綿貫浩二―2―
シリアス注意
「幽霊の成仏……?」
僕は思わず、綿貫君に聞き直してしまう。
だって、彼が、
「そうです。見えませんか?後ろにいるんですけど」
「――ッ」
耳を塞ぎたくなった。
だって、見えないものの相手なんて、どうしようもないじゃないか――。
綿貫君が部室から出ていった後、相談部の面々はカーテン部屋に集まった。
彼の相談について、話すことにしたのだ。
「部長。いくらなんでも、見えないものの相手なんて」
僕は部長に言う。だって、今回の相談は常軌を逸しているのだから。
僕らに見えないものを、彼は僕らに消させようとしているのだ。
そんな事、出来る訳がない――。
そう思って、部長に言ったのだが、部長は、
「いや、受けよう。成仏させればいいんだからな」
「部長!!」
彼女は、さも簡単なことのように言っているが、成仏だなんて。
どうすればいいのかも分からないじゃないか。
僕は手を伸ばす。部長に思い直してもらわないと。
だが、僕が身を乗り出すと、それを黒井さんが左手で制した。
「大丈夫さ。横島君。彼女を誰だと思ってるんだ?丘雫だぞ」
あんたの頭が大丈夫か?
部長がいかに凄かろうと、こんなの――。
「大丈夫。とりあえず落ち着いて」
黒井さんに胸を押される。
僕は、それでポスっとソファに座らされた。
僕は落ち着いてるだろうに。むしろ狂っているのはそっちだろうに。
でも、そんなことを言っても、キリがないので、一旦頷く。
「……分かりました。なら、話、、、成仏させる方法を聞かせてください」
僕は部長に向き直って聞く。これの答え次第だが……。
――部長は、そんな僕の方を少しみて、そのまま全員に聴かせるように声を出した。
「簡単なことさ。この世に留まろうと思う未練を無くしてしまうのさ」
そんな、まんがみたいな解決法で――。
「いや、俺たちが出来ることはそのくらいさ。綿貫君は寺の息子だ。当然御払いなんて受けようと思えば受けられる。なら、もうそんなことぐらいしかできないさ」
黒井さんが僕の思考を読み取って、話す。
なんだ、その能力。この人変態じゃなく、普通に異能力者とかかっこいい部類の人なんじゃ……?
「そっすねー。相談部に来るくらいっすから、もうあらゆる手は使ったんでしょうね」
いつの間にか起きていた、三富士も、カーテン部屋に入りながら同意する。
起きてたなら、最初から入ればよかったのに。
三富士は、僕とは反対側のソファに座っている、南先輩に視線を送りながら、彼女の隣に座った。
なんだ。この皆の落ち着きは。本気で、成仏させる気なのか。
「よし。では、明日また、綿貫氏に来てもらおう。――解散」
部長は他の部員の反応に満足したように、口を歪め、今日の部活の終了を宣言した。
―interval―
「まさか、俺と同じだなんてね。世界は狭いよ」
黒髪の、口元に笑みを携えた、どこか不気味な青年は、隣にいる、美しい黒髪の女性に話しかけた。
話しかけられた女は、青年を見ることもせず、
「あぁ」
それだけ答えた。
「どうしたんだい?いつもよりテンションが低いけど」
青年もまた、隣の美女を見ることなく、話しかける。
青年は、窓の外、少し紅く染まった空を見ながら、話しかける。
「……」
「……なんてね。分かってるよ、君がどうしてそんな顔をしているのか」
女の表情はなんら変わらない。
ただ美しく、力強く、儚い。
男は常に細い目を更に細め、沈んでいく夕日を見つめる。
「俺の予想通りすすめば、このまま行くと、彼は必ず後悔することになるな。知ってるかい?彼の昔からの幼馴染の娘、最近事故死したんだ」
彼は、笑みを崩さず言葉を紡ぐ。
その笑みにはなんの感情があるのか。ないのか。
「それでも君は、この相談を完遂するのかい?」
女は数秒答えず、その後、
「あぁ。一度引き受けた相談だ。綿貫氏が止めると言うか、彼に依存したモノを成仏させるさせるまでは、止めない」
そう言って、男から離れ、ドアへと歩きだした。
彼は、その後ろ姿を見送り、バタンとドアが閉まったのを見てから、初めて、口元の笑みという仮面をとった。
そして、開いている窓を閉めながら、
「せめて、俺のように――」
――後悔だけはして欲しく無いな――
窓に映った自分の顔を見ながら、一言呟いた。
さくしゃのあとがき
この相談は、実は、番外編とかでやろうかと思ったんですが、本編でやることにしました。
私的にこの相談が割と書きたかったのですが――ガッチガチのシリアスじゃねぇかああああああああああああ!
ということで、夏休み前半とか使って、この相談と日常を書きますが、今までの相談部とは、方向が違います。
無理な人は、しばしほかの人の素晴らしき作品に走っていてください。
そのまま走りきらないで、戻ってきてくださることを願っています