【041.体力】
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オレは、自分の表面を大学教授のイメージで覆っている。
ここでは、その方がよさそうだからだ。
長い時間の中で、微調整もしていけるだろう。
それにまわりからも先生扱いされているから、ちょうどいい。
これまでに使ってきた表面のイメージの中には、社長や議員や国王、その他もろもろのものがある。
それらのイメージは、今までの詐欺を行なう上で必要だった。
「運動する意味があるんですか?」とテオが訊いてきた。
自分の部屋で、体力作りの運動をしていたのだ。
それをテオが見ていた。
運動しながら答える。
「あるよ。いつでも動ける状態にしておくんだ。いざというときのためにね。そのときになって、筋力が足らなくて、他人どころか自分自身をも助け出せないかもしれない。以前にちょっとした火事があってね。それ以来、運動を欠かしていないんだ」
「火事って?」
「ショッピングモールで買い物をしていたんだ。突然の出火で、みんなパニックになってね。出口に殺到したんだ。当然、逃げ出すのに時間がかかる。私は、力が弱くて、人の波に飲み込まれてしまった。なんとか出られたんだが、そのころには、もう体力がほとんどなくて、ヘナヘナと倒れこんでしまったんだ。そのまま、救急車で病院に直行したよ」
「火事自体は、どうなったんです?」
「あとから聞いたら、ボヤで済んだそうだ。原因は、飲食店の火の不始末だったよ」
「なるほど。先生、ケガは?」
「人波にもまれたからね。気付いたときには、肩を脱臼していたよ」
「脱臼ですか」
「ああ。だが、中には、大ケガをして、手術した人もいたそうだ」
「うわぁ」
「人がパニックを起こすとどうなるか、身をもってわかった事件だった」
「なるほど。体力のある状態だったら、どうなってましたかね?」
「少なくても人々からは離れるだろうね。人の波から外れて。それから出火場所がどこなのかを見極める。そうすれば、逃げる方向だって、対処の仕方だって、わかるからね」
「ですね。本来なら、スタッフが誘導してくれるはずなんですが」
「誘導しようとしても無理だっただろうな。客の人数が半端じゃなかったから。放送もされていたが、誰も聞いちゃいなかった」
「それでは、被害が拡大しますね」
「ああ。きちんと誘導ができていれば、誰もケガはしなかったはずだよ。だが、そうはならなかった。出火時からの情報の伝達が悪かったんだろうね。スタッフの訓練もできていたかどうか」
「ここは大丈夫でしょうか?」
「わからんね。だが、女王の安全を図る必要上、対処方法は考えられているはずだよ」
「それもそうですね。女王に万が一のことがあったら困りますもんね」
「そういうことだな」
あとから調べてみた。
もちろん、万が一を想定して、いろいろな設備の設置と訓練が行なわれていた。
また、いざというときには、城を放棄して、執務続行が可能になるような場所も用意されていた。
見回してみると、身のまわりにそうした設備があるのに気付く。
火事が発生してもすぐに消し止められるように、と消火器も部屋ごとに用意されている。
火災の煙を排出する排煙窓もある。
防火扉もある。
スプリンクラーも。
各所を守る警備兵も常時、訓練をしているそうだ。
王都が戦場になった場合も考えてあるという。
そうならないで欲しいものだ。
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