未練
「で、どうだい。成仏できそう?」
夏休みの相談部で、部長は綿貫君に尋ねた。
いや、まだ、野球くらいしか、相談部動いてないですよ。そんなんで成仏したら、拍子抜けなんですが。
――だが、そんな僕の考えとは裏腹に、綿貫君は、
「ああ。なんか、出来そうっすね」
…………はぁ!?
「ちょ、綿貫君?なんで?なんで?さっきの馬プレイにはそんなに重大な意味が込められていたの!?」
そんなに重要なプロセスなのか、あれは。なに?なんかの祈祷だったの?
ちょっと、これは試してみるしかないね。
「という事でさ。ちょっと三富士?乗ってくれないか?」
「なにが、と言うこと何スか……。まぁ、いいすけど」
こうやって、なんだかんだ言っても、乗ってくれる三富士が大好きだ。愛してると言っても過言じゃない。
その、三富士は、いつものソファから出て、とことこと、こちらに歩いてくる。あ、勿論僕は四つん這い待機ね。
そして――すとん。
僕の背中に少しの重みがかかる。なんだ、三富士、こんなに軽いのか。
45キロくらいじゃないか?これ。
「で、なんすか、横島君。これになんの意味があるんすか」
三富士は、僕の背中に彼女座り(自転車の二人乗りの時とかで、後ろに座ってる人間が、片側にしか足を出さない座り方。恋愛映画とか見れば分かると思う)して、聞いてくる。
しかし、こんな可愛い娘を彼女座りさせてるなんて、僕は勝ち組だなぁ。
この際、自転車の後ろと、背中なんて大差ないさ。日常での役割も大体一緒だし。
閑話休題。
本題はこの行為で、なにか得られるのかって事だよ。
ちなみに、僕は、原因不明のエネルギーが胸の内からわいてきたよ。快感という類いの物だけど。
乗られてる方でさえこれなんだ。上の人だって、
「三富士。なんかパワー沸いてこない?」
「むりです。嫌悪感しか沸いてきません」
「え!?乗られてる僕は、いろんなところが立ちそうなくらい興奮しているのに!」
「私は、鳥肌が立ちそうです」
なんだ、この下と上の温度差。これはあれか。山とかも上に行くほど寒いみたいなやつか。
「というかさ、三富士。なんでリアルな敬語なの?割と傷つくんだけど」
「横島さんが気持悪いから、私は鳥肌が立ちそうです」
「なんだ、その英語の教科書みたいな答え方は!?」
これ以上やったら、三富士の好感度ゲージが底辺を突っ切りそうだから止めとこう。
ということで、僕は、三富士に降りてもらって、綿貫君に向き直る。
成仏の理由はこれじゃないと思うし、しっかり聞かないと。最初からそうしてろよとか言うな。乗ってほしかったんだよ。
「綿貫君。なんで、成仏させられそうだなんて思ったの?」
馬プレイの時に、脳を謎の電撃が貫いたから。とかだめだよ。それは、Mってだけだよ。
僕としてはM仲間が増えて嬉しいから、そんな答えがほしいよ。
しかし、綿貫君の答えは、そんなわけなく、
「いや、どうやら、琴吹には小さいいろいろな未練があって、それを解消してけば、たぶん成仏すると思うんだ。さっき、まぁ、なんだ。馬をやったが、その後から、なんとなく琴吹の霊気が薄くなったからな」
「ほお。小さな未練か……。で、具体的には何がある?他に」
部長はあごに手を当てながら、綿貫君に話を促す。
「あぁ。さっき聞いた感じだと、今は泳ぎたいそうだ」
泳ぎか。いいね。夏らしくて。これで、琴吹さんの水着が……って僕見えないんだった。
でも、泳ぐ場所なんて、そう簡単に見つかるかな。
「プールか。よし分かった。行こう」
――まぁ、でも、部長がこう言うのなら、あるのだろう。
そんなわけで、プールに行くことになりました。
プールに行ってきました!!
終了!!
え?それだけって?そりゃそうだよ。だって僕、ただバシャバシャなってる水を三十分間見てただけだよ?
語ることなんて何もないよ。ビデオ撮ってたら、テレビとかに応募できてたのにな、くらいの感想だよ。
ということで、相談部に戻ってきた、一行は、次の未練を解決することに。
「で、次は?」
汗だくになりながら、僕は綿貫君に聞いた。なんで、室内にいなかったのかは、僕が先生とかの見張り番だったからだよ。
なんで僕がという感じだったが、黒井さんも、不二先輩も、別の依頼を受けていたから、必然的にね。
相談部は何気に多忙なのですよ。
と、まあ、そんな相談部事情は置いといて、未練だよ未練。
「えーと次は、卓球がしたいそうだ」
わお。相手が見えない卓球なんてすごい。
勿論綿貫君がやるんだけど。
「よし。じゃあ、体育館だな」
部長はそう言って、体育館へと向かう。
まじですか。僕もですか。休ませてくださいよ。本当。
卓球した!!
終了!!
いや、とてもシュールだった。綿貫君と浮いてるラケットの戦い。
これも、ビデオ回せば良かった。
――そして、50個程、未練を解決したところで、今日は解散となった。
「はぁはぁはぁはぁ。つ……疲れた」
僕はぐでー、といつも三富士が使っているソファに寝転がる。
いつもなら、喜び喚起するところだけど、ごめんパトラッシュ。僕、もう疲れたんだ。
「しかし、背負い投げが未練っておかしくないか……。僕じゃなかったら、死んでるよ」
受け身を取り馴れてるから、僕は良かったけど、あれ、そのまま行ったら、頭打ち付けて死ぬでしょ。
こんなことを50個もしたんだから、いい加減成仏してくれ。
女の子だろうと何だろうと……
じょうぶ……
朝起きたら学校にいた。疲れって怖い。
さくしゃのあとがき
あと三話くらいで成仏させたい……。もしくは、新しい作品始めるかも……。
成仏が先か。アイディアが先か






