綿貫浩二―3―
暑い夏だ。
外は、上を向けば爽やかな青い空と白い雲が迎え、下を見れば瑞々しい植物の緑と、水泳部が使用しているプールの煌めきとが僕の胸をときめかせる。
ちなみに、僕はスく水も好きだが、競泳用水着は更に大好きだ。
紺色の生地。さらに背中を少し露出させる大胆設計。
ビキニも好きだ。だがスく水、競泳用水着の方が大好きという話。
−−というわけで今日も今日とて、プールを眺めている僕、横島宗としては、水泳部は心の癒しです。
あの白い帽子とかも萌えます。
健康的に日焼けした腕とか顔。最高です。
さて、そんな夏の暑さと、幽霊に疲れている僕の心を癒してくれる水泳部だが、僕は一つだけ許せないことがあった。
−−そう、平泳ぎの練習だ。
健康的な小麦色に焼けた綺麗な肌と、水着の濃紺が紡ぎ出すコントラスト。普段見ることのかなわない太腿や二の腕。くっきりと見える、ボディライン。
その全ての魅力を、平泳ぎは無に返してしまう泳法だと、僕は思う。
足をがに股にするのが、まずよくない。それだけで、スく水、競泳用水着の気品が地に堕ちる。言うなれば、この二つはドレス。濃紺のドレスなのだ。
皆さんはドレスを着るようなお嬢様人間が、毎日漁サンにジャージ上下でブック○フ通いしていたらどう思うだろうか。
……いや、ありだな。それ。
おほん。
上手く例えられなかったが、とりあえず、僕は平泳ぎが嫌いだ。
え?じゃあ、なにが好きなのかって?
そりゃ勿論、けのびでしょ。美しきかな。
「あぁ。今日も良い天気だ」
僕は、そんな爺さんみたいな事を呟き、空を見上げる。
−ー僕もあの爽やかな空の一部となれば、誰からも疎まれることなく、陸上部も水泳部も、見守ってあげれるのに。
この相談部でさえ、見守ってあげれるのに。
−−しかし、現実そんなことは起こらないし、起こってほしくもないな。分かる?死ぬほどだるい、みたいなニュアンス。
閑話休題。
今までの話は余談さ。所謂現実逃避。
長々と競泳用水着の魅力を語ることは、割と大事なことだけれど、まぁ置いておこう。
さて、前置きが長くなったが、いい加減語ろうか。
暑い暑い高2の夏。
僕と彼らと、幽霊の話を。
「じゃあ、話しますね。俺の幽霊について」
もう夏休みにしていいじゃんっていう試験休み中。我らが相談部は、綿貫君という新たな相談者から、相談を聞いていた。
それにしても幽霊かぁ……。
「なんとも夏って感じだね」
「……寺の息子だし」
あ、そうか。綿貫君は寺の息子だったけか。
幽霊とか怖くないんだろうな。じゃあ。
「で、その幽霊なんですけど、名前は、愛。琴吹愛です。俺とタメで、、、」
綿貫君が、続けようとすると、その後を黒井さんが引き取り、
「幼馴染。先月、登校中にトラックに轢かれて、死亡。身長152センチ。交際経験はゼロ。成績は中の上ってとこかな」
「おい、横島。こいつは通報するべきなんじゃないのか」
「残念ながら、この人、その気になれば、女の子のスリーサイズとかも言えちゃうんだよ」
「さらにアウトだろ!!」
「ごめん。答え合わせの時とかに、僕利用してるから……」
「そいや、お前もか!!畜生!!」
「君に言われたくはないね!綿貫君!」
「なんのことだよ!!って、なんで、三富士とかは軽蔑した目で俺を見てんだよ!!」
「帰れ」
「誰だ、今、帰れっていった奴!!相談受けてくれよ!!」
「僕は脚フェチ!!」
ニヤリ。
「あ、、あぁ。横島が脚フェチなのは、まあ、いいよ。うん…?」
「俺が正義だ」
「はぁ?え、なに、なんなの?」
「幽霊は女の子か。どう攻めようか……!」
「え、ちょ」
「……M豚野郎」
「なに、この小さい子!M豚!?」
「そうかそうか!君はMだったのか!是非支配させてくれ」
「いやだよ!!つかMじゃねえ!!」
「帰れ」
「だから誰だぁぁぁあ!さっきから帰れ言ってる奴は!!」
「まあまあ…。落ち着いて。つまり、綿貫君のついてる相良さんを成仏させればいいんだよね?」
「あんたは帰れ」
「え!?俺、いつからこんなに後輩に嫌われてたの!?」
「よろしい。だが、楽しい撮影会はここで終了だ」
「してねえよ!!そんなの!!」
「還れ」
「土にか!?せめて家に帰らせろよ!!つか、誰だ、さっきから帰れ言ってる奴は!!もう黙れお前らぁぁぁああ!!」
……――こうして、綿貫君いじりはこのあと10分も続いたとさ。
「とりあえず……ハァハァ……成仏……ハァ……頼んだからな!!」
そういって、綿貫君は相談部を去っていった。
「いやぁ、中々愉快な男だったな、綿貫氏は」
部長はフゥ、と小さく息をついて、ソファに座り直す。
首筋に伝う汗がどうしようもなくエロかった。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ります。悠が待ってますんで」
「ん…?あぁ、そうか。従姉妹君か。分かった。また明日、横島氏」
「はい」
「横島君はいつ、悠ちゃんを私にくれるんすか?」
「あげないよ!」
「じゃあ、いつ食わせるんすか?」
「……食わせないよ!!」
ちょっと迷ってしまった僕を許しておくれ悠。
でも百合だよ?――ごめんなさい。ゆるして。
「では、失礼します」
僕は最後に軽く一礼して、部室を出た。
――interval――
「黒井」
丘雫は、自らの後ろに立って居た男の名を呼ぶ。
すると、男は彼女が何かを言う前に、
「分かってるよ」
そう、口にして、訥訥と語りだした。
「彼――綿貫君は、自分にとりついているって言っただろう?にわか知識だけど、それってつまり、地縛霊ってことだ。だから、幽霊――相良愛は、彼に何かしらの感情があるってことだよね」
彼は指を遊ばせながら話す。
「だから、、、それが――」
彼がそこまで言うと、丘はその声を遮って、
「分かった。そこらへんは、お前が調べておいてくれ」
そのまま、カーテンに囲まれたその部屋を出ていった。
男は、数秒その場から動かず、ゆらゆらと揺れるカーテンを眺める。
そして、
「了解」
一言呟いて、丘同様、部屋からでていった。
さくしゃのあとがき
試験をすてたテンションの結果です