【059.休暇・1】
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暑い。
陽射しが痛いほどだ。
外出するんじゃなかった。
帽子の下でも汗が滴り落ちる。
もちろん、身体中からも汗は吹き出て、服もぬれている。
室内なら冷房があるが、室外は30度をうわまわる。
日陰もあるが、すでに先客がいて、潜り込めそうもない。
〈スベルト〉の夏。
オレの目的地は、スーパーマーケットだ。
そこまで我慢すればいい。
意識がボーッとしているが。
目的地に辿り着き、スーパーマーケットに入る。
最初のドアで、涼しい空気が迎えてくれた。
次のドアで、冷たい空気が身体を冷やす。
ぬれた服が汗で貼りついていて、冷水を浴びたように冷たくなった。
スーパーマーケットの中は、ガラガラと空いていた。
ほとんどの客は、熱波から逃げて入ってきた人々のようだ。
買い物をはじめる前に、カフェに寄った。
カウンターで注文をして、番号札をもらい、空いているテーブル席に座る。
ホッとひと息つく。
すぐにスタッフの女性が、注文したドリンクを持ってきてくれた。
グラスの表面は、オレと同じように汗をかいている。
彼女に番号札を渡して、お礼を言う。
彼女は微笑み、自分の立ち位置へと戻っていく。
グラスからひと口、ドリンクを飲む。
ひんやり冷たい液体が、口中に入り、ノドを通っていき、胃に達した。
さわやかな酸味と甘味だけが残る。
〈スベルト〉で採れる果物の果汁を、発酵させた飲み物だ。
汗で出てしまったミネラルが補給できる。
夏場の定番だそうだ。
わかる気がする。
新しい客が入ってきた。
女性だ。
涼しげなブルーのプリント柄のワンピース姿。
素足に履いている靴は、それほど高くはない白いハイヒール。
ライトブラウン系の肌。
幅広のツバを持つ帽子をかぶっている。
カウンターで注文して番号札を受け取ると、席を探しはじめた。
オレを見て、こちらへと近づいてくる。
テーブルの向こう側で歩みを止めた。
帽子を取る。
30代半ばと思われるその女性は、オレに笑みを見せた。
「こちらの席、よろしいかしら?」
その声は、少しかすれてはいたが、優しく聞こえた。
最初、誰だかわからなかった。
だが、命の恩人を忘れるわけがない。
オレは、立ち上がって、彼女のためにその席のイスを引いた。
「どうぞ、クリス」
「ありがとう、パオロ」
彼女が対面の席に腰を降ろした。
彼女は、クリスティーヌ・ブロードリック。
軍の中尉だ。
落とされたあの島から、オレを連れ出してくれた人でもある。
「今日は、城に用事でも?」
「いいえ、休暇よ。そちらは買い物?」
「ええ。ちょっとした食材をね」
「あら、自分で作っているの? 感心ね」
「もうひとりと一緒にね。朝はロボットに作ってもらっているし、昼は食堂で食べている。だから夜くらいは自分で、と思って」
「そう。彼女さん?」
オレは、笑った。
「いやいや。仕事の仲間ですよ。そういう存在は、今のところいません」
「そう。そうだわ、あなたにお礼が言いたかったの」
「お礼?」
「バルーンのおかげで、〈落とされ人〉のポイントがわかるようになって、私の仕事がおおいに減ったの。ありがとう」
「ああ。あなたが独自に見回っていたんですってね。聞いたときは驚きましたよ」
「趣味みたいなものよ。でも本当に助かっているわ。〈落とされ人〉のところにすぐに駆けつけられるから、彼らの苦労も少なく済んでいるの」
「そうでしょうね」
「本当は、惑星上に散らばっている人たちも救いたいのだけど」とため息をつく。
「衛星が使えればいいんですがね」
「それは無理ね。打ち上げても封鎖処置で撃ち落されるだけだし」
「ええ」
女性スタッフが、ドリンクをテーブルに置いた。
クリスが礼を言い、番号札を渡す。
女性スタッフはやはり笑みを返して、戻っていく。
クリスのドリンクも汗をかいていたが、彼女の肌のようなライトブラウンだ。
「カフェラテ?」
「ソルトカフェラテ。塩分が入ってるの。汗をかいたから」
「汗をかいたようには見えないが?」
「一度トイレに入ったから」
「ああ」
彼女がそれを飲む。
フゥッと息を吐いた。
オレも飲む。
「城の住み心地はどう?」
「快適ですよ」
「よかった。そう言えば、渡り竜を保護してたんですって?」
「ええ。春の終りに旅立っていきました」
「そう。少しさみしそうね」
オレはその言葉にドキッとして、彼女を見た。
「そう見えますか?」
「ええ。まるで彼女にフラれた男の子みたい」
そう言って、彼女は、クスリと笑った。
「酷いな」
「ごめんなさい。でももう大丈夫なんでしょう?」
「ええ。ときどき思い出すだけです」
いまごろは、群れと合流して、楽しくしているだろう。
オレのことなんか忘れて。
もうひと口、飲む。
「武勇伝も聞いたわよ。〈エルゼンタール〉の王を殺したんですって?」
「陛下が一刀両断されそうだったんです。そうなってもおかしくなかったので、準備をしていただけです」
「あなたは、殺し屋だったって、もっぱらのウワサよ」
「人を殺したのは認めますが、殺し屋家業ではありませんでした」
「まぁ、私も人のことは言えませんけどね」
「人を殺したことが?」
「何度か。上官の命令だったり、自分の意思だったりね」
「なるほど、では、同類ですね」
「そういうことになるわね」カフェラテをひと口飲んでから訊かれた。「これからどうするのかしら? まだ買い物をしてないようだけど」
ということで、一緒に買い物を楽しむことになった。
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