【045.客人】
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文化院の入り口に現れた女性に、室長が驚いて、イスから立ち上がる。
「陛下」
「よい。渡り竜を保護したそうだな」
「はい。パオロが保護しました」
女王がオレを見る。
「ケガをしたのか?」
「はい。左の翼の骨が折れていました。どうやら壁にぶつかった際に骨折したようです」
「手当ては?」
「骨接ぎをしました。翼を広げないように包帯を巻いてあります」
「そうか。おとなしいのか?」
「今のところは。食欲も旺盛で、骨折以外、健康状態はよさそうです」
「見せてはもらえまいか」
「すぐにでしょうか?」
陛下は付き添っている女性を見た。
女王のスケジュール管理をしている秘書だ。
その女性がこちらにうなずく。
「わかりました」
「ほぉ、これが」
オレの部屋に女王を連れてきて、レフティーを紹介する。
レフティーは、立ち上がって、胸を張った。
女王は、レフティーのそばに寄り、顔を近づけた。
レフティーが、低く鳴いた。
目つきが鋭い。
「陛下、どうやら気が立っているようです」
「わかった」
女王は、近づけた顔を上げ、少し離れた。
「昔話に出てくる竜とは違うな」
「昔話の竜は、人が想像して描いたものがほとんどです。それに2種類の竜が描かれていました」
「2種類?」
「はい。ひとつは、この渡り竜のように翼が生えており、前足もあります。もうひとつは、ヘビのような身体で4本の足がありますが、翼がないのに飛ぶことができるそうです。明らかに空想上の動物ですね。大きさも巨大ですし」
「そうか。食用の卵を産む竜を見たことはあるが、全然違うな」
「あれは、長距離を飛ぶタイプではありませんからね。渡り竜のように大きな翼も必要としません」
「なるほど。普段、暮らしているのは、北部だと聞いた。なのになぜ渡ってくる?」
「北部では寒すぎて、子どもを産み育てるには、厳しいのだと思います」
「それならば、こっちに住み続ければいいだろうに」
「おそらく危険があるのでしょう。北部ならそうした危険が少ないのではないでしょうか」
「そうか。しかし、きれいな目をしているな」
「はい。みなが、ガラス玉のようだ、と」
「うむ、そのとおりだ。このまま、飼うのか?」
「骨が元通りになったら、放してやるつもりでいます。野生の竜ですからね」
「そうか。どのくらいで治る?」
「わかりませんが、ひと月ほどかと」
「わかった。エサ代・治療費は王室がもつ。請求するといい」
「いえ、そのような」
「通りがかりとはいえ、城でケガをしたのだ。その治療は王室の責任となる。私の客人として対処する。よいな」
「かしこまりました」
女王は、秘書にうなずくと、オレの部屋から出ていった。
オレは、女王が廊下に姿を消すまで見送ってから、レフティーのそばに戻った。
「レフティー、おまえは、女王の客人だとさ」
レフティーは、ヒザをたたんで、腰を降ろした。
それから鼻息をひとつ吐き出した。
まるで、諦めのため息のようだった。
それを見て、オレは笑った。
レフティーが、ピーピーと抗議の声を上げる。
「すまんすまん。さて、仕事に戻るとするか。おまえは、おとなしくしてなさい。いいね」
オレは、レフティーの返事を待たずに、部屋を出て、仕事場に戻った。
室長に報告する。
「よかったわね。エサ代もバカにならないでしょ?」
「そうですが、気にするほどの負担ではありません」
「いいじゃない。陛下の客人をおもてなしできるのは、名誉なことだわ」
「その分、気軽ではなくなりましたよ」
「そうね」
彼女は、そう言って、クスクスと笑った。
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