【050.記録】
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数日後の夕方、室長が部屋を訪れた。
仕事終りにはまだ早い。
「どうしたんです?」
部屋の中に通そうとした。
それを手で制する室長。
「これを渡すように仰せつかったんだ」とメモを差し出す。
受け取ると、クラウドのあるアドレスが書かれていた。
「なんです?」
「渡り竜について書かれたものよ」
「えっ?」
すぐにコンピューターで、そのアドレスをチェックする。
そこにはイメージ画像に似たものが、入っていた。
文字の羅列、図、表。
かなりの枚数だ。
「これ……カメラ画像?」
「そうよ。突然、陛下の秘書が来て、それを置いていったの。どこから得たものだと思う?」
「さぁ」
「北方の隣国〈アーズ〉からよ。渡り竜の生息地のある」
「えっ? 敵対している?」
「そう。どうやら王室が水面下で交渉していたらしいわ」
「王室が? どうして?」
「さぁ。とにかくそれを見れば、いろいろとわかるんじゃないかしら?」
「はい」
オレは、すぐさまそれらの画像を記憶した。
室長に振り返る。
「もういいの?」
「検索するには、OCRするよりも、ここを使う方が早いですから」と側頭部を指先でつつく。
「ああ、なるほどね」
「おかげでオスメスの違いもわかりました」
「オスメス? レフティーはメスでしょう?」
「ですが、ヒナはどちらなのか、わからないんです。陛下はヒナの名前を公募する、とおっしゃっていました。でもオスメスの判断ができずにいたので、公募できずにいたんです」
「あら、そうだったの。それで?」
記憶からヒナのイメージを思い浮かべる。
オスメスの違いは、大人とヒナでは見るところが違うのだが、ヒナは殻を破ったツノでわかった。
ツノの根元が平べったい方がメスだ。
「両方でした。オスとメスの」
室長が微笑む。
「そう。これで陛下も御喜びになるでしょう。報告しておくわ」
「お願いします。これ、OCRしておきますか?」
「すぐに必要なのはあなたでしょうけど、すでに頭の中だものね」
「ええ」
「でもそうね、やっておいて。いずれ、必要になるかもしれないから」
「必要に?」
「いつどこでどのように、ってわけじゃないわ。準備はしておくべきだと思っているだけよ」
「ああ、なるほど。では、そのように」
室長の姿を見送ると、すぐさま仕事用のリクライニングシートに座り、目を閉じ、意識を集中して、新しく得たものを読みはじめた。
それは、観察記録であり、外見だけでなく、解剖も記録されていた。
骨格や筋肉は、驚くほど、鳥に似ていた。
だが、その内臓は、違う。
一番の違いは、脳だろう。
その脳は、三つに分かれていた。
ひとつは頭部に、ふたつは胸骨内側にあった。
これは、この惑星にいる動物のほとんどの特徴だ。
頭部にある脳は、目・耳・鼻・口の大部分につながっている。
胸の脳には、頭部の脳や身体の多くがつながっていたが、どこともつながっていない部分が多く存在していることがわかる。
人間で言えば、大脳皮質だろう。
頭の大きさがそれほどでもないのは、脳が分割されているからか。
生息地は、基本的に水辺に近い岩肌。
基本的に昆虫食だが、小魚を捕まえて食べることもある。
ほかの竜とは違い、植物は食べない。
著者は、捕まえて飼っていたようで、繁殖にも成功していた。
ヒナのオスメスがわかったのも、そのおかげというわけだ。
王室が、ヒナ2匹の名前を公募した。
それとともに発表されたのは、北方の隣国との国家間交渉がはじめられたことだった。
このニュースは、国民に驚きをもたらした。
隣国は長らく、王国との交渉を拒んできていたのだ。
渡り竜が両国間を結びつけた、と王室は発表した。
じつは、王室が隣国に密使を送り、渡り竜のことを相談したのだという。
隣国は、王室がなぜ渡り竜のことを相談してきたのか、と興味を示した。
密使がレフティーのことを話すと、隣国は渡り竜を研究する第一人者に引き合わせた。
その研究者の著作物を、密使がカメラに収め、持ち帰ったのが、クラウドに入ったあの画像だった。
隣国は、見返りを求めなかった。
だが、王室は、いざというときの必要な支援を約束した。
人や資材、医薬品、食料などだ。
隣国では、毎年、なんらかの自然災害が発生し、多くの被害が出ていた。
それに各種技術も医学もレベルは低く、被害は拡大しやすかった。
そうしたことを王室はつかんでいたのだ。
王国の技術や医療があれば、被害の拡大は食い止められる。
その申し出を隣国は受け入れた。
それだけではなく、国家間の交渉の席にも着くことを約束したのだった。
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