吹き荒(すさ)ぶ嵐の中で
隣から聞こえる「音」は、生か、それとも死か――。
日常と地続きの不気味な不条理と、暗闇の中で深まる孤独を描いた短編作品です。
この
世界は混沌としていてまるで、嵐の中のよう。
なんのコンタクトもないならば、隣人が何をしているのかも、分かり得ない。世界情勢を見極められないのと一緒だ。わたしには何もわからない。でも、お隣から何かの音はするの。それは確実。
それは、隣人が生きている証拠となり得るのだろうか?死人は音を立てないと言い切れるのだろうか?
人間も、鯨の遺体が内臓で繁殖するのに伴って発生するメタンガスや二酸化炭素が体内に溜まり、やがて皮膚の張力の限界を超えた時のように破裂するのではないか?
わたしが聞いたのはもしかしたら、その破裂音だったのかもしれない。
もしそうだとすれば、わたしは何をすべきなのか?
ただお布団を被って躰をか丸めて寝ているだけ、という訳にはいくまい。
なら何をすべきか?
暗闇のなか、怯えながらも「何をすべきか」と思いを巡らせるあなたの意識は、静まり返った部屋の空気と同調するように研ぎ澄まされていった。
お布団の隙間からそっと差し込んだ月光が、壁の薄い影を揺らしている。あの音が隣人の生の証なのか、それとも終わりを告げる破裂だったのか――確かめる術のない沈黙が再び部屋を包み込んだ。
しかし、立ち上がる恐怖を抑え込み、あなたがゆっくりと足を床へ下ろしたその時、壁の向こうからさらに微かな、しかし決定的な「次の音」が響き渡るのだ。
壁を撫でるその微かな音は、助けを求める弱々しい指先が残した最後のあがきだったのかもしれない。
勇気を振り絞って扉を開けたとき、そこに広がっていたのは冷え切った静けさと、二度と動くことのない隣人の影だけだった。
世界は相変わらず不条理な嵐のただ中にあり、わたしは誰の叫びも救えぬまま、ただ独り暗闇に取り残された。
お読みいただき、ありがとうございました。
日常のすぐ隣にある薄暗い不条理と、暗闇の中で深まる孤独感をテーマに描いた短編です。
壁一枚を隔てた隣人の「音」に対する疑心暗鬼と、踏み出した一歩の結末について、少しでも不気味な余韻を感じていただけたなら幸いです




