鼻血
―interval―
「なぁ、琴吹。お前どうやったら成仏するんだ?」
ここになって俺――綿貫浩二は聞いてみた。
実際今まで、後ろにいるコイツとはよく話していなかったし、良い機会だ。
そう思ってのことだったが、
「分かるわけ無いよ。分かってたらとっくに成仏してるよ」
「……まぁそうだよな。当たり前だわ」
はぁ、とため息を漏らす。こんなんで分かるわけねえか。
しかし、ここで会話を止めちまうのもあれだしな。もうちょっと粘ってみっか。
「じゃあ、あれだ。死ぬ瞬間何思ってた?」
「チュロス食べたいなって思ってたかな」
「お前……それが未練だったら、どうすんの?物に触れるのお前?」
「どうだろ?でも浩二は私に触れるよね」
試しに琴吹の胸に手を伸ばした。殴られた。ふむ、どうやら触れるみたいだな。
「どこ触ろうとしてんの!変態!そんなんだから、友達いないんだよ!」
「おま、、、。ちげえよ。俺は、坊さんになるんだから、悟りを開くために一人でいるんだよ」
夏休み、毎日5時に起き、縁側で無心になる。その空間には俺一人でいい。
そう言うと彼女は、「ただの友達がいない暇人じゃん」とか言ってきた。今ほど、コイツを成仏させようと思ったときは今後ないな。
「とりあえず!お前は成仏しないと、いけない存在なんだから、手伝ってくれよ」
「分かってるよ。私だって、ずっと、浩二の後ろを歩いてるのなんて嫌だし、浩二きもいし」
「……で、なんか今やりたいこととか無いのか?」
触れることも分かったし、殴ってやろうかと思ったが、それを胸の内に押し殺して、聞く。
俺がフェミニストで良かったな、琴吹。
「あ!!」
と、俺の質問から数秒後、琴吹が大声を上げた。
いきなりすぎてビビったわ……。
「で、どうかしたのか?なんかあったか?」
「あった。私のしたいこと」
「は!?まじで!?」
「うん!」
「なんだ?なにがしたいんだ?」
「私がしたいのは――
「……綿貫君は、何をしてるのかな」
僕は、目の前を四つん這いで歩く男を見て、思わず声をかけてしまった。
いちおう、知り合いだしさ。放置したら通報されそうだし。
そんな彼は息を整えてから(それでも立たないから、立つ気はないらしい)、僕に一言。
「見てわからんのか。馬になってるんだ」
「あぁ……そう。うん。エア馬プレイだね。誰が乗ってるって妄想してるの?」
「妄想じゃない……乗ってるんだ」
綿貫君は遠い目をして、そんなことを言う。なんだなんだ?ラりっちゃった?
「とりあえず綿貫君立とうよ。そして、病院に行こう」
「精神病じゃねえよ!!上に乗ってんのは琴吹だ琴吹」
あ、なんだ。琴吹さんが上に乗ってるのか。
幽霊だっけ?あれって触れる物なんだね。
ん?……って事は、僕は合法的に琴吹さんのおっぱいがさわりほうだいじゃないか!!
「綿貫君。琴吹さんのおっぱいはどこだ」
これは大急ぎの案件だ。早く答えるんだ!!
「は?何言ってんだ横島!?お前馬鹿じゃねえの!?」
「うるさい!!ずっと琴吹さんに乗ってもらってる貴様には、、、、、、、はッ!?そうだ!!」
良いことを思いついたぞ。
琴吹さんは、人を馬にしたい。僕は、馬になりたい。そして綿貫君は疲れている。
ここから編み出される、最強の方程式。
つまり、
「じゃあ分かった!!琴吹さん!僕に乗り換えてよ!!今なら乗り換え料金ゼロ円で良いからさ!!」
バッと、すぐさま四つん這いのポーズをとる。土下座には馴れてるからね。このポーズになるのに予備動作なんていらない。
さぁ、来い!僕の青春!いいじゃんか!ここぐらいラブコメの神様が降りてきてくれたって!
――と、そんな僕の想いが届いたのか、僕の背中に、人一人分くらいの重さがって重い重い重い重い!!
「おい黒井ぃぃぃいいいいいいい!!てめぇはお呼びじゃねえんだよ!!」
「ごめんごめん。ちょうどいい高さだったからさ。つい」
やけに重かったのは黒井さんが座ったからだった。畜生。ラブコメの神様でもボーイミーツボーイの神様に届きやがった。
「しかし、横島君はなんでこんなところで、四つん這いになってたのかな。通報待ちだった?」
「ツッコミ待ちみたいに言わないでくださいよ。通報待ちってどんなやつですか。あと、」
僕は、膝に付いた埃を払って、立ち上がる。なぜかって?この目の前の先輩を殴るためだよ。
「死ねえ!必殺パンチ!!」
僕の思い切り振り切った拳は、目の前のニヤついた男へと一直線。そして、
ゴッ!!
そんな鈍い音と共に紅い血が吹き出た。
――僕の鼻から。
「いきなりなにすんの、横島君。つい手が出ちゃったじゃないか」
黒井さんはいつものにやついた表情のまま、そんなことを言ってくる。
コイツ……ッ!
「違う!!今のはアレですよ!蚊がいたんですよ!!」
「君は、蚊をグーのパンチで殺すのか。変わってるね」
ぐ……。コイツ……!?
屁理屈ばっかり並べやがって。そんなんだから友達いないんだよ(確定)
「さて、じゃあとりあえず俺と綿貫君は部室。横島君は保健室に行こうか」
黒井さんは爽やかな笑顔で言って、部室の方に歩いて行った。
ちくしょう、覚えてやがれ。僕が保健室で誰かとんでもない美少女とフラグたてても知らないからな!
分けてやらないからな!!
さくしゃのあとがき
綿貫君の話を終わらせたいです。
オチをどうするか……