男の娘
可愛ければ、付いてるかついてないかなんて、些細なことだと、僕は思う。
だから、男の娘と恋愛しても、それはラブコメだよね
今日もいい天気だなぁ。
いい、陸上部びよりだ。
そろそろ、水泳部も、屋外プールを使い始めるし、最高の夏が始まりそうな予感。
よ・か・ん?
「横島君!君、俺の名前使って、王君に喧嘩売ったでしょ!!どうすんのさ、俺の立場!」
あ、黒井さんだ。
で、王…?あぁ、生徒会長に名乗ったとき、黒井さんの名前にしたんだっけ。
「社会的立場なんてものは、羞恥心と共に捨てましたよね?」
「どっちも捨ててないよ!」
「僕が捨てました」
「君がかよ!」
しかし、夏服見飽きたなぁ。冬服みたいなぁ。
うーん。でも、夏服の方が、三富士がセクシーだと思うんだよね。
あ、でも、三富士、寝るとき以外はセーター来てるなぁ。可愛いなぁ。
セーターの萌え袖――袖で、手の甲を覆って、見えなくする事――は最高だもんなぁ。時々女装してやるんだよね。
萌え袖はいいよ。ブカブカ感が心に突き刺さるね。
そういう妙にだらしない格好が、もう、男としてはたまらないよね。
わかるよね?
たとえば、指だけ出ている手袋。あれかっこいいって思う人いるでしょ?
みたいな。
「もう、勘弁してよ。横島君。王君と関係悪くなると、生徒会とも悪くなっちゃうんだよ?」
「あー。足見たかったですね」
「あー、じゃないよ!!聞いてよ!」
「はいはい。うなじうなじ」
「何言ってんの!?」
「うなじいいなぁ。知ってます?うなじって女性ホルモンが一番出るところなんですって」
「横島君との会話は、もしかしたら、この部で一番難しいかもしれない……」
「舐めたい」
「舐めないで!!捕まる!!」
僕と、黒井さんが、そんないつものやり取りをしていると、がちゃっと、部室のドアが開いた。
三富士と、南先輩だ。身長差すごいなー。
「……ほぅ」
と、南先輩が、小さく息をついた。うっとりしている感じだけど、三富士、まさか……。
「南先輩。本当にMなんですね。可愛かったですよ」
三富士、君は、女の子の前だと、そんなにシャキッとしてるの?
なにあれ、僕より男前。
……じゃなくて。
「三富士!君、まさか、南先輩に…!!」
手をだしたのか。
「ん?あぁ、横島君。なにぃ?南先輩と私の関係が気になるのぉ?」
「教えてください!!そして、交ぜてください!!」
「女装したら、いいよ?」
「女装でもなんでもします。あ、、、でも、百合は眺めるが吉。眺めてこそ真に百合を楽しめる…!!くそぅ。僕はなんて失礼なことを!!」
思わず、床を叩いてしまう。僕が不甲斐ないあまりに、三富士にあんなことを言ってしまった。
女の子同士の世界。男なんて、要らないのに!!
最悪だ。
こんなことをしたのは、小学一年生の頃の、女子の着替えを見た時以来だ。
小学生低学年は、女子男子合同で着替えるもの。
だが、しかし、そこで女子の着替えを見ていいものか!
答えは否。断じて否。
着替えとは、見て楽しむものじゃないんだ…!!
着替えの真骨頂は、あの衣ずれの音。息遣い。この二つなのだ。
つまり音が全て。
音から内部を想像し、着替えている所を、より鮮明に、自らの脳内へ焼き付ける。
べつに、女性の下着姿に、興奮しないとか、そういうことを言っているわけじゃない。
ただ、ランジェリーショップに行って、君は興奮するだろうか?いや、男一人で行って、客と店員の女性から浴びせられる視線で興奮するとかいう上級者は黙れ。
まぁ、そういうわけでございまして。
着替えとは、音を楽しむものなんですよ。えぇ。
「今日の横島君は、テンションが高いっすねぇ」
っと、三富士相手に熱くなってしまった。え?声に出してない?いや、多分出してると思うよ。
「なに言ってるんだよ三富士。僕のテンションって割と、常時こんなものじゃないか。ただ、最近、錦君やら、生徒会長で終わってたんだ」
僕の言葉のの途中から三富士が、いつものソファに移動し始めたので、僕もいつものところに椅子を置いて座る。
無駄のない僕らの動きは、もはやプロだ。
「横島君も同性愛に目覚めるっていうのはどうすか」
「んー?あぁー。男の娘ならいけるんだけど」
「えーと、男の娘というと、あの、男なんだけど、女っぽい人っすか?」
「そうだよ。あぁ、あれなら、喜んでキスできるんだけどなぁ」
「そっす……か……」
「三富士?」
「……」
うーむ。どうやら寝たみたいだ。
さて、じゃあ今日も、三富士観察としますか。
と、僕が本格的に、眼に集中し始めたその瞬間、
「……別に何もしてないから」
南先輩。ああ、三富士のことかな。
「そうなんですか。…いや、実際、相談部ですから、なかったほうが驚きですね」
「……ただ、依頼を受けてただけ」
彼女は淡々という。
へー、依頼ね。依頼。依頼かぁ。絶対驚くなよ、僕。
「い、依頼ですね。はい。何頼まれたんですか」
「……うん。これを、横島に渡せっていうの」
そう言いながら、彼女は僕に、茶封筒を渡してきた。
しかし依頼?僕に手紙なんてよこす人間なんて居ないのに。ってことは、、、、!!
「嫌だなぁ。南先輩。ラブレターを渡すのが恥ずかしいからって、依頼なんて言葉を使っちゃ」
僕は南先輩から茶封筒をもらう。
なんだろうね。最近ラブコメの神は、僕をやっとラブコメさせようとしているのかな?
困っちゃうなぁ。
茶封筒を開けて、中で、三折りされてる白い紙を、手に取る。
「えー、なになに。『横島へ。次、会ったら、殴る』………え?」
「……なんか、女……男の子からだったよ」
やばい。男に恨みを買われるなんて、僕は、同性も異性も敵だらけだ。
困っちゃうなぁ。
「……でも、ものすごい可愛い子だったよ」
「可愛い…?」
男で可愛いって、どういう―――あ!!
まさか、伝説の、男の娘!?
ってことは、C組の、木原さんかな。あくまでも『さん』だよ。
「南先輩ありがとうございました。僕は、闘いを挑まれてます」
「……そうなの?」
南先輩は首をかしげる。やばい、この人やばい。
「はい。なので、ちょっと三富士をお願いします」
僕は椅子を立つ。これは一大事だ。
なんてたって、あの木原さんが、僕を殴るといったんだぞ?
「殴られなきゃわかんない人間(僕)もいます」
「……止めないけど。横島も、やっぱり男の子なんだね」
「はい。(僕を)殴らなきゃいけない闘いもあります」
「……気を付けて」
「わかりません。僕には」
「……本当に、気持ちいいから」
「それだけは、分かります」
――こうして僕と、男の娘、木原さんのラブコメが始まった。多分。
さくしゃのあとがき
すいません。暴走しました。
いろいろ、鬱憤がたまって、いつも以上におかしなテンションな横島となりました。
次回からは、通常運転の横島でいきます。
あと、着替えの話は書いている途中で、音を愉しむことに目覚めました。
主人公に影響される作者って、なんなの…