぱり、俺の為にも彼女は成仏させなきゃいけない。

でも、その前に、

青春でも味わっておこう。



      ■      



―interval―

「一応、やったよ」

『そうか。御苦労。琴吹くんは?』

「今つけてる。俺までストーキングするとはおもってなかったよ」

『……で、終わりそうか?』

「多分ね。青臭いこ芝居もおわりかな」

『なにか文句でもあるのか?』

「野球やらされ、100個も彼女の要望にこたえる必要もなかったよね?」

『黙れ』

「…………」

『じゃあ、二人が会ったら連絡を』

「分かったよ。じゃあ」

『あぁ』



      ■      



―interval―

彼女はまず、自分の家に向かった。

親の顔が見たかったのだ。

「――――」

大きな声でそういって入った。

しかし、誰も反応しない。彼女を視認することができないから。

彼女は、家に電話をかけた。

「――――――」

だが、声が届くことはなかった。彼女を聴くことはできないから。

服を着替えた。

年頃の彼女にとって服はとても気を使うものだった。

しかし、部屋に置いてある鏡には何も映らない。

なぜなら、彼女はこの世に存在していないから。

誰にも認識されず、一人。

彼女は学校へ向かった。

夏休み中だというのに部活に精を出す生徒。そのなかには彼女に友人もいる。

汗を流しながらトラックを走る生徒を眺める。

彼女はその光景をみて、思う。

自分がいた頃の景色と何が違うのか、と。

声を出しても届かず。

誰も自分を認識しない世界。

それでも、そこは自分のいた頃の景色とかわらなくて。

「――――――」

彼女は、

「――じ」

その名前を呼ぶことしかできなかった。

唯一彼女を認識できる。

彼女の居場所だった場所。

「こ――」

彼女の幼馴染で、彼女の想い人。

「浩二!」

「よんだか?琴吹」

上から聞こえた声に、彼女は顔をあげる。

そこには汗だくの少年が立っていた。



     ■       



―interval―

「探したぞ、琴吹」

手で汗を拭いて、俺は目の前にいる幼馴染に告げた。

いきなり黒井から連絡が入ったかと思いきや――というかなんで電話番号知ってんだ、あの人――、学校に行けとのことで、走ってやってきたら、琴吹がいたのだ。

真夏のランニングはつらいな。よく陸上部はやれるよ。

「浩二、なんでここにいるの?」

琴吹は赤い目をして、問いかけてくる。

こいつ泣いたのか。

「なんでって、お前が呼んだんだろ?」

「よ、呼んでないし!」

「泣きながら呼んでたくせに」

そう言うと彼女は目もとを隠して、俺に背を向けた。

いつも上から目線のこいつがこんな態度をとると、なんだかいいな。ギャップ萌というやつだろうか。

――あ、というか、こいつ完全に拗ねちゃったなぁ。

……はぁ。仕方ないな。

「琴吹。すこし動かないか」

俺はそれに対する返事を聞かずに、琴吹の手をとって動き出した。



2年C組。俺はまずそこに向かった。

「覚えてるか?このクラスにはまだ、お前の机はあるんだ」

綺麗な花が入った花瓶が立ててある机。

落書きもなにもかもそのまま保存されている机。

「お前はいつも教科書を忘れて、俺からパくってたな」

「……」

「いつも寝てたり、携帯を弄っていたり」

「ぐじぐじ説教とか浩二は、ジジイになっちゃったわけ?」

じじいってお前。高齢者はもっと敬わんとダメだろ。

たぶん、これを言うと、またジジイとか言われちまうんだろうから言わないけど。

「じゃあ、次は文芸部に行こうか」



文芸部は俺と琴吹が入ってた部活。こいつは陸上と文芸を掛け持ちしていた。

がら、とかぎを使ってドアをあける。一応、副部長なので合鍵くらいなら持ってるのだ。

「相変わらず本と、インクのにおいが強いな」

最近は琴吹のことで来ていなかったから、久々の訪問なのだが、やはり変わったことは――

「私の席、まだあるんだね」

「あぁ。部長が残しているんだ」

琴吹はいつも自分が座っていた席に座る。

久し振りだ。この風景を見るのも。

――――。

「なにか、残すか?」

つい口に出してしまった。あまりいいことではないんだけど。

それでも。

しかし琴吹は、首を横に振った。

「この席があるだけで私は十分。私を忘れてない証拠だから」

彼女のその横顔。

俺はなぜだか、とてもいとおしく思った。



黒井は一時間といった。それが本当ならば、たぶんもうここで琴吹は消えてしまうだろう。

だから、俺もここで伝えなければいけない。

ぎい、と甲高い壊れそうな音をたて開くドア。

赤く染まる空。薄い雲。ぬるい風が心地いい。

――屋上だった。

「気持ちいいな」

彼女の声が聞こえる。よかった。まだ大丈夫。

握っている手の感覚が徐々になくなってきているけど、まだ彼女はそこにいる。

