【058.視察・3】
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城に戻ると、ウワサはすぐに広まった。
どちらかというと、オレが先王を殺したことの方が、ウワサになっていた。
“過去は過去”ということか。
「そういうことだったんですね」とテオ。
自分の部屋で日課であるトレーニングをこなしているときだった。
「なんのことだね?」
「そのトレーニングですよ。火事の話は作り話ですか?」
「本当にあった話だよ。トレーニングをする理由もな」
本当は違うが、そのくらいのウソはいいだろう。
話すと面倒だし。
事務室では、室長もウワサを聞いていて、オレを見る目が変わっていた。
「驚いたわね。虫も殺せない人だと思ってたわ」
「そうですね」
「戦いは一瞬だった、とか聞いたけど?」
「先王との? ええ、まぁ。陛下に剣が振り下ろされ、それを受けて、相手の力を逃がして背中を向けたときに、ナイフを相手の腹に刺し、そのまま心臓まで持ち上げた。それで終りです」
室長はそれを想像したのだろう、顔色が青くなった。
「そのあと、新しい王との話し合い? 信じられないわ」
「私もいまだに信じられない」と事務室の戸口から陛下が現れた。「実際に見ていたのに」
室長が立ち上がり、出迎える。
「それだけ一瞬のことだったのですね」
「ええ。しかもそのあと、ナイフを高々と上げて、“オレが王だ!”と叫ぶんだもの。別人かと思ったぞ」
「別人?」
「芝居をうったんですよ」とオレ。「あの場にふさわしい態度でね」
「だとしたら一流俳優になれるぞ」と笑う陛下。
「あはは」とオレも笑った。ほかにどうすることもできない。
「でもおかげで、あの国との交渉が可能になった。礼を言うぞ、パオロ」
「いいえ。陛下の御加護がなくなったら、この国にいられませんので」
「それはないな。おまえは、この国の財産だ。誰も手放したりはしないだろう」
「では、逆に私が出ていくという選択肢もありますな」
陛下が険しい表情になる。
「それは困るぞ、パオロ。ほかの国が力をつけてしまう」
「では、陛下、御身体を大切になさってください。陛下の身に何かあれば、私は仕える主をなくしますゆえ」
陛下は、ひとつため息をついた。
「わかった」
その後、〈エルゼンタール〉が、なぜ武力中心になったのかがわかった。
それは、〈エルゼンタール〉には、捕食獣がいたからだ。
しかも群れを作って、襲ってくる。
そのため、そこに落とされた人々は身を守る術をすぐに必要とされた。
サバイバルナイフは切れ味はいいが、捕食獣を相手にするには、短い。
捕食獣のふところに入って、刃を切りつけることになる。
そこで棒の先に縛り付けたりしていた。
そんな中、ひとりの男が、青銅で剣を作り出し、一気に形勢が逆転した。
捕食獣は、駆逐されていき、その数を減らした。
人間は、彼らの代わりに獲物を狩るようにもなっていった。
揉めごとは、たがいの剣によって、裁かれた。
〈エルゼンタール〉は、国といっても人口は少ない。
土地自体は広いのだが、落とされたその日に、捕食獣に襲われる者が大勢いたのだ。
まさに弱肉強食の世界だった。
〈スベルト〉の支援は、医療からはじまった。
病気にかかることも少なくないのだ。
また、捕食獣に襲われたりして、ケガを負うこともある。
医者もいなければ、薬もない土地だ。
昔からの知恵があれば、草木を薬代わりにしていたかもしれないが、そうした人間もいない。
自然治癒しか望めなかったのだ。
住居も建設された。
彼らのもとの住居は穴倉で、原始人並の生活を余儀なくされていた。
平らな土地に家を建てても、捕食獣や竜巻に襲われて壊れてしまう。
自然災害に襲われなくて、家が立てられた場所もある。
捕食獣に襲われないよう、まわりを柵で囲うことになるが。
新しい住居は、喜ばれた。
仮設なので大勢で住むために、プライベートな空間が少ない点は今までどおりで仕方ない。
だが、バス・トイレ・冷暖房完備だ。
水は近くの川から引き、下水は浄化して川に流す。
まわりを塀で囲んでもいた。
外敵からの脅威は格段に減るだろう。
余裕ができれば、自分たちの家を建てて、そこに住むようにもできる。
食料は、しばらくは今までどおり、狩猟採集生活を続けてもらうが、必須栄養素が足らないので、それは支援していく。
その代わり、野菜工場を建て、野菜を作るようにし、自給自足できるようにしていく。
服装も草や獣皮で作ったものから、定番の服が支給され、それを着れる。
狩りに出るときは、それまでの服装になるのかもしれないが、普段の生活なら定番服の方がいいだろう。
これで、彼らの衣食住が約束された。
次は仕事をしてお金を稼ぐことになる。
それをどうするか、話し合う必要がある。
何ごともこれから、ということだ。
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