【008.草原】
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目覚めたのは、日が昇る少し前。
寒気を感じた。
留置施設にいたころ、それが起床の目覚ましだった。
だから、すぐに頭がしっかりと働き出す。
まわりの状況を確認する。
荷物も取られていないし、変な虫や動物も近寄っていなかった。
ボトルから水を飲んだ。
気温の下がり具合は、それほどでもない。
ゆうべ、刈っておいた草を使うことはなかった。
それでも今の気温は、肌寒さを感じる。
身体を動かして、低下している体温を上げ、全身のチェックをしておく。
異常はない。
疲れは残っているが、酷い訳ではない。
バックパックを背負う。
歩き出す。
糧食を口にしながら。
ときどき、断崖に顔を出して、周囲をチェックしてみる。
遠い島影が見えないか、海に降りるところがないか、人の形跡がないか。
だが、そうしたものは、見つからない。
歩きながらいろいろと考えが浮かぶ。
着陸場に戻る方がいいのではとか、ここから奥に向かった方がいいのではとか。
だが、どちらも却下した。
着陸場に戻って、別の方向に向かうには、物資が足らない可能性がある。
奥に向かうとしたら、方向を見失い、迷子になって、餓死する危険もある。
水と食料が限られているのだ。
前進するのも考えものではあるが、どう好転するかわからないという点で、これが最善だろう。
着陸場に人が迎えに来てくれる、というのもなさそうだ。
それなら着陸した時点で、すでに待っていただろうから。
断崖に顔を出した何度目かで、変化が見られた。
進行方向の樹木に途切れが見えたのだ。
途切れの先には、明るい陽射しが照らし出す土地が見えている。
そこを目指して、前進を続けた。
樹木の密度が少なくなり、草花が多くなってきた。
太陽の下に出た。
草原だった。
草は、背丈がさまざまだ。
断崖から見えた部分は、やはり断崖となり、まるですぐに空へと続いているような錯覚を生み出している。
だが、その断崖に近づいていくと、まもなく水平線が見えた。
もうひとつの青、海だった。
あまり近づかない方がいい、と判断して、草原を見回した。
断崖とは反対の方角に、草原は続き、その境界を示す樹木の種類も背の低いものに変わっているのがわかる。
そっちの方へと向かい、その境界に沿って、草原を歩いた。
視界が開けた。
草原はなだらかに下降していき、断崖ではなくなっていた。
下降していく先には、白黒の縞模様の球体が見えてきた。
それも六つ。
すべて、着陸船だ。
着陸場からここまで運んできたのだろうか?
円を描くように置かれている。
見える限りでは、人の姿はない。
気配もない。
草も伸び放題だ。
とにかく、着陸船に近づく。
念のために声を出して。
「おおい、誰かいるかぁ?」
だが、返事はなく、誰かが動く気配もない。
着陸船のひとつに辿り着いた。
中がくり抜かれ、そこで生活していたのがわかる。
だが、ずいぶん前に放棄されたのか、砂埃で覆われていた。
ほかの着陸船もチェックした。
みな同じだった、ただひとつをのぞいて。
そのひとつには、人間がいた。
横たわっている。
眼窩はくぼみ、歯がむき出しになり、皮は骨にくっついて、ボロボロの服をまとっていた。
すでにミイラ化していた。
服は、支給され、着ていたものだ。
性別は男だろう。
女を示すものは見当たらないから。
それにこうなったらどちらでもいい。
だが、これは他殺だ、とひと目でわかった。
胸にナイフがつきたてられているのだ。
サバイバルナイフではなく、石で作ったナイフが。
サバイバルナイフなら持ち去っていたはずだ。
どう考えてもここでの必需品なのだから。
それとも殺害者はサバイバルナイフをなくしていて、このミイラから奪い取っていったのかもしれない。
彼の着陸船の中をチェックする。
くり抜かれ、船殻だけの着陸船。
船殻は、5cmほどの厚みだ。
これでよく大気圏の突入に耐えられたものだ。
まぁ、たった一度の大気圏突入だし、乗組員は死んでも文句は言ってこない囚人だ。
誰も気にしないのだろう。
外側の縞模様は、焦げた部分が、雨で洗い流された結果だろう。
内部は、白いままだ。
その白い壁の一角に、黒でいくつものマークが並んでいた。
三角形にバツ印。
それが20個、ズラズラと並んでいる。
同じようにそれが3本並び、その下に9個まで描かれたマーク。
最後のところのマークは、三角形に斜めに線が入っていた。
5×20×3+5×9+5-1、つまり、349。
きっと彼のここでの日数を示しているのだ。
マークが描かれている壁の下には、平らな石があり、その上に先端の黒くなった木片が置かれていた。
それをペン代わりに使ったのだ。
ほかの着陸船にも同じようにマークが描かれていた。
マークの数は、それぞれだ。
やはり、ここでの生活日数を示しているらしい。
ミイラになった彼は、中堅どころのようだ。
あとの者は、どこへ行ったのだろうか?
それを示すものはどこにも見当たらない。
最後の着陸船の中で、ひとつの置物を見つけた。
船殻と同じ材質の物だ。
入り口の部分だとすぐにわかった。
手に取った。
軽い。
その表面には、やはり炭で描かれた絵があった。
地図だった。
この着陸船の人間は、マークを見る限り、もっとも長く滞在している。
それだけこの土地を熟知している、ということだろう。
そこには着陸場の位置も描かれていた。
驚いたのは、ここが大陸の端ではなく、島だということだった。
今まで見てきた断崖は、この島のほんの一部なのだ。
~'15.07.02(木)~
自分が歩いてきた距離を考えると、それなりの大きさだ。
地図には、いくつかのポイントが打たれている。
なんだろう?
海岸近くを示している場所もある。
とにかく彼らは、ここをベースに島を探検したわけだ。
そして、長い時間を過ごした。
それから突然、いなくなった。
どういうことだろう?
着陸船の中を調べたが、バックパックを含めた身のまわりの品がない。
ミイラのまわりには、そうしたものが残されていた。
荷造りして移動したと見るべきだろう。
どこへ?
島のほかの場所へと移動するだろうか?
水と食料が豊富な場所があったのなら、ここに長期滞在はしないのではないだろうか?
ベースをそちらに移すはずだ。
ということは、この島には、そうした場所がないことになる。
それとも探検の成果として、ようやくそうした場所を見つけたのかもしれない。
あるいは、この島を出ていったかだ。
そちらの方がありそうだ。
船を作るための材料は、まわりにある。
道具もある程度のものが作れるはずだ。
問題は、海を越えてまで行こう、と思う確信がなぜあったのか、だ。
この島のどこかからほかの島影が見えるのだろうか?
地図にそうした島は、描かれていない。
そうした何かがあれば、情報として、当然描くはずだ。
とはいえ、描いた本人にとっては、そんな情報は意味のないことだったのかもしれない。
こればかりは、実際に調べてみないと。
だが、その前に水と食料の確保が先決だ。
少なくとも彼らがずっと過ごしてきたのだ。
それだけのものは手に入るはずだ。
オレは、ここをベースに行動することにした。
そこでひとつの着陸船を自分の部屋として、整えることにした。
まわりの草を刈り、中の空間をできるだけきれいにする。
整え終えると、休憩を取る。
糧食をひとつ、食べる。
水を飲む。
まだ日は高い。
それでも遠くへ行くには遅いだろう。
この近辺を調べるだけにしよう。
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