俺は、屋上のフェンスまで歩いて琴吹の手を放す。

「琴吹、お前が事故にあった時ほど悲しかった時はなかったよ」

あの時程悲しんだことはないし、絶望したこともないし、憎んだこともなかった。

多分その時に、俺は琴吹を愛していることに気がついたんだと思う。

だから、

「そして、お前が俺の前に来てくれたときほどうれしかった時はなかった」

「……」

返事は聞こえない。向き合っていないから姿も見えない。

否――向き合っていたとしても、たぶん。。。。。。

「お前がいることが当たり前すぎて、伝えるってことを忘れてた」

いることが当たり前なことなどあるわけがないのに。

――でも、いまは後悔してる暇なんてない。

彼女が消える前に。

「だから、今伝えるよ」

遅くなったけれど。ちゃんと伝えられただろう。



「愛してる」





      ■       



―interval―

「終わった」

俺は屋上に隠れている相談部のみんなに、そう告げた。

終わった―――つまり琴吹愛の存在が消えたということだ。

「これでよかったんですよね」

俺の隣にいる失礼な二年生は問うてくる。良いか悪いか、それはきまってる

「幽霊なんだから。幽かな霊魂。いずれ消えてなくなるもの。それとここまできれいに分かれられたんだから、これでいいんだ」

晴れやかな顔をしている綿貫君を見ながら、俺はそう答えた。

――いいはずがないのにな。

心の中でつぶやく。当たり前だ。こんなののどこが良かったんだ。

でもこれが一番良かったんだ。だから幽霊がきらいなのだ。

「黒井さん、部室に戻ります。綿貫君は置いて」

俺の隣の少年は、案外気を使える後輩らしい。意外だな。

もちろん俺も、ここに残るなんてことはしないけど。

「分かった。じゃあ、行こうか」

夕陽の眩しさがうざかった。



      ■      



「ありがとう。琴吹を成仏してくれて」

僕たちが部室に戻ってから10分後くらいで、綿貫君が相談部にきた。まぁ、相談の事後処理ってやつだ。

「あぁ、また何かあったら来るがいい」

部長は偉そうにそう言って、綿貫君に別れを告げる。綿貫君の目は赤かった。

――しかし、今回は黒井さんが主に頑張ってたなぁ。部長から聞いたけど、彼の場合体質が異常だから相談部にいる。その体質に、今回の依頼がフィットした形だ。

だから僕は基本何の仕事もしてないんだよね。せいぜいこの日誌を書くくらい?

まぁ、とりあえずこれから先夏休み堪能し放題なのだ。僕の役立たずっぷりは置いとこう。

「よし、じゃあ、解散」

――こうして、僕の2回目相談が終わった。




      ■    




綿貫浩二は屋上から相談部の人達が出て行ったあと少し泣いていた。

彼は気づいていながら、相談部を注意することはなかった。そんな暇もなかったし、むしろ見られている方がやりやすかった。

それで一番大変だったのは、彼らに涙を見せないことだ。思った外、きつかった。

だからこそ、彼らがいなくなった後、涙が止まらなかった。

これほど泣いたのは初めてというほどに。

「結局、返事もらえなかったしな」

彼は少し落ち着いた後、自嘲気味につぶやいた。

そして、目元を拭き、彼が立ち上がろうとしたとき――

彼は気づいた。屋上の自分のすぐそばに、白いスマートフォンと、学校の女子制服が落ちていることに。

それが琴吹愛のだということはすぐにわかった。

では、なぜ落ちてるのか。簡単だ、琴吹愛が成仏したことで、彼女が身につけていた存在するものが、目に見えるようになったのだ。

それはそうだ。琴吹愛の一部として扱われていたのが、所有者不明のものとなったのだから。

綿貫はなんとなく、そのスマートフォンを手に取る。これが琴吹が最後まで持っていた形見ともいえるものなのだから。

起動してみると、簡単なロック画面が表示された。暗証番号。誕生日だったかな。

彼は琴吹愛の誕生日を、入力する。すると、カシャ、という音とともに、ロック画面が消えて、代わりにアプリのメモ帳の画面が映し出された。

「――あぁ、たしかにあいつはメールを打つスピードが、人間とは思えないくらい速かった」

彼は口元に笑みを浮かべながらつぶやく。

メモ帳にタイプされていた文字列。



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「おかしいな。もう絶対出ないと、思ったんだけどなぁ……」

赤い空の下、熱くなる眼がしらを押さえながら、彼は笑った。






   




さくしゃのあとがき

書いていて恥ずかしかったです。とても。

さて、綿貫君編はこれで終わりですが、如何でしたでしょうか。割と頑張ってみたのですが。

よろしければ感想とかなんでもお待ちしておりますので、よろしければお願いします

